20代の持ち家率が過去最高。中身を見たら、買える人だけが20代で家族になっていた
「金利上昇、住宅購入急ぐ若者」というニュースを読んだ。20代以下の持ち家率が40.7%で過去最高になり、50年ローンを選ぶ若者も増えているという。読んで、こう思った人もいるはずだ。
😊「50年ローンなら、月々は安い」
🤝「ペアローンなら、手が届く」
🤔「家賃は捨て金。持ち家は資産」
わたしは賃貸で、生まれ育った北海道の十勝に帰っても、家を買う予定はない。理由はあとで書くが、7月にも見た元の統計に戻ると、この「過去最高」は、若者が家を買うようになった話ではない。この40.7%は、20代のうちに夫婦や家族になった世帯だけを数えた率で、その世帯そのものが減っている。率が上がったのは、分母が減ったからだ。
順番に見ていく。
1. ニュースの数字。40.7%、年収の8倍、1億円
まず、記事にある数字を並べる。
首都圏で年収の8倍以上の新築マンションを買った割合 7.1%(2009年)→20.4%(2024年)
首都圏の新築マンション平均価格 2026年上半期に初めて1億円を突破
50年ローン ネット銀行が相次いで取り扱い。25歳で組めば完済は75歳、30歳なら80歳
記事の筋は、こうだ。不動産が高く、金利も上がりはじめた。「今買わないと、もっと買えなくなる」と、50年ローンや、夫婦がそれぞれ組むペアローンに手を伸ばす若者が増えている。
数字だけ見れば、そう読める。でも、40.7%という数字は、どこから来たのか。
2. 元の統計まで戻る。「2人以上の世帯」の、20代だけ
40.7%の出どころは、総務省の家計調査だ。ここに、2つの但し書きがある。
② 20代で夫婦や家族になっている世帯は、20代全体のごく一部。しかもその数は、2000年から74%減った
ひとり暮らしを含めた20代全体で見ると、持ち家率は7%台で、この25年ほとんど変わっていない。別の統計(住宅・土地統計調査、2023年)でも、29歳以下の持ち家率は6.3%だ。7%台というのは、14人に1人。
つまり、20代の14人に13人は、家を持っていない。そこは変わっていない。変わったのは、20代のうちに夫婦や家族になる人が激減したことだ。家計調査の「2人以上の世帯」は、多くが夫婦や親子の世帯で、荒川氏はこれを20代の夫婦世帯として数えている。その試算では、20代の夫婦世帯は2000年から74%減り、そのうち持ち家のある世帯も46%減った。持ち家の世帯そのものが減っているのに、率は2000年の19.7%から40.7%へ倍になった。分母(20代の夫婦世帯)が、分子(そのうち持ち家)よりずっと速く減ったからだ。
荒川氏は、こう読んでいる。20代で結婚できるのは、家を買えるくらい経済的に余裕のある層に偏ってきた。減ったのは中間層以下の婚姻で、残った20代夫婦の中で見れば、持ち家率は上がる。「若者が家を買い急いでいる」ではなく、「家を買える若者しか、20代で家族になれなくなった」。同じ40.7%が、正反対の話に見える。
ただ、記事のもう半分、「年収の8倍以上で買う人が7%から20%に増えた」「50年ローンが増えた」は、元の統計に戻っても消えない。買う人の中で、年収に対して大きく借りる人が増えているのは本当だ。そこを、次に計算する。
3. 50年ローンを、計算する
50年ローンは、2023年8月に住信SBIネット銀行(いまのドコモの銀行)がネット銀行で初めて始め、いまはSBI新生銀行やPayPay銀行も扱っている。金利は35年より0.1〜0.15ポイント上乗せされる。
35年と50年で何が変わるのか、5,000万円を借りた場合で見る。
月々は3万2,600円軽くなる。代わりに、利息は625万円増える。50年のうち最後の15年は、月々の軽さの代金を払い続ける期間だ。
そして、もうひとつ。住宅ローンの比較サイト「モゲチェック」の一覧に並ぶ50年ローンの金利は、どれも変動金利(半年ごとに金利が見直されるタイプ)だ。変動で50年借りるというのは、これから50年分の金利の上がり下がりを、自分で引き受けるということだ。今週、国の10年物国債の金利(長期金利)は30年ぶりに3%を超え、返済が終わるまで金利が変わらない住宅ローン(全期間固定)のフラット35は3.46%まで上がった。変動型はまだ1%台だが、動く。
金利が上がったら、月々はいくらになるか。
金利2.0% 月13万2,000円(+2万円)
金利3.0% 月16万1,000円(+4万9,000円。いまのフラット35が3.46%)
金利4.0% 月19万3,000円(+8万1,000円)
金利が3%になると、35年ローンでも月々は約19万2,000円、50年で約16万1,000円。50年に延ばしても、金利3%の世界では、上の表の35年ローン(金利1.1%、月14万3,500円)より月々が重い。「50年なら安い」は、金利が動かない前提での安さだ。
4. わたしが賃貸でいる理由。金利ではなく、目的
わたしは、家賃7万円の賃貸に、ひとりで住んでいる。持ち家は買わない。金利が高いからではない。目的が違うからだ。
わたしには、いつか十勝に帰る計画がある。帰るなら、実家で両親と暮らすのが本命だ。東京の家を50年ローンで買うと、この計画と正面からぶつかる。売れば済む、と言う人もいるだろう。でも、売る値段は買う値段と同じではないし、売れるまでの時間も読めない。持ち家は、家賃を払わなくていいぶん、毎月決まった額が入ってくるのと同じ働きをする。前に「隠れ債券」という記事で、そう書いた。その代わり、身軽さを差し出す。わたしがほしいのは、いまは身軽さのほうだ。
「家賃は捨て金」という声にも、数字を置いておく。家賃7万円を50年払うと、4,200万円。5,000万円を1.2%・50年で借りたときの総支払いは、元本と利息で約6,651万円。もちろん単純には比べられない。家は残るし、家賃は上がるし、固定資産税や修繕費は家賃には入っていない。ただ、「捨て金」と言い切れるほどの差ではない。
産経の記事も後半で、賃貸を続けて住宅費を抑える若者も多く、引っ越しやすい身軽さがその利点だ、と書いている。急いで買う若者と、賃貸を続ける若者。それぞれにメリットとデメリットがある。
5. わたしは、どう見ているか
理由は3つ。
十勝に帰る計画がある。東京の家をローンで買う目的が、わたしにはない
金利が3%なら月16万1,000円。いまの35年ローンより重くなる
20代の夫婦世帯が74%減り、残った層の中の率が上がった。ひとり暮らしを含めた20代全体の持ち家率は7%台のまま
冒頭の4つの声に、数字で返すと、こうなる。
答え 首都圏の新築は1億円で、年収の8倍以上で買う人が5人に1人。年収に対して大きく借りる人が増えているのは本当
答え 月3万2,600円安くなる代わりに、利息は625万円増える。金利が動かない前提での安さ
答え 届く。ただし、2人の収入が50年続く前提になる。どちらかが働けなくなっても、離婚しても、ローンは2人分残る
答え 家賃7万円×50年は4,200万円、5,000万円のローンの総支払いは6,651万円。「捨て金」と言い切れるほどの差ではない
買う人を止める気はない。買える人が、目的に合った家を買うのは、いいことだと思う。わたしが引っかかったのは、「みんなが急いでいる」という空気のほうだ。元の統計まで戻ると、急いでいるのは20代全体ではなく、家を買える層の中の一部だった。わたしは、空気では急がない。
兼好法師『徒然草』第55段(14世紀)
兼好法師は、鎌倉時代の終わりごろの歌人で、『徒然草』を書いた人だ。この段は「冬はどんな家でも住める。暑い時期に住みにくい家は、耐えがたい」と続く。住まいは、暮らしの中でいちばん大事にしたいことに合わせて決めろ、という話だ。
わたしの「夏」は、十勝に帰ることだ。それに合わない家は、金利が何%でも買わない。逆に、東京で50年暮らすと決めている人の「夏」は、わたしとは違う。住まいは金利ではなく、自分の暮らしの優先順位で決まる。
6. まとめ
- 20代以下の持ち家率40.7%(過去最高)は「2人以上の世帯」だけの数字。ひとり暮らしを含めると7%台で、25年変わっていない
- 率が倍になったのは、20代の夫婦世帯が2000年から74%減ったから。「買える層しか20代で家族になれない」という話だった
- 50年ローンは5,000万円で月3万2,600円軽くなる代わりに、利息が625万円増える。変動で50年は金利の50年分を引き受けること。金利3%なら月16万1,000円
- わたしは家賃7万円の賃貸。十勝に帰る計画があるので、東京の家を買う目的がない。いまは身軽さがほしい
- 家賃7万円×50年は4,200万円、5,000万円のローンの総支払いは6,651万円。「家賃は捨て金」と言い切れるほどの差ではない
- 住まいは金利ではなく、自分の暮らしの優先順位で決まる。わたしは、空気では急がない
・「2人以上の世帯」の但し書き・2000年の19.7%・総世帯では7%台・20代夫婦世帯▲74%・持ち家世帯▲46%:荒川和久「『20代以下の持ち家率が過去最高』という統計の裏にある『結婚できる・できない』を決定する経済階級差」(2026年5月26日、Yahoo!ニュース エキスパート)。家計調査をもとにした同氏の試算
・29歳以下の持ち家率6.3%(2023年):ガベージニュース「年齢階層別の持家と借家の割合」(総務省「令和5年住宅・土地統計調査」による)
・50年ローンの取扱銀行・金利・35年と50年の試算例:モゲチェック「最長50年で借入可能な住宅ローンランキング」(2026年9月1日)。ネット銀行初の50年は住信SBIネット銀行のプレスリリース(2023年8月4日)
・金利が上がった場合の月々(1.25%〜4.0%)・35年3%の19万2,000円・家賃7万円×50年・総支払い6,651万円:元利均等返済の式でわたしが計算した概算。5年ルール・125%ルールは考慮していない
・同じ統計を扱った7月の記事:20代の負債が過去最高(2026年7月27日)。19.7%→40.7%と夫婦世帯の減少はそこでも触れた
・長期金利3%・フラット35の3.46%:9月2日の記事
・家賃7万円・十勝に帰る計画・実家で暮らす本命:隠れ債券の記事、十勝計画③
・徒然草:第55段「家の作りやうは、夏をむねとすべし。冬は、いかなる所にも住まる。暑き比わろき住居は、堪へ難き事なり」。現代語訳はわたし




