iDeCoを放置していた3年間。控除は金額ではなく年数で決まると知って、最低額で再開する
会社を辞めてから3年、iDeCoを放置していた。
正確に言うと、企業型DCからiDeCoへの移換だけは辞めたときに済ませて、そのあと掛金は1円も出していない。中身はeMAXIS Slim 米国株式(S&P500)に全部入れたまま、ずっと触っていなかった。
放置でいいと思っていた。理由は3つある。
いまも、この3つの判断が間違っていたとは思っていない。
でも先日、動画でiDeCoの受け取り方が解説されているのを見て、「受け取るときに税金がかかる」という話が引っかかった。増えるところばかり見ていて、出すところをちゃんと考えていなかった。
そこで数字を全部並べてみたら、放置していることのコストが、思っていたものと違った。
1. 放置でも、手数料は出ていく
まず手数料の話から。かかること自体は知っていた。金額も小さい。ただ結局そこが問題ではなかった、というのがこの章の話だ。
iDeCoは掛金を止めても口座は残る。この状態を運用指図者という。掛金は出さず、これまでの資産の運用だけを続ける立場だ。
このとき、信託銀行への手数料だけは払い続ける。
年792円。金額としては小さい。ただ、これを残高で割ると別の顔が見える。
信託報酬0.08%の商品を選んだつもりでいたのに、口座の維持費を足すと実質0.11%。ちょっとモヤっとした。
とはいえ792円は残高に関係なく定額なので、残高が増えれば率としては薄まる。再開すれば手数料は年2,232円になるので、率としてはむしろ上がる。だから「率が高いから損」という話ではない。
引っかかったのは、金額ではなく中身のほうだ。この792円を払い続けながら、iDeCo最大のメリットである所得控除は1円も使えていない。払うだけ払って、もらうものをもらっていない状態が3年続いていた。
ここまでは「まあ、もったいないな」くらいの話だ。本題はここからだった。
2. 受け取るときに、税金がかかる
iDeCoは60歳以降に受け取る。受け取り方は3つある。
わたしが考えているのは①の一時金だ。まとめて受け取って、そのお金で高配当株を買うか、生活費に回すかを決めたい。
このとき使えるのが退職所得控除で、ここに入る金額までは税金がかからない。
問題は、その枠がどう決まるかだった。
3. 控除は金額ではなく、年数で決まる
ここをちゃんと理解していなかった。
退職所得控除の枠は、いくら積み立てたかでは決まらない。何年やったかで決まる。
つまり月5,000円でも月68,000円でも、枠の増え方は同じだ。年数さえ積めば、枠は勝手に伸びる。
4. 放置している間、年数は1年も増えていなかった
そしてここが、今回いちばん驚いたところだ。
年数として数えられるのは掛金を出していた期間だけ。掛金を止めている運用指図者の期間は、1日も入らない。
確定拠出年金法では「加入者」と「運用指図者」は別の身分で、控除の年数に入るのは加入者だった期間のほうだ。
ややこしいのは、iDeCoの明細に載っている年数が、これとは別のものだという点だ。「通算加入者等期間」という名前で、こちらは何歳から受け取れるかを判定するための年数になる。止めていた期間も入るので、控除の年数だと思って見ると枠を多く見積もってしまう。
わたしの年数は、大学を出て入社した2014年4月から、会社を辞めた2023年3月までの9年で止まっている。企業型DCで掛金を出していた期間はそのまま引き継がれるので、9年ぶんはちゃんと残っている。
ただしそこから先は、3年たっても9年のままだ。残高は増えているのに、枠だけが止まっている。
これが、わたしが把握できていなかったことだった。
これは、会社員のままだと気づかない
掛金が自動で続くので、年数は放っておいても積み上がるからだ。企業型DCなら会社が出してくれるし、iDeCoでも口座振替が毎月走る。止まる理由がない。
止まるのは、会社を辞めたときだ。フリーランスや自営業になった人、収入が落ちて拠出をやめた人、専業主婦・主夫になって所得控除の意味がなくなった人。
なお、収入が落ちたときに拠出を止めるのは、家計を守るためのまっとうな判断だ。手元のお金を確保するほうが先という場面はふつうにある。年数が止まるのは、その代償として受け入れていいものだと思う。
ただし最後の場合、年数を止めないために再開するのが得とはかぎらない。所得税や住民税を払っていなければ、所得控除は1円も戻らないので、拠出しても増えるのは手数料だけになる。このあとの計算は、所得控除が効いている人か、放置したままでも60歳時点の残高が控除の枠を超える人の話だと思ってほしい。
とくにフリーランスには、もうひとつ事情がある。国民年金保険料の免除や猶予を受けていると、iDeCoに加入できない。拠出中に免除が承認されると、その時点で加入資格を失って運用指図者になる。いちばん苦しいときに、年数が止まるしくみだ。
では会社員なら安心かというと、そうでもない。退職金とiDeCoで期間が重なると、控除の枠が削られることがあるからだ。ここはわたし自身にも関わるので、6章で書く。
5. わたしの場合、いくら変わるのか
数字にする。60歳まではあと26年ある。
360万円が1,850万円になる。5倍だ。しかも増やすのに必要なのは金額ではなく年数なので、月5,000円の最低額でこの差がつく。
ただしこの35年は、26年間ずっと拠出を続けられたらの話だ。国民年金の被保険者でなくなれば加入資格は消えるし、4章で書いた保険料の免除でも止まる。それ以前に、26年は自分で止めない自信を持てるほど短くない。1年止まれば枠は70万円減る。表の1,850万円は、うまくいったときの上限として見てほしい。
では、実際の税金はどう変わるか。いまの271万円と、再開した場合の積立を、それぞれ年5%と年7%で回した場合で計算した。
年5%なら、51万円が0円になる。年7%なら129万円の差だ。
そして忘れてはいけないのが、拠出している26年間はずっと所得控除が使えるということ。いまのわたしは所得税20%+住民税10%で30%なので、年6万円の拠出で18,000円戻る。増える手数料は年1,440円だから、出口の税金を抜きにしても、最低額で十分に取り返せる。
手数料の増加は26年で37,440円。それを差し引いても、94万円のプラスになる。ただしこれは税率30%が26年続いた場合だ。所得控除がまったく効かなくなっても475,366円は残るので、幅で言えば47万〜94万円。
この下限は、運用しだいで痩せる。47万円は、放置した271万円が年5%で966万円まで育った場合の数字だ。伸びが鈍いほど、出口の税金減も小さくなる。
ここでひとつ、はっきりさせておきたい。この94万円は「iDeCoを放置した場合」との比較であって、「同じ156万円をNISAに入れた場合」との比較ではない。NISAなら出口の税金はもともとゼロで、途中で引き出すこともできる。
ただ、ひとつだけNISAでは代えがきかないものがある。すでにiDeCoに入っている271万円の出口だ。NISAに156万円を入れても、放置したiDeCoの512,806円は消えない。一時金で受け取るかぎり、この枠を開けられるのはiDeCoの年数を伸ばすことだけだ。所得控除がゼロでも47万円が残るのは、そのためでもある。
裏を返せば、出口の効果があるのは「放置したままでも、60歳時点の残高が自分の控除の枠(わたしなら9年ぶんの360万円)を超える人」だけだ。超えなければ出口で減る税金はゼロになり、残るのは増えた手数料37,440円だけ。そのうえ所得控除も効かないなら、差引はマイナスになる。iDeCoをまだ持っていない人や、枠に届かない人は、所得控除が効くかどうかだけで判断していい。
6. 同じ退職が、入口では損で出口では得だった
もうひとつ、調べていて気づいたことがある。
退職金を先に受け取っていると、iDeCoを受け取るときに控除が調整される。同じ期間で二重に控除を使わせない、というしくみだ。
調整の対象になるのは、iDeCoを受け取る年の前年以前19年内に退職金を受け取っている場合。
わたしは2023年3月に会社を辞めて、退職金を受け取っている。しかも企業型DCの9年間は、その退職金の勤続期間とまるごと重なっている。
60歳まで待てば、調整はかからない。控除の枠をまるごと使える。
逆に言えば、退職金を受け取ってすぐの時期にiDeCoを受け取る人ほど損をする。期間が重なっているぶん、控除がほとんど使えないからだ。50代で会社を辞めた人だと、この19年が最後まで残ってしまう。
2023年に会社を辞めたことが、29年後の税金で効いてくる。当時はそんなことを考えていなかった。
同じ退職が、入口では年数を止めた原因で、出口では調整を避けてくれる理由になっている。辞めた時期しだいで、どちらに転ぶかが変わる。
会社員のまま定年まで働く人は、事情が違う
ここは大事なので書いておきたい。退職所得控除の年数は、退職金の勤続年数とiDeCoの加入年数を足し算するわけではない。同じ時期に重なっている期間は、一度しか数えられない。同じ年に両方を受け取る場合は、長いほうの年数が採用される。
つまり会社に勤めながらiDeCoを続けても、その年数はすでに勤続年数として数えられているので、枠がそのぶん増えるとはかぎらない。年数が効いてくるのは、わたしのように勤続年数のほうが止まったあとも加入を続ける場合だ。会社員のまま定年まで働く予定の人は、この記事の51万円をそのまま自分に当てはめないでほしい。
なお、出口のルールは最近も動いている。2026年1月から、iDeCoを先に一時金で受け取り、あとから退職金を受け取る場合のルールが変わった。以前はiDeCoの受け取りから5年あければ退職金の控除をまるごと使えたが、いまは10年あける必要がある。出口の設計は、以前より窮屈になっている。
そして、ここがわたしの計算のいちばん弱いところでもある。26年先の税金を、いまのルールで計算している。退職所得控除まわりは数年おきに議論になっていて、実際にいま窮屈になったばかりだ。26年後に同じ枠が残っている保証はない。
7. それでも、主役はNISAのまま
ここまで書くと「iDeCoをもっとやればいいのに」と読めるかもしれない。でも増やす場所としては、NISAのほうがいいと思っている。
ここまで並べた手数料と控除の計算は、「払う額に見合うか」だけの話だ。そのお金を60歳まで預けていいかは、まったく別の問いになる。手元の現金を厚く持つと決めているなら、口座を持ったまま拠出しない状態を続けるのも筋の通った選び方だと思う。わたしが再開するのは、たまたま生活の余力が先にあるからにすぎない。
そのうえで今回やるのは、金額を増やすことではなく、年数を止めないことだ。
ただし2027年1月から、手数料の数え方が「拠出1回あたり」から「拠出した月数ぶん」に変わる。年1回でも12か月ぶんの1,440円がかかる。控除は1,500円(税率30%の場合)なので、ほぼトントンだ。
減らしても得をしない。だから月5,000円にする。
iDeCoを「増やす箱」ではなく「控除を使うための箱」として、最低額で持っておく。これがいまの結論だ。
なお2026年12月に制度が変わる。加入できる年齢が65歳未満から70歳未満に広がり、フリーランスの上限も月68,000円から75,000円に上がる。70歳まで続ければ年数は45年になり、控除の枠は2,550万円まで伸びる計算だ。
ただし加入には国民年金の被保険者であることなどの条件がつく。いまの時点では捕らぬ狸なので、制度が動いてから改めて調べたい。
急いで決めなくていい話ではある。ただ年数だけは、待っている間も増えない。それがわかったのが、今回いちばんの収穫だった。
最後に書いておくと、これはすでに口座を持っているわたしの話だ。まだ持っていない人にとっては、年数を積むために口座を開くこと自体が「60歳まで引き出せないお金をつくる」という決断になる。わたしも、いまゼロから始めるかと聞かれたら即答できない。
まとめ
- 会社を辞めてから3年、iDeCoを271万円のまま放置していた。勝手に増えるし、NISAを埋めるほうが先だと思っていたから
- 放置していても年792円かかる。残高で割ると0.029%で、信託報酬0.0814%と合わせて実質0.111%。しかも所得控除は1円も使えていない
- ただし本当の問題は手数料ではなかった。退職所得控除は金額ではなく年数で決まる(20年以下なら40万円×年数、20年超なら800万円+70万円×超過年数)
- そして掛金を止めている期間は、年数に1日も入らない。確定拠出年金法上、加入者と運用指図者は別の身分だから
- 明細に載っている「通算加入者等期間」は受給開始年齢の判定用で、控除の年数とは別物。止めていた期間も含まれるので、そのまま使うと枠を多く見積もる
- わたしの年数は2014年4月から2023年3月までの9年で止まっている。控除の枠は360万円だが、月5,000円で再開して60歳まで続ければ35年・1,850万円になる(26年間ずっと拠出できたら、という前提つき)
- 60歳で一時金として受け取ったときの税金は、年5%で回した場合放置なら512,806円、再開すれば0円。年7%なら129万円の差
- 26年ぶんで見ると、拠出156万円に対して所得控除468,000円+出口の税金減512,806円−手数料37,440円=約94万円のプラス。所得控除は税率30%が26年続いた場合の上限に近い数字だが、運用が年5%なら控除がまったく効かなくても475,366円は残る
- つまり幅で言えば47万〜94万円。ただし下限の47万円は放置した271万円が966万円まで育つ前提で、伸びが鈍って控除の枠に届かなければ出口の効果は消え、所得控除も効かなければ差引はマイナスになる
- 同じ退職が、入口では損で出口では得だった。9年で年数が止まった原因でありながら、退職金との重複調整(前年以前19年内)からは外れる。2042年を過ぎればいいので、60歳(2052年)なら調整はかからない
- 会社員のまま定年まで働く人は事情が違う。退職金の勤続年数とiDeCoの加入年数は足し算にならず、同じ年に受け取るなら長いほうが採用される。勤めながら続けても枠が増えるとはかぎらないので、この記事の51万円をそのまま当てはめないでほしい
- それでも主役はNISAのまま。60歳まで引き出せず、途中でやめて解約することも原則できない。iDeCoは増やす箱ではなく、控除を使うための箱として最低額で持つ
- この94万円は「放置した場合」との比較で、同じ156万円をNISAに入れた場合との比較ではない。ただしすでにある271万円の出口は、NISAでは開けられない。NISAに入れても放置したiDeCoの512,806円は消えないからだ。逆に言えばこれは放置したままでも60歳時点の残高が自分の控除の枠(わたしなら360万円)を超える人の話で、そうでない人は所得控除が効くかどうかだけで判断していい
- 2026年12月の改正で加入は70歳未満まで、フリーランスの上限は月75,000円に。70歳まで続けられれば控除の枠は2,550万円になるが、国民年金の被保険者であることなどの条件がつく
- ただしこれはすでに口座を持っていて、生活に余力があるわたしの話。まだ持っていない人や、持ったまま止めておくと決めた人には、年数を積むこと自体が「60歳まで引き出せないお金をつくる」という決断になる。わたしも、いまゼロから始めるかと聞かれたら即答できない
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