個人向け国債が過去最高の2.24%に。でも、いちばん上がったのは固定3年だった
個人向け国債の固定5年が、2.24%になった。「2%を超えたなら、そろそろ預金から移そうかな」と思った人も、いるはずだ。
結論、わたしは今回も買わない。理由は8月24日の記事と同じだ。わたしの現金は生活防衛資金の300万円だけで、いつでも使えることが目的のお金。1年間は換金できない個人向け国債とは、目的が合わない。でも、それで終わりにできないことが、今月の利率の表にはあった。
いちばん上がっていたのは、固定5年ではなく固定3年だった。なぜ短いほうが大きく上がるのか。理由をたどると、発表から翌日にかけて起きた4円の円高まで、1本の糸でつながっていた。
預ける側にはいいニュースの裏で、わたしの資産は減っている。原因は同じだ。なぜ固定3年なのか、から順番に見ていく。
1. 9月募集の利率。3種類とも、過去最高
まず、今月の数字を8月と並べる。見てほしいのは、右端の「差」の列だ。
固定3年が+0.25、固定5年が+0.18、変動10年が+0.08。期間が短いものほど、大きく上がっている。理由を、次の章で調べる。
2. なぜ、固定3年がいちばん上がったのか
ここから本題。先に、大前提をひとつ。個人向け国債の利率は、財務省が「今月はこのくらい」と決めているわけではない。市場で売り買いされている国債の金利(基準金利)から、機械的に決まる。式は3行で済む。
固定5年 = 市場の5年国債の金利 − 0.05%
変動10年 = 市場の10年国債の金利 × 0.66(半年ごとに見直し)
3種類とも、市場の国債より少し低く設定されている。市場で売り買いされる国債は、金利が上がると値下がりする(新しい国債のほうが利子が多いので、古い国債は安くしないと売れない)。個人向け国債は値動きがなく、元本が保証される。その安心の代金だ。変動10年がいちばん大きく削られている代わりに、こちらは半年ごとに見直されて、金利が上がればついていく。
元になった基準金利を並べる。
3年が+0.25、5年が+0.18、10年が+0.13。個人向け国債の差の列は、市場の金利の動きをそのまま写していただけだった。
問いが、ひとつ奥に進む。なぜ市場では、短い金利ほど大きく上がったのか。
短い金利と長い金利は、見ているものが違う。3年の金利は「日銀がこの先2〜3年で、政策金利(日銀が決める金利。いまは1.0%)をどこまで上げるか」の予想でほぼ決まる。10年の金利は、それに加えて、10年先までの物価や国の借金の量など、もっと遠くまで見ている。だから、日銀の利上げが速まりそうだという見方が広がると、短い金利が先に、大きく動く。
この1か月に起きたのは、まさにそれだ。8月の終わりごろから、市場では「日銀は9月に利上げする」という見方が広がっていた(8月末の記事でも触れた)。見方が広がると、市場の金利は実際の利上げを待たずに、先に上がる。9月募集の利率の元になったのは9月1日の市場の金利なので、8月のあいだに上がった分が、そのまま9月の利率に乗っている。
そして発表の日の9月2日、日銀の高田審議委員が札幌の講演で、こう言った。
2026年以降は一定のペースにとらわれず、機動的に利上げを行う新たな局面
これまでの年2回のペースを、状況しだいで速めることもある、という意味だ。会見では「従来の半年に一度、年2回ではなく」「局面が変わるなら連続利上げということも、もしかしたらあり得る」とも。高田委員は7月の会合で、1.0%から1.25%への利上げを提案して否決された人だ。この発言で、市場の一部は9月17〜18日の会合で、いつもの倍の0.5ポイント幅の利上げもあるのではと見はじめている。
9月募集の利率は、この発言の前に決まっていた。効いてくるのは、来月の利率から。そして、利率より先に動いたものがある。
3. 同じ糸が、円も動かした
ここまでは、個人向け国債を買わない人には関係のない話に見えたと思う。ここからは、関係がある。
9月2日の午前中、ドル円は160円台。翌3日の夜には156円台まで円高が進んだ。約4円、2.6%。8月上旬以来、1か月ぶりの円高水準だ。
理由は3つ重なっている。日銀の利上げ観測が速まったこと。米国の8月の雇用の統計(ADP)が弱く、米国の金利が下がってドルが売られたこと。米国のベッセント財務長官の発言をきっかけに、「米国は円安を直したいのでは」という思惑が出たこと。
いちばん大きいのは1つめ、日銀の利上げ観測が速まったことだと思う。個人向け国債の固定3年の利率も、この円高も、同じ1本の糸で引かれている。「日銀が9月に、どこまで上げるか」という糸だ。固定3年を押し上げたのは8月に広がった見方、円を動かしたのは9月2日の発言と、時期は少しずれている。でも、引いている糸は同じだ。短い金利が上がれば、円で持つ利息が増えるので、円が買われる。
その糸は、わたしの持ち物まで届く。オルカン(全世界の株の投信)もS&P500(米国の株の投信)も、中身はほぼ外貨だからだ。
BND(米国の債券ETF) 外貨建てなので、同じ向きに下がる
日本の高配当株 円建て。為替の直接の影響はない
ちなみに、個人向け国債は円建てなので、為替とは無関係だ。
株も、同じ日に動いている。こちらは原油高と金利上昇が理由で、糸は1本ではない。9月2日の日経平均は1,889円(2.85%)安で、33業種のすべてが値を下げた。翌3日は日経平均が続落する一方で、TOPIX(東証の株全体の指数)は反発している。8月末に総資産が初めて6,000万円に乗ったと書いた直後に、金利が上がり、円が上がり、日経平均は2日で3%下がった。3つ同時に来ても、やることは変わらない。積立は、同じ日に同じ額で続く。
4. で、預金の300万円はどうするか
ここまで読んで、「じゃあ、預金にあるお金はどうするの?」と思った人へ。
8月24日に、こう書いた。固定5年の2.06%は、税引き後で1.64%。わたしがライフプランで置いているインフレ前提の2%を下回るから、増える商品ではなく、目減りの速度を落とす商品だ、と。
2.24%で計算し直すと、こうなる。
税引き後 1.64% → 1.78%(利子には20.315%の税金がかかる)
インフレ前提 2% → 2%
実質 年マイナス0.4%ほど → 年マイナス0.2%ほど
結論は同じで、まだ増える商品ではない。ただ、目減りの速さは半分になっている。あと0.2ポイントで、税引き後がインフレ前提に並ぶ。
その分かれ目も、先に計算しておきたい。税引き後で2%になるには、税引き前で2.51%が要る。固定5年の利率は市場の5年国債の金利から0.05を引いて決まる(決め方は2章のとおり)ので、市場の5年金利が2.56%を超えた月に、この商品は「目減りしない商品」に変わる。9月募集の元になった5年金利は2.29%。税引き前の市場の金利で見れば、あと0.3ポイント近くある(税引き後の0.2ポイントは、税引き前だとこの幅になる)。
生活防衛資金の300万円を移した場合を、8月と同じく、金利が上がればついていく変動10年を主役にして計算し直した。固定5年も並べる。
固定5年 2.24%なら 年およそ5万3,500円
普通預金 0.4%のまま 年およそ9,500円
差(変動10年との比較) 年3万7,000円(8月の計算では3万5,000円)
それでも、動かさない。個人向け国債は発行から1年間は換金できない。生活防衛資金は「明日いる」お金で、いつでも使えることが目的だからだ。
変わったのは、普通預金に置いたままにする値段が年2,000円上がったこと。それだけだ。
ここで、3章の数字と並べてみる。3章の100万円は、4円の円高がわたしのインデックス投信3,934万円の円換算を押し下げた額だ。いっぽう、300万円を普通預金に置いたままなら利子は年9,500円、個人向け国債に移せば年4万6,600円。動かすかどうかで変わるのは、この差の年3万7,000円だ。
「見ている場所を間違えている」と思うかもしれない。わたしは、そうは思わない。3,934万円は「増えること」が目的のお金で、短期間で数百万円動く可能性があるのは覚悟して持っている。一方、生活防衛資金の300万円は「いつでも使えること」が目的のお金で、動かない代わりに増えない。目的が違うお金は、揺れ方も違っていい。
5. わたしは、どう見ているか
何度も言うが、結論、わたしは個人向け国債を買わない。生活防衛資金は普通預金のまま。8月24日と同じ答えだ。
固定5年の税引き後は1.64%から1.78%になり、インフレ前提の2%まであと0.2ポイント。並んだら、また書く。
8月と違うのは、表の読み方だ。8月は「固定5年が2%を超えた」を見ていた。今回は、固定3年がいちばん上がった理由を調べるうちに、この表が日銀の次の一手や円の動きとつながっていることを知った。同じ表でも、前より少しだけ多く読めた気がする。
国債の利率が上がってきたから、そろそろ預金から移そうかな。そう考えている人へ、わたしが思うのはひとつだけ。移すかどうかを決めるのは利率ではなく、そのお金の目的だ。1年間使わないと言い切れるお金かどうか。わたしの300万円は、そうではない。
どんな風も追い風にならない
セネカ「ルキリウスへの手紙」第71通(紀元1世紀)
セネカは、2000年前のローマの哲学者で、皇帝ネロの家庭教師だった人だ。この言葉は、目的地が決まっていなければ、どんな風が吹いても進みようがない、という意味で引用される。
利率は風だと思う。8月は2.06%、9月は2.24%、来月はまた変わる。風が強くなるたびに帆を張り替えていたら、船はどこにも着かない。わたしの300万円の港は「いつでも使える」で、3,934万円の港は「長期でふやす」だ。港が決まっていると、風の強さは知っておけばよくて、進路を変える理由にはならない。
金利が上がっても、円が動いても、わたしのやることは変わりません。オルカンの積立も高配当株もBNDも、8年以上SBI証券の口座です。積立は、同じ日に同じ額で続きます。
SBI証券の公式サイトを見る →6. まとめ
- 9月募集分は固定5年2.24%・固定3年1.96%・変動10年1.95%。3種類とも発行開始以来の最高
- いちばん上がったのは固定3年(+0.25)。利率は市場の金利から機械的に決まり、この1か月は短い金利ほど大きく上がった。日銀の利上げが速まる見方が先に動かした
- 9月2日の高田審議委員の「機動的に利上げ」発言で0.5ポイント幅の利上げ観測が浮上。同じ糸で、円は2日で4円の円高に
- 円高2.6%で、わたしのインデックス3,934万円はおよそ100万円下がる概算。目的が違うお金は、揺れ方も違っていい
- 固定5年の税引き後は1.78%。インフレ前提2%まであと0.2ポイントで、まだ「目減りの速度を落とす商品」。分かれ目は市場の5年金利2.56%
- 生活防衛資金300万円は普通預金のまま。差は年3万7,000円に開いたが、1年間換金できない商品とは目的が合わない
・8月募集分の利率:8月24日の記事(固定3年1.71%・固定5年2.06%・変動10年1.87%)。8月募集の基準金利は、この利率から決め方を逆算したわたしの概算
・3種類とも過去最高:テレ東BIZ「個人向け国債 利率が過去最高水準に」、個人向け国債の利率推移一覧(kabukiso)
・高田審議委員の発言:日本銀行「わが国の経済・物価情勢と金融政策」(2026年9月2日、札幌)、朝日新聞「追加利上げ『一定のペースにとらわれず機動的に』」、ブルームバーグ
・円相場:外為どっとコム「ドル/円、156円台へ下落…日銀による9月大幅利上げ観測浮上」(9月3日)、日本経済新聞「円上昇、一時1か月ぶり157円台」。160円台→156円台はYahoo!ファイナンスの時間足による
・株式市場:財経新聞(9月2日、1,889.70円安・64,325.64円・33業種すべて下落)、財経新聞(9月3日、111.16円安・64,214.48円)、日経平均の概況 9月3日(TOPIX 4,102.04・20.44ポイント高、値上がり805・値下がり685、商社高)
・税引き後の実質・分かれ目の2.51%/2.56%・300万円の利子・円高の影響100万円:わたしが計算した概算です。税率20.315%、インフレ2%、8月末のインデックス3,934万円がほぼ外貨建てという前提
・セネカの言葉:Seneca, Epistulae morales ad Lucilium, 71.3




