政府が1日で6兆円超の円買い介入。効くの? そもそも円はいくらが適正なの? を調べてみた
7月30日の夜、ドル円のチャートが滝のように落ちた。163円台から、一時157円台へ。政府・日銀の円買い介入だ。翌31日の夕方にも再び急落して、連日の介入が観測されている。
わたしの資産は約7割が外貨建てなので、円高はそのまま資産の目減りになる。1週間前の高値(163.99円)といまの158円台を比べると、円建ての評価額は約135万円の目減りという計算だった。これは後半で詳しく書く。
円高も円安も、あるものとして受け入れている。円高になればドル資産が目減りして、ちょっと寂しい。その程度の気持ちだ。
ただ、今回は気持ちより先に、2つの疑問が浮かんだ。
①今年すでに過去最大の介入をしたのに、また円安に戻った。介入って、効くの?
②そもそも、円はいくらなら「ちょうどいい」の?
順番に調べてみた。
1. 何が起きたのか
そして今回は、異例づくしだった。
① 米国が「予告」した。 米財務省がNY連銀を通じて、複数の銀行に「円買い介入がある可能性がある」と事前に伝えていた。介入は普通、絶対に予告しない。日米が組んで円安を止めにきた、ということだ。
② 日銀の会合中に介入した。 7月31日は日銀の金融政策決定会合の日。その最中に介入するのも異例で、日経は「金融政策と連動」と報じている。ここは後で効いてくる。
2. なぜ、そこまでして止めるのか
163円台は、約40年ぶりの円安水準だ。
円が安くなると、輸入品の値段が上がる。日本は食料もエネルギーも輸入に頼っているので、円安はそのまま物価高につながる。食料品の消費税を下げる話が出てくるほど物価高が問題になっているところに、さらに円安が乗る。政府としては、放っておけない。
ただし、政府の建前はあくまで、「水準ではなく、投機による過度な変動に対応する」だ。「何円になったら介入する」とは、絶対に言わない。言ってしまえば、そこが市場の攻めどころになるからだ。
3. 介入の財布は、無限ではない
介入の仕組みは、シンプルだ。政府が持っているドルを売って、円を買う。
ここで大事なのは、円買いには上限があるということ。
逆の「円売り介入」(円高を止めるほう)は、円を刷れる国なので理屈上は無限にできる。でも円買いは、手持ちのドルが弾だ。すぐに使える外貨預金は約1,622億ドル(2026年5月末時点)。いまのレートで約26兆円ぶんになる。
今回の推計6〜8.45兆円は、その弾の3分の1近くを1日で使った可能性があるということだ。
4. で、介入は効くの?
ここからが本題。過去の介入を並べてみる。
| 時期 | 規模 | その後 |
|---|---|---|
| 2022年9〜10月 | 計9.2兆円 | 151円台→一時144円台へ |
| 2024年4〜5月 | 9.7兆円 (当時の過去最大) |
いったん円高、のちに再び円安へ |
| 2026年4〜5月 | 11.7兆円 (過去最大を更新) |
それでも7月に163円台まで円安が進んだ |
| 2026年7月30〜31日 | 推計6〜8.45兆円 (1日として過去最大級) |
← いまここ |
この表が、答えをほとんど言っている。
今年の4〜5月に、過去最大の11.7兆円を使った。それでも2か月後には163円台まで戻ってきた。
介入の直後は、たしかに数円動く。今回も6円動いた。でも数か月の流れは、変えられていない。
なぜか。円安の根っこは投機だけではなく、日米の金利差にあるからだ。FOMCの記事で書いたとおり、アメリカの金利は3.50〜3.75%。日本は1.0%。ドルで持っているほうが利息がつくこの構図が続くかぎり、円を売る力は湧き続ける。
つまり介入は、流れを変える道具ではなく、時間を買う道具なのだと思う。
そして、今回の新しさはここにある。日銀の会合中に介入した。政府は為替で時間を買い、日銀は金利で根っこに触る。両輪をそろえて見せたのが今回だった。
実際、日銀は7月31日にこう動いている。
・植田総裁は会見で、物価が2%目標を超えて上振れするリスクに言及。利上げペースの「加速もありうる」と踏み込んだ
・上振れの要因として挙げたのは①原油高 ②AI需要による半導体価格の上昇 ③円安による耐久財の値上がり
アメリカでは3人が利上げを主張して反対し、日本でも1人が利上げを主張して反対した。日米の中央銀行の中で、同じ方向の少数意見が育っている。金利差が縮む方向だ。ここは覚えておきたい。
5. そもそも、円はいくらが「適正」なの?
いちばん有名なものさしは、購買力平価(こうばいりょくへいか)という考え方だ。
理屈はシンプルで、「同じものが、どの国でも同じ値段になる水準が、本来の為替レート」というもの。たとえばアメリカで5ドルのハンバーガーが日本で600円なら、600円÷5ドルで1ドル=120円がつり合い、という計算をする。為替市場は見ない。値札だけから逆算する。
これをハンバーガー1個ではなく、食品も家賃も散髪代も入れた「生活の買い物かご」まるごとで測ったり、企業が取引するモノで測ったりしたのが、次の表だ。何の値札で測るかによって、答えが変わる。
| 何の値段で測るか | つり合いのレート | 実勢(約161円)との差 |
|---|---|---|
| 消費者が買うものの値段 | 約107円 | 50.3%の円安(過去最大の乖離) |
| 企業どうしの取引価格 | 約94円 | 70.6%の円安 |
| 輸出品の価格 | 約66円 | 142.1%の円安 |
「適正は66円か107円か」で40円も幅があるのを見て、最初は「ものさしとして使えないのでは」と思った。でも、3本ともが同じ方向を指していることのほうが大事だった。どう測っても、いまの円は理屈の水準よりはるかに安い。
そして、もうひとつのものさしで、衝撃の事実が出てきた。
実質実効為替レートという指標がある。いわば円の総合的な実力を測るものさしで、やっていることは、ざっくり2つだ。
② 物価の差を織り込む:レートが同じでも、相手の国の物価が上がれば、そのぶん円で買えるものは減る。そこまで含めて「買う力」に直す
効いてくるのは、②のほうだ。
見た目のレートだけなら、360円から158円へ、円は2倍以上強くなった。でもこの50年で、アメリカをはじめ世界の物価は、日本よりはるかに大きく上がった。物価の差を織り込むと、見た目の円高ぶんは打ち消されて、お釣りが来る。
その結果が、これだ。
1970年は1ドル=360円の固定相場の時代。そのときのレートは75前後だった
→ つまり「買う力」で見ると、いまの円は360円時代より弱い
ピークは1995年の174。そこから3分の1近くまで落ちた
直感に反するけれど、理屈は先に書いたとおりだ。日本の物価と賃金だけが、上がらなかった。同じ1万円で買えるものが、世界基準でどんどん減った。それが数字に出ている。
じゃあ、結局いくらが適正なのか。
調べた結論は、「誰にとっての適正かで、答えが変わる」だった。
- 輸出企業にとっては、円安のほうが利益が出る。適正はいまより円安寄り
- 家計にとっては、輸入品が安くなる円高のほうがいい。購買力平価の107円は、この立場のものさし
- 政府は、どちらの側にも立てないから「水準は言わない」
単一の正解がないからこそ、163円は「行きすぎ」だとほぼ全員が思っていても、「じゃあ何円まで戻すべきか」は誰も言えない。介入の難しさの正体は、ここにあるのだと思う。
6. わたしの資産は、数日で約135万円減った
ここからは自分の話。
7月末の資産は5,831万円。そのうちインデックス投信(オルカン・S&P500・iDeCo)が3,794万円、BNDが約300万円。あわせて約4,100万円、およそ7割が外貨建てだ。
終点:介入後の158円台
→ 円は約3.3%高くなった(163.99円→158.55円)
→ 外貨建て資産 約4,100万円 × 3.3% ≒ 約135万円の目減り(円建て評価額)
※オルカンはドル以外の通貨も含むので、あくまでざっくりした概算
つまりこれは、「いちばん膨らんでいた瞬間」と比べた数字だ。介入の直前(162円台)と比べるなら、目減りは95万円ほどになる。どこを起点にするかで変わる数字だけれど、体感に近いのは高値との比較のほうだと思う。1週間前の残高と見比べて「減ってる」と感じるのが、人間だからだ。
数日で、135万円。 わたしの月の生活費の9か月分が、評価額の上で消えた。
それでも、心はほとんど動かなかった。
理由は2つある。ひとつは、中東ショックで300万円減ったときに、この規模の揺れを経験済みだから。
もうひとつが、今回の本質だと思う。この135万円を動かしたのは、わたしではなく財務省だ。
わたしがどれだけ調べても、介入のタイミングは読めない。銀行には米国から予告があったらしいけれど、わたしたち個人には、何の予告もない。日本時間の深夜に、いきなり来る。為替は、数日で6円動く。そして動かすのは、自分ではない誰かだ。
読めないものは、読まない。わたしの答えは、資産を円だけに集めないこと。
正直に言うと、散らした先の中身はドルの比重がかなり大きい(オルカンも6割以上は米国だ)。「世界に分散」と言うには偏っている。それでも持つ通貨の記事で書いたとおり、円に全部を置くよりはずっといい、というのがわたしの判断だ。
円安の日は、資産の7割を占める外貨建てが守ってくれる。円高の日は、資産こそ目減りするけれど、円で暮らしているわたしの生活費は痛まないし、輸入品はむしろ安くなる。資産は円の外に、生活は円の中に。どちらに動いても、致命傷にならない形にしておく。
今回は円高の日だった。だから、その7割が目減りした。それでいい。そういう設計だから。
7. まとめ
- 政府・日銀が連日の円買い介入。163円台→一時157円台へ。推計6〜8.45兆円は1日として過去最大級(正式発表は8月末)
- 米財務省が事前に予告する異例の日米協調。しかも日銀の決定会合の最中という異例のタイミングだった
- 円買い介入の弾は手持ちのドル。すぐ使えるのは約1,622億ドルで、無限には撃てない
- 効くのか? → 今年4〜5月に過去最大の11.7兆円を使ったのに、2か月で163円台に戻った。介入は流れを変える道具ではなく、時間を買う道具。根っこは日米の金利差にある
- ただし今回は日銀とセット。8対1で高田委員が1.25%への利上げを提案し、植田総裁は、「加速もありうる」と踏み込んだ。金利差が縮む方向の芽は出ている
- いくらが適正? → 購買力平価では約66〜107円とものさしで幅があるが、どう測ってもいまの円は大幅に安い(消費者物価ベースの乖離50.3%は過去最大)
- 円の総合的な実力(実質実効為替レート)は1ドル360円だった1970年をも下回る、統計開始以来の最低
- それでも「何円が正解」は誰も言えない。輸出企業と家計で、適正が逆を向いているから
- わたしの資産は外貨建て約7割で、数日で約135万円の目減り。動かしたのは財務省で、わたしには読めない。だから読まずに、どちらに動いても致命傷にならない形で持つ
・連日の介入と決定会合中の実施:日本経済新聞「政府・日銀、決定会合中の異例の介入」
・介入規模の推計:日本経済新聞「円買い介入、6〜7兆円規模か」・Bloomberg「30日の為替介入規模は約8.45兆円の可能性」
・過去の介入実績:日本経済新聞「円買いの為替介入、22年10月に2日間 1日で最大5.6兆円」・同「円買い為替介入、過去最大の11.7兆円 財務省が4〜5月実績公表」
・日銀の決定と植田総裁会見:日本経済新聞「日銀・植田総裁、利上げペース『加速もありうる』」
・購買力平価:国際通貨研究所「購買力平価」
・実質実効為替レート:日経ヴェリタス「円の実力低下、底が見えない新たなフェーズに」
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