東芝は上場を守るために株の3分の1を海外ファンドに渡した。6年後、その株主を追い出すために上場をやめた
東芝の元CFOがキオクシアの売却について語った記事を読んだ。
その記事は「頼ってはいけない証券会社に任せてしまった」という話が柱になっていた。でもわたしが気になったのは、そこではない。なぜ東芝に、物言う株主がそんなに入ることになったのかのほうだった。
調べてみたら、東芝は、自分から招き寄せていた。しかも、上場を守るために。
1. 期限が決まっていた
まず、2017年の東芝がどういう状態だったかを押さえておく。
2017年 米原発子会社ウェスチングハウスの破綻で1兆円規模の損失
2017年3月末 5,529億円の債務超過
そして 2期連続で債務超過なら、上場廃止
債務超過というのは、持っている資産を全部売っても、借金を返しきれない状態のことだ。
ここが今回いちばん大事なところだ。2018年3月末までにこれを解消しないと、上場廃止になる。期限がはっきり決まっていた。
会社を立て直す方法をゆっくり考える、という話ではない。あと1年で、資産が借金を上回る状態まで戻さないといけない。
2. 本来の解決策が、間に合わなかった
東芝が本来やろうとしていたのは、メモリ事業を売ることだった。いちばん儲かっている事業を、約2兆円で手放す。これなら債務超過は消える。
ただし完全に手放したわけではない。東芝は売却と同時に3,505億円を出し直して、議決権の40.2%を持ち続けた。売った相手に、もう一度出資し直した形になる。
ところが、間に合わなかった。
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東芝メモリの場合、中国の承認が下りたのは2018年5月
売却が完了したのは2018年6月1日。3月末に間に合っていない
期限は3月末、売却の完了は6月1日。2か月ずれた。
だから東芝は、間に合う手段を探すことになる。それが増資だった。
3. 6,000億円で、何を渡したのか
2017年12月、東芝は6,000億円の第三者割当増資を実行した。
ここで53.8%という数字が何を意味するのか、少し補っておく。増資は、いまいる株主の持ち分を薄めるからだ。
そこに54株を新しく出すと、全部で154株になる
自分の株は1株のままなのに、持ち分は0.65%に減る
何もしていないのに、取り分が約65%になる
議決権も配当も、この割合で決まる。だから株数が増えるというのは、いまの株主にとっては取り分が減ることになる。
東芝の場合、この薄まったぶんが、そのまま海外ファンド60社の持ち分になった。増資後の東芝で、60社が持つことになったのは会社の35.0%。上場を守るために、会社の3分の1を外に渡したことになる。
4. 6年後、上場をやめた
新しく株主になったファンドは、経営に意見を言うようになる。役員を入れ替えるように求めたり、もうかっていない事業を切り離して売るように求めたりする。こうやって会社にはっきり要求を出す株主を、物言う株主(アクティビスト)と呼ぶ。
そして2023年、東芝はこうなった。
1株4,620円、総額約2兆円。応募は78.65%
2023年12月20日、上場廃止。74年の上場の歴史に幕
東芝自身の説明は「安定的な株主基盤のもとで一貫した事業戦略を実行するため」というものだった。ただ報道では、物言う株主の影響を外して経営の決定を速くするためと受け止められている。
ここで並べてみる。
6年かけて、避けたはずの場所に着地している。
5. 手放した事業は、いくらになったか
もうひとつ、並べておきたい数字がある。
3月末に間に合わなかった、あのメモリ事業のその後だ。売却先でキオクシアという名前になり、2024年12月に上場した。
いまの時価総額は約29兆円(52,950円 × 5億4,801万株)。
東芝を丸ごと買うのに約2兆円だった。手放した子会社が、その14倍以上になっている。
もちろん、これはあとから分かった数字だ。2017年の時点でこうなると分かっていた人はいない。
ここで、2章の「40.2%を持ち続けた」が効いてくる。東芝はキオクシア株を持ったまま上場廃止を迎えた。そして非公開化したあと、その株を少しずつ売って借金の返済に充ててきた。2026年5月の時点でも、まだ16.10%を持っている。
手放したと言っても、まるごと売り払ったわけではなかった。そして東芝は2028年度をめどに、再上場を目指している。
6. 守れた可能性は、あったのか
ここからは、わたしが思ったことだ。
元CFOの「頼ってはいけない証券会社に任せてしまった」という言葉は、正直、うまく飲み込めなかった。証券会社の選び方だけで、ここまでのことになるだろうかと思ったからだ。
ただ、時系列を並べてみて、少し見方が変わった。選択肢を狭めたのは、証券会社ではなかった。
だから期限は2018年3月末で固定された
その期限に間に合う手段は、増資しかなかった
増資で株を出せば、持ち分は薄まり、新しい株主が入る
守る対象を「上場」に決めた時点で、どの証券会社に頼んでも、株を出す以上は同じ場所に着く。
では、上場廃止を先に選ぶ道はあったのか。わたしにはわからない。2017年の東芝は債務超過で、非公開化に必要なお金を出す相手を、あの時点で見つけられたかどうかは確かめようがない。
それでも、6年後に結局その道を通ったという事実は残る。1年で解決しなければならない問題が、6年かかった。そのあいだに、会社は事業を次々と手放して、小さくなっていった。
この話を読んで、わたしに残ったのは疑問のほうだった。東芝は、いったい何を守りたかったのだろう。
上場だったのなら、結果的に守れていない。2023年に自分でやめている。
ブランドや会社の形だったのなら、手放したものを並べると合わない。
レグザも、dynabookも、東芝の白物家電も、いまは別の会社のものだ。
そのあいだに会社そのものも小さくなった。売上高は6兆1,146億円(2015年3月期)から3兆3,616億円(2023年3月期)へ。連結の従業員は18万7,809人(2016年3月期)から10万6,648人へ、8万人以上減っている。
上場を守っているあいだに、これだけ手放した。そして守ったはずの上場も、6年後に自分でやめている。
守るものが、はっきり決まっていなかったのではないかと思った。
7. わたしの話に戻すと
わたしは日本の高配当株を117銘柄持っている。でも正直に書くと、この話はわたしの財布とは、ほとんど関係がない。
議決権は誤差でしかないし、株主総会のハガキも、ずっと捨ててきた。経営に何か言おうと思ったことはない。
それでも気になったのは、お金の話としてではなかった。レグザも、dynabookも、東芝の冷蔵庫も、子どものころから身近にあって、慣れ親しんできた製品だった。東芝のメモリーカードも、撮影用に何枚か持っていた。
それが全部、別の会社のものになっていた。そのメモリーカードを作っていた部門が、いまの29兆円の会社だ。
そして東芝は特殊な例に見えるけれど、いまは珍しくなくなっている。
うち機関投資家によるものが65社(前年59社)
重要提案行為ありの大量保有報告書は246件(前年197件)
物言う株主が入ること自体は、悪いことではないと思う。東芝の場合も、もとをたどれば不正会計を問題視したところから始まっている。
ただ、正直に書くと、日本のいい会社が狙い撃ちされるのは、悲しい。技術も人も残っているのに、株を持たれた時点で話が変わってしまう。
わたしは経営のことは分からない。ただ、いいものを作っていれば会社は残る、くらいに思っていた。そうとはかぎらないらしい。
わたしは日本の高配当株を117銘柄持っています。単元未満株なら1株から買えるので、少しずつ業種を散らしていけます。メイン口座はSBI証券で、8年以上使っています。
SBI証券の公式サイトを見る →8. まとめ
- 東芝は2017年3月末に5,529億円の債務超過。2期連続なら上場廃止という期限があった
- 本命のメモリ売却は独禁法審査が終わらず3月末に間に合わず、代わりに6,000億円の増資。増資後の東芝で海外ファンド60社の持ち分は35.0%になった
- 増資は株主の持ち分を薄める。同じ1株を持っていても、取り分だけが減る
- 2023年12月20日、その株主を外すために上場廃止。74年の歴史に幕。6年かけて避けたはずの場所に着地した
- 上場を守っているあいだに医療機器・白物家電・レグザ・メモリ・dynabookを手放し、売上高は6.1兆円から3.4兆円、従業員は8万人以上減った
- 守ったはずの上場も自分でやめている。東芝は何を守りたかったのだろう
- 物言う株主は日本で増えている。いいものを作っていれば会社は残る、とはかぎらなくなった
・2017年の増資:Bloomberg「東芝が6000億円の第三者割当で債務超過解消へ、旧村上F筆頭株主」/日本経済新聞「東芝、第三者増資の払込完了 6000億円、エフィッシモなどから」
・メモリ売却の完了時期:日本経済新聞「東芝メモリ6月1日付で売却 中国独禁当局が承認」
・非公開化と上場廃止:日本経済新聞「東芝、12月20日に上場廃止へ」/東芝「当社の株式公開買付けについて」
・東芝が手放した事業:東洋経済オンライン「『逃した魚は大きかった』東芝が売却した事業の今」/AV Watch「シャープが東芝パソコン事業買収」/日本経済新聞「東芝、テレビ事業を中国家電大手に売却 129億円」
・売上高と従業員数:東芝の有価証券報告書(2015年3月期・2016年3月期・2023年3月期)
・物言う株主の件数:大和総研「アクティビスト投資家の近時動向(2026年4月)」
・キオクシアの株価と株式数:Yahoo Finance の終値と、キオクシアの開示からわたしが計算しました(2026年8月20日終値まで)




