国民年金の納付率は85.6%で過去最高。でも原典を開いたら、第1号の4割は免除か猶予だった
「将来を軽視する人ほど未納に?」という見出しの記事を読んだ。ニッセイ基礎研究所の年金の専門家が、国民年金の納付状況を解説したものだ。
国民年金の納付率は上がり続けている。でも、未納を防ぐのにいちばん効く口座振替などの「自動引き落とし」の利用が伸び悩んでいる。行動経済学の研究では、将来を軽視する人ほど納めない傾向がある。だから自分の意思で納めにくい人は、自動引き落としを使ってほしい。そういう記事だった。
わたしはフリーランスで、国民年金を自分で払う側(第1号被保険者)だ。読んで、2つ引っかかった。
ひとつは、納付率が上がっているなら、何が問題なのか。もうひとつは、自動引き落としが伸びない理由は、本当に「意思」だけなのか。
原典の厚労省の資料と、自分の銀行を調べてみた。
1. 「未納4割」は、もう古い話だった
その前に、言葉をひとつ。
第2号 会社員・公務員。厚生年金に入っていて、保険料は給料から天引き
第3号 第2号に扶養されている配偶者。自分では払わない
第1号 それ以外の人。自営業・フリーランス・パート・無職・学生など。自分で保険料を払う
「納付率」の話は、この第1号だけの話になる
わたしは第1号だ。会社を辞めた日から、年金は自分で払うものになった。
まず、納付率から。
国民年金の第1号被保険者の最終納付率は85.6%(令和7年度、令和5年度分の保険料)。13年続けて上がって、統計を取り始めてからいちばん高い。その年度分をその年度内に納めた割合(現年度納付率)でも79.6%だった。
「国民年金は未納4割」という言い方を、いまでも聞く。平成24年度の64.5%のころの記憶だと思う。そこから21ポイント上がっている。
しかも原典には、こう書いてある。厚生年金の加入者や、その配偶者も含めた公的年金の加入者全体6,759万人でみると、未納者は67万人、約1%。会社員は給料から天引きされるので、そもそも未納になりようがない。
ここまでは、いい話だった。
2. でも、第1号の中身を開くと
原典の別添資料に、第1号被保険者1,357万人の内訳が載っていた。
保険料を納めている人は、半分だった。
全額免除と猶予を合わせると595万人、第1号の4割超になる。
納付率85.6%という数字は、分母から免除・猶予の人を除いて計算している。払う義務がある人のうち、どれだけ払ったか。だから数字として間違っていないし、隠してもいない。原典には「全額免除・猶予者は595万人」と、納付率と同じページに書いてある。
「納付率が過去最高」と「第1号の4割は払っていない」は、同じ資料の同じページに、並んでいた。
納付猶予・学生納付特例 受給資格の期間には数えるが、年金額には反映されない
どちらも10年以内なら追納できる。追納すれば満額に近づく
第1号の中身も、自営業だけではない。ニッセイの記事によれば、雇われている人が38%、無職が34%、自営業は25%。フリーランスや自営業のための制度、という印象とは違う。パートや無職で、厚生年金に入れない人の受け皿になっている。
免除や猶予は、払えない人を守る制度だ。それ自体は悪いことではない。でも、その人たちの老後の年金は、半分かゼロになる。「納付率は過去最高」と同じページに、その数が595万人いる。
3. 自動引き落としは、本当に伸びていなかった
ニッセイの記事のもうひとつの話、「自動引き落としが伸び悩んでいる」も、原典で確かめた。
口座振替は、伸び悩むどころか減っていた。3年で2,917万月から2,791万月へ。クレジットカードも、令和7年度は減りに転じている。ニッセイが「自動引き落とし」と呼んでいるのは、この2つを合わせたものだ。
代わりに伸びているのが、現金・クレカでの2年前納(2年で17万件から58万件へ)と、スマホの決済アプリ(225万月から410万月へ)だ。
つまり、毎月自動で引き落とす形は減って、まとめて払う形と、自分で操作して払う形が増えている。ニッセイが心配しているのは、ここだと思う。
4. わたしも、そのひとりだった
ここで、自分の話をする。
わたしは2023年にフリーランスになった。その年は、2年前納に間に合わなかった。当時の2年前納は4月開始しかなく、申込は2月末まで。会社を辞めたタイミングでは、もう締め切りが過ぎていた(いまは年度の途中からでも前納を始められる)。
翌年から、クレジットカードで2年前納にした。理由は単純で、忘れない方法にしたかったからだ。毎月自分で払う形だと、いつか払い忘れる。だから、自分の意思に頼らなくても払われる形にしておきたかった。
2年前納・口座振替 417,150円(17,370円の割引)
2年前納・現金とクレカ 418,510円(16,010円の割引)
1年前納・口座振替 210,530円(4,510円の割引)
口座振替の早割(当月末引き落とし) 月60円の割引
では、なぜ口座振替ではなくクレカだったのか。
銀行が、対応していなかったからだ。
わたしはお金の出入りを1つの銀行にまとめている。住信SBIネット銀行、いまの名前で言えばドコモの銀行だ。そしてこの銀行は、当時、国民年金の口座振替を受け付けていなかった。日本年金機構のページにも「一部のネット銀行では口座振替のご利用はできません」とある。口座振替にしたければ、そのためだけに別の銀行に口座を作る必要があった。それは「忘れない仕組み」どころか、管理するものが1つ増える。
だからクレカにした。割引は口座振替より1,360円少ないけれど、2年分を一度に払って、あとは忘れていられる。
住民税と国民健康保険は、PayPayで払っている。こちらも口座振替にしたかったけれど、自治体の口座振替の一覧に、わたしの銀行がなかった。そのためだけに口座を増やすより、納付書をスマホで読むほうが手間が少ない。
ニッセイの記事は「将来を軽視する人ほど納めない」と書いていた。それは研究の結果として正しいのだと思う。ただ、将来のことを考えて自動にしたかったのに、銀行の都合でできなかった人もいる。ネット銀行をメインにしている人は、少なくない。
自動引き落としが伸びない理由は、意思だけではなかった。
5. 調べたら、この6月に変わっていた
この記事を書くために、いまの対応状況を調べた。
ドコモの銀行(旧住信SBIネット銀行)は、2026年6月1日から国民年金保険料の口座振替に対応していた。 銀行自身の発表に「受付を開始します」とある。しかも申込はオンラインで完結する。書類も窓口もいらない。8月には社名もドコモSMTBネット銀行に変わっていた。
わたしが「できない」と思っていた入口は、この6月に開いていた。
国民年金は、次の2年前納のときに口座振替へ替えることにした。差額は2年で1,360円なので、お金の話ではない。忘れない仕組みとして、クレカの有効期限を気にしなくていい側に寄せておきたい。申込は、始める年の2月末までだ。
6. わたしは、どう見ているか
ニッセイの記事を読んで、最初は「納付率が上がっているなら、いい話では」と思った。原典を開いて、見方が2つ変わった。
納付率は、払う義務が残っている人の中の数字だった。第1号の4割は免除か猶予で、その人たちの老後の年金は半分かゼロになる。「未納4割」は古い話だけれど、「払っていない4割」は別の形で残っていた。
そして自動にしたい人が、自動にできないこともある。わたしがクレカの2年前納を選んだのは、意思が弱いからでも、将来を軽視しているからでもなく、銀行に入口がなかったからだった。それがこの6月に開いていたことを、この記事を書くまで知らなかった。
それを簡単にすること
リチャード・セイラー(2017年ノーベル経済学賞。2018年3月のインタビューでの言葉)
セイラーは、行動経済学で「ナッジ」という考え方を広めた人だ。ニッセイの記事の「将来を軽視する人ほど」という研究も、同じ流れの上にある。
その人が何度も言っているのが、この一文だ。人は意思が弱い。だから意思に頼らず、やるべきことのほうを簡単にしておく。同じインタビューで、例として挙げていたのが「自動加入」だった。年金の話だ。
国民年金の自動引き落としが減っている理由は、たぶんひとつではない。でも少なくともわたしの場合、簡単ではなかった。簡単にする側の仕事が、この6月にやっと追いついた。
フリーランスで国民年金を自分で払っている人は、一度、自分の銀行が対応したかどうかを見てみてほしい。わたしと同じように、知らないうちに入口が開いているかもしれない。
国民年金保険料は全額が社会保険料控除になります。クレカや銀行と連携しておけば、払った記録がそのまま確定申告に乗ります。わたしも3年使い続けている定番ソフトです。
freee会計の公式サイトを見る →7. まとめ
- 国民年金の第1号被保険者の最終納付率は85.6%で過去最高。13年連続で上昇し、公的年金の加入者全体でみた未納は約1%
- でも第1号1,357万人のうち、保険料を納めているのは695万人(51%)。全額免除と猶予で595万人、4割超。納付率の分母には入っていない
- 全額免除の期間の年金は半分、猶予はゼロ。10年以内なら追納できる
- 自動引き落としは伸び悩みどころか口座振替は3年で減少、クレカも減りに転じた。伸びているのは現金・クレカの2年前納(17万件→58万件)とスマホの決済アプリ
- わたしはクレカで2年前納。忘れない仕組みにしたかったが、銀行が口座振替に対応していなかった。意思の問題ではなく入口がなかった
- 調べたらドコモの銀行(旧住信SBI)は2026年6月から国民年金の口座振替に対応していた。次の2年前納から口座振替に替える。住民税・国保はPayPayのまま
・原典:厚生労働省「令和7年度の国民年金の加入・保険料納付状況を公表します」(2026年7月24日)。納付率の推移、第1号被保険者の内訳、納め方ごとの利用状況はすべてここから。第1号の内訳(雇用者38%・無職34%・自営25%)はニッセイの記事による
・前納の割引額:厚生労働省「令和8年度における国民年金保険料の前納額について」(2026年1月23日)
・2年前納の申込期限:日本年金機構「口座振替・クレジットカード納付での前納に、新たな振替方法・納付方法を追加しました」
・免除・猶予と年金額:日本年金機構「国民年金保険料の免除制度・納付猶予制度」
・銀行の対応:住信SBIネット銀行「社会保険料・国民年金保険料の口座振替受付を開始」(2026年6月1日。同社は8月3日にドコモSMTBネット銀行へ商号変更)/日本年金機構「口座振替でのお支払い」(「一部のネット銀行では口座振替のご利用はできません」)
・セイラーの言葉:RNZ「Richard Thaler: the nudge economist」(2018年3月25日)




