なぜ、トルコの金利は40%もあるの? 高金利通貨のワナを調べてみた
南アフリカの中央銀行が利上げを見送って、通貨(ランド)が急落したというニュースを見かけた。利上げすると思っていたのに、しなかった。だから失望されて売られた——それ自体は普通の話だ。
でも、そこで思い出したことがある。銀行や証券会社の窓口、ネット広告で、「高金利通貨」をうたう商品をよく見かける。トルコリラ、ブラジルレアル、南アフリカランド、インドルピー。「年利◯%」という数字が大きく書いてあって、日本の預金金利と並べると、まるで別世界だ。
金利が高いのは、おトクなことなんだろうか。それとも、何か理由があるんだろうか。調べてみたら、高い金利は、ごほうびではなく危険手当だった。
1. まず、どれくらい高いのか
| 国・通貨 | 金利の水準 |
|---|---|
| トルコ | 40%前後(2026年3月時点の貸出金利) |
| ブラジル | 15%前後(2026年1月時点) |
| 南アフリカ | 10%前後(2026年3月時点の貸出金利) |
| 日本 | 利上げが進んでも、まだ1%前後の世界 |
トルコの40%は、さすがに目を疑う。100万円預けたら1年で40万円?——そんな計算をしたくなる数字だ。だからこそ、窓口でも「高金利」として売りやすい。
でも、ここで立ち止まりたい。なぜ、そんなに高い金利を払ってまでお金を集めなければならないのか。
2. 高い金利は「ごほうび」ではなく「危険手当」
答えはシンプルで、そうしないと、誰もその国の通貨を持ってくれないから だ。
② 通貨が信用されにくい:政治や経済が不安定だと、投資家はお金を置きたがらない。「それでも置いてもらう」ために、高い利息を払う必要がある。
③ 通貨の価値が下がりやすい:①②の結果として、その国のお金の価値は長期で下がりやすい。
つまり高金利は、おトクなごほうびではなく、リスクを引き受けてもらうための「危険手当」なのだ。
ここから、大事な見方がひとつ出てくる。見るべきは金利の高さそのものではなく、「金利 − インフレ率」がプラスかどうかだ。
| 例 | 表面の金利 | 物価の上昇 | 実質の手残り |
|---|---|---|---|
| 高金利の国 | 40% | 50% | −10%(マイナス) |
| 安定した国 | 3% | 2% | +1%(プラス) |
この関係は、株式でも同じだ。利回りが極端に高い高配当株には、たいてい理由がある(わたしが高配当株を選ぶときも、利回りの高さだけでは選ばない)。金利も配当も、高いこと自体が、リスクのシグナルになっている。
3. 実例:トルコリラは、円に対して96%の価値を失った
理屈だけだとピンとこないので、実際の数字を見てみる。
100万円ぶんのリラを持っていたら、4万円になったという計算だ。
この間ずっと高い金利は受け取れたけれど、金利で増えるスピードより、通貨が値下がりするスピードの方がはるかに速かった。
ここが高金利通貨のいちばん怖いところで、もらえる金利は毎年少しずつ、失う為替は一気に来る。しかも通貨安は「たまたま」ではなく、インフレが続く限り構造的に続きやすい。
FXの世界では、この金利差から日々受け取れる利益を 「スワップポイント」 と呼ぶ。毎日チャリンチャリンとお金が入ってくるように見えるけれど、その裏で通貨そのものの価値が溶けていたら、意味がない。
4. 歴史が教えてくれる、3つの話
「高い利回りに手を伸ばす」という話は、今にはじまったことではない。教科書に載るような有名な事件もあれば、うまくいった時期もある。両方見てみたい。
① 日本人3万人が被害にあった「アルゼンチン債」
1990年代、日本では 円建てのアルゼンチン国債(サムライ債) が飛ぶように売れた。日本の金利がほぼゼロだった時代、高い利回りは魅力的で、しかも円建てなので為替の心配もない——そう見えた。発行総額は約1,925億円、購入者はおよそ3万人にのぼる。
ところが2001年、アルゼンチンは デフォルト(債務不履行) に陥る。その後の再編案は、元本の75%カットを軸とするものだった。「利回りが高い理由」は、実はこの国が返せなくなる確率が高いことだったのだ。当時の格付けも、投資適格に届かない水準だった。
② ノーベル賞学者2人がいても防げなかった「LTCM」
もうひとつは、プロ中のプロの話。1990年代に設立された米ヘッジファンド LTCM には、ノーベル経済学賞の受賞者が2人在籍していた。世界最高峰の頭脳と金融工学のモデルを武器に、高い利回りを狙った運用をしていた。
ところが1997年のアジア通貨危機と、翌1998年の ロシアの債務不履行 が直撃する。モデルが「まず起こらない」と見ていた事態が現実になり、1998年に事実上破綻した。
③ 公平に見れば、うまくいった時期もある
失敗談ばかり並べるのはフェアではないので、逆の例も書いておく。ブラジルレアルは、2002年10月に1ドル=4.0レアル台だったのが、2008年8月には1ドル=1.5レアル前後まで上昇した。ルーラ政権下で財政や国際収支が改善し、世界的な好景気で輸出が伸びた時期だ。
このあいだブラジルの金利は高いままだったので、高い金利を受け取りながら、通貨まで値上がりするという、いいとこ取りの数年間が実際にあった。高金利通貨は「必ず損をする」わけではない。
ただし、その後のレアルは下落に転じている。うまくいった人と痛い目にあった人を分けたのは、腕前よりも 「いつ持っていたか」だった 、とも言える。
一方で、うまくいった時期もある。だからこの話の教訓は「高金利は悪」ではなく、結果が、その国の政治や景気という「自分では読めないもの」に左右されるということだ。
ノーベル賞受賞者でも読み違えるものを、わたしが読み切れるとは思えない。それが、3つの話から受け取ったことだ。
5. なぜ窓口で「高金利」がすすめられるのか
危険手当だと分かっていても、「年利◯%」という数字は、圧倒的に分かりやすくて魅力的 だ。日本の預金金利と並べれば、誰でも「すごい」と思う。売る側にとって、これほど説明しやすい商品はない。
一方で、通貨が下がるリスクは、将来の話で、数字にしにくい。だから説明されても印象に残りにくい。この非対称性が、高金利通貨の商品が売れ続ける理由だと思う。
前回の、iDeCoで「おすすめ」が解禁される記事でも書いたけれど、「すすめる人が、売る人でもある」ときは、その商品の一番目立つ長所が強調されがちだ。「年利40%」は、その典型に見える。
6. わたしはどうするか:手を出さない
結論から書くと、わたしはこれらの通貨に手を出さない。理由は3つある。
- ①「当てにいく」投資だから。高金利通貨で勝つには、「金利で稼げるあいだ、通貨があまり下がらない」という予想を当て続ける必要がある。それはキオクシアの記事で書いた、わたしが参加しないゲームそのものだ
- ②為替の分散なら、もっと素直な方法がある。円だけで持つリスクへの備えは、オルカンやS&P500の積立ですでにできている。わざわざ通貨そのものに賭ける必要がない
- ③高い利回りには、必ず理由がある。これは高配当株を選ぶときと同じ姿勢だ。利回りの数字ではなく、その裏側にある理由を見る
ただし、高金利通貨がすべて悪、という話ではない。わたしもビットコインを持っている。ギャンブル性は高いけれど、資産の数%で遊ぶくらいなら、持っていられる。要は金額の問題だ。
問題は、「高金利=おトク」だと思って、まとまったお金を入れてしまうこと。それだけは避けたい。
7. まとめ
- 南アフリカの利上げ見送りで通貨が急落。窓口でよく見る トルコ(40%前後)・ブラジル(15%前後)・南アフリカ(10%前後) は、日本と桁の違う高金利
- でも高金利は ごほうびではなく「危険手当」。①インフレが激しい ②通貨が信用されにくい ③だから通貨の価値が下がりやすい、の裏返しにすぎない
- 見るべきは金利の高さではなく 「金利 − インフレ率」がプラスかどうか。金利40%でもインフレが50%なら、実質はマイナスだ
- 実例として、トルコリラは2007年の99円台から2026年に約3.6円へ。円に対して約96%の価値を失った。金利で増えるより、為替で減るほうが速かった
- 歴史の実例も重い。日本人約3万人が買ったアルゼンチンのサムライ債は2001年にデフォルト(再編案は元本75%カット)。ノーベル賞学者2人がいたLTCMも1998年に破綻。一方でブラジルレアルのように、高金利と通貨高を同時に取れた時期もある。分かれ目は腕前ではなく「いつ持っていたか」
- 窓口で売られやすいのは、「年利◯%」が分かりやすく、通貨安リスクは数字にしにくいから
- わたしは手を出さない。当てにいく投資はしない/為替の分散はインデックスで足りている/高い利回りには必ず理由がある。ただし理解したうえで少額を持つのは、その人の判断
・各国の金利水準:Trading Economicsほか各種金利データ(2026年前半時点)
・トルコリラの推移:世界経済のネタ帳(トルコリラ/円)、証券会社の解説資料
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