S&P500の中身を測ったら+15.4ポイント。でも稼いでいたのは7社で、残りの440社は高配当ETFと同じだった
- 1. HDVは、資本コストを超える会社を先に選ぶETFだった。中身を測ったら+8.3ポイント。でも5番目のファイザーは割れていた
- 2. SCHDの中身を測ったら+9.3ポイント、HDVより上だった。でも6割は同じ会社で、差をつけたのは「持っていない業種」だった
- 3. HDVもSCHDも、VYMの中にいた。604社の中身を測ったら、3本の違いは「どれだけ絞るか」だけだった
- ▶ 4. S&P500の中身を測ったら+15.4ポイント。でも稼いでいたのは7社で、残りの440社は高配当ETFと同じだった
ETFの中身を測るシリーズの4本目、最終回。1本目はHDV、2本目はSCHD、3本目はVYM。3本とも米国の高配当ETFで、わたしは1本も持っていない。今回のS&P500は違う。2018年に投資を始めたときに選んだ、わたしのいちばん大きな持ち物だ。積立は2024年にオルカン(全世界の株の投資信託)へ切り替えたので、いまは持っているだけ。それでも8月末のインデックス投信3,934万円の大半は、これだ。
S&P500そのものは会社のリスト(指数)なので、測ったのは、それに連動するETFのIVV(iシェアーズ・コアS&P500)の中身。504社を持ち、純資産は8,226億ドル(9月14日時点)、経費率は0.03%。前の3本と同じく、1社ずつROIC(投じたお金で年に何%稼ぐか)を出し、WACC(株主と債権者が求める見返り、資本コスト)を引く。
結論から言うと、プラス15.4ポイント。HDVの+8.3、SCHDの+9.3、VYMの+6.5をはるかに超えていた。高配当の縛りを外すと、稼ぐ力はここまで上がる。
でも、それで終わる話ではなかった。上位の7社(株が2種類ある会社があるので、銘柄では8つ)を外して残りの440社だけで測ると、プラス6.3ポイント。高配当3本と同じ水準に落ちる。資本コストを割っている会社も23.0%あって、VYMの22.6%と同じだった。S&P500の稼ぐ力は、7社が作っていた。順番に見ていく。
1. 測り方は同じ。測れないのは銀行と保険の8.9%
測り方はシリーズで統一している。詳しくはHDVの記事の1章に書いたので、今回の値だけ。
測れた割合は91%で、VYMの79%より広い。S&P500は金融が12.2%あるが、そのほとんどが銀行と保険で、この物差しの外にある。この記事の数字は、S&P500の9割について言えることだと思って読んでほしい。
2. S&P500の選び方にも、「稼ぐ力」の条件はない
高配当3本の選び方は、それぞれ違った。HDVは「堀」(資本コストを超え続ける見込み)で絞り、SCHDは財務の4つの指標で点数をつけ、VYMは配当利回り順に上位半分をそのまま持つ。ではS&P500は、500社をどう選んでいるのか。
黒字の条件はある。でも「黒字かどうか」と「資本コストを超えて稼いでいるか」は別の話で、ROICの条件はない。配当の条件もない。つまりS&P500は、大きくて、黒字で、よく取引される会社を、大きい順にそのまま持つ入れ物だ。
ちょうど、9月21日に3社が入れ替わる。入る3社と出る3社を、同じ物差しで測っておく。
出ていく3社は、株価が下がって時価総額が小さくなった会社だ(トレードデスクは1年で株価が8割減った)。小さくなれば出ていき、大きくなれば入ってくる。S&P500が見ているのは大きさで、稼ぐ力ではない。この表が、その実例だ。
3. 測ったら+15.4ポイント。3本をはるかに超えた
448社を1社ずつ測って、組み入れ比率で加重した。比率で並べたときの真ん中の会社の値(中央値)も添える。4本を並べる。
加重平均はROIC 25.0%。WACCの9.6%を引くと、差は15.4ポイント。資本コストの線が4本でいちばん高いのに、差がいちばん大きい。高配当3本が+6〜9で並んでいたところに、1本だけ飛び抜けた数字が来た。
ただ、加重平均25.0%と中央値17.3%の開きが大きい。3本ではいちばん開いたHDVでも4ポイントだったのが、ここでは8ポイント近い。加重平均は、大きく持っている会社の値に引っ張られる。開きが大きいということは、大きく持っている会社ほど、飛び抜けて稼いでいるということだ。5章で、そこを分けてみる。
上位10社を並べておく。
上位10社で37.3%。HDVの52.1%ほど濃くはないが、VYMの26.1%よりずっと濃い。そしてエヌビディアが68.7%、アップルが59.6%。3本では見なかった数字だ。高配当ETFの上位に並んでいたのは、エクソンモービル10.0%、ブロードコム13.1%、ジョンソン・エンド・ジョンソン17.4%。同じ「上位10社」でも、稼ぐ力の桁が違う。
4. 割れているのは23.0%。VYMと同じ
3年平均のROICがWACCの9.6%に届かないのは195社。組み入れ比率で20.9%、測れた分に対して23.0%。VYMの22.6%とほぼ同じで、HDVの14.7%、SCHDの7.6%より多い。
社数で数えると、もっと多い。448社のうち195社、44%が線の下だ。比率だと23%で済むのは、割れている会社が小さいから。ここにも「大きい会社ほど稼いでいる」が出ている。
顔ぶれが、高配当3本とは違う。3本の割れは公益とエネルギーが主役だった。S&P500の割れの主役はITで、マイクロン、AMD、インテルの半導体3社だけで3.5%ある。マイクロンは、JTで学んだ「単年で判断しない」が逆向きに効いている会社で、単年で見れば線の上にいる。
テスラも線の下にいる。時価総額は上位10社のすぐ下なのに、ROICは7.0%。稼ぐ力より先に値段が大きくなった会社も、この入れ物には入る。
5. 7社を外したら、高配当ETFと同じだった
3章の「加重平均と中央値の開き」を、ここで分ける。S&P500の顔として名前が挙がる7社、エヌビディア・アップル・マイクロソフト・アマゾン・アルファベット・メタ・テスラ(「マグニフィセント・セブン」と呼ばれる。アルファベットは株が2種類あるので銘柄では8つ)を外して、残りの440社だけで測った。
7社だけで、S&P500の3分の1。その7社のROICは41.0%。残りの440社は15.9%。資本コストを引くと+6.3ポイント。VYMの+6.5ポイントと同じだ。割れは33.5%で、VYMより多い。
つまり、S&P500の+15.4ポイントは、7社が押し上げた数字だった。7社を除いた「ふつうの大企業440社」の稼ぐ力は、高配当ETFの中身と変わらない。
高配当3本に入っている会社と、入っていない会社でも分けてみた。
高配当3本のどれかに入っている会社は、S&P500の28.7%。そのROICは14.6%で、VYM全体の14.6%とぴったり同じ。割れは28.5%。どれにも入っていない側は29.8%で、倍以上ある。エヌビディアもアマゾンもメタも、配当が少ないか無配なので、高配当ETFには入れない。3本が持てないのは、稼ぐ力がいちばん高い側だった。
セクターで見ると、ITが比率37.1%で、そのROICが36.5%。VYMではITは比率15.6%、ROIC 16.6%だった。S&P500の中身の4割近くが、稼ぐ力の桁が違う業種で埋まっている。VYMで稼ぐ力が高かった一般消費財と生活必需品は、S&P500では合わせて14%しかなく、その2つよりITのほうがはるかに高い。高配当3本で見えていた「稼ぐ業種」の地図が、S&P500では書き換わる。
6. 4本を測り終えて、どう見えたか
同じ物差しで4本を測り終えた。並べる。
4本を測って、わたしのなかで残ったことを3つ。
S&P500の+15.4ポイントは、良い会社を選んでいるからではなく、7社が稼いで、その7社を大きく持つ形になっているからだ。
わたしはS&P500を売らない。積立を2024年にオルカンへ切り替えた理由は、稼ぐ力とは別の話だ。オルカンの6割はアメリカの株なので、S&P500の7社はオルカンの中でも大きい。そして高配当は日本株で119銘柄を自分で組んでいる。
専門家が念入りに選んだものと同じくらいの成績になる
バートン・マルキール『ウォール街のランダム・ウォーカー』(原著1973年)
プリンストン大学の経済学者マルキールが、50年以上前に書いた一節だ。専門家が選んでも、猿が選んでも、長い目で見れば市場の平均と変わらない。だから平均そのものを持てばいい。この本の3年後の1976年に、ボーグル(バンガードの創業者)が最初のインデックスファンドを作った。
4本を測ったあとで読み返すと、S&P500の重さを決めているのは、専門家でも猿でもなく、値段だ。稼いだ会社が勝手に大きくなっていく仕組みを、そのまま持つ。7社が稼げば7社が重くなり、次の7社が稼げば、重さが移る。「平均そのものを持てばいい」の平均とは、この形のことだと思う。
今回測ったのは、中身の会社に稼ぐ力があるかどうか、それだけだ。いまの値段で買って得かどうかは、この物差しでは分からない。それはS&P500だけでなく、HDVもSCHDもVYMも同じで、このシリーズでは一度も測っていない。
2018年からのS&P500の投信も、2024年からのオルカンの積立も、日本の高配当株119銘柄も、SBI証券の口座です。この記事の構成銘柄と比率はiSharesが公表しているもので、特別な情報は使っていません。8年使っているメイン口座です。
SBI証券の公式サイトを見る →まとめ
- S&P500(測れた448社・91%)は+15.4ポイント(25.0%−9.6%)。HDV+8.3、SCHD+9.3、VYM+6.5をはるかに超えた
- 選び方は大きさと黒字で、稼ぐ力の条件も配当の条件もない。9月21日に入る3社は3社とも資本コストの線の下
- 割れは23.0%でVYMと同じ。社数では44%。主役は公益ではなくIT(マイクロン・AMD・インテル)
- 7社(エヌビディアなど)が33%を占めてROIC41.0%。残り440社は+6.3ポイントで、VYMと同じ
- 高配当3本が持てないのは、配当を払わずに稼ぐ側。それが3本とS&P500の差の正体
- S&P500は選んでいるのではなく、稼いだ結果を映している。わたしは持ったまま何もしない。値段は見ていない
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- HDVもSCHDも、VYMの中にいた。604社の中身を測ったら、3本の違いは「どれだけ絞るか」だけだった
- SCHDの中身を測ったら+9.3ポイント、HDVより上だった。でも6割は同じ会社で、差をつけたのは「持っていない業種」だった
- HDVは、資本コストを超える会社を先に選ぶETFだった。中身を測ったら+8.3ポイント。でも5番目のファイザーは割れていた
- わたしのS&P500の中身が、9月21日に変わる。1年前に入った会社が、株価8割減で出ていく
- オルカン vs S&P500。両方持っているわたしの結論「初心者ならオルカン」
- JTは価値を生んでいるか。測ったらROIC10.1%。でも1年前に測っていたら、逆の記事を書くところだった
・各社のROIC:Yahoo Financeの財務データ(営業利益・税引前利益・法人税・投下資本・有利子負債の年次、直近3期)からわたしが計算。前の3本と同じ式。前の3本で取っていなかった141社ぶんは2026年9月15日に取得
・WACC:β1.00(S&P500は市場そのもの)、米10年債4.738%(2026年8月21日)、市場の上乗せ5.5%、負債コスト税引前5%、負債の重み10.3%で9.59%。前の3本と同じ前提
・S&P500の採用基準(上場12か月・直近四半期と4四半期合計の黒字・時価総額加重):スペースXの記事でまとめたS&Pダウ・ジョーンズ・インデックスの現行ルール。9月21日の入れ替え6社は9月6日の記事
・日米の平均ROIC・WACC:経済産業省「成長投資ガイダンス データ集」(2020〜2024年平均)。HDV・SCHD・VYMの数字はそれぞれの記事から
・7社(マグニフィセント・セブン):エヌビディア、アップル、マイクロソフト、アマゾン、アルファベット(A株・C株)、メタ、テスラの8銘柄。高配当3本との重なりは各社の公表データ(VYMは7月31日、HDV・SCHDは8月20日時点)で突き合わせた
・わたしの持ち物:8月の月次レポート(インデックス投信3,934万円)、オルカンとS&P500の記事(2018年から積立、2024年にオルカンへ)
・マルキールの言葉:Burton G. Malkiel, "A Random Walk Down Wall Street" (W. W. Norton, 1973)。邦訳『ウォール街のランダム・ウォーカー』(日本経済新聞出版)。訳はわたし。最初のインデックスファンド(バンガード、1976年)についてはWealthTrackのマルキールのインタビューほか




