カレー1皿が349円。11か月ぶりに350円を切ったけれど、値段は2020年の1.36倍のまま
9月10日、7月の「カレーライス物価」が発表された。7月分が9月に出るのは、国の店頭価格の統計(7月分は8月に公表)を使って計算するからで、いつも2か月遅れになる。家でカレーを作ると、1皿349円。11か月ぶりに350円を切った。前の年の7月より5円高いだけで、年初の370円からは21円安い。こう思った人も、いるはずだ。
😮「350円を切ったなら、もう安くなったってこと?」
🍚「うちのカレー、そんなに安くできない」
🤔「物価は1.9%って言ってたのに、なんでカレーはこんなに上がったの?」
わたしはカレーを自分で作る。コメは大好物で、カレーには生卵を落として醤油をかけるのが好きだ。カツカレーも好き。だからこの数字は、よその話ではなく、わたしの食卓の値段そのものだ。
結論から言うと、「安くなった」は半分本当だ。上がるのは止まりつつあって、8月は約4年ぶりに、前の年と同じ値段まで戻る見通し。でも、2020年から2025年までに物価全体が12%上がるあいだに、カレーは35%上がっていた。物価全体の3倍のペースだ。そして今年7月の1皿は、まだ2020年の1.36倍のところにいる。
順番に見ていく。
1. そもそも「カレーライス物価」とは、何を数えているのか
まず、いちばん最初の声から。「カレーの値段って、誰が決めてるの?」。決めているのは誰でもなくて、数えているのは帝国データバンクという会社だ。
値段の出どころ 総務省の「小売物価統計調査」。全国のスーパーなどの店頭価格の平均
作り方 市販のルウ半分で6食分をまとめて作る。その6食分の材料費を6で割って、1皿の値段にする
メニュー ビーフ・ポーク・チキン・シーフード・野菜の5種類の平均
いつから 2024年7月から毎月。2026年1月に中身を見直して、2015年までさかのぼって計算し直した
つまり、統計そのものは国が集めた値段で、帝国データバンクはそれを「カレー1皿」という形に組み立て直している。消費者物価指数(ニュースで「物価」と言われる、国の統計)は、何百品目もの値段を、家計がよく買うものほど重くして平均した数字だ。カレーライス物価は、そこから食卓の1皿ぶんだけを抜き出した数字になる。
もうひとつ、覚えておきたいことがある。コメがいちばん高かった2025年の秋の分について、帝国データバンクは「1皿の約4割がごはんの値段」と書いていた。コメが上がると、それだけでカレーが大きく動く理由が、ここにある。
そして3つ目の声、「うちのカレー、そんなに安くできない」は、たぶん正しい。349円は、店頭価格の全国平均で、6食分をまとめて作ったときの1皿の材料費だ。肉を多めに入れたり、2食分だけ作ったりすれば、1皿はもっと高くなる。ここで見ているのは「値段が上がったか下がったか」を測る物差しで、家ごとの実額ではない。
2. 7月は349円。どこから下がってきたのか
次に、今回のニュース。1皿の値段が、この4年でどう動いたか。見直し後の基準で2015年までさかのぼった数字がある。
2024年 平均302円
2024年秋〜2025年5月 コメの高騰で急上昇。5月が山(帝国データバンクの言う「第1次カレーショック」)
2025年9月 初めて350円を超える
2026年1月 370円。2015年以降の最高値(「第2次カレーショック」)
2026年7月 349円。前の年より5円高い(+1.5%)。年初から21円安い
2026年8月 346円の見通し(8月分はまだ出ていないので、先に出る東京の物価からの予想)。前の年と同じ値段まで戻るのは、2022年7月以来約4年ぶり
メニューで分けると、差が大きい。
いちばん高いシーフードと、いちばん安いチキンで、1皿280円も違う。同じ「カレー」でも、何を入れるかで値段は2倍以上になる。
3. 何が下げて、何がまだ高いのか
349円まで下がった理由は、帝国データバンクの発表を読むと4つある。
4つのうち、いちばん大きいのはコメだ。8月に書いた物価の記事で、米類の値段は「去年2倍になって、今年1割戻した」、つまり1割下がった、と書いた。カレー1皿の動きは、ほとんどそのコメの動きだ。去年の夏に上がり、国が備蓄米を放出して少し下がり、秋の新米でまた上がって1月に370円。そして今年、コメが下がるのと一緒に、カレーも下がってきた。
だから、年末にかけてコメ5kgが3,000円あたりで落ち着けば、1皿320円台まで下がる可能性がある、と帝国データバンクは書いている。
4. 「安くなった」の正体。1皿は、まだ2020年の1.36倍
ここで、2つ目と4つ目の声に答える。「350円を切ったなら、もう安くなったの?」「物価は1.9%なのに、なんでカレーはこんなに?」。
答えは、何と比べるかで変わる。
先に、「1.9%」の出どころから。総務省が毎月出している消費者物価指数で、8月に発表された7月分が、前の年の7月より1.9%上がっていた。全部の品目を平均した「総合」、つまり物価全体の数字だ。そのうち食料だけを取り出すと+3.5%だった、というのが8月の記事で書いたこと。カレーの+1.5%も、この2つと同じ「前の年の同じ月と比べた数字」になる。並べると、こうだ。
食料(消費者物価) +3.5%
カレー1皿 +1.5%
前の年と比べるかぎり、カレーは物価全体より落ち着いている。ここだけ見ると、「もう安くなった」に見える。でも、2020年と比べると、下の表のようになる。ここからは物差しを変えて、2020年の値段を100として、2025年がいくつになったかで見る。物価全体は年の平均でしか2020年と比べられないので、年平均どうしでそろえた。ちなみに2020年の1皿は、逆算すると約259円だった。
物価全体が5年で12%上がるあいだに、食料は26%、カレーは35%上がった。年率にすると、物価全体が年2.3%、カレーは年6.2%。「物価は1.9%」と聞いて納得できないのは、感覚がずれているからではなく、平均の中で、食卓に近いものほど上がっていたからだ。
そして、今年7月は136.3。前の年からの上がり方は+1.5%まで縮んだけれど、値段そのものは2020年の1.36倍のところにいる。「上がるのが止まった」と「元に戻った」は、別の話だ。
5. わたしの1皿
帝国データバンクの349円に、わたしの食べ方で生卵1個をのせる。卵は7月の全国平均で10個316円だから、1個32円。生卵をのせると、1皿はざっくり380円になる。卵は、小売物価統計で確認できる2015年以降でいちばん高い値段になっているので、ここも安くはない。
上がっても下がっても、カレーは作る。コメは買う。値段の記事を読んで変えるのは、行動ではなく、ニュースの読み方のほうだ。「350円を切った」の横に、「2020年の1.36倍」を、いつも置いておく。
ブリア=サヴァラン『美味礼讃』(1825年)
200年前のフランスの美食家の言葉だ。食べているもので、その人が分かる、と。カレーライス物価を見ていると、この言葉を、こう言い換えたくなる。何を食べているかを見れば、物価が分かる。平均の1.9%より、カレー1皿の値段の動きのほうが、わたしの財布には近い。
物価が上がるなら、現金だけで持つのがいちばん目減りします。オルカンの積立も、日本の高配当株119銘柄も、8年以上SBI証券の口座です。
SBI証券の公式サイトを見る →6. まとめ
- カレーライス物価は、帝国データバンクが総務省の店頭価格から「ルウ半分で6食分」を作った1皿の値段を毎月出しているもの。5メニューの平均
- 7月は349円で11か月ぶりの350円割れ。前の年より5円高いだけ。年初の370円から21円安。8月は約4年ぶりに前の年からの値上げが止まる見通し
- 下げたのはコメ(高いときは1皿の4割)、鶏肉、野菜、電気ガス。まだ高いのは円安の輸入牛肉
- 2020年を100として、2025年の平均は物価全体112・食料126・カレー135。食卓に近いものほど上がっていた
- 今年7月は136.3で、1皿は2020年の1.36倍。上がるのが止まっただけで、元には戻っていない
- 生卵をのせると1皿約380円。カレーは作る。変えるのは、ニュースの読み方だけ
・2025年通年と10年前:同 2025年通年(2025年平均349円、2024年302円、2015年251円、指数134.8)
・「1皿の約4割がごはん」:同 2025年11月分(コメ高騰時の記述)
・報道:日本経済新聞「『カレーライス物価』11カ月ぶりに350円下回る」(9月10日)
・消費者物価:総務省統計局 2020年基準 消費者物価指数 全国 2025年平均(総合111.9、食料125.8)、同 2026年7月分(総合+1.9%)。米類の動きは8月の記事
・卵の値段:総務省「小売物価統計調査」の全国平均(2026年7月、白色卵Lサイズ10個入り316円。日本の物価(価格推移まとめ)で確認)。1個32円、卵つきの1皿380円、2020年の1皿259円はクロちゃん(Claude)に計算してもらった概算
・ブリア=サヴァランの言葉:Jean Anthelme Brillat-Savarin, Physiologie du goût(1825年)、冒頭の警句IV「Dis-moi ce que tu manges, je te dirai ce que tu es」。訳はわたし




