「ソフトバンクなら安全だよね?」年4.75%の社債を、わたしが買わない4つの理由
ソフトバンクグループが、個人向けの社債を1兆円募集している。7年もので、利率は年4.75%(税引き前)。100万円から、100万円単位。国内の会社が個人に売る社債としては過去最大の規模で、SBI証券のページは、わたしが見た9月9日の時点で「完売」になっていた。こう思った人も、いるはずだ。
🤔「ソフトバンクなら安全だよね?」
😮「株みたいに上がったり下がったりしないのに、高配当株と同じくらいもらえるの?」
😑「100万円、ぜんぶ1つの会社に預けちゃって平気なの?」
結論から言うと、わたしは買わない。ただ、「大きな会社だから安全」で片づけるのも、「危ないからやめておけ」で片づけるのも、どちらも違うと思っている。社債のリスクは、潰れるかどうかだけではないからだ。
大前提を1つ置いてから、リスクを4つ、順番に数えていく。
1. そもそも社債は、上が小さく、下が深い
まず、社債とは何か。会社にお金を貸すことだ。株は会社の持ち分を買うので、配当も株価も上限がない。社債は貸しているだけなので、うまくいっても決められた利子までしかもらえない。その代わり、満期まで持てば貸したお金がそのまま返ってくる。会社が返せなくなったときを除いて。
100万円で、暗算してみる。
7年分で約26万5,000円。これが、いちばんうまくいった場合の「上」
会社が潰れると、貸した100万円は全部は戻らない。日本の過去の例では、戻ったのは10〜30万円だった(5章)。失う70〜90万円が「下」
上は26万円、下は最大90万円。上が小さく、下が深い形をしている
「儲かる」の上限が、最初から決まっている商品。これが社債だ。だから社債を見るときは、上の26万円ではなく、下の90万円がどのくらいの確率で来るかを見ることになる。それを見る道具が、格付けだ。
2. 「ソフトバンクなら安全だよね?」を、3つの格付けで確かめる
SBI証券のページには、格付けの欄にこう書いてある。
格付 A(JCR)
JCR(日本格付研究所)は日本の格付け会社で、Aは上から3番目の区分。格付けには「投資適格」という線があって、格付け会社が「貸しても大丈夫な部類」と線を引いた上側のことだ。年金や保険会社のようなプロの多くは、この線より下の社債を持たない決まりになっている。JCRのAは、線の上。「安全なほう」に見える。ところが、この会社には海外の格付け会社も点数をつけていて、そちらは載っていない。
S&Pは今年3月、OpenAIへの追加出資300億ドルを理由に見通しをネガティブに下げた。JCRも今年4月にAを据え置きつつ、見通しはネガティブだ。
つまり、日本の会社は「線の上」と言い、海外の2社は「線の下」と言っている。同じ会社に対して、投資適格の線をはさんで割れている。
ただし、いますぐ潰れる会社かというと、会社自身の数字はそうなっていない。
借金 ÷ 持っている株の値打ち(LTV) 13.0%。会社の方針は「通常時25%未満」
手元のお金 2.3兆円。今後2年で返す社債1.5兆円より多い
「ソフトバンクなら安全」は、いまの数字で見れば正しい。問題は、この社債が7年ものだということだ。海外の2社が「線の下」と言っている理由は、いまの財布ではなく、この会社が持っている株を担保のようにして借金をする投資会社で、その借金の使い道がOpenAIなどAIの会社への出資に寄っていることにある。7年のあいだ、この会社の投資判断に付き合うことになる。
3. 同じ会社が、海外では倍の上乗せを払っている
ここが、わたしがいちばん引っかかったところだ。
社債の利率は、「その国の国債の金利」に「その会社の危なさのぶんの上乗せ」を足して決まる。国は返せなくなる確率がいちばん低いので、国債の金利が土台になる。上乗せが、その会社に貸す危険手当だ。
ソフトバンクグループは、今年4月にドル建ての社債も出している。日本の個人向けと並べると、こうなる。
海外のプロは、この会社に貸すのに国債+4.2ポイントを求めた。日本の個人は、国債+2.3ポイントで貸している。上乗せは、半分ほど。
同じ会社が同じ年に、片方には8.5%、片方には4.75%を払っている。日経新聞は今回の募集をこう書いた。
ソフトバンクGが個人向け社債1兆円 過去最大、AI投資へ預金に照準
預金にある個人のお金に狙いを定めている、という意味だ。同じ日経によると、この会社の個人向け社債の累計発行額は2025年11月時点で約9兆9,000億円、国内の個人向け社債市場の4割超を1社で占めている。日本の個人は、この会社にとって、いちばん大きくて、いちばん安く貸してくれる相手になっている。貸す側から見れば、危なさは海外のプロと同じで、もらう危険手当は半分。これが2つめのリスクだ。
4. 潰れなくても、途中の値段は動く
実際に動いた月がある。
2020年3月。コロナで世界の株が約3割下がった月に、ソフトバンクグループの社債も売られた。ある個人投資家が、SBI証券に問い合わせて記録を残している。100万円分買っていた同社の社債を途中で売ると、3月末の時点で約73万円。満期まであと4年ほどの社債が、この値段だ。
同じ月に、会社の側でも大きなことが起きている。3月23日、最大4.5兆円の資産を売って、2兆円の自社株買いと借金の返済に充てると発表。25日には、ムーディーズが格付けを2段階下げ、会社はそれに反発してムーディーズへの格付けの依頼を取り下げた。会社の発表文には「許されることでは無い」とある。ムーディーズはその後も頼まれないまま格付けを出し続けていて、2章の表のBa2がそれだ。
このときの社債は、その後、満期まで持った人には貸した金額のまま戻っている。潰れていないからだ。でも、あの3月に「怖くなって売った人」は27万円を失っているし、「満期まで持った人」は、73万円の画面を見ながら4年間持ち続けた人だ。
もう1つ、値段が動く理由がある。金利だ。この社債は7年間、4.75%で固定。いま日銀は利上げの途中で、9月の会合ではいつもの倍の幅の利上げもあるのでは、と言われている。市場の金利が上がると、古い社債は新しい社債より利子が少ないぶん、安くしないと売れない。ざっくり、残りの年数 × 上がった金利の幅だけ値段が下がる。残り7年で金利が1ポイント上がれば、およそ7%。100万円なら93万円。
満期まで持てば関係ない。でも「満期まで持てる」とは、100万円単位のお金を7年間、動かさないでいられるということだ。個人向け国債は1年たてば元本のまま解約できるが、この社債にその仕組みはない。
5. 潰れたとき、戻るのは1〜3割
冒頭の4つめの声、「100万円、ぜんぶ1つの会社に預けちゃって平気なの?」に答える。預けるのではなく貸すのだけれど、心配の中身は同じだ。
わたしは日本の高配当株を119銘柄持っている。1社が減配しても、全体の配当はほとんど動かない。それが分散だ。社債は、1本100万円から。119社に分けようとすると1億1,900万円かかる。わたしには、個別の社債で分散する方法がない。
そして、1社に貸して、その1社が潰れたときに何が起きるかは、日本でも記録がある。
戻るのは、おおむね元本の1〜3割。数%だった例もある。1章の「下は最大90万円」は、ここから来ている。
マイカルの行は、もう一度見てほしい。日本の格付け会社は、破綻の直前まで投資適格の格付けを付けていた。今回のソフトバンクグループのAも、同じ「投資適格」の中にある。格付けは「いまの財布」の点数で、7年先を約束するものではない。
ではどう分散するか。答えは、個別の社債ではなく、たくさんの債券を詰め合わせた投信やETFで持つことだ。わたしはBND(米国の債券ETF)を228口持っている。中身は約1万1,500本のドル建ての債券で、半分ほどが国債、残りが社債など。そして、ここに1つ、今回の話とつながる決まりがある。BNDが入れるのは投資適格の線より上の債券だけ。6月末の中身で、線より下の債券は0.0%。S&PがBB+、ムーディーズがBa2のソフトバンクグループは線の下なので、同じ会社のドル建て社債は、BNDには最初から入れない。
わたしのBNDは、この会社をふるいにかけて落としている。わたしが決めたのではなく、BNDの決まりがそうしている。それでいいと思っている。
6. わたしのお金に、この社債の仕事がない
わたしは買わないし、人にすすめもしない。それでも「もう申し込んだ」「次の回で考えている」という人はいると思うので、その前に自分に聞いてほしいことを4つ並べておく。
4つとも「はい」と言えるなら、検討する余地はあるかもしれない。それでも、もらえるのは国債+2.3ポイント。海外のプロが求めた半分だ。1つでも「いいえ」なら、利率を見る前に答えは出ている。
わたしは、①で止まる。わたしの現金は生活防衛資金の300万円だけで、これは「明日いる」お金だ。余裕資金は、もうオルカン(全世界の株の投資信託)と高配当株とBNDに回っている。100万円を7年貸す余裕資金は、そもそも財布にない。
もし余裕資金があったとしても、置き場がない。わたしのお金は、いつでも使えることが仕事のお金と、増えることが仕事のお金に分かれている。前者は生活防衛資金で、潰れれば7割消え、途中で売れば73万円になる社債には、この仕事はできない。後者はオルカンと高配当株で、高配当株の利回りは、いまの評価額に対して4.5%ほど。社債の4.75%とほぼ同じだが、株には増配と値上がりがあって、上限がない。社債の4.75%は増える。でも、そこで止まる。
どちらの仕事もできないから、買わない。
探して受け入れるのではなく、除いて捨てていく作業である
ベンジャミン・グレアム/デビッド・ドッド『証券分析』(1934年)
グレアムは、バフェットの先生にあたる人だ。90年前の本で、債券の章の最初のほうにこの言葉がある。理由は、1章で書いたことと同じ。債券は上が小さいので、いちばん大事なのは損を避けること。だから「いい債券を探す」のではなく、「危ないものを外していく」のが債券の作法だ、と。
冒頭の「4.75%なら、預金より全然いい」は、探す側の入り方だ。利率から入ると、どうしても上の26万円を見てしまう。グレアムの言い方に従うなら、社債は「何%もらえるか」ではなく「何を外すか」から入る。格付けが海外では線の下であること、海外のプロの半分の上乗せであること、途中で73万円になった月があること、潰れれば1〜3割しか戻らないこと。これだけ並べば、わたしの答えは「除いて捨てる」になる。
この社債は買いませんが、社債の募集ページも、債券ETFのBNDも、日本の高配当株119銘柄も、同じSBI証券の口座で見ています。8年以上使っているメイン口座です。
SBI証券の公式サイトを見る →7. まとめ
- ソフトバンクグループの個人向け社債は1兆円・7年・年4.75%、国内最大。SBI証券では9月9日時点で完売
- 社債は会社にお金を貸すこと。100万円なら上は7年で26万円、下は70〜90万円。上が小さく、下が深い
- 格付けは日本のJCRがA、海外のS&PはBB+で投資適格の線の1段下。同じ会社に、国内と海外で線の上と下
- 同じ会社が4月に出したドル建て社債は8.5%。国債への上乗せは海外4.2ポイント、日本の個人は2.3ポイントで半分ほど
- 潰れなくても途中の値段は動く。2020年3月には100万円が約73万円。金利が上がっても下がる
- 潰れたとき戻るのは元本の1〜3割。マイカルは破綻の直前まで投資適格だった。分散するなら個別ではなく投信・ETF
- わたしは買わない。いつでも使うお金の仕事も、増やすお金の仕事もできないから。社債は「何%か」ではなく「何を外すか」から入る
・過去最大・使い道(9月償還の4,000億円の借り換えとAI投資):日本経済新聞「ソフトバンクGが個人向け社債1兆円 過去最大、AI投資へ預金に照準」(8月24日)、財経新聞(8月25日)。4.75%が同社の普通社債として2009年以来の高さ:日本経済新聞「ソフトバンクG債、証券会社が個人向け営業に熱」(9月3日)
・累計発行額9兆8,995億円・国内個人向け社債市場の4割超:日本経済新聞「ソフトバンクG個人向け社債、発行額迫る10兆円」(2025年11月27日)
・格付け:ソフトバンクグループ 格付情報(JCR A・S&P BB+、2026年8月6日時点)、JCR 格付一覧(A/ネガティブ、2026年4月30日据置)、Bloomberg「S&Pが見通しをネガティブに」(3月3日)、Bloomberg「ムーディーズがBa3→Ba2に格上げ」(2025年9月17日)
・会社の財布(NAV72.3兆円・LTV13.0%・手元流動性2.3兆円・今後2年の社債償還1.5兆円・8月5日時点のNAV58.3兆円・通常時LTV25%未満の方針):ソフトバンクグループ 2027年3月期 第1四半期 決算説明会資料(2026年8月6日)
・4月のドル建て社債(15億ドル・10年・利率8.5%、同社のドル建てで過去最高):GuruFocus(2026年4月16日)。米10年国債4.29%(4月15日)は米セントルイス連銀FRED(DGS10)、日本の7年国債2.493%(9月4日)は財務省「国債金利情報」。上乗せの引き算はわたしの計算
・2020年3月の途中売却の値段(100万円→約73万円):個人投資家のブログ「ソフトバンク社債を途中売却した場合はどうなるのか?SBI証券に電話で確認してみたら」(2020年3月29日)。SBI証券の売却画面の記録
・2020年3月の資産売却とムーディーズの件:ソフトバンクグループ「ムーディーズの格付けの取下げについて」(2020年3月25日)、ロイター(Nasdaq転載)「2段階格下げ」。その後も非依頼格付けが続いていること:ソフトバンクグループ「ムーディーズの非依頼格付けに関するリリースについて」(2025年9月17日)
・潰れたとき戻った割合:個人向け社債情報ポータル「日本の社債デフォルト、いくら戻ったか」。マイカルの個人向け900億円:「個人向け社債のリスクと過去の破たん事例」。破綻まで日本の格付け会社が投資適格を維持していたこと:三浦后美「日本における信用格付制度の発展過程」(文京学院大学 経営論集 第22巻第1号、2012年)
・BNDの中身(債券11,476本・国債と政府機関債49.2%・BB以下0.0%、2026年6月30日時点):Vanguard Total Bond Market ETF ファクトシート。投資適格だけを持つ決まり:Bloomberg US Aggregate Index の説明資料(Baa3/BBB−以上、3社の真ん中の格付けで判定)
・119銘柄・生活防衛資金300万円・簿価利回り4.81%:8月の月次レポート。評価額に対する利回り4.5%は、同レポートの配当見込みと評価額からわたしが計算した概算
・グレアムの言葉:Benjamin Graham and David Dodd, "Security Analysis" (1934), Part II, Chapter 6 "The Selection of Fixed-Value Investments"。訳はわたし




