AIに使わないアップルも、AIに使うマイクロソフトも上がった。だからわたしは選ばない
この夏、アップルの株が強い。7月28日に過去最高値をつけ、時価総額(会社の値段。株価×株数)は取引時間中に一時5兆ドルに乗った。理由としてよく言われるのが、他の大手(M7)が競ってAIに大金を使うなか、アップルだけが距離を置いて、手元にお金を残していること。「AIに使わない会社が、使う会社を置いて買われている」。そういう説明を、何度も目にした。本当にそうなのか。そして、こんな声もあるはずだ。
🤔「そもそも、M7って何?」
😤「AIバブルが終わる、ってこと?」
🏠「オルカンを持ってるけど、大丈夫?」
わたしは、アメリカの個別株を1株も持っていない。持っているのは、オルカン(全世界の株に分散する投資信託)と、S&P500(アメリカの大企業500社の投資信託。いまは積立を止めて持っているだけ)。この2本の中に、M7と呼ばれる7社は入っている。だから、アップルも、他の6社も、少しずつ持っている。7社の中で誰が勝っても、誰が負けても、わたしの資産は少し動く。だから今回は、この夏の7社の値動きを、AI投資という視点で比較、検証してみた。
結論から言うと、わたしは7社のどれかを選んで買うことはしない。理由は、この夏の7社の値動きにある。同じ夏に、AIにお金を使わないアップルと、AIに年1,900億ドル(約28兆円)を使うマイクロソフトが、そろって上がった。しかも上がり方は、マイクロソフトのほうが大きい。 「AIに使わない会社」も「AIに使う会社」も、どちらも買われた。どちらも買われたのなら、AIは選ぶ理由にはならない。順番に見ていく。
1. そもそも「M7」とは。アメリカの株の3分の1
2つ目の声から。「M7って何?」
M7は「マグニフィセント・セブン」の略で、アメリカの巨大IT企業7社のこと。アップル、マイクロソフト、エヌビディア、アマゾン、アルファベット(グーグルの親会社)、メタ(フェイスブック)、テスラ。この7社は、大きすぎて、アメリカの株全体の動きを左右する。
S&P500を持つ人は、知らないうちにこの7社に3分の1を預けている。オルカンでも5分の1。昨日の記事で書いたとおり、S&P500の会社が稼ぐ力も、この7社が作っていた。だから、7社がどう動くかは、インデックスを持つ人の資産も動かす。
2. 7社全部を並べた表。起点を変えると、1位が変わる
1つ目の声、「アップルを買えばいいの?」。アップルだけを見ていても分からないので、7社を並べる。起点は3つ。この夏の動きを見るために6月末から、今年に入ってから、そしてS&P500が今年いちばん安かった3月30日から。
アップルは6月末から+14.5%。AIに大きく使う側の代表として、アマゾン(+4.2%)やアルファベット(−3.5%)と並べれば、「アップルの1強」に見える。でもマイクロソフトの行を見てほしい。同じ6月末から、マイクロソフトは+33%。アップルの2倍以上だ。 メタも+19%でアップルより上。そしてマイクロソフトは、アマゾンと並んで、7社の中でAIにいちばん大きなお金を使う会社だ。ただし、マイクロソフトの6月末は、6月25日につけた今年の安値のすぐあと。底から測っているぶん、上がり方は大きく出る。それでも、3月30日から測っても、マイクロソフトが1位だ。
もう1つ、起点を変えると1位が変わることも見える。今年に入ってからならアップルが1位。6月末からならマイクロソフト。
3. マイクロソフトの半年。同じ理由で売られ、同じ理由で買われた
マイクロソフトに何が起きたかを、順にたどる。
決算で、クラウド事業(Azure。企業にネット経由で計算機を貸す商売)の伸びが39%と、市場の期待(39.4%)にわずかに届かず。さらに、3か月で375億ドルという記録的なAI向けの投資が「重すぎる」と売られた。2020年3月以来の下げ幅で、時価総額(会社の値段。株価×株数)が1日で3,570億ドル減った
決算で、1年のAI向け投資の計画を示す。市場の予想より350億ドル多い
昨年10月の最高値から35%下がったところ
決算で、Azureの伸びが43%と、会社が見込んでいた39〜40%を上回る。1,900億ドルの投資計画はそのまま。2008年以来、1日で最大の上げで、時価総額が1日で4,800億ドル(約71兆円)増えた
ここが、この記事のいちばん大事なところだ。1月に売られた理由は「AIに使いすぎ」。7月に買われた理由は「AIに使ったぶん、クラウドが伸びた」。同じAI投資が、1月は売る理由で、7月は買う理由になった。 1,900億ドルの投資計画は、7月もそのままだ。AIのために建てたデータセンターは、そのまま企業に貸す計算機になる。お金の使い方は変わっていない。変わったのは、その投資が稼ぎにつながると市場が信じたかどうか、だけだ。
アップルはどうか。その前に、設備投資とは、データセンターやAI用の半導体など、AIを動かす「箱」に使うお金のことだ。
アップルは、稼いだお金のうち設備に使うのは1割にも届かず、1,400億ドルが手元に残る。その大半を、自分の株を買い戻すこと(株の数が減って、1株あたりの取り分が増える)と配当に使っている。4社は、稼いだお金の大半、あるいはそれ以上をAIの設備に使っている。アメリカの大手銀行シティグループが7月に「アップルが買われた理由」に挙げたのも、ここだ。今年、アメリカの金利は上がった(10年国債の利回りは、3月に4.4%台まで上がった)。金利が上がると、借金の利息が重くなる。そして、何年も先のもうけのために今使うお金は、高くつく。使わずに預けておけば、利息が付いたはずだからだ。今お金を残す会社は、その重さを背負わない。だから金利が上がるときは、残す会社のほうが買われやすい。
ここまでは、わたしもそう思う。でも、その同じ夏に、年1,900億ドルを使うマイクロソフトが、7社でいちばん上がった。
もう1つ、気になったことがある。「AIに使うお金」には、2種類ある。上の表の「箱」に使うお金(設備投資)と、AIの頭脳そのものを作る「開発」に使うお金(研究開発費)だ。後者で並べ直すと、順番が変わる。
「箱」ではマイクロソフトとアマゾンが最大で、アップルは最小。でも「開発」では、アルファベットが1位で、マイクロソフトはアップルより少ない。「AIに使う会社」と「使わない会社」の線は、どこで引くかで並びが変わる。 箱で引けば、アップルは使わない側。開発で引けば、アップルはマイクロソフトより使う側。同じ会社が、線の引き方で両側に立つ。ニュースで「AI投資」と言うとき、指しているのはたいてい箱のほうだけれど、箱の線1本だけで分けたとしても、線の向こう(使う側)とこちら(使わない側)の両方が上がったのが、この夏だ。だから「AIに使うか、使わないか」は、会社を選ぶ物差しにならない。
4. 「AIバブルが終わる、ってこと?」
3つ目の声。わたしには分からない。分かっていることだけ、並べておく。
- 3月30日に、アップル・エヌビディア・アルファベットの3社とS&P500が今年の安値をつけた。中東の情勢でインフレの心配が強まり、金利が上がった時期だ。金利が急に上がると、株は全体としていったん売られやすい。3章の「残す会社が買われやすい」は、そこから戻るときの順番の話だ。3月30日からS&P500は+19.8%。7社のうち6社はそれを上回り、いちばん低いアマゾンでも+23.6%。テスラだけが+0.4%とほぼ動いていない
- ナスダック100は、6月末からは−4.3%。でも今年に入ってからは+14.7%
- アップルの過去最高値は7月28日で、9月15日はそこから3%下。マイクロソフトは昨年10月の最高値にまだ8%届かない
上がった話と、下がった話が、同時にある。この夏のM7の動きが何だったのか。「バブルが終わった」と「AIの勝ち組が入れ替わった」と「金利で一時的に売られた」の、どれが正しいかは、あとで分かる。1月の−10%のあとに、7月の+15.5%が来た。3月30日の安値のあとに、2割の上げが来た。稲妻の記事(荒れた日に降りると、いちばんいい日を逃す、という話)で書いたことと同じだ。
5. わたしは、どう見ているか
4つ目の声、「オルカンを持ってるけど、大丈夫?」に答えながら、わたしの見方を書く。7社を選ばない理由は3つ。
起点を半年ずらすだけで答えが変わるものを、わたしは当てられない。7社まるごと持っていれば、どちらが勝っても持っている
「アップルはAIに使わないから上がった」「マイクロソフトはAIに使ったから上がった」。どちらも、上がったあとで付いた説明だ。同じマイクロソフトに、1月は「AIに使いすぎだから下がった」という説明が付いていた。あとからなら、なんとでも言える
会社の値段(時価総額)の割合で持つので、上がった会社は自動で比率が増え、下がった会社は減る。マイクロソフトが上がれば、わたしのオルカンの中のマイクロソフトも増えている
大丈夫かどうかは、わたしには分からない。7社はS&P500の34%、オルカンの約20%を占めるので、影響は小さくない。
ただ、7社が上がっても下がっても、指数の中の比率は自動で入れ替わる。指数ごと持っていれば、7社のうち誰が勝つかを当てる必要はない。
ナシーム・ニコラス・タレブ『ブラック・スワン』(2007年)第6章
元トレーダーで、確率の本を書いている人の言葉だ。人は、起きたことを並べられると、そこに筋書きを作らずにいられない。その癖を、タレブは「講釈の誤り」(筋書きを作りたがる誤り)と呼んだ。「AIに使わないアップルが買われた」も、「AIに使ったマイクロソフトが買われた」も、上がった株価という事実の並びに、あとから織り込まれた筋書きだ。どちらも読めばうなずける。うなずける筋書きは、次に何が上がるかを教えてくれない。
だから、わたしがやることは変わらない。7社のどれも選ばず、インデックスで持つ。それだけだ。
7社のどれも選ばず、オルカンで全部持っています。オルカンの積立も、日本の高配当株119銘柄も、8年以上SBI証券の口座です。積立は、同じ日に同じ額で続きます。
SBI証券の公式サイトを見る →6. まとめ
- M7はアメリカの巨大IT7社。S&P500の34%、オルカンの約20%を占める
- 「AIに使わないアップルが買われている」は本当で、6月末から+15%。でも7社全部を並べると、AIに年1,900億ドルを使うマイクロソフトが+33%で1位。メタも+19%
- マイクロソフトは1月に「AIに使いすぎ」で1日−10%、7月に「使ったぶん稼いだ」で1日+15.5%。同じAI投資が、売る理由にも買う理由にもなった
- アップルは設備投資130億ドル未満で手元に1,400億ドル。AIに大きく投資するアマゾンやアルファベットは、手元に残るお金が大きく減った
- 1位は起点で変わる。今年に入ってからはアップル、6月末からはマイクロソフト。理由は上がったあとから付く
- わたしは7社のどれも選ばない。オルカンの積立は同じ日に同じ額。勝った会社は、オルカンの中で自動で増える
・組入比率:SPYの組入上位(2026年9月14日)、eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)月報(2026年8月末)、テスラの比率はiShares MSCI ACWI ETFの組入(2026年9月14日)
・マイクロソフト:CNBC「Microsoft lost $357 billion in market cap as stock plunged most since 2020」(2026年1月29日)(Azure 39%、四半期の設備投資375億ドル)、CNBC(2026年4月29日、2026年の設備投資1,900億ドル)、Fortune「Microsoft's stock has biggest one-day gain since 2008」(2026年7月30日、Azure 43%、1,900億ドルの計画を維持)
・設備投資と手元のお金:Yahoo Finance「Magnificent 7 earnings rush reveals AI spending surge」(2026年4月30日)、財経新聞「競合の巨額AI投資を尻目に、投資抑えたApple株が過去最高値を更新」(Tech Times、2026年7月15日)。アップルの設備投資130億ドル未満・フリーキャッシュフロー約1,400億ドル、「AI投資を抑えたアップルが評価されている」という見方はここから。時価総額が7月28日の取引時間中に一時5兆ドルに乗せたことはCNBC・Bloomberg(2026年7月28日)
・研究開発費と頭脳:アルファベット 10-K(2025年、R&D 610.87億ドル)、メタ 10-K(2025年、573.72億ドル)、アップル(2025年9月期、345.5億ドル)、マイクロソフト(2025年6月期、324.88億ドル)、アマゾンの技術・インフラ費1,085億ドルは各社の年次報告書とMacroTrends。CNBC「Microsoft unveils new AI models to lessen reliance on OpenAI」(2026年6月2日)、MacRumors「Google Confirms Gemini-Powered Siri Coming Later This Year」(2026年4月22日)、CNBC「Amazon to invest up to another $25 billion in Anthropic」(2026年4月20日)
・タレブの言葉:Nassim Nicholas Taleb, The Black Swan(2007年)第6章 "The Narrative Fallacy"。訳はわたし




