生命保険の解約が過去最高ペースというニュース。利回りの高い投信へ? でもないらしい。理由を調べてみた
「生命保険の解約が過去最高ペース」というニュースが流れてきた。しかもお金は高い利回りを求めて投資信託へ、という見出しがついている。
正直、最初に思ったのは「そりゃそうなるよね」だった。わたしは民間の保険にほとんど入っていないし、投資はインデックス中心だから、記事の方向に賛成したくなる立場でもある。
でも、そこで納得して終わるとよくない。調べてみたら、この動きを起こしている主役は投信ではなかった。
そして、「利回りが高いほうへ」で動くと、けっこう痛い目にあうことも分かった。
順番に整理してみる。
1. 何が起きているのか
「過去最高」という言葉には、ひとつ注釈がいる。史上最高ではなく、データをたどれる2020年以降で最高ということだ。とはいえ、前年から4割近く増えているのは、はっきりした変化だと思う。
2. 主役は投信ではなく、金利だった
貯蓄性のある保険には、予定利率というものがある。保険会社が「保険料をこのくらいで運用できます」と見込んで、その分だけ保険料をあらかじめ割り引いている率のことだ。だから予定利率が高いほど、同じ保障を安い保険料で買えるし、戻ってくるお金も増える。
ここで、大事な注意をひとつ。
→ 101万円
年1%がかかるのは、③残った積み立て分だけ
→ だから101万円にはならない
そして予定利率は、契約したときの水準で固定される。これが大事なところだ。
金利が上がると、保険会社は国債などで前より稼げるようになる。だから各社が予定利率を引き上げはじめた。
日本生命の「40年ぶり」という数字に、わたしはいちばん驚いた。バブルの前から一度も上げていなかったということだ。
そしてここから、今回の解約ラッシュの理由が見えてくる。
仕組みは預金とまるで違うけれど、起きていることは似ている。
金利がほぼゼロだったころに、10年ものの定期預金を組んだ人がいるとする。いま窓口に、同じ10年もので、ずっと条件のいいものが並んでいたら、どう思うだろう。
保険にも、同じ気持ちが起きている。
古い契約は、低い予定利率のまま固定されている。そこへ、条件のいい新しい商品が出てきた。だから見直しが起きている。
つまりこういうことだ。
- 投信が保険からお金を奪った、のではない
- 金利が上がって、古い契約が相対的に見劣りするようになった。それが動きの出発点
ニュースにあった「各社は利回り引き上げなどで顧客引き留めを急ぐ」という一文も、これで読み解ける。自分たちが利率を上げたことが、古い契約からの流出を招いている。少し皮肉な構図だ。
ついでに、もうひとつ正確に書いておきたい
契約時に決まった予定利率は、契約中ずっと固定される。ただし絶対ではない。
1997年4月の日産生命を皮切りに、2001年3月までのわずか4年間で中堅の生保7社が破綻した。要するに、約束されていた金額も利率も減らされた。負担したのは、契約していた人たちだ。
いまの各社の財務は当時よりずっと健全だし、契約者保護機構という受け皿もある。それでも、「何があっても変わらない約束」ではない。保険だから絶対に安全、という決めつけもしないでおきたい。
3. たしかに、投信にもお金は向かっている
とはいえ、投信の話が嘘というわけでもない。同じ時期の数字を並べてみる。
| 金額 | 前年比 | |
|---|---|---|
| 保険から出たお金 (解約返戻金・1〜5月) |
6兆190億円 | +39% |
| 投信に入ったお金 (資金流入・1〜6月) |
12兆円超 | 約1.6倍 |
ただ、この2つを並べて「保険を解約したお金が投信に流れた」と読むのは、行きすぎだと思う。
きっかけになった報道も、「一部の契約者は」と書いている。解約したお金の行き先は人それぞれで、条件のいい新しい保険に入り直した人もいれば、住宅や教育に使った人もいるはずだ。
保険からお金が出ているのも、投信にお金が入っているのも、どちらも本当のこと。でも、片方がもう片方の原因だとは決めつけられない。
4. 利回りだけで動くと、痛い
ここからが、この記事でいちばん書きたかったところ。
「いまの契約は利率が低いから、解約して投信に回そう」。この判断には、見落とされがちな落とし穴が2つある。
落とし穴①:戻ってくる金額が、払った金額より少ないことがある
貯蓄型の保険、とくに低解約返戻金型と呼ばれるタイプは要注意だ。
これは「保険料を安くするかわりに、払込期間中にやめたら戻りを少なくします」という約束の商品で、払込期間中の返戻率を通常の70%程度に抑えているものが多い。
→ 60歳になるまでに解約すると、返戻率は最大でも70%程度
→ 払込満了まで持てば、その後は返戻率が100%を超えていく設計
つまり、あと少しで払込満了という人が、いま解約するのがいちばんもったいない。
なぜこうなるかというと、保険料は最初の数年で、保障の代金と、契約を取るための経費にかなりの部分が使われるからだ。先に払っているものを、途中でやめると取り戻せない。
定期券に少し似ている。6か月定期を2か月で払い戻すと、使った分は通常運賃で計算し直されて、思ったほど戻ってこない。
落とし穴②:やめた保障は、買い直せないことがある
これは、お金より深刻かもしれない。
解約した契約を、元に戻すことはできない。そして、あとで「やっぱり必要だった」と思っても、そのときの健康状態によっては、同じ条件で入り直せない。
保険は、健康なときがいちばん安く、広く買える。持病があると、入れる商品が限られたり、保険料が高くなったりする。若くて健康なうちに入った契約は、それ自体が価値を持っている。
ちなみに、税金は心配しすぎなくていい
「解約すると税金がかかる」という話も聞くけれど、ここは正直に書いておきたい。多くの場合、心配はいらない。
解約返戻金が払込総額を上回ったとき、その差益は一時所得になる。ただし計算はこうだ。
(差益 − 特別控除50万円) × 1/2
つまり、もうけが50万円以下なら、そもそも税金はかからない。一時払いの大きな契約や、長く持った貯蓄型では効いてくるけれど、落とし穴①②のほうが、はるかに大きな問題だと思う。
5. 解約以外の道もある。ただし、わたしの答えは違う
保険を見直すとき、選択肢は「続ける」か「解約する」の二択ではない。まず、こういう道があることは知っておきたい。
解約は、いちばん強くて、いちばん戻れない手だ。その手前に、こんなに選択肢がある。
ここまでが事実。ここからは、わたしの意見を書く。
わたしは、これらをあまりいい選択だと思っていない
理由はシンプルで、これらはもともと「保険料が払えなくなったとき」の救済策だからだ。「もっといい置き場所が見つかったとき」の答えとして作られたものではない。
たとえば予定利率が0.25%の契約を払済保険にすると、どうなるか。その低い利率のまま、お金が眠り続ける。保障は下がり、特約は消えて、お金は動かない。
それなら、保障が必要なら掛け捨てで安く買って、お金はNISAに置く。保障と貯蓄を分けたほうが、中身がはっきり見える。わたしはそう考えている。
ただしこれは、健康で、掛け捨てに入り直せる人の話だ。
もうひとつ。払済は、「解約したくない」という気持ちの逃げ道にもなりやすい。すでに払ったお金は戻らないのに、そこに引きずられて、これから払うお金の判断を間違えてしまう。
でも、例外がある
ここは正直に書かないとフェアではない。古い契約は、まったく話が違う。
契約時の予定利率はあとから変更されないので、その高い利率がずっと続いている
そして大事なのが、払済保険にしても予定利率は維持されること。払済は解約ではないから
→ いまの市場で、この条件は二度と買えない
さっき書いたとおり、予定利率がそのまま自分の利回りになるわけではない。それでも、予定利率5%台という条件は、いまの市場ではもう作れない。ここだけは、払済にしてでも持ち続けるのが正解だと思う。
だから、契約が1990年代前半までのものなら、保険証券を出して予定利率を確認してほしい。「古い保険だからもう見直そう」が、いちばんもったいない判断になる。
もうひとつ小さな例外として、健康状態が変わっていて、掛け捨てに入り直せない人。この場合は減額で残したほうがいい。特約も残せる。
動く前に、確かめる3つ
ここまでの話を、見る順番にまとめておく。
| 見るところ | 確かめること | 当てはまったら |
|---|---|---|
| ① 契約した時期 | 1990年代前半までの契約か | お宝保険の可能性。予定利率を確認するまで動かない |
| ② 払込の残り | 低解約返戻金型で、まだ払込期間中か | いまやめると元本割れ。満了まであと何年かを見る |
| ③ 健康状態 | 持病や、最近の通院・投薬はあるか | 入り直せないかもしれない。減額で残すほうを先に考える |
6. わたしの場合と、判断の基準
正直に書くと、わたしが入っている保険は賃貸契約のときの火災保険、月500円だけだ。医療保険も、就業不能保険も、生命保険も入っていない。
わたしの基準は、前にも書いたとおりシンプルだ。
医療費や、数か月働けないくらいのことなら、生活防衛資金300万円とサイドFIRE資産でなんとかなる。だから入っていない
でも扶養する家族がいるなら、掛け捨ての死亡保険は必要だと思う。遺された家族の生活は、貯金では届かない金額になるから
つまりわたしが保険に入っていないのは、保険が悪いからではなく、いまのわたしには不要だからだ。独身で、扶養する人がいなくて、現金がある。条件が変われば、判断も変わる。
そしてもうひとつ。iDeCoの「おすすめ」解禁の記事で書いたことが、ここでもそのまま当てはまる。
無料の見直し相談の代金は、どこかに含まれている。
保険の乗り換えは、多くの場合、新しい契約を売る人の売上になる。「いまの契約は利率が古いですよ」という話が、必ずしも間違っているわけではない。でも、その人が中立とは限らない。
判断がむずかしいと感じたら、その場で決めない。持ち帰って、契約内容を自分で見て、家族にも相談する。iDeCoでも保険でも、身の守り方は変わらない。
7. まとめ
- 生保41社の解約返戻金は2026年1〜5月で6兆190億円、前年同期比39%増。データをさかのぼれる2020年以降で最高で、半期でも過去最高になる公算
- ただし主役は投信ではなく金利。各社が予定利率を引き上げ、日本生命は1985年以来およそ40年ぶりに上げた。だから古い契約が相対的に見劣りするようになった
- ここは正確に。予定利率は預金の金利とは違う。かかるのは保険料のうち積み立てに回る分だけなので、「予定利率1%」でも自分のお金が年1%で増えるわけではない。しかも過去には破綻した会社で既契約の予定利率が引き下げられたこともある
- 同じ時期、投信への資金流入も1〜6月で12兆円超と過去最高。ただし片方がもう片方の原因だと決めつけるのは行きすぎ
- 利回りだけで動く前に2つ。①低解約返戻金型は払込期間中の返戻率が70%程度に抑えられている、②解約した保障は、健康状態によっては買い直せない
- 税金(一時所得)はもうけが50万円以下ならかからない。心配しすぎなくていい
- 解約の前に、減額・払済保険・延長保険・契約者貸付という道はある。ただしこれらは「保険料が払えない」ときの救済策で、わたしは基本的にいい選択だと思っていない。低い利率の箱にお金が眠るだけになる
- 例外はお宝保険。1980年代後半〜1990年代前半の契約は予定利率5〜6%台で、払済にしても利率は維持される。いまでは買えない条件なので、古い契約は証券を出して予定利率を確認してほしい
- 基準は「保険か投信か」ではなく、その保障が、いまの自分に必要かどうか
・日本生命の40年ぶりの利率引き上げ:ダイヤモンド・オンライン「日本生命が40年ぶりに予定利率を引き上げ」
・各社の予定利率の動き:東証マネ部!「生命保険会社の『予定利率引き上げ』が及ぼす影響とは」
・投信への資金流入:日本経済新聞「投信への資金流入12兆円で最高 1〜6月」
・予定利率の仕組み(預金金利との違い)・破綻時の予定利率引き下げ:生命保険文化センター「生命保険会社は破綻前でも既契約の予定利率を引き下げることができるの?」
・生保7社の破綻処理:金融庁「生命保険会社の破綻処理の概要」
・お宝保険と払済での利率維持:日本経済新聞「損せず見直す『お宝保険』 高い利率守れる裏ワザ」
・解約以外の選択肢(払済・延長・減額):生命保険文化センター「保険料の負担軽減・払込の中止と契約の継続」
・一時所得の計算:国税庁「No.1490 一時所得」
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