スペースX、S&P500は門前払い・でもQQQには入れる?——指数会社で割れた判断を調べてみた
前に スペースX上場。オルカン・QQQ・S&P500にはいつ入る? という記事を書いた。指数の組み入れルールを調べたら意外と面白かった、という話。
その続編。2026年6月、S&P500がスペースXの「早期組み入れ」を事実上見送る決定をした。しかも面白いのは、NASDAQ100やラッセル指数は逆にルールを緩めていて、指数会社で判断が真っ二つに割れた こと。
「同じ会社なのに、入れる指数と入れない指数がある」——これがなぜ起きたのか、ファクトベースで調べてみた。
1. 何が起きたのか(時系列で整理)
まず事実関係を時系列で。
わたしは前回の記事を書いたあとに知ったのだけれど、裏ではこういうルール変更の議論が進んでいて、最終的に 「検討した結果、ルールは変えないと決まった」 というのが結論らしい(2026年6月4日)。その結論にいたった経緯がおもしろそうだと思ったので、今回あらためて調べてみた次第だ。
2. S&Pが「変えなかった」採用ルールとは
そもそもS&Pって何?
その前に、ここで言う「S&P」をかんたんに整理しておく。
つまり、わたしたちがS&P500に投資する=S&Pが選んだ500社にまるごと投資している ということ。だから「S&Pがどんな基準で銘柄を選ぶか」は、間接的にわたしたちのお金の行き先を決めている。
見送られた変更案 vs 維持された現行ルール
そのS&Pが今回見送った変更案と、結果的に維持された現行ルールを並べるとこうなる。
S&P500に入るための 現行の収益性要件 は、けっこう厳しい。
- 直近四半期がGAAP基準で黒字であること
- かつ 直近4四半期の合計も黒字であること
- さらに 上場から12ヶ月以上経っていること
この3つをクリアして初めて、採用の「候補」になる。規模が大きいだけでは入れない、というのがS&P500の伝統的な厳しさだ。
※ GAAP = 米国の会計基準(一般に公正妥当と認められた会計原則)。一時的な要因を除いた、ルールに沿った正式な利益のこと。
3. なぜスペースXは弾かれたのか——数字を見る
では、スペースXはなぜこの要件を満たせないのか。財務数字を見ると一目瞭然だった。
売上は 約2.8兆円・前年比+33% と絶好調。なのに 約7,400億円の赤字。成長への先行投資が大きく、利益はまだ出ていない。
S&P500の「直近4四半期が黒字」という関門に、いまのスペースXはまったく届かない。だから 規模がどれだけ大きくても、ルール上は採用できない ——これがS&Pの判断だ。
4. ところがNASDAQとラッセルは「入れる」——割れた判断
ここが今回いちばん面白いところ。同じスペースXでも、指数会社によって判断が正反対 だった。
つまり、S&P500は「赤字なら入れない」という伝統を守り、NASDAQ100やラッセルは「規模が大きければ早く入れる」と門戸を広げた。
この差は、指数の「性格」の違いを表している。
- S&P500: 「選ばれし優良企業の集まり」という看板。収益性のハードルを下げると、その看板の価値が薄れる。だから守った
- NASDAQ100(QQQ): そもそも 成長・テック寄りの指数。赤字でも急成長する会社を取り込むことに抵抗が少ない
わたしがQQQを買わない理由 で書いた「QQQはテック濃度が高い」という話とも、ここでつながってくる。QQQはこういう"未来に賭ける"銘柄を早めに取り込む指数 なんだな、と改めて納得した。
5. 「ルールを曲げるべきじゃない」——バーリの批判
今回のルール変更案には、有名な投資家からの批判もあった。映画『マネー・ショート 華麗なる大逆転』のモデルになった マイケル・バーリ だ。
彼が問題視したのはシンプルな構図。指数に組み入れられると、世界中のインデックスファンドが「自動的に」その株を買わなければならない。つまり、ルールを曲げて赤字の巨大企業を早期に入れると、何も知らないインデックス投資家のお金が、強制的にその1社に流れ込む ことになる。
ルールを緩めて得をするのは、早く指数入りしたい企業(と既存株主)。 損をするかもしれないのは、それを自動で買わされるインデックス投資家。
この指摘は、わたしたちオルカン・S&P500投資家にとって他人事じゃない。「指数のルールは、わたしたちのお金の行き先を決めている」 という事実を、改めて突きつけられる話だ。
S&Pが最終的にルール変更を否決したのも、こういう批判や「指数の中立性・信頼性を守るべき」という声を踏まえた結果だと見られている。
6. 指数のルールは、時代に合わせて実際に変わっている
ここで気になったのが、「そもそも指数のルール改定って、よくあることなの?」という疑問。調べてみると、指数のルールは時代に合わせて定期的に見直されている ことがわかった。今回のS&Pは「変えない」判断をしたけれど、過去には大きな改定もある。
2017年議決権のない株式しか公開していない企業を新規採用の対象外に。スナップ(Snapchatの会社)が「議決権ゼロの株」だけを上場したのが引き金。インデックス投資家が議決権のない株を強制的に買わされるのを防ぐための改定
2021年「株価換算係数」を導入。それまでは値がさ株(株価が高い株)の影響が過大になりやすかったのを、調整係数で補正するように変更
2022〜24年1銘柄の比率上限(キャップ)を段階的に導入(12%→11%→10%)。2024年にファーストリテイリングが初めてこの上限に引っかかり、係数が調整された
2026年大型IPOの「ファスト・エントリー」新設。スペースXのような超大型新規上場を早く取り込めるようルールを変更(今回S&Pが見送ったのと逆方向の判断)
こうして見ると、指数は「一度決めたら固定」ではなく、市場の変化に合わせて中身もルールも更新されていく生き物 だとわかる。1社の比率が大きくなりすぎたら上限をかけ、新しいタイプの巨大企業が出てきたら取り込み方を考える——その積み重ねが、指数の信頼性を保っている。
わたし個人の感覚としては、時代が動いている以上、基準も時代に合わせて変わっていくのは自然 だと思う。ただし今回のように、変えることでどのような影響があるのかをしっかり吟味したうえで、慎重に判断する という姿勢が大事だし、それが指数そのものの信頼につながるんだと思う。S&Pが安易に基準を緩めなかったのは、長い目で見れば指数の信頼を守る判断だったのかもしれない。
7. じゃあスペースXはいつS&P500に入るのか
結論。最短でも2027年6月以降、というのが現時点の見立てだ。
①の「上場12ヶ月」は時間が経てばクリアできる。問題は ②の黒字化。2025年に約49億ドルの赤字を出している会社が、いつ4四半期連続で黒字になるかは 誰にもわからない。だから「2027年半ば以降」も、あくまで 「最短ならば」 の話。実際にはもっと先になる可能性も十分ある。
一方で、前回の記事 で書いた通り、オルカン(MSCI ACWI)は6月下旬、QQQ(NASDAQ100)は7月上旬 にはスペースXが組み入れられる見込み。S&P500だけが何年も遅れる、という構図になっている。オルカンやQQQを持っている人は、この夏にはもうスペースXを(ほんの少しだけど)持つことになるかもしれない。
8. この件から学べること
調べてみて、わたしが「なるほど」と思ったポイントを3つ。
わたし自身は、この件で投資行動を変えるつもりはまったくない。オルカンとS&P500を淡々と積み立てるだけ。スペースXが入ろうが入るまいが、指数を丸ごと持っていれば自動で反映される から、慌てる必要はない。
でも、「自分が持っている指数が、どういうルールで中身を決めているか」を知っておく のは、ただの雑学以上の意味がある。お任せ投資ほど、お任せ先の仕組みを少し知っておくと、いざというときに 航路を守る手助けをしてくれるような気がする。今回もいい勉強になった。
まとめ
- 2026年6月4日、S&P500がスペースXの早期組み入れ用のルール変更を否決(上場期間12ヶ月→6ヶ月・収益性要件免除の案を見送り)
- S&P500の現行ルール: 直近4四半期GAAP黒字 + 上場12ヶ月以上
- スペースXは2025年に 売上約187億ドル(+33%)・純損失約49億ドル → 収益性要件を満たさない
- 一方で NASDAQ100(QQQ)・ラッセルは早期参入に対応 → 指数会社で判断が割れた。オルカンは6月下旬、QQQは7月上旬に組み入れの見込み
- マイケル・バーリは「赤字企業の早期組み入れはインデックス投資家にツケが回る」と批判
- 指数のルールは過去にも時代に合わせて改定されてきた(S&P500の議決権なし株除外・日経平均のキャップ導入など)。変えるかどうかを慎重に吟味する姿勢が、指数の信頼につながる
- スペースXのS&P500入りは 最短でも2027年6月以降(黒字化が前提なのでもっと先の可能性も)
- 教訓: 「大きい≠儲かってる」「指数ごとにルールが違う」「指数のルールがお金の行き先を決めている」
「お任せ投資」でも、お任せ先の仕組みを少し知っておくと、いざというときに航路を守る手助けになる。今回もいい勉強になった。
「指数のルールを調べてみた」シリーズ、第2弾でした。前回の スペースX上場・指数組み入れの基本 とあわせてどうぞ。
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