個人向け国債の固定5年が、初めて2%を超えた。わたしのインフレ前提と、同じ数字になった
「預金から国債へ。利回り上昇で起きる、かつてない資産の大移動」という記事を読んだ。ニッセイ基礎研究所のエコノミストの解説だ。
個人向け国債の固定5年の利回りが2.06%になって、個人向け国債として初めて2%を超えたという。同じ期間の定期預金より1%以上高い。国も「預金から国債へ」を後押ししはじめている、と。
わたしは個人向け国債を持っていない。現金は生活防衛資金の300万円だけで、普通預金に置いている。
2%と聞いて、最初に思ったことがある。それ、わたしがライフプランで置いているインフレの前提と、同じ数字だ。
順番に見ていく。
1. 個人向け国債とは。いま、いくらか
まず商品の説明から。
値動きがない。市場で売買される国債と違って時価がなく、国が破綻しないかぎり元本が保証される
利子は半年ごとに年2回
発行から1年間は換金できない。1年たてば、直前2回分(1年分)の利子を差し引いていつでも解約できる
預金保険のような上限(1,000万円)がない
種類は3つ。今月の利回りはこうなっている。
固定5年の2.06%は、個人向け国債で初めての2%超えだ。去年12月の発行分と比べると、どの種類も0.7〜0.9%高くなっている。金利が上がった1年だった、ということでもある。
ニッセイの記事によれば、同じ期間の定期預金との差は1.0〜1.3%まで開いている。個人向け国債の利回りは市場の金利上昇をそのまま反映するのに、銀行の定期預金の引き上げはゆっくりだからだ。
売れている。今年7月までの販売額は5.2兆円で、前の年より5割以上多い。
2. でも「2%」は、増える数字ではなかった
ここで、最初に引っかかった話に戻る。
わたしはライフプランを組むとき、インフレを2%で置くように書いた。日銀の目標で、ここを0にすると支出が一生増えない前提になってしまうからだ。
固定5年の2.06%を、その前提に並べてみる。
税引き後 約1.64%(利子には20.315%の税金がかかる)
インフレ前提 2%
実質 年マイナス0.4%ほど
物価が2%ずつ上がる世界では、税引き後1.64%の国債は、買えるものの量でみると少しずつ目減りする。
だからこれは、増える商品ではない。目減りの速度を落とす商品だ。
それでも意味はある。預金に置いたお金は、もっと速く目減りしている。同じ「守り」でも、目減りの速さが違う。
3. 国が「買ってほしい」と言っている
もうひとつ、この記事で面白かったのは、国の側の事情だ。
日銀は、買い集めてきた国債の保有を減らしはじめている。誰かが代わりに持つ必要がある。ニッセイの記事によれば、そこで期待されているのが家計だ。
- 政府は骨太の方針に「個人向け国債の魅力向上による国内投資家層の拡大」と書いた
- 国債をNISAの対象に加える法案が国会に出ていて、財務大臣も前向きな姿勢だという
家計が国債として持っているのは、今年3月末でわずか20兆円。いっぽう定期預金には350兆円が眠っている。ニッセイの試算では、ここから100兆円が個人向け国債に移ると、家計の受け取る利息は年9,200億円(税引き後)増える。
家計と政府には恩恵で、打撃を受けるのは銀行だ。預金は銀行にとっていちばん安くお金を集める手段なので、それが国債に流れると、預金金利の引き上げなどで引き留めるしかなくなる。
つまりこのニュースは、預金の金利の上がり方がゆっくりなことと、裏表の話でもある。銀行が上げないなら、国が直接、高い金利で借りにきた。そういう構図に見えた。
4. わたしのかごに、置き場があるか
で、わたしはどうするか。
わたしの現金は、生活防衛資金の300万円だけだ。余裕資金は、もうオルカンと高配当株とBNDに回っている。だから考える対象は、この300万円になる。
仮に300万円を変動10年に移すと、税引き後で年およそ4万5,000円の利子がつく。普通預金にも、いまは利息がつく時代になった。わたしの銀行は年0.4%で、税引き後だと年9,500円ほど。それでも差は年3万5,000円ある。数字だけ見れば、動かしたくなる。
でも、動かさない。
・解約しても、着金まで3営業日ほどかかる。普通預金は即日
・1年たたずに使う事態になったとき、いちばん困るのはお金に鍵がかかっていること
5月に書いたとき、生活防衛資金の置き場所は普通預金一択、と決めた。定期預金も国債も候補から外した理由は流動性だった。固定5年が2%を超えても、この答えは変わらない。生活防衛資金は増やすお金ではなく、「いつでも使える」を買っているお金だからだ。
年3万5,000円は、その安心の値段だと思っている。
ちなみに、わたしが持っている債券はBNDで、これは個人向け国債と正反対の性質をしている。
同じ「債券」という名前でも、中身はここまで違う。ディフェンシブの記事で、業種の名前は値動きを保証しないという話を書いたけれど、債券も同じで、名前ではなく中身で選ぶものだと思う。
5. では、誰の話なのか
わたしには置き場がなかった。でも、この話が効く人は、はっきりいる。
定期預金に、当分使わないお金が眠っている人だ。
ニッセイの記事には、70歳代の世帯は定期性預金を平均779万円持っている、とあった(平均値なので、一部の大きな世帯に引っぱられた数字ではある)。仮にこの全額を個人向け国債に移すと、受け取る利息は年7万円あまり(税引き後)増える計算だという。
条件はひとつだけ。1年間、使わないと言い切れるお金であること。生活費や近々の出費まで移してしまうと、鍵のかかった箱にお金を入れることになる。
記事は、デメリットとして格差も挙げていた。1年寝かせられる余裕資金がある家計ほど恩恵を受け、その余裕がない家計には届かない。国が後押しするほど、その差は開く。恩恵の話と一緒に、覚えておきたい一行だった。
6. わたしは、どう見ているか
個人向け国債は買わない。生活防衛資金は普通預金のまま。5月に決めた答えと同じだ。
変わったのは、答えの精度のほうだと思う。5月は「流動性が落ちるから」だった。いまは、固定5年2.06%が税引き後1.64%で、インフレ前提2%を下回ることも、動かさないことで年3万5,000円を払っていることも、数字で言える。
お金がお金を生み、その子がまたお金を生む
ベンジャミン・フランクリン「若き商人への手紙」(1748年)
フランクリンは、アメリカ建国の父のひとりで、100ドル札に顔が載っている人だ。280年近く前に、利息が利息を生むことをこう書いた。
固定5年2.06%の利子は半年ごとに入ってくる。定期預金との1%あまりの差は、1年では小さくても、フランクリンの言うとおり子が子を生んで開いていく。350兆円の定期預金がこれに気づいたら、たしかに「大移動」になるのかもしれない。
ただ、繁殖させる前に決めることがある。そのお金の仕事は何か。増えることが仕事のお金と、いつでも使えることが仕事のお金は、置き場所が違う。わたしの300万円の仕事は、後者だった。
わたしはオルカンの積立も日本の高配当株もBNDも、同じ口座で持っています。メイン口座はSBI証券で、8年以上使っています。
SBI証券の公式サイトを見る →7. まとめ
- 個人向け国債の固定5年が2.06%と初めて2%を超えた。定期預金との差は1.0〜1.3%。今年の販売は7月までで5.2兆円と前年より5割増
- ただし税引き後は約1.64%で、インフレ前提の2%を下回る。増える商品ではなく、目減りの速度を落とす商品
- 日銀が国債を減らすなか、国はNISA対象化の法案など家計への後押しを始めた。家計の国債は20兆円、定期預金は350兆円
- わたしの現金は生活防衛資金の300万円だけ。1年間換金できない商品とは仕事が合わないので、普通預金のまま。年3万5,000円は安心の値段
- 効くのは定期預金に1年以上使わないお金が眠っている人。70代世帯の定期性預金は平均779万円で、全額移せば利息は年7万円あまり増える計算
- 余裕資金がある家計ほど恩恵を受ける格差の面もある。増やすお金といつでも使うお金は、置き場所が違う
・利回りと商品性:財務省「個人向け国債」(8月募集・9月発行分:固定3年1.71%・固定5年2.06%・変動10年1.87%、募集期間2026年8月6日〜8月31日)
・NISA対象化の動き・骨太の方針:上記TBS記事による(法案は提出段階で、成立していません)
・税引き後1.64%・年4万5,000円・年3万5,000円:利子への税率20.315%でわたしが計算した概算です
・普通預金の金利:わたしの銀行(ドコモの銀行)の普通預金は年0.40%(2026年8月時点の表示金利)。3メガバンクも2026年8月から0.4%
・フランクリンの言葉:Benjamin Franklin「Advice to a Young Tradesman」(1748)




