景気拡大が「戦後最長」になった。実感がないのは、上がっているのが家計の数字ではなかったから
9月7日、内閣府が7月の景気動向指数を発表した。景気の判断は「改善」。そして、2020年6月から続く景気の拡大が7月で74か月になり、これまで戦後最長だった「いざなみ景気」の73か月を超えた。そういうニュースだ。読んで、こう思った人もいるはずだ。
😑「給料、そんなに上がってないけど」
📈「株は上がってるからね」
🤔「景気って、そもそも誰が決めてるの?」
わたしの実感は、半分ある。資産のほうは、この6年で相場が運んでくれて増えた。でも家計のほうは、家賃は変わらなくても、食べ物や光熱費は上がっている。
結論から言うと、実感がないのは、測っているものが違うからだ。元の統計を見たら、景気を測る10個の指標のうち、家計の数字は1つだけだった。そして、拡大が始まってからの73か月のうち、給料が物価に負けた月は50か月。
順番に見ていく。
1. 「戦後最長」とは、何が最長なのか
まず、言葉の中身から。景気には「山」と「谷」があって、谷から次の山までを「拡大」と数える。いまの拡大は、コロナで落ちた2020年5月の谷の翌月、2020年6月から始まった。7月で74か月。
いざなみ景気 2002年2月〜2008年2月 73か月(これまでの最長)
いざなぎ景気 1965年11月〜1970年7月 57か月
バブル景気 1986年12月〜1991年2月 51か月
では、その「景気」は誰が決めているのか。内閣府が毎月出す景気動向指数という統計だ。生産、雇用、売上など10個の指標をひとつに合成して、「改善」「足踏み」「悪化」を機械的に判定する。7月は指数が前月から1.7ポイント上がって120.6。判断は「改善」のまま。
2. 元の統計を見る。10個の指標のうち、家計の数字は1つ
その10個の指標を、内閣府の発表資料からそのまま並べる。7月にどれが指数を押し上げたかも、資料に書いてある。
10個のうち、家計の財布に直接つながるのは、小売の売上の1つだけ(労働時間と求人倍率は、会社と家計の両方にかかる)。しかも小売の売上は「値段×数量」なので、物価が上がれば、買う量が同じでも数字は増える。残りは、会社が機械を買ったか、部品を出荷したか、輸出したか、利益が出たか。7月に景気を押し上げた数字も、4分の3以上が会社の数字だった。
つまり、「景気が良い」は「会社の側が動いている」という意味で、「家計が楽になった」という意味ではない。統計が間違っているのではなく、測っているものが違う。
3. 74か月のあいだ、家計に起きていたこと
では、家計の側の数字はどうだったか。いちばん近いのは実質賃金だ。給料の額(名目)から、物価の上がりぶんを引いた、「買えるものの量」で見た給料のこと。
減った月 増えた月 同じ
いちばん長く減り続けたのは 2022年4月〜2024年5月の26か月。過去最長
2025年 1月から12月まで、全部の月で減少
2026年 1月から6月まで、6か月連続で増加。いまここ
年の平均で見ると 2020年を100として、2025年は98
73か月のうち、給料が物価に負けた月は50か月。3か月のうち2か月は負けていた計算だ。給料の額は増えている。でも、物価のほうが速かった。年の平均で見ると、2020年を100として2025年は98。5年たって、買えるものの量は2%減っている。7月の消費者物価も食料を中心に前年比+1.9%で、上がり続けている。
NRIの木内登英さんは、この拡大を「歴史的な円安・物価高を大きな特徴とするもの」と書き、「戦後最長の景気拡大でも好況には遠い」と題している。景気が長く続いているのは、経済が大きく動く力を失い、上がりも下がりも小さくなったことの表れでもある、と。
4. わたしの実感が「半分」の理由
ここで、自分の数字を置く。
わたしの総資産 2021年8月 1,301万円 → 2026年8月 6,067万円(記録が残っている範囲)
8月に増えた236万円の中身 運んでくれたのは、ほとんど相場
家賃 7万円のまま。食料品や光熱費は、上がっている
資産の側では、実感がある。この拡大のあいだに、日経平均は3倍になった。わたしの資産が増えた理由も、自分の腕ではなく、相場が運んでくれたからだ。
家計の側では、実感がない。家賃は変わらないけれど、食料品や光熱費は上がっている。実質賃金は給料をもらう人の統計で、フリーランスのわたしには当てはまらない。当てはまるのは、物価のほうだ。
同じ人の中に、実感がある側とない側がある。そして、その境目は「株や投信(投資信託)を持っているかどうか」だ。持っていない人にとって、この74か月は、景気拡大ではなく物価高の74か月だったと思う。「戦後最長」という見出しと、多くの人の実感が合わないのは、当然だ。
5. わたしは、どう見ているか
「戦後最長」と聞いて、わたしがやることは変わらない。オルカン(全世界の株の投資信託)の積立は、同じ日に同じ額で続く。理由は2つ。
拡大が74か月続いた、は事実。でも、あと何か月続くかは誰にも分からない。長く続いたから終わりが近い、とも言えない
拡大のあいだに日経平均は3倍になった。わたしが日本の株で持っているのは高配当株119銘柄で、景気が良いから買う、悪いから売る、はしていない。買い増すのは割安なときだけ。日経平均が3倍になるあいだも、高配当株でやったのはそれだけ
冒頭の4つの声に、数字で返すと、こうなる。
答え 統計では2020年6月から74か月の拡大。ただし測る10個の指標のうち、家計の数字は1つだけ
答え 額は上がっている。買えるものの量で見ると、拡大が始まってからの73か月のうち50か月は、前の年より減った。増え続けているのは今年に入ってから
答え そのとおり。日経平均はこの間に3倍。実感の境目は、株や投信を持っているかどうか
答え 内閣府が10個の指標を合成して、機械的に判定する。正式な山と谷は、1年以上あとに研究会が決める
ポール・サミュエルソン(1966年、ニューズウィーク誌のコラム)
ノーベル賞をとった経済学者の、有名な皮肉だ。5回しか不況は来ていないのに、株式市場は9回も「不況が来る」と騒いだ。つまり、4回は空振り。世界中のプロが集まる株式市場でも、景気の先は当てられない、ということだ。
わたしは、なおさら当てられない。だから、当てにいかない。拡大が74か月で終わるのか、100か月まで続くのかは、誰にもわからない。8年前から積立を続けてこられたのも、景気を読んだからではない。10年、20年と市場にい続けた人がいちばん報われてきた、と歴史が言っているからだ。目の前の景気は読めなくても、それなら続けられる。
景気の見出しは、これからも変わる。「戦後最長」の次は「後退局面入り」かもしれない。そのときも、わたしがやることは変わらない。
景気が最長でも、わたしのやることは変わりません。オルカンの積立も、日本の高配当株119銘柄も、BNDも、8年以上SBI証券の口座です。積立は、同じ日に同じ額で続きます。
SBI証券の公式サイトを見る →6. まとめ
- 2020年6月から続く景気拡大が7月で74か月になり、戦後最長のいざなみ景気(73か月)を超えた公算。正式な認定は1年以上先
- 景気は内閣府が10個の指標を合成して判定する。7月に押し上げたのは投資財の出荷など会社の数字。家計に直接つながる指標は小売の売上1つだけ
- 家計側の実質賃金は、拡大の73か月のうち50か月が前の年より減少。2022年4月からの26か月連続の減少は過去最長。増え続けているのは2026年に入ってから
- わたしの実感は半分。日経平均が3倍になった拡大で、資産は相場が運んでくれた。家計側は物価高の側にいる。境目は、株や投信を持っているかどうか
- 「最長」は過去の話。わたしは何も変えない。積立は同じ日に同じ額で続く
- プロが集まる株式市場でも、景気の先は当てられない。わたしはなおさら当てにいかない。次の見出しが「後退」でも、やることは同じ
・景気の山と谷:内閣府「景気基準日付」。第16循環の谷が2020年5月、いざなみ景気(第14循環)が2002年1月の谷から2008年2月の山まで73か月。いざなぎ景気57か月、バブル景気51か月
・「74か月で戦後最長を暫定的に上回った」「歴史的な円安・物価高」「好況には遠い」:NRI 木内登英「戦後最長の景気拡大でも好況には遠い」(2026年9月4日)、NHK「景気拡大 戦後最長の見方も 7月景気動向指数『改善』維持」(9月7日)
・実質賃金:厚生労働省「毎月勤労統計調査」長期時系列表 実質賃金(現金給与総額)指数及び増減率(5人以上)。2020年6月〜2026年6月の各月の前年同月比をわたしが数えた(減った月50・増えた月21・同じ2)。年平均は2020年=100で2025年98.0。日本経済新聞「6月の実質賃金1.6%増、6カ月連続プラス」(2026年8月5日)、日本経済新聞「実質賃金とは 過去最長の26カ月連続マイナス」(2024年7月)
・7月の消費者物価+1.9%:8月の記事
・日経平均の3倍(2020年6月21,710円→2026年8月65,021円):Yahoo Financeの月次終値からわたしが拾った値
・わたしの資産:資産推移の記事(2021年8月1,301万円)、8月の月次レポート(6,067万円、+236万円)。家賃7万円は隠れ債券の記事に記載
・サミュエルソンの言葉:Paul A. Samuelson, "Science and Stocks", Newsweek, 1966年9月19日号 p.92「The stock market has forecast nine of the last five recessions」。訳はわたし




