ウォルマートが1日で9%安。でも売られたのは業績ではなく、膨らみすぎた期待だった
「米ウォルマート急落が消費株揺らす」というニュースを読んだ。
世界でいちばん売上の大きい小売業の株が、1日で9%下げたという。消費が弱っているのではないか、と受け止められたらしい。
でも、と思った。景気が悪くなっても、食費はゼロにならない。スーパーの株が1日で9%も動くほど、人の行動は変わるだろうか。
調べてみたら、2つのことが分かった。ウォルマートは赤字でも減収でもなかった。そして日本の食品株は、その日むしろ上がっていた。
1. その日、実際に動いたもの
まず、8月21日の数字を並べる。
食品は1.02%上がっていた。小売は0.94%下げているけれど、TOPIXは0.29%のプラスだ。
つまり、市場全体としては上がっている。下げたのは日経平均のほうだった。
ここで、おさらいをひとつ。日経平均とTOPIXは、作り方が違う。
TOPIX 会社の大きさ(時価総額)で重みをつける。株価の高さは関係ない
日経平均は株価の高い銘柄、いわゆる値がさ株の動きに引っぱられる。だから日経が下げてTOPIXが上がる日が出てくる。
「消費株が揺らいだ」という見出しの日に、日本の食品株はむしろ買われていた。
2. ウォルマートは、赤字だったわけではない
その前に、ウォルマートがどういう会社かを押さえておく。
いまは19か国に10,900店。従業員は約210万人で、世界最大の民間の雇い主
年間の売上高は7,131億ドル(2026年1月期)。売上で世界最大の会社
日本では西友を持っていた(2021年に大半を売却し、残り15%も2025年7月に手放している)
食品も日用品も薬も売る、生活のいちばん近くにある店だ。景気が悪くなっても人が来ると思われている、その代表だ。
だからこそ、そこが売られたことがニュースになった。
では、何が悪かったのか。
8月20日、株価は9.15%安の103.84ドルになった。ところが決算の中身を見ると、こうだった。
利益も売上も、予想を上回っている。減収でも赤字でもない。
売られた理由は、+2.6%という伸びの遅さだった。これは6年で最も遅いペースであり、予想の+3.7%にも届いていない。
減ったから売られたのではなく、伸びが鈍ったから売られた。ここが、いちばん大事なところだと思う。
3. 数量は、減っていなかった
さらに中身を割ってみる。
客単価 +1.1% 1人あたりの買う額も増えている
どちらも増えている。人は変わらず来ているし、買う額も減っていない。
伸びが鈍った理由として挙がっているのは、薬局部門のデフレ(政府の薬価引き下げ交渉の影響)と、1万1,000件を超える値下げだった。関税の還付金29億ドルを受け取って、その多くを値下げに回している。
つまり自分から値段を下げているぶんも入っている。
ここで、ひとつ引っかかった。値下げの原資は還付金だったのなら、もらったお金で安くしているだけで、会社の儲けはそれほど傷まないのではないか。
実際、1株利益は0.81ドルで、予想の0.74ドルを上回っている。売上高も予想より多い。
傷んだのは売上の伸びのほうだ。値段を下げれば、同じ数だけ売っても売上は小さくなる。既存店売上は売上を見る指標なので、そこに出る。
利益は守られていて、伸びだけが鈍く見えた。それでも株は9%下げている。
日本の数字でも、客足は減っていない。外食の2025年は、売上が前年の107.3%で、そのうち客単価が104.3%、客数が102.9%。伸びが大きいのは客単価のほうで、値上げが売上を押し上げている。
日経の記事が書いていたのは、アメリカの弱さが日本にも及ぶのではないかという心配だった。少なくともここまでの数字では、客足も客単価も増えていて、影響が出ているようには見えない。
では、そもそもアメリカの小売と日本の小売は、どれくらい一緒に動いているのだろう。1年、5年、10年で調べてみた。
+1に近いほど同じ向きに動き、0に近いほど関係がない。どの期間で見ても0.1〜0.3だった。
比べる相手があると分かりやすい。前の記事で調べたBNDと米国債は+0.98で、ほぼ同じものと言っていい水準だった。0.1〜0.3は、それとはまったく違う。ゆるくつられることはあっても、連動とは呼べない。
つまり、アメリカの小売が下げたから日本の小売も下げるという関係は、10年ぶんの数字にしてもほとんど出てこなかった。8月21日に食品が上がっていたのは、その日だけの例外ではなさそうだった。
4. ディフェンシブは「減らない」のではない
ここで、ディフェンシブという言葉を整理しておきたい。
食品や医薬品のように、不景気に強い業種を、ディフェンシブと呼ぶ。守りの株、という意味だ。
ただ、これは減らないという意味ではない。減り方が小さいという意味だ。
今回の下げで測ってみた。8月14日の終値から、8月19日の終値までだ。
TOPIXが4.27%下げたとき、食品と小売は半分ちょっとの下げで済んでいる。ちゃんとクッションになっている。
ただし、これは数%の下げだから効いた。8月に18年ぶんを調べたとき、暴落の場面では落ちるときは一緒に落ちるという結果になった。守りは効くけれど、効き方には限度がある。
そして、もうひとつ大事なことがある。
5. 代わりに、伸び方も小さい
守りが効くというのは、上がるときも置いていかれるということでもある。
前に18年ぶんを測った記事で、5年のリターンはこうなっていた。
TOPIX +137.4%
ディフェンシブ +83.8%
TOPIXが137%増えた5年で、ディフェンシブは84%にとどまった。半分ちょっとしか増えていない。
下げのときに半分しか下げないかわりに、上げのときも半分しか上がらない。片方だけを取ることはできない。
「守りの株」という呼び方は、減らない株のように聞こえる。でも実際は、上下の振れ幅が小さい株という意味だった。
6. では、なぜ9%も下げたのか
ここまで、下げた理由は「伸びが予想に届かなかったから」と書いてきた。でも、まだ引っかかっている。
予想との差は、1.1ポイントしかない。予想が3.7%増で、実際が2.6%増だった。それで会社の値段が1日で9%消えるのは、釣り合っていない気がする。
決算全体は、むしろ良かった。調整後の1株利益は前年の0.68ドルから0.81ドルへ増えている。値下げの原資になった還付金もあって、調整後の営業利益は17.4%増。通期の売上見通しは引き上げている。
そこで、決算ではなく株価のほうを見てみた。
3年で、株が約2倍になっていた。同じ守りの側にいるはずの生活必需品ETFが17.6%なので、まるで別の動きだ。
5章で見たとおり、ディフェンシブの特徴は伸び方が小さいことだった。ウォルマートは、その特徴から外れていた。
値段のつき方でも、同じことが出る。
スーパーの株に、成長株の値段がついていた。
ここで、大事な原則をもう一度置いておきたい。株価は、いまの利益ではなく、これからの期待で決まる。PERは、その期待がどれくらい大きいかを表す数字だ。キオクシアの決算で買うのをやめた話でも、同じところでつまずいた。
40倍という値段は、これからも伸び続けるという前提の上に乗っている。だから、伸びが少し鈍っただけで、値段の前提そのものが崩れる。
つまり、こういうことだと思った。
伸びが予想に届かなかったから下げたのではない。届かなかった伸びが、40倍という値段の根拠を崩したから下げた。
同じ1.1ポイントの未達でも、16.7倍で買われている会社なら、ここまでは下げなかったはずだ。
その日は市場全体も下げていて、ダウは703ドル安(1.32%安)、金利も上がっていた。ただ、ウォルマートの9.15%は桁が違う。市場につられただけではなかった。
この下げで、ウォルマートの株価は5月19日の高値134.20ドルから2割超低い水準になった。1年前とほぼ同じところまで戻っている。3年で2倍になったぶんの、一部を返したことになる。
7. ディフェンシブが、ディフェンシブとは限らない
今回いちばんの学びは、ここだった。
ウォルマートは食品も日用品も薬も売っている。業種で分ければ、まちがいなくディフェンシブに入る。「景気が悪くても人が来る店」の代表として、この記事もそこから始めた。
でも6章で見たとおり、値動きのほうはディフェンシブではなかった。1日で9%下げたその日、米国の生活必需品ETFは1.41%しか下げていない。同じ守りの側にいるはずなのに、6倍以上の差がついた。
つまり、ディフェンシブというのは業種につく名前で、その株の値動きを保証するものではない。
日本の側でも、同じことが出ていた。1章で見た8月21日、食品は+1.02%で、小売は−0.94%。どちらも生活に近い業種なのに、動きは逆になっている。
小売と名前がついていても、ディフェンシブとはかぎらない。
これは、わたしにとって他人事ではなかった。18年ぶんを測った記事で、わたしはディフェンシブを小売・食品・医薬品・電力ガスの4業種と決めて数えている。小売を、守りの側に入れていた。
そのとき出たのが、日本の高配当株117銘柄のうち景気敏感が74.3%で、ディフェンシブは25.7%だった。
同じ分け方でウォルマートを測れば、迷わず守りの側に入る。でも今回の値動きは、守りではなかった。業種で分けるというやり方に、そこまでの力はない。
なぜ持っているのかを知ること
ピーター・リンチ『ピーター・リンチの株で勝つ』(1989年)
リンチは13年間、年平均29.2%で運用した人だ。1ドルが13年で約28ドルになった計算になる。その人が、いちばん基本のところに置いたのが、この一文だ。
短い文だけれど、2つのことを言っている。
前半の「自分が何を持っているかを知る」は、会社の名前や業種を知っていることではない。その会社がどうやってお金を稼いでいるかを、自分の言葉で言えるかどうかだ。
後半の「なぜ持っているのかを知る」のほうが、じつは効く。理由がはっきりしていれば、株価が下がったときに、売るかどうかを自分で決められるからだ。
たとえば配当がほしくて買った株なら、株価が下がっても買った理由のほうは壊れていない。だから持っていられる。でも「これからも伸びるから」で買っていたなら、伸びが止まった時点で理由そのものが消える。同じ下げでも、意味がまるで違う。
今回のウォルマートは、後者だった。ディフェンシブだから買われていたのではなく、成長を期待されて買われていた。わたしはそう解釈した。だから伸びが鈍っただけで、9%動いた。
ウォルマートは小売としては特別なのかもしれない。なにしろ売上も従業員も世界最大だ。それを「ディフェンシブだから」でひとくくりにするには、無理があったのだと思う。
正直、わたしはウォルマートについてぼんやりしたイメージしか持っていなかった。よくあるスーパーの大手なのね、ぐらいの感じだ。それでもS&P500やオルカンを通して、ちょっとだけ株主になっている。株主なのに、さっきのリンチの一文が、まったくできていなかったことになる。
調べて考えるのは好きな作業なので、気になったものはこれからも自分で確かめてみたい。ただ、そこを省エネできるのがインデックス投資のいいところでもある。
だから、インデックスで空いた時間を、持っている企業の分析に使う。順序が逆かもしれないが、そういうスタイルも色々な発見があって面白いかもしれない。
わたしは日本の高配当株を117銘柄持っています。単元未満株なら1株から買えるので、少しずつ業種を散らしていけます。メイン口座はSBI証券で、8年以上使っています。
SBI証券の公式サイトを見る →8. まとめ
- 「消費株が揺らいだ」8月21日、日本の食品株は+1.02%。TOPIXも+0.29%で、市場全体は上がっていた
- ウォルマートは9.15%安。利益も売上も予想超え。売られたのは既存店売上+2.6%という伸びの遅さ
- 中身は客数+1.5%、客単価+1.1%。数量は減っていない。薬局のデフレと1万1,000件超の値下げによる
- 日米の小売の相関は、1年でも10年でも0.1〜0.3。アメリカが下げたから日本も、とはならない
- 9%下げたのは株価がPER約40倍にいたから。業種の真ん中は16.7倍。業種はディフェンシブでも、値動きはそうとは限らない
- ディフェンシブは減らないのではなく減り方が小さい。代わりに伸び方も小さく、5年ではTOPIX+137.4%に対し+83.8%
- わたしの分け方でもウォルマートは守りの側に入る。何を持っていて、なぜ持っているのかを先入観なしで見たい
・ウォルマートの会社概要:Wikipedia「ウォルマート」と同社の開示(2026年1月期の売上高7,131億ドル、19か国10,900店、従業員約210万人)
・ウォルマートの決算数値:Investing.com「【決算速報】ウォルマート、売上高は予想を上回り、利益は予想を上回る結果に」(2026年8月20日)
・ウォルマートの決算:株探「ウォルマート、決算受け下落 米既存店売上高の予想未達で減速への懸念強まる」/Retail TouchPoints「Walmart Sales Growth Slows in Q2 as the Company Bets on Price Rollbacks」
・日本の外食の客数・客単価:日本フードサービス協会「外食産業市場動向調査 2025年 年間結果」
・株価と下落率:Yahoo Finance の終値からわたしが計算しました(2026年8月21日終値まで)。TOPIXは1348、食品は1617、小売は1630、日経平均は^N225
・関税の還付金29億ドル:CNN「Walmart promises price cuts after $2.9 billion tariff refund」
・ピーター・リンチの言葉:Peter Lynch『One Up on Wall Street』(1989)。邦題『ピーター・リンチの株で勝つ』
・PERと業種の水準:GuruFocus「WMT PE Ratio (TTM)」/stockanalysis.com「Walmart Statistics & Valuation」
・日米の相関と3年の値上がり率:Yahoo Finance の終値からわたしが計算しました
・5年のリターンと74.3%:前に自分で測った記事の数字です




