アメリカが国債を買い戻すと発表。日経平均は890円戻したけれど、借金は1円も減っていなかった
8月19日、米財務省が国債を買い戻す量を倍にすると発表した。
その日のうちに米国の金利が下がって、円高が進んで、翌日の日経平均は890円戻した。国が自分の借金を買い戻すと言っただけで、なぜここまで動くのか。順番に調べてみた。
1. 発表の日に、動いたもの
まず、何が起きたのかを並べる。
1回あたり20億ドル → 40億ドル以上(少なくとも2倍)
対象は残存10年超20年以下と20年超30年以下の利付国債
実施は9月9日から11月4日まで
この発表を受けて、その日のうちにこれだけ動いた。
30年債の利回りは、1日で約9bp(0.09ポイント)下がった。地味に見えるけれど、19年ぶりの高さをつけた翌日の動きとしては大きい。
そして翌8月20日、日経平均は890.37円高の66,216.79円で3日ぶりに反発した。
2. なぜ、買い戻すと金利が下がるのか
国が自分の借金を買い戻すと、どうして金利が下がるのか。
答えは、国債も値段のついた商品だからだった。
② 出回る量が減る 買い戻したぶんは消える。残りの取り合いになる
③ 値段が上がる 取り合いになれば、高くても買う人が出てくる
④ 利回りが下がる もらえる利息は同じなのに、買う値段だけ高くなるから
④が分かりにくいので補うと、国債の利回りは、ざっくり言えばもらえる利息 ÷ 買った値段だ。利息のほうは最初に決まっていて動かない。だから値段が上がれば、割り算の答えは自動的に小さくなる。
債券の値段と利回りは、シーソーの関係になっている。片方が上がれば、もう片方は必ず下がる。
このシーソーは何度か書いているので、今回もすぐにピンときた。いろいろな場面で出てくる関係なので、覚えておくと解像度が上がる。
もうひとつ、財務省が挙げている目的も見ておく。表向きの理由は金利を下げることではなく、国債市場の流動性を支えることと、金利が急に動くのを抑えることだった。
古くて売り買いしにくくなった国債を引き取ることで、市場が詰まらないようにする。それが名目上の狙いになっている。
3. でも、借金は1円も減っていない
ここが今回いちばん引っかかったところだ。
買い戻すという言葉から、借金が減るように聞こえる。でも財務省自身が、そうではないと言っている。
買い戻す資金は、ふつう短期の国債(Tビル)を新しく出して用意する
つまり長い借金を、短い借金に置き換えているだけになる
長い国債が減って、短い国債が増える。総額は変わらない。減っているのは借金ではなく、市場に出回っている長い国債の量だった。
だから金利が下がったのは、財政がよくなったからではない。需給が変わっただけだ。
そして短い借金は、満期が早く来る。そのたびに、そのときの金利で借り換えることになる。
4. 890円戻った。その前に3,894円下げていた
日経平均が890円戻ったと書いた。ここも念のためおさらいしておく。
金利が下がると、株にはプラスに働く。借りるコストが下がって会社の利益が出やすくなるのと、預金や債券の利回りが落ちるぶん、お金が株のほうに向かいやすくなるからだ。これも7月の記事で書いている。
もうひとつ、円高は日本株にはマイナスと言われる。海外で稼ぐ会社は、同じ売上でも円に直すと目減りするからだ。
では、その円高はなぜ起きたのか。これも米金利が下がったからだ。米国の金利が下がると日本との金利差が縮まって、ドルで持っておく理由が薄くなる。ドルが売られて、円が買われる。8月の記事で書いたのと同じ道すじだ。
つまり米金利の低下は、株にプラスの力と、円高というマイナスの力を同時に出していた。今回はそこがぶつかって、プラスのほうが少し勝った。それが890円だ。
ただ、890円だけを見ると、話を取り違える。
2日で3,894円下げて、890円戻した。戻ったのは2割ちょっとだ。
下げた理由にも、金利が入っていた。報道ではAI・半導体株の総崩れが主因で、そこに世界的な金利上昇と中東情勢への不安が重なったとされている。金利が上がって下げて、金利が下がって少し戻った。同じ軸を行ったり来たりしている。
ただ、往復は釣り合っていない。下げたぶんの8割弱は、まだ戻っていない。
「反発」という言葉は、どこまで戻ったのかを教えてくれない。数字にすると、そこが見える。
5. わたしのBNDは、1日で1万2,000円増えた
ここまでは世界の話だ。でも読みながら、BNDはどうなったんだろう、と思った。米国の債券をまるごと持つETFで、わたしの口座にある。
国債の利回りが下がったのなら、債券の値段は上がるはずだ。そう思って見にいったら、実際に上がっていた。やっぱり関係しているんだな、というのが正直な印象だった。
値段は72.22ドル → 72.56ドル(8月18日 → 19日、+0.47%)
0.34ドル × 228口 = 77.52ドル。円にすると約1万2,000円
頭で理解していても、実際に自分の口座で起きて、はじめて実感できる。
せっかくなので、どれくらい一緒に動いているのかも調べてみた。ぼんやり関係はしていると思っていたけれど、数字で見たことはなかった。
ほとんど一緒に動いていた。とくに7〜10年の国債とは+0.98で、ほぼ同じものと言っていい。利回りとは−0.93で、シーソーがそのまま数字に出ている。
増えた金額は1万2,000円。わたしのポートフォリオでBNDは1割以下なので、「守り」というより「気休め」という見方は今回も変わらなかった。
それでも、わたしはこのニュースを追いかけた。BNDを持っていなければ、米財務省が国債を買い戻すという話は読み飛ばしていたと思う。持っていたから、なぜ上がったのかを調べた。遠い国の発表が、自分ごとになる。
1株でも持っていると、世の中の動きを感じるアンテナになる。1万2,000円より、そっちのほうが大きいかもしれない。
6. 結局、何が起きて、わたしはどうするのか
一連の流れを、短く並べておく。
② 買い手が増える見込みになって、長い国債の値段が上がった
③ 値段が上がったので、利回り(金利)が下がった
④ 金利が下がって、円高になり、株が戻り、BNDの値段も上がった
⑤ でも、借金の総額は変わっていない
①から④まではつながっている。⑤だけが、そこから外れている。
で、わたしはどうするか。何もしない。
買い戻しは9月9日から11月4日までの期間限定だ。終われば需給は元に戻る。BNDは前から書いているとおり、配当で入ってきたドルが貯まったら買い増す。今回のニュースを見て、そこを動かすことはない。
票を数える機械だ
ベンジャミン・グレアム/デビッド・ドッド『証券分析』(1934年)
この一文は、値段は何で決まるのかを言っている。
体重計は、だれが何と言おうと同じ数字を出す。中身の重さだけで決まるからだ。
票を数える機械は違う。人気投票だと思うと早い。その日に何人が手を挙げたかで結果が変わる。中身が同じでも、そのときの空気で順位は動く。
グレアムは、株式市場は人気投票のほうだと言った。いまの値段は、中身を測った答えではない。そのとき買いたい人が多かったか、売りたい人が多かったかの結果でしかない。
今回は、そこがはっきり出た。①から④が人気投票で、⑤が体重計だ。人気はその日のうちに動いて、体重計の数字は1グラムも動かなかった。
だから値段が動いたときは、中身が変わったのか、人気(空気)が変わったのかを分けて見たい。人気だけで動いたものは、戻るのも速い。
わたしはBNDもオルカンも日本の高配当株も、同じ口座で持っています。メイン口座はSBI証券で、8年以上使っています。
SBI証券の公式サイトを見る →7. まとめ
- 米財務省が8月19日、長期国債の買い戻しを1回20億ドルから40億ドル以上へ倍増すると発表した
- 米30年債の利回りは前日に5.33%と19年ぶりの高さをつけたばかりで、発表後は約9bp低下。翌日の日経平均は890円高で3日ぶりに反発した
- 買い戻すと金利が下がるのは、出回る量が減って値段が上がるから。利息は同じなので、利回りは下がる
- ただし財務省自身が「政府債務の総量を変えるものではない」と説明している。長い借金を短い借金に置き換えただけで、下がったのは需給のほうだ
- 日経平均は2日で3,894円下げてから890円戻したので、戻ったのは2割ちょっと
- わたしのBNDは約1万2,000円増えた。金額は小さいが、1株でも持っていると世の中の動きを感じるアンテナになる
・買い戻しの仕組みと限界:日本経済新聞「市場に広がる『ベッセント・プット』 米財務省、異例の米債バイバック増額」
・8月19日に日経平均が下げた理由:日本経済新聞「日経平均終値2134円安、AI・半導体株総崩れ 拭えぬ中東不安」
・利回り・株価・為替:Yahoo Finance の終値からわたしが計算しました(2026年8月20日まで)。米30年債は ^TYX、米10年債は ^TNX、日経平均は ^N225、ドル円は JPY=X、BNDは同ティッカーの終値を使っています
・BNDの保有数と評価額:わたし自身の口座の数字です
・グレアムの言葉:Benjamin Graham, David Dodd『Security Analysis』(1934) 第39章




