物価は1.8%しか上がっていないことになっている。原典を開いたら、私立高校の授業料が73%下がっていた
8月21日、7月の消費者物価指数が発表された。生鮮食品を除く総合で、前年比は1.8%の上昇。日銀が目標にする2%を7か月連続で下回ったという。
読んで、引っかかった。ポテトチップスも、お茶も、2%では済んでいない。
数字は正しいはずだ。総務省が毎月同じやり方で測っている。だとすれば、1.8%という数字の中に、わたしの知らない中身がある。
原典を開いてみた。
1. 1.8%の「かご」の中身
消費者物価指数は、家計が買うものを1つのかごに詰めて、そのかご全体の値段がどれだけ動いたかを測る。入っているのは食べ物だけではない。家賃も、電気代も、スマホ代も、授業料も入っている。
だから「1.8%」は、全部をならした平均だ。平均の中には、大きく上がっているものと、下がっているものが混ざっている。
7月の数字を、かごの区分ごとに並べてみた。
見て分かったことが2つある。
上がったぶんの半分は、食べ物だった。総合の+1.9%のうち、食料だけで+0.97ポイント。かごの中では4分の1ほどなのに、だ。
そして下げているのは、教育だけだった。10区分のうち、マイナスはここしかない。
わたしがスーパーで感じていたのは、この「食料+3.5%」のほうだ。平均の1.9%ではなく、かごの中のいちばん重いところを、毎日見ていた。
2. 食べ物は、ちゃんと上がっている
食料の中身も開いてみる。
飲料 +5.5% 緑茶+29.2%
調理食品 +3.5% からあげ+8.3%
生鮮魚介 +12.4% まぐろ+20.4%
生鮮野菜 +6.6% トマト+13.5%
肉類 +3.9% 牛肉(輸入品)+11.0%
外食 +1.7% ハンバーガー+13.2%
食料以外:通信料(携帯電話)+4.6%、自動車保険料+5.9%、外壁塗装費+7.8%、民営家賃+0.7%
生鮮食品を除く食料は3.0%の上昇。伸びは12か月続けて縮んでいるけれど、3%は3%だ。
中でも効いているのが菓子類の+6.1%で、食料の中でいちばん全体を押し上げた。緑茶は+29.2%。飲み物が3割上がっているのに、全体は1.9%だと言われる。そのズレは、平均という計算のしかたから来ている。
ここで、食料の中で目立って下げているものがある。米類だ。
3. 米が−11.6%。でも、安くなったわけではない
米類は前年同月比で11.6%のマイナス。3か月続けてマイナスで、食料全体の伸びを抑えている。
ただ、この数字をそのまま「米が安くなった」と読むと間違える。
前年比は、1年前との比較だ。1年前が異常に高ければ、今年は普通でもマイナスに見える。そして去年の米は、異常だった。
2025年11月 指数223.4でピーク(2020年=100)
2026年6月 指数195.0。前年比はマイナスでも、2020年の約2倍のまま
2026年7月 前年比−11.6%
去年2倍になって、今年1割戻した。それが−11.6%の正体だ。値段は2020年の2倍近いところにいる。
この「前年比は去年との比較でしかない」という見方は、アメリカのCPIを見たときにも出てきた。ガソリンが急に下がって全体が鈍った、という話だった。大きく動いたものは、翌年の数字に逆向きに出る。
4. 私立高校の授業料が、73%下がっていた
ここからが、今回いちばん驚いたところだ。
10区分で唯一マイナスだった教育。その中身を開くと、私立高校の授業料が、73.2%下がったことになっていた。
73%、である。授業料が4分の1になった学校があるわけではない。2026年4月から、高校の授業料の無償化が広がった。私立も含めて所得制限がなくなり、私立に通う家庭には年に45万7,200円を上限に就学支援金が出る。
消費者物価指数が測っているのは、家計が実際に払う値段だ。授業料そのものが下がらなくても、補助金で払う額が減れば、指数の上では「値下げ」になる。
・私立高校は年45万7,200円まで、公立高校は年11万8,800円が支給される
・支援金は学校に直接払われる。家計が払う授業料が、そのぶん減る
この1品目だけで、総合指数を0.15ポイント押し下げている。
ということは、もし授業料の補助がなかったら、7月の総合は1.9%ではなく2%を超えていた計算になる(1.9+0.15=約2.05%)。ニュースで言う「生鮮食品を除く総合」で見ても、1.8%が2%近くに届く。
誤解のないように書いておくと、総務省は何も隠していない。原典には「高等学校授業料(私立)−73.2%」と、はっきり書いてある。見出しの「1.8%」だけを読むと、そこが見えないというだけの話だ。
5. 同じことが、ガソリンでも起きている
授業料だけではなかった。
7月のガソリンは1.8%のマイナス。これも、原油が下がったからではない。暫定税率の廃止と、政府の補助金で店頭価格が抑えられている。
総務省は、この政策の効果を自分で試算して、同じPDFに載せている。ガソリンの政策効果はマイナス0.23ポイント。エネルギー全体でマイナス0.22ポイントだった。
電気代と都市ガス代の補助も7月に再開されたけれど、こちらは8月の検針分から指数に出てくる。7月の数字にはまだ入っていない。
ここで、足し算をしてみた。
+ 私立高校授業料の補助 0.15
+ ガソリンの税と補助 0.23
= 約2.3%
2%を7か月下回っていると聞くと、物価は落ち着いてきたように聞こえる。でも補助と減税で押し下げたぶんを戻すと、2%を超えたあたりにいる。
ニッセイ基礎研究所のレポートにも、日銀は見出しの数字だけでなく、制度変更などの特殊要因を除いた指標を重視して判断している、とあった。見ている人は、ちゃんとそこを見ている。
6. 5年に一度の「かごの入れ替え」も、同じ日にあった
ひとつ、確かめておきたいことがあった。
今回の発表から、指数の基準が2020年から2025年に切り替わった。5年に一度、かごの中身を最近の家計に合わせて入れ替える。食料の割合が増え、高校の授業料の割合は減った。
基準が変わると数字も変わるのではないか、と思ってニッセイ基礎研究所の試算を読んだ。食料の割合が増えた効果でプラス0.37ポイント、授業料などのリセット効果でマイナス0.42ポイント。ほぼ相殺で、新旧の基準で1〜5月の平均はどちらも1.6%だった。
つまり、今回の1.8%はかごを入れ替えたせいではない。中身の話だけを見ればいい。
7. わたしは、どう見ているか
ライフプランを組むとき、わたしはインフレを2%で置くように書いた。日銀の目標で、ここを0にすると支出が一生増えない前提になる、と。
1.8%という数字を見て、2%を下げようとは思わなかった。理由は3つある。
わたしのかごに、高校の授業料は入っていない。34歳、ひとり暮らし、子どもはいない。全体を0.15ポイント押し下げた品目は、わたしの支出にはゼロだ。かごが違えば、平均も違う。
わたしの出費の大きいところは、2%を切っていない。食べ物は+3.0%、スマホ代+4.6%。外食+1.7%と家賃+0.7%はその下だけれど、毎月の出費は食べることに偏っている。
政策で下げたぶんは、いつか剥がれる。補助金は期限があるし、税の話も動く。そのとき、前年比は逆向きに出る。米で見たとおりだ。
消費者物価指数は、日本全体の平均のかごを測っている。それは大事な数字で、日銀も年金もこの数字を見て動く。でも自分のかごは、自分で見るしかない。
そしてそれは、誇張し、膨らませ、混乱させ、単純化しすぎるために使われる
ダレル・ハフ『統計でウソをつく法』(1954年)
ハフのこの本は、70年前に書かれた統計の入門書で、中身は「統計にだまされないための読み方」を教えている。
ここで言う「単純化しすぎる」が、まさに今回のことだと思った。1.8%というひとつの数字は正しい。でも、そのひとつに食べ物の+3.5%と授業料の−73%が一緒に入っている。平均は、正しいまま、中身を見えなくする。
見出しの1行は、かごの中身までは教えてくれない。開けて見るのは、自分の仕事だ。
物価が上がるなら、現金だけで持つのがいちばん目減りします。わたしはオルカンの積立と日本の高配当株を同じ口座で持っています。メイン口座はSBI証券で、8年以上使っています。
SBI証券の公式サイトを見る →8. まとめ
- 7月の消費者物価は生鮮食品を除く総合で+1.8%、2%割れは7か月連続。でも総合+1.9%のうち半分の0.97ポイントは食料
- 菓子+6.1%、飲料+5.5%、生鮮魚介+12.4%。食べ物はちゃんと上がっている。平均が低く見えるのは、下げている区分が混ざるから
- 下げているのは10区分で教育だけ。中身は私立高校授業料−73.2%。4月から就学支援金が広がり、家計が払う額が減った
- 値段ではなく払う人が変わっただけで指数は下がる。この1品目がなければ総合は2%を超えていた計算
- ガソリンも税と補助で−0.23ポイント。政策分を足し戻すと約2.3%(わたしの概算)
- 米の−11.6%は去年+101.7%の反動。指数は2020年の約2倍のまま。前年比は去年との比較でしかない
- わたしのかごに授業料はなく、食べ物は+3.0%。ライフプランのインフレ2%は下げない
・きっかけになった記事:日本経済新聞「消費者物価指数、7月1.8%上昇 エネ価格上昇で6月から伸び拡大」(2026年8月21日)
・基準改定の試算:ニッセイ基礎研究所「消費者物価指数2025年基準改定の影響試算」(2026年7月13日)
・就学支援金の制度:文部科学省「高校生等への修学支援」/東証マネ部!「2026年4月『私立高校授業料の実質無償化』が家計にもたらすもの」
・米類の過去の数字:日本経済新聞「5月の消費者物価指数(CPI)3.7%上昇 伸び拡大、コメは101.7%高」(2025年6月20日)/アイ・エヌ情報センター(2020年基準の米類指数 223.4・195.0)
・ハフの言葉:Darrell Huff『How to Lie with Statistics』(1954) Introduction。邦訳『統計でウソをつく法』(講談社ブルーバックス)
・「約2.3%」は上記の寄与度と試算値をわたしが単純に足した概算です




