東京から十勝へ。Uターン費用を試算したら、障壁はお金じゃなかった【十勝計画③】
- 1. いつか十勝に帰る日のために。34歳・東京フリーランスがいま考えていること【十勝計画①】
- 2. 両親が歳をとっていく。でも『親のため』を一番の理由にしたくない【十勝計画②】
- ▶ 3. 東京から十勝へ。Uターン費用を試算したら、障壁はお金じゃなかった【十勝計画③】
十勝計画②の最後に、これから書きたいテーマとして「帰るとしたら必要な資金の試算」を挙げた。今回はその回。
じつはこの試算、頭の中ではなんとなくやっていた。というのも、考えるのが単純に楽しいのだ。どのルートで帰ろうか、ごまもちはどうやって連れて行こうか、車はどうしようか。調べているときの感覚は、旅行のプランを練っているときにかなり近い。旅行は行く前の計画から楽しい、とよく言うけれど、移住もそうなのかもしれない。
ただ、頭の中の「なんとなく」のままだと、ふわっとしたままで終わってしまう。だから今回、腰を据えてぜんぶ数字に起こしてみた。
前提:実家で一緒に暮らす。でも、お金は頼らない
最初に書いておきたいことがある。帰るなら、実家で両親と一緒に暮らすことを前提にしたい。
理由はシンプルで、それがわたしの帰る目的に一番近いからだ。年老いた両親と過ごせる時間は、たぶんもう限られている。そばにいて、買い物や温泉に連れ出して、毎日の話し相手になる。一緒に暮らせば、両親の生活をより良くできることがあるはずだ。②で「親のためを一番の理由にしたくない」と書いたけれど、一緒に過ごしたい、というのはそれとは別の、もっと素直な気持ちだ。
ただし、お金の面で両親に頼る気はない。プロローグでは実家に乗っかる発想を自虐気味に「パラサイト的」と書いたけれど、生活費はもちろんきちんと家に入れるつもりだ。
そのかわり、掃除や洗濯のような家事は、甘えられるところは甘えようと思っている。家事は母の得意分野だから、わたしがしゃしゃり出て仕事を取ってしまうのは、なんだか違う。毎日の役割があることは健康維持の意味でも大事なはずで、過剰に助けたりもしたくない。お金は入れる、家事は甘える。お互いに無理のないバランスを探しながら一緒に暮らす。それがわたしの帰り方だと思う。
そのうえで、試算は2パターンやることにした。実家の近くに部屋を借りたらどうなるかも、数字としては見ておきたいからだ。
数字はすべて、いま調べられる相場をもとにした概算。時期や条件で変わるので、そこはご了承を。
初期費用:荷物を運び、住まいを整えるお金
まず、東京の部屋を引き払って十勝に移るまでのお金。
調べてみると、東京から北海道への単身引っ越しは、通常期でだいたい9万円前後が相場らしい。長距離で海を渡るので、近場の引っ越しよりは高い。荷物の量や時期(3〜4月の繁忙期は高い)によっては15万円くらいを見ておいたほうがよさそうだ。
本命の「実家で暮らす」形なら、これに後述するわたしとごまもちの移動費を足すだけ。敷金も家具もいらない。
参考までに、近くに部屋を借りるシナリオBも見ておく。調べて少し驚いたのだけど、帯広の家賃相場は1LDKで4万円前後。東京で7万円の部屋に住んでいる身からすると、半分近い。ただし犬と暮らせる物件は限られるし、ペット可は敷金が増えることが多い。敷金・礼金などで約15万円、家具家電の買い足しで25万円ほどを足すと、合計60万円ほどになる。正直に書くと、もっと大きい数字を想像していた。家賃の安さが、初期費用まで全体的に軽くしてくれている。
ごまもちの引っ越しが、一番の難題だった
お金の話の途中だけど、今回の試算でいちばん大事なのが、ごまもちをどうやって十勝まで連れて行くかだ。
ごまもちはボストンテリア。つまり短頭種だ。鼻ぺちゃの犬が気圧や温度の変化に弱いことは、2023年にごまもちを迎えたときから頭に入れてきた。だから年末の帰省はいつも飛行機だけど、ごまもちを連れて行ったことは一度もない。ごまもちはいつも、東京でお留守番だった。
でも引っ越しは話が別だ。今度はごまもちも一緒に海を渡る。そこで、ずっと頭の片隅にあった「短頭種と飛行機」のルールを、改めてちゃんと整理してみた。
ルール上は、JALなら連れて行ける。とかち帯広空港まで1時間半。一番速くて、一番安い。
でも、想像してみた。貨物室の中で、ひとりでケージに入っているごまもち。気圧の変化に弱い体で、何が起きているか分からないまま揺られている1時間半。何かあっても、わたしは隣にいられない。
無理だった。たぶん、わたしのほうが耐えられない。
それで調べたのが、フェリー。大洗(茨城)から苫小牧まで、さんふらわあという船が出ている。この船には「ウィズペットルーム」という、犬と同じ部屋で一晩過ごせる客室がある。室料は1.6〜1.9万円ほどで、運賃と合わせるとひとり+1匹で3万円前後。飛行機の何倍も時間はかかるけれど、ずっと一緒にいられる。
ごまもちと船の上から海を見る19時間。引っ越しというより、ちょっとした旅だ。そう考えたら、これはコストじゃなくて、新しい暮らしの最初の思い出になる気がした。
苫小牧の港から実家までは、車で2時間半ほど。ここは父に迎えを頼もうと思っている。荷物とごまもちを抱えてバスを乗り継ぐのは現実的じゃないし、なにより、十勝での最初の日が家族の車で始まるのは悪くない。74歳の父への、ちょっとした甘えも込みで。
車:最初は買わない、でいい
十勝の暮らしに車は欠かせない。スーパーも病院も、歩いて行ける距離にはないことが多い。冬は雪も積もる。
自分用に買うとしたら、雪道を考えて4WDの中古軽自動車で50〜80万円、スタッドレスタイヤで5万円前後。決して小さくない買い物だ。
ただ、ここでも実家のバックアップが効いてくる。プロローグで書いたとおり、実家には車が2台あって、1台はほとんど使われていない。最初はこれを借りれば、車の初期費用はゼロにできる。
もちろん、ガソリン代や保険などの維持費は自分で持つ。それで月1万円くらい。使われていない車が家にあるのに新しく買うのは、さすがに不合理だと思う。乗ってみて、生活が固まって、必要なら自分の1台を買う。その順番でいい。
月々の生活費:意外と下がらない、でも回る
そして月々の生活費。東京での生活費は月15万円。これが本命の「実家で両親と暮らす」形だと、こう変わる。
家賃はかからない。そのかわり、食費や光熱費のぶんとして家に月5万円入れる前提で組んだ。それでも合計は10万円弱。東京より月5万円ほど軽くなる。
ちなみにシナリオBなら、家賃4.5〜5万円に水道光熱や車の維持費を足して月13.5〜14万円ほど。面白かったのは、帯広の家賃は東京の半分近いのに、合計は東京の15万円と1〜1.5万円しか変わらないこと。
理由は2つある。まず冬の暖房費。北海道の冬は灯油ストーブが基本で、寒い月は灯油代だけで1〜2万円かかる。十勝は内陸で、冬はマイナス20度になる日もある土地だ。そしてもうひとつが車。東京では持たずに済んでいたものが、十勝では生活必需品になる。
「地方に帰れば生活費は抑えられる」と、なんとなく思っていた。でもひとり暮らし同士で真面目に比べると、家賃の安さは暖房と車でかなり相殺される。これは、移住を考えている人に伝えたい発見だと思う。
もうひとつ、忘れてはいけないのが国民年金・国民健康保険・住民税。この試算には入れていない(東京の月15万円も同じ建て付け)けれど、生活費とは別に毎月出ていくお金だ。移住して収入が下がれば国保と住民税はかなり軽くなる一方、国民年金は定額で月1.7万円ほど。あわせて月2〜3万円を別枠で見ておく。注意したいのは、国保と住民税が前年の所得で決まること。移住1年目だけは東京時代の所得ベースの請求が来るので、そこは覚悟しておく(詳しくはフリーランスの社会保険に書いた)。
収入と突き合わせる:それで、暮らせるのか
最後に、この生活費を何で払うのか。
いまの収入の見込みはこうだ。配当が年間約48.7万円、月にならすと約4万円。そしてプロローグで書いたとおり、いまの仕事をリモートで続けられる分が月5〜10万円、ゼロの月もあるという見積もり。
本命のAなら、生活費10万円弱に社会保険の2〜3万円を足して、出ていくお金は月12〜13万円ほど。対する収入は、配当4万円+リモート5〜10万円で月9〜14万円。いい月はほぼ賄えて、足りない月は数万円の取り崩しになる。資産約5,800万円に対して、この取り崩しは誤差の範囲と言っていい。
それに加えて、ビズロケで探している地元の仕事が週3日でも見つかれば、収支はプラスに転じる。
つまり、結論はこうなる。
数字にしてみて、わかったこと
数字を並べ終わって、画面を眺めながら思った。やっぱり、この計画を立てている時間は楽しい。
フェリーの部屋を調べて、ごまもちと船から海を見るところを想像して、苫小牧の港に迎えに来てくれる父の車を思い浮かべる。まだ何も決めていないのに、新しい暮らしの輪郭だけが少しずつはっきりしてくる。しおりだけが先にできあがっていく、遠足の前日みたいな気分だ。
そして、数字の結論もはっきり出た。お金は、障壁じゃなかった。残ったのは、十勝で仕事をどう作るか。そして、両親に「帰るかもしれない」と本気で話すこと。
次に向き合うものが、お金の外側にあるとはっきりした。それがこの試算のいちばんの収穫だったと思う。
まとめ
- 前提は実家で両親と一緒に暮らすこと(A)。限られた時間をそばで過ごしたいから。お金は家に入れて(月5万円)、家事は母に甘える
- 近くに部屋を借りる案(B)は参考として試算。初期費用はAで約20万円、Bでも約60万円。帯広の家賃は1LDK4万円前後と東京の半分近い
- ごまもちは短頭種なので飛行機は不安が残る。フェリーのウィズペットルーム(同室で渡れる・3万円前後)が本命。苫小牧の港からは、父に甘えて迎えを頼むつもり
- 車は実家の使っていない1台を借りてスタート。維持費月1万円。買うのは生活が固まってからでいい
- 月の生活費はAで10万円弱、Bでも13.5〜14万円。家賃は下がるが冬の暖房と車で相殺されて、ひとり暮らしなら思ったほどは下がらない
- 年金や国保など社会保険(月2〜3万円・別枠)を足しても、配当月約4万円+リモート月5〜10万円でほぼ回る。お金は帰れない理由にならない
- 移住の計画は、旅行の計画と同じで立てているだけで楽しい。残る宿題は「十勝での仕事」と「両親に本気で話すこと」。続きは次回以降で




