なぜアメリカが円買いを手伝ったのか。円安と米国の金利がつながっている理由を調べてみた
7月31日の日米協調介入について書いたとき、ひとつ引っかかったままにしていたことがある。
どうしてアメリカが、円を買う側に回ったのか。
円買いドル売りは、ドルを安くする方向の取引だ。ドルが安くなれば、アメリカの製品は海外で売りやすくなる。ふつうに考えれば、アメリカにとって円安・ドル高は悪い話ばかりではないはずだ。それなのに、米財務省がわざわざ民間の銀行に「介入するかもしれない」と伝えてまで動いた。
調べていくと、米国の長期金利という言葉に行き着いた。円安と、アメリカの30年国債の金利が、つながっているらしい。
正直に言うと、わたしはこの話が最初まったく腑に落ちなかった。なので今回は、自分がわかるところまで、ひとつずつ順番にたどってみる。
1. まず、いちばん基本のところ
出発点は、たぶんここだ。お金は、金利の高いところに集まる。
水が低いところへ流れるのと同じで、これはほとんど自然の力に近い。日本に預けても利息がほとんどつかないのに、アメリカなら4%つくとしたら、円を売ってドルを買う人が増える。これが金利差による円安で、介入の記事でも書いたとおり、いまの円安の根っこにある。
ここまではわかる。アメリカの金利が上がる → 円安が進む。矢印は左から右へ一方通行に見える。
でも今回の話は、その矢印に、逆向きのものがあるという話だった。
2. 逆向きの矢印。円安が、日本の金利を押し上げる
円安が進むと、日本の金利のほうも上がっていく。理由は2つある。
実際に、日本の30年国債の金利は2026年5月に4.21%と過去最高をつけている。ずっと「日本は超低金利」と言われてきたのに、そうではなくなってきている。
ここまでで、矢印はこうなった。
米国の金利↑ → 円安 → 日本の金利↑
そして問題は、この先だ。
3. なぜ、日本の金利が上がるとアメリカが困るのか
ここがわたしのいちばんわからなかったところで、答えを知って「なるほど」と思った。
日本は、世界でいちばん米国債を持っている国だからだ。
日本の生命保険会社や年金、銀行が、莫大な額の米国債を買っている。アメリカの借金を、いちばん多く肩代わりしているのが日本だ。
出稼ぎに出ていた人が、帰ってくる
ここを、わたしはこう理解した。
日本の金利がずっと低かったあいだ、日本のお金は出稼ぎに出ていたようなものだった。地元(日本国債)で働いても給料(金利)がほとんどもらえないから、遠くの町(アメリカ)まで出かけて働いていた。米国債の金利のほうが、ずっとよかったからだ。
ところが、地元の給料が上がりはじめる。日本の30年国債が4%を超えるようになった。しかも遠くの町に出稼ぎに行くには旅費がかかる。為替の変動から身を守るための費用(ヘッジコスト)だ。旅費を引いた手取りで比べたとき、「これなら地元で働いたほうがいいな」となる。
そうやって出稼ぎの人たちが帰ってくると、遠くの町では何が起きるか。働き手が足りなくなる。米国債でいえば、買い手が減るということだ。
買い手が減った国債は、値段が下がる。国債の値段が下がることは、金利が上がることと同じ意味になる。安くしないと買ってもらえないのだから、そのぶん利回りは高くなる。
ただし、まだ大きくは起きていない
ここで正確に書いておきたいことがある。この「帰郷」は、いまのところ大規模には起きていない。上の表のとおり、日本の米国債の保有額はむしろ過去最高を更新している。
つまりこれは、すでに起きた出来事ではなくこれから起こりうることだ。ただ、こういう資金の流れはいちど動きだすと止めにくい。だから各国は、実際に起きてしまう前に手を打とうとする。今回の介入も、そういう性質のものだと思う。
4. つながった。これがひと回りする輪だった
ここまでの矢印を、ひとつにつなげてみる。
④まで来たら、また①に戻る。始まりも終わりもない、ひと回りする輪になっている。放っておくと、円安も金利も、お互いを押し上げながら進んでいってしまう。
ニュースで「金利上昇の連鎖を懸念」という見出しを見かけたのだけれど、これはこの輪のことを言っていたのだと思う。
実際、2026年5月には米国の30年国債が5.19%と2023年の高値を超え、同じ時期に日本の30年国債も4.21%と過去最高をつけた。日米の超長期金利が、そろって上がっている。
5. アメリカにとって、長期金利の上昇は他人事ではない
もうひとつ、わたしが見落としていたことがある。アメリカ自身が、長期金利の上昇でとても困るということだ。
日本にとっての円安が「輸入品が高くなって困る」なら、アメリカにとっての長期金利上昇は「借金の利息と住宅ローンが重くなって困る」だ。どちらも、自分の国の生活に直結する。
だから今回、アメリカは円を買う側に回った。木内登英さんの分析でも、トランプ政権の狙いのひとつとして「円安に伴う日本の長期金利上昇が、米国の長期金利上昇に波及することを回避」することが挙げられている。
アメリカは日本を助けたというより、自分の金利を守りにきた。そう考えると、腑に落ちた。
もちろん理由はそれだけではなくて、貿易赤字を減らしたいトランプ政権が、そもそもドル高を直したがっているという背景もある。円安の是正は、そちらの狙いにも合っている。
6. あずきの考え。ふたつのことがつながっていた
今回いちばん勉強になったのは、ばらばらに見えていたニュースが、じつは同じ輪の一部だったということだ。
「円安が止まらない」というニュースと、「米国の長期金利が高い」というニュース。わたしはこれまで、別々の話として読んでいた。でも実際は、片方がもう片方を押し上げていて、その循環を止めるために国が動いていた。
そしてこれは、わたしの資産にも直接つながっている。
- 資産の約7割がドル建てなので、円安が進めば円に直した資産は増える。でも生活のほうは苦しくなる
- 外国債券のBNDを持っているので、米国の金利が上がれば債券の値段は下がる
- 気になっているSCHDも、買うタイミングは為替に左右される
ひとつのニュースが、資産のあちこちに違う向きで効いてくる。だからこそ、片方に全部を置かないという形にしているのだと、あらためて思った。
わからないことを調べると、たいてい「思っていたより世界はつながっていた」という結論になる。今回もそうだった。この輪がこれからどう動くかは予想できないけれど、仕組みを知っておけば、次のニュースは少し落ち着いて読めると思う。
まとめ
- 7月31日の日米協調介入で、なぜアメリカが円を買う側に回ったのかを調べた。答えは「自国の長期金利を守るため」だった
- お金は金利の高いところへ流れるので、米国の金利が上がると円安になる。ここまでは一方通行に見える
- ところが逆向きもある。円安→輸入品の値上がり→日銀の利上げ観測→日本の金利上昇。日本の30年国債は2026年5月に4.21%と過去最高をつけた
- 日本は世界最大の米国債の保有国(約1.29兆ドル)。日本の金利が上がると、出稼ぎに出ていたお金が地元に帰るように国内債へ戻り、米国債の買い手が減って米国の金利が上がるという道すじがある
- ただしこの資金の帰郷は、まだ大きくは起きていない(日本の保有額はむしろ過去最高)。起きてからでは止めにくいので、その前に手を打った、というのが今回の介入だと思う
- つまり①米金利↑→②円安→③日本の金利↑→④米国債の買い手減→また①へ、とひと回りして戻る輪になっている。報道の「金利上昇の連鎖を懸念」はこのこと
- 米国にとって長期金利の上昇は、住宅ローンが重くなり、38兆ドルを超える借金の利払いが膨らむという自国の痛み。だから協調に踏み切った
- わたしの資産にも、円安・米金利はそれぞれ違う向きで効いてくる。だからこそ片方に全部を置かない形にしている
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