iDeCoで金融機関の「おすすめ」が解禁へ。ありがたい話? わたしは少し身構えている
厚生労働省が、2027年度にも、iDeCo(個人型確定拠出年金)の加入者に対して、金融機関が個別の運用商品を推奨・助言できるようにする 検討に入ったと報じられた。いまは法令で事実上禁じられていることだ。
ニュースの見出しだけ読むと「プロが教えてくれるなんて、ありがたい」と思うかもしれない。でも、わたしの第一印象は正直、「ん? それ、大丈夫?」 だった。助言してくれるのは、中立な誰かではなく、商品を売る側の銀行や証券会社 だからだ。
とはいえ、疑いだけで書くのはフェアじゃない。この改正が解決しようとしている問題は、実は本物だ。今日は 「ありがたい面」と「身構えるべき面」の両方 を調べてみた。
1. 何が決まりそうなのか
ポイントは、いまの禁止ルールには理由があるということ。口座を管理する金融機関が特定の商品を勧められないのは、「売る側の都合で商品を選ばせない」ための中立性のルール だ。今回の検討は、そのガードレールを緩める話でもある。
2. 建前は正しい:「眠ったままのiDeCo」は本当にある
まず、フェアに「ありがたい面」から。この改正が救おうとしている問題は、データではっきり確認できる。
「イデコを始めたはいいけれど、何を選べばいいか分からなくて、元本確保型のままにしてある」。そういう人は、実際にたくさんいる。せっかくの税制優遇つきの箱に、金利ゼロのお金が1.7兆円眠っている——これは確かにもったいないし、放置している人に助言が届けば救われる、という理屈は成り立つ。厚労省の狙いそのものは、間違っていないと思う。
3. それでも、わたしが身構える3つの理由
問題は「助言が必要か」ではない。「誰が助言するのか」 だ。
理由①:助言する人が、売る人でもある
金融機関の「おすすめ」も、同じ構造になりやすい。あなたに最適な商品ではなく、その会社が扱っていて、その会社が儲かる商品の中から答えが選ばれる可能性がある。
銀行が悪者だという話ではない。構造の話 だ。助言する人の収入が「何を売るか」で決まる限り、おすすめは中立にはなりにくい。
理由②:「無料の助言」の代金は、商品の手数料に含まれている
窓口の相談はたいてい無料だ。でも、金融機関も商売である以上、タダ働きはしない。無料相談の原資は、すすめた商品の手数料(信託報酬など) から出てくる。つまり「無料のおすすめ」ほど、手数料の高い商品に誘導する動機 が構造的に生まれやすい。
そして、iDeCoは60歳まで引き出せない 超長期の箱 だから、手数料の差は複利でとんでもない差になる。
信託報酬が年0.1%なら、手取りの成長は年4.9% → 約1,850万円
信託報酬が年1.5%なら、手取りの成長は年3.5% → 約1,460万円
中身がほぼ同じでも、手数料の差だけで老後資金に約400万円の差がつく計算になる(あくまで条件をそろえた架空の試算)。
理由③:窓口販売には「前科」がある
これは意地悪ではなく、歴史の話。分配のたびに元本を削る毎月分配型投信(タコ足分配)、コストが分かりにくい外貨建て保険、高リスクな仕組債。「窓口で勧められるまま買ったら、売る側に有利な商品だった」 という問題は繰り返されてきて、金融庁が「顧客本位の業務運営」をわざわざ掲げて是正を求めてきたほどだ。
その販売チャネルに、60歳まで降りられないiDeCoの「おすすめ」権限を渡す。うまく設計しないと何が起きるかは、想像がついてしまう。
4. 読者のための護身術3か条
制度がどう転んでも、自分の身は自分で守れる。窓口で「おすすめ」される時代に備えて、3つだけ。スクショ推奨。
| 順番 | やること | ポイント |
|---|---|---|
| ① まず見る | 信託報酬(年◯%)をチェック | 年0.1〜0.2%台以下か? 年1%超は別世界(高すぎる)。パンフレットに必ず書いてあるので要チェック |
| ② 持ち帰る | その場では決めず、持ち帰る | 相手は説明のプロ。その場で納得させられる前提で、家で自分で調べ、家族や信頼できる人にも相談してから決める。急かされたら、それ自体が警戒サイン |
| ③ 迷ったら | 低コストのインデックス投信を選ぶ | わたしならオルカン(eMAXIS Slim 全世界株式)か、それに近い全世界株式型・S&P500型の低コスト投信(ラインナップは金融機関ごとに違う)。自分で選べれば、助言はいらない |
3つ目が本質だと思う。このブログを読んでくれているような人は、たぶんもう大丈夫。わたしが心配なのは、「よく分からないから」と元本確保型のままにしていたり、なんとなくで選んだ高い信託報酬の商品を持ち続けていたりする、わたしと同じ現役世代 だ。会社の企業型DCで、入社時の初期設定のまま何年も放置している人も多いと聞く(※2018年の制度改正で、商品を選ばない人の掛金は「指定運用方法」というあらかじめ決められた商品で自動運用される仕組みができたけれど、その指定先が定期預金などの元本確保型になっている企業も多いとされる)。この記事が、職場や友だちとの話のタネになったらうれしい。
5. わたしの結論:良薬にも毒にもなる。設計次第
調べ終えての結論は、「反対」でも「賛成」でもなく、「設計次第で良薬にも毒にもなる」 だ。
元本確保型に眠る1.7兆円問題は本物で、助言がそれを動かせるなら価値があるかもしれない。でも、「すすめる人が、売る人でもある」という問題をそのままにして解禁したら、どうなるか。元本確保型で眠っていたお金が、こんどは 手数料の高い商品へ誘導されるだけ、ということになりかねない。それでは眠りから覚めたのではなく、寝る場所が変わっただけ だ。しかも新しい寝床は宿代(手数料)が高い。下手をすると、眠っていたときより損をする人さえ出てくる。
カギは2026年秋の有識者検討会で、どんなガードレールが入るか(手数料の開示義務、推奨理由の説明義務、独立した助言の仕組みなど)。東証改革と同じで、制度の変わり目は個人投資家に直接関係する。ここも続きをウォッチしていきたい。
ちなみにわたし自身のiDeCoは、全額eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)。新しく買い足すこともなく、ただ放置している。おすすめは、いらない。
6. まとめ
- 厚労省が 2027年度にもiDeCoへの金融機関の商品推奨・助言を解禁 する検討へ(2026年秋に有識者検討会、企業型DCも対象の方向)
- 狙いは本物の問題への対処。iDeCo資産の約25%・約1.7兆円が金利ほぼゼロの「元本確保型」に眠り、インフレで実質目減りしている(60歳以上では42%)
- それでも身構える理由は3つ。①助言する人が売る人でもある構造(散髪が必要かを床屋さんに聞かない)、②「無料の助言」の代金は商品の手数料に含まれる(信託報酬0.1%と1.5%では30年で約400万円の差)、③窓口販売の歴史(毎月分配型・外貨建て保険・仕組債)
- 護身術は3か条。信託報酬をまず見る/その場で決めず持ち帰って調べる/迷ったら低コストのインデックス
- 結論は「設計次第で良薬にも毒にもなる」。2026年秋の検討会のガードレール設計をウォッチ
・元本確保型の比率:金融庁の資料にもとづく報道(Finasee)、年代別の資産構成(Finasee)
・手数料の試算は、条件をそろえた架空の計算です
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