「次も3か月後ですか?」に、植田総裁はどう答えたか。1時間の会見を、質問ごとに噛み砕いてみた
9月18日、日銀(日本の中央銀行)が、政策金利(日銀が決める、世の中の金利の元になる金利)を1.0%から1.25%に上げた。その日の円と金利の動きは、別の記事にまとめた。この記事は、同じ18日の午後にあった記者会見の話だ。植田総裁が1時間あまり、20人を超える記者の質問に答えている。
日経新聞の見出しは、連続・大幅利上げの可能性「排除せず」。連続利上げは、金利を決める会合のたびに、続けて上げることだ。こう思った人も、いるはずだ。
🤔「次は、いつ?」
😮「結局、どこまで上がるの?」
😑「会見って長いし、言い回しが難しくて分からない」
会見を、文字起こしで最初から最後まで追ってみた。結論から言うと、いちばん大事な言葉は見出しとは別のところにある。「政策の局面が変化した」。これまでは、物価の上がり方を年2%まで「引き上げる」のが狙い。これからは、年2%を超えないように「止める」のが狙いになる。ほかの答えは、ほとんどこの一言から出てくる。
記者の質問と総裁の答えを、1つずつ並べていく。
1. 「なぜ、3か月で上げたんですか?」
先に、大前提を1つ。金利は、物価のアクセルとブレーキだ。低くすれば、お金が借りやすくなって、物価は上がりやすい。高くすれば、その逆になる。日銀は長いあいだ金利をとても低くして、物価を押し上げようとしてきた。ここ2年の利上げは、その低すぎる金利を少しずつ戻す作業で、いまの1.25%でも、まだアクセルの側にある。
その利上げは、これまでおおむね半年に1回だった。前回は6月。今回は3か月しかたっていない。最初に質問した記者の、2つ目の質問がこれだ。
利上げを早めなければインフレが加速すると判断したのか。ペースが早まった理由と、今後のペースは
「これまでは、基調的な物価上昇率が2%より低いと見られる中で、それを上昇させることが、ある意味、短期的な政策の狙いでした」
「現在、基調的な物価上昇率が2%に接近しつつありますので(中略)2%程度の水準で安定させていくという観点が重要になっています。そういう意味で、政策の局面が変化したと考えています」
いままでは、物価を2%まで押し上げるのが仕事だった。もう2%に近い。これからは、2%を超えて行かないように止めるのが仕事になる。仕事が変わったから、動き方も変わる
「基調的な物価上昇率」は、一時的な値上がり(野菜や原油など)をならした、物価の地力のようなものだ。日銀の目標は、これを2%で安定させること。
別の記者への答えで、総裁はこの変化をもう一歩、具体的に言っている。これまでは、物価が予想より上に行ってしまっても「2%より下にいるのだから、まあいい」で済んだ。だから景気が悪くなるほうのリスクを重く見て、利上げはゆっくりだった。これからは、上に外れるのも、下に外れるのも、同じように困る。上と下を同じ重さで見て、タイミングを決めていく、と。
では、利上げを見送った7月の会合から、具体的に何が変わったのか。そう聞かれて、総裁は4つ挙げている。中東の情勢で原油がまた上がっていること。AI関連の需要の好調さが、予想以上に続いていること。人々が先々の物価をどう見ているかの指標が、上がったまま保たれていること。春の賃上げが、統計で見ても経済全体に広がってきたこと。どれも、物価を押し上げる側の材料だ。
2. 「これからも、3か月ごとですか?」
当然、次の質問はこれになる。
局面が変わったのなら、これからも3か月とか、従来より早いペースの利上げがあり得ると考えてよいか
「3か月に1回とか、何か特定なものを念頭に置いているかと言われれば、それはない」
「半年に1回」の時刻表は、もうない。でも「3か月に1回」という新しい時刻表に替えたわけでもない。金利を決める会合(年に8回ある)で、毎回そのつど決める
会見の終わり近くでは、こうも言っている。金融環境(お金の借りやすさ)はまだ緩い。つまり、まだアクセルの側にある。だから「次は、基本的には利上げ」。ただし、そのペースや大きさは、これから判断する。
向きは言った。時期は言わなかった。会見全体が、この形で通っている。
3. 「一度に0.5%や、連続の利上げは、あるんですか?」
見出しになったのは、この質問への答えだ。
市場(株や国債を売り買いしている人たち)には、一度に0.5%の利上げや、連続利上げという見方がある。あり得るのか
「物価情勢次第でいろんな可能性があると思いますので、特定のやり方を排除するということを、前もって決めることはできない」
「やる」とは言っていない。「やらないとは約束できない」と言っている
ここだけ切り取ると、「これからどんどん上がる」に聞こえる。でも、会見ではこの前後に、逆向きの言葉が2つあった。
1つは、少し前の、別の記者への答え。あまり急に金利を上げて、銀行の貸し出しや、株や為替(円とドルの交換の値段)が大きく崩れる。そのマイナスを避けることも「ある程度は重要」だと言っている。
もう1つは、別の記者が「では、経済にマイナスを与えてでも大きく上げるという意味か」と確かめたときの答えだ。
大幅な利上げや何回も続けての利上げは、物価が目標を超えてものすごく上がるリスクが高いか、すでに超えてしまっているときのもの。「いい例が、22年、23年のアメリカやヨーロッパです」(物価が急に上がって、短い間に金利を何度も大きく上げた時期のこと)
「そういうことを避けるように(中略)前もって、色々な調整をしていく」。そうすれば「大幅な利上げ等に追い込まれる可能性も、減らすことができる」
大きく上げたり、続けて上げたりするのは、物価が2%を大きく超えそうなとき、もう超えてしまったときの話。そこまで行かないように、前もって、早めに動いておく
「排除せず」の見出しと、1章の「局面が変わった」は、ここでつながる。総裁の理屈は、こうだ。物価が2%を大きく超えてしまえば、大きく上げるしかなくなる。だから「やらない」とは約束しない。そのうえで、そこまで行かないように、前もって動く。
4. 「結局、どこまで上がるんですか?」
利上げの終点を、市場の言葉で「ターミナルレート」と呼ぶ。その目安になるのが「中立金利」。アクセルでもブレーキでもない、ちょうど真ん中の金利のことだ。いまの金利がこれより低ければ「緩い」、高ければ「きつい」になる。
利上げのペースが早まれば、終点も高くなるのか
中立金利は「なかなか特定するのが難しい」。必要に応じて金利を動かしていく中で、「事後的に、ターミナルレートはどれくらいだったのかということも決まってくる」
終点の場所は、先には分からない。着いてから、「あそこが終点だった」と分かる
別の記者が「次に1.5%になっても、まだ緩いと言えるのか」と聞いたときも、答えは「そのときの数字を見て、改めて評価する」だった。会見の終わりのほうで、総裁自身が「中立金利がどこにあるか分からない中で進んでいかないといけないのは、なかなか難しい」と言っている。
5. 「これまでの利上げは、効いているんですか?」
銀行の貸し出しは高い伸びが続いていて、お金はまだ借りやすい。これまでの利上げは効いていないのでは、という質問が出た。総裁は、お金の借りやすさを3つの面に分けて答えている。
② 銀行の貸し出し まだ緩い
③ 資産の市場(株や為替) まだ緩い
全体では緩いが、「その度合いは、政策金利を引き上げることによって少しずつ縮まっている」
🐾 要は 10年、30年といった長い期間の金利は、もう十分に上がった。銀行の貸し出しと、株や為替のほうは、まだお金が回りやすいまま
長い期間の金利は、日銀が決める政策金利とは別に、市場で決まる。①は、10年ものの国債の金利が30年ぶりに3%を超えたことだと、わたしは受け取った。効いているところと、まだのところがある。
6. 「円安は、止めないんですか?」
教科書では、金利を上げた国のお金は買われて、高くなる。ところが利上げを発表したあと、円は1ドル156円台から157円台へ、円安に動いた(1ドルを買うのに要る円が増えた。円の値打ちが下がった、ということだ)。
利上げの直後から円安に振れた。0.5%でなかった理由を、円相場の面からも聞きたい
金融政策は、為替が日本の物価に与える影響は考える。でも「為替をコントロールする、ある範囲に安定化させようとか、そういう政策として行っているものではない」
日銀が見ているのは物価。円安は、物価を押し上げる材料としては見る。でも「1ドル何円にしたい」という目標は持っていない
利上げしたのに円安になった理由は、円と金利の動きをまとめた記事に書いた。総裁の答えに沿えば、利上げは円を動かすための道具ではないので、円がどう動いたかで、利上げの成否は決まらない。
7. 細かいけれど、気になった2つ
連休で、6日あく話。 新しい金利が実際に使われ始めるのは、次の営業日の9月24日だ。5連休をはさむので、決定から6日あく。これだけあくのは記憶にない、問題は起きないのか、と聞かれて、総裁はこう答えた。その間に予想しないことが起きるかもしれないので、長くあくのは「場合によってはリスクがある」。今後の会合の日程を決めるときに、そういう点を考える必要があるかどうか「検討したい」。
反対が2人出た話。 今回の利上げは、賛成7、反対2だった。反対の2人は「いまは上げるべきではない」という側だ。意見が割れることをどう見るか、と聞かれた答えが、これだ。
全くいつも意見が割れないのであれば、議論する必要もないくらいだと思います
割れて、議論して、違いを少しでも縮めて、それでも残ったところで投票する。それが健全な会議のあり方で、反対票が出たから困る、とは考えていない、と。
8. わたしは、どう見ているか
物価を年2%で止める仕事に変わった。お金はまだ借りやすい。だから向きは上
「半年に1回」の時刻表はなくなった。「3か月に1回」でもない。終点の場所も、着いてから分かる
「排除せず」は、大きく上げたいという意味ではなかった
わたしの持ち物に当てはめる。家賃7万円の賃貸で、ローンはひとつもないので、金利が上がって払いが増えるものがない。生活防衛資金の300万円は普通預金に置いてあって、金利は0.4%。今回の利上げで上がるかどうかは、銀行の発表を待つ。オルカン(全世界の株の投資信託)の積立は、同じ日に同じ額で続く。
次の利上げがいつか、という予想には、わたしは乗らない。総裁本人にも決まっていないものを、わたしが当てられるとは思わない。
パンチボウルを下げさせる見張り役
ウィリアム・マクチェスニー・マーティン(FRB議長、1955年10月19日の講演)
アメリカの中央銀行の議長を19年つとめたマーティンが、利上げをした直後の講演で、自分たちの仕事をこうたとえた。パンチボウルは、パーティーで出す大きな器に入ったお酒のこと。若い人たちのパーティーには、羽目を外さないように見ている大人がいる。みんなが楽しくなってきたところで、その人がお酒を片づけさせる。パーティーが景気で、お酒が低い金利だ。
3章の「前もって」は、70年前のこのたとえに重なる。盛り上がりきる前に、お酒を少しずつ片づける。
会見の最後の質問は、「通貨の信用は、何によって保たれるのか」。総裁の答えは、その国の物価が安定しているかどうか、だった。1時間の答えは、最初から最後まで物価の話だ。円相場の話でも、株の話でもない。中央銀行が何を見ている場所なのかが、1時間ぶんを追って、前より少し見えた気がする。
金利が上がっても、わたしのやることは変わりません。オルカンの積立も、日本の高配当株119銘柄も、BNDも、8年以上SBI証券の口座です。積立は、同じ日に同じ額で続きます。
SBI証券の公式サイトを見る →9. まとめ
- 9月18日の会見でいちばん大事な言葉は「政策の局面が変化した」。物価を2%まで上げる仕事から、2%で止める仕事に変わった
- 「次も3か月後?」には、特定のペースは念頭にない、という答え。半年に1回の時刻表はなくなったが、新しい時刻表もない
- 見出しの「排除せず」は、やるという意味ではない。大きく上げずに済むように、前もって動く、という説明だった
- どこまで上がるかは「事後的に決まってくる」。総裁にも先には分からない
- 円安については、為替をコントロールする政策ではない、という答え。見ているのは物価
- わたしは何もしない。ローンがなく、金利が上がって払いが増えるものがない。次の時期は、わたしには当てられない
・決定の内容(1.0%→1.25%、賛成7反対2、適用は9月24日):日本銀行「金融市場調節方針の変更について」(2026年9月18日)
・見出し「連続・大幅利上げの可能性『排除せず』」:日本経済新聞(9月18日)
・利上げ当日の円と金利の動き:9月18日の記事
・わたしの預金金利0.4%・生活防衛資金300万円:9月3日の記事、生活防衛資金の記事。会合が年8回であることは日銀の公表日程
・マーティンの言葉:William McChesney Martin Jr., Address before the New York Group of the Investment Bankers Association of America, 1955年10月19日。原文は「The Federal Reserve, as one writer put it, after the recent increase in the discount rate, is in the position of the chaperone who has ordered the punch bowl removed just when the party was really warming up.」(Quote Investigator)。訳はわたし




