金利37%のトルコリラが最安値で「活況」。でも、わたしは手を出しません
9月11日の日経に、「最安値のトルコリラ、FXで活況」という記事が出た。トルコのお金「リラ」は、円に対して過去いちばん安い値段になっている。それでも、FXでリラを買う取引は7月に前の月の2.5倍、8,611億円に増えた。理由は、トルコの金利が37%だから。「超高金利とじり安(少しずつ安くなること)の我慢比べ」と日経は書いている。こう思った人も、いるはずだ。
🤔「じり安なら、金利で取り返せるんじゃない?」
😎「みんなやってるなら、乗り遅れたくない」
😑「そもそも、FXって何? なんで37%ももらえるの?」
わたしの持ち物は、オルカン(全世界の株の投資信託)と、S&P500と、BND(米国の債券ETF)と、日本の高配当株119銘柄と、現金300万円。FXの口座は持っていない。
結論から言うと、わたしはやらない。金利37%のリラを持つのは、下りのエスカレーターを、上に向かって歩くようなものだからだ。歩く速さが金利、エスカレーターが下る速さがリラの値下がり。10年歩いても、ほとんど同じ場所にいる。しかも背中には手数料と税金のリュックがあって、手元のお金の何倍も賭けると(これをレバレッジと呼ぶ。4章で説明する)、少しつまずいただけで転げ落ちる。
順番に見ていく。
1. そもそも「FXで金利をもらう」とは、何をすることか
まず、4つ目の声の前半。「FXって何?」。
FXは、正式には「外国為替証拠金取引」という長い名前で、中身は円を外国のお金に替えて、また円に戻す取引だ(「証拠金」は取引のために預けるお金のことで、4章で出てくる)。旅行前に空港で両替するのと、やっていることは同じ。違いは2つで、①ネットで24時間できて、②手元のお金の何倍もの金額を動かせる(これは4章で話す)。値段は「1リラが何円か」で見る。円のほうが強くなると、この値段は下がる(円高=リラ安)。
「金利をもらう」は、こういうことだ。円をリラに替えて持っていると、トルコの金利と日本の金利の差を、FX会社から毎日少しずつ受け取れる。金利の低い円を手放して、金利の高いリラを持っている形になるからだ。FXの世界では、これを「スワップポイント」(略してスワップ)と呼ぶ。銀行の外貨預金(円を外国のお金に替えて預ける預金)でいう「利息」の親戚で、違いは毎日もらえること。
毎日もらえるスワップポイント 23円(FX会社の一覧、2026年9月)
1年ぶん 23円 × 365日 = 約8,500円
3万1,100円に対して 年27%
3万1,100円を置いておくと、1年で8,500円入ってくる。銀行の普通預金の70倍。数字だけ見れば、「すごくない?」というごまもちの反応は正しい。
2. 落とし穴① なぜ37%ももらえるのか。それは「危険手当」
4つ目の声の後半。「なんで37%ももらえるの?」。答えは、7月の記事で書いたとおり、そうしないと誰もリラを持ってくれないからだ。
トルコでは、物価が1年で31.5%上がっている(8月の時点で、前の年と比べて)。日本の1.9%の16倍だ。物価がこれだけ上がる国では、お金を持っているだけで、買えるものがどんどん減っていく。だからトルコの中央銀行は、国の金利の基準(これを「政策金利」と呼ぶ)を高くしないと、誰もリラを持ってくれない。いま、その政策金利が37%だ。
でも物価も上がる 去年100リラで買えたものが、今年は131.5リラ
本当に増えたぶん 137 − 131.5 = 5.5リラ。37%に見えて、買えるものは5%ほどしか増えていない
つまり、金利37%のほとんどは、物価の上がりぶんを埋めているだけだ。トルコの中では、それでつり合っている。
では、円で持っているわたしたちから見ると、どうなるか。リラは1年で31.5%ぶん薄まり、円は1.9%しか薄まらない。だから、リラの値段は円に対して、年30%くらい安くなっていくのが自然だ。37%は「もうけ」ではなく、トルコの側が、リラを持ってくれる人に払っている危険手当になる。
理屈だけでは信じにくいので、実際の10年を見る。
10年前に34.5円だった1リラが、いまは3.11円。10年で10分の1。上がった年は、10年で1回だけ。この10年、トルコの金利はずっと日本とは桁違いに高かった。それでも、円で見た値段はこうなる。エスカレーターは、年21%の速さで下り続けている。
3. 落とし穴② 「金利で取り返せる」を、10年やってみた
2つ目の声、「じり安なら、金利で取り返せるんじゃない?」。ここが、日経の言う「我慢比べ」だ。まず、いまの1年だけで計算すると、たしかに勝っているように見える。
リラの値下がり 3.57円 → 3.11円で−13%。3万1,100円なら約4,000円減
差し引き +4,500円ほど。これが「我慢すれば勝てる」に見える理由
歩く速さ27%が、エスカレーターの下る速さ13%に勝っている。この1年は、そういう年だった。でも上の表を見ると、下る速さは年によって違う。2018年と2022年は、1年で4割以上。10年で見ると平均で年21%。歩き続けるあいだに、エスカレーターが急に速くなる年が、10年で3回あった(4割以上下がった2018年と2022年、3割近く下がった2023年)。
では、10年ずっと歩き続けていたら、どこにいたか。「10年で10分の1でも、年37%の金利を10年もらえば取り返せるのでは」。わたしも実際に計算してみないと気持ちがわるいので、クロちゃんに10年ぶんを計算してもらった。
毎月もらうスワップは、全部リラの買い増しに回す(複利)
金利は、その月のトルコの政策金利をそのまま使う(この10年で8%から50%まで動いた。低い年も高い年もそのまま)
2026年9月に全部円に戻す(1リラ3.11円)
結果は、こうなった。
為替だけなら 10年で0.092倍(33.7円 → 3.11円)
掛け合わせると 9.14 × 0.092 = 0.84倍
いちばん驚いたのは①だ。税金も手数料もゼロで、37%も50%も含めた10年の金利をまるごと受け取って、それでも100万円は84万円になる。10年歩いて、9.14倍の距離を進んだ。でもエスカレーターは、その間に10分の1まで下っていた。掛け合わせると、スタートより少し下にいる。
なぜ「37%を10年もらえば」が成り立たないのか。10年の金利を平均すると年25%ほどで、37%や50%だったのは直近の2〜3年だけだからだ。歩く速さの平均25%と、エスカレーターの下る速さ21%。「25引く21で、年4%は残るのでは」と思う。わたしも思った。でも、この2つは足し算にならない。
金利で 100万円 → 125万円(×1.25)
でもリラが21%下がるので、円に直すと 125万円 × 0.79 = 98.8万円
1年で1.2%の減り。これを10年くり返すと 0.88倍
それも、税金と手数料を引く前の話になる。
そして現実には、①の条件で歩ける人はいない。背中のリュックがある。
1リラ2円50銭という手数料は、リラが50円だった2010年ごろなら5%だが、3.6円では7割になる。手数料が円の額で決まっていて、リラの値段だけが14分の1になったからだ。高金利をうたう外貨預金は、金利の前に、まず手数料で負けが決まる。窓口で高い金利を聞いて100万円をリラにした人は、その場で70万円を手数料に払っていたことになる。
4. 落とし穴③ レバレッジは、時間を味方にできない
1章で後回しにした、FXのもうひとつの特徴。「手元のお金の何倍もの金額を動かせる」。これをレバレッジ(てこ)と呼ぶ。個人は金融庁のルールで最大25倍まで。25倍というのは、預けたお金の25倍の金額を動かせる、つまり4%のお金で買えるということだ。
身近な例で言うと、頭金4%で家を買うのに近い。3万1,100円ぶんのリラを買うのに、必要なお金は25分の1の1,244円でいい。残りはFX会社が立て替えている形で、その立て替えの担保が、預けた1,244円だ。
ここで、スワップの見え方が変わる。年8,500円のスワップを、1,244円の元手で受け取ると、元手に対して年680%。「金利37%」より、こちらの数字が人を呼ぶ。
でも、頭金4%で買った家は、家の値段が4%下がっただけで、頭金がなくなる(家を売っても、ローンを返したら手元に何も残らない)。同じことが起きる。
リラが4%下がると 3万1,100円の4% = 1,244円の損。元手はゼロ。3.11円が2.99円になれば、それで終わり
実際には その手前で、FX会社が強制的に売って終わらせる。これを「ロスカット」と呼ぶ
4%は、どれくらい起きるか 2018年8月は1日で−19%、2021年11月は1日で−11%動いた
エスカレーターの言い方に戻すと、レバレッジ25倍は、1段の踏み外しが25段ぶんになる仕組みだ。1歩の稼ぎも25倍になる。でも、少しつまずいただけで、転げ落ちる。「じり安なら我慢できる」という前提は、2018年8月のその1日で終わる。
積立の記事で、何度も書いてきたことがある。持ち続けていれば、いい日も悪い日も自分のものになる。10年、20年と市場にい続けた人がいちばん報われる、と。レバレッジは、この「持ち続ける」を最初から壊す。4%下がった日に元手がなくなるなら、10年後まで持っていられない。時間が味方になる前に、市場から降ろされる。「我慢比べ」に見えて、我慢する権利が最初からない勝負だ。
5. 「活況」の中身。取引が増えるのは、いつも暴落のとき
3つ目の声、「みんなやってるなら、乗り遅れたくない」。日経の「活況」は、金融先物取引業協会(FX会社の団体)が毎月出している、通貨ごとの取引金額から来ている。7月のリラ円は8,611億円で、6月の3,494億円の2.5倍。この統計は2008年からあるので、過去にリラ円の取引が跳ねた月を並べてみた。
取引が増えた月は、リラが大きく下がった月と、きれいに重なる。「活況」というのは、儲かっている人が増えたのではなく、転げ落ちて強制的に売らされた人と、安くなったから買った人が、同じ月に集まったという意味になる。7月は、日米が協調して円を買った週に、リラの値段が4%下がった。損切り(損を確定して手じまうこと)と押し目買い(安くなったところで買うこと)が、8,611億円の中身だ。
「みんなやってる」の「みんな」は、暴落の日の売買で数えられている。
6. わたしは、どう見ているか
わたしはやらないし、すすめもしない。理由は3つ。
物価が年31%上がる国のお金は、円で見て下がるのが理屈どおり。10年で10分の1は、事故ではなく仕組み。わたしが増やす枠に置くのは、10年、20年で上がる理由があるもの
4%下がった日に元手がなくなる勝負では、10年持てない。持ち続けられないものは、持たない
取引が跳ねた月は、リラが急落した月。活況の中身は損切りと押し目買いで、それはわたしがいちばんやらないと決めている「ニュースで売買する」そのものだ
レイ・デボー(ウォーレン・バフェットが2010年の株主への手紙で引用)
バフェットは、自分の会社バークシャーの現金を米国の短期国債に置き、ほんの少し利回りが高いだけの商品には手を出さない、と説明するときに、この言葉を引いた。利回りが高いものには、その利回りぶんの理由がある。金利37%は、その理由がいちばん大きく書かれた値札だ。
わたしがやることは変わらない。オルカンの積立は同じ日に同じ額。高配当株は割安なときだけ買い増す。為替は読まないし、金利の高さでも動かない。上りのエスカレーターに乗って、時間を味方にできるものを持つ。それが、この1年で何度も書いてきた「何もしない」の中身だ。
金利の高さでは動きません。オルカンの積立も、日本の高配当株119銘柄も、8年以上SBI証券の口座です。積立は、同じ日に同じ額で続きます。
SBI証券の公式サイトを見る →7. まとめ
- リラは円に対して過去最安値なのに、7月のFXの取引は前の月の2.5倍の8,611億円。金利37%を狙う「我慢比べ」
- FXは円を外国のお金に替える取引。金利の差を毎日「スワップ」で受け取れる。リラは年27%
- 37%は危険手当。物価が年31.5%上がる国のお金は、円で見て下がって当然。10年で10分の1
- 10年前に100万円入れて金利を全部再投資しても、理想で84万円、FXの現実で34万円、銀行なら13万円。金利で9.1倍、為替で0.09倍、合わせて0.84倍
- 銀行の窓口の手数料は1月まで1リラ2円50銭。片道7割。金利の前に手数料で負ける
- レバレッジ25倍は頭金4%で家を買うのと同じ。4%下がった日に元手がゼロ。2018年8月は1日で19%下げ
- 取引が跳ねた月は、いつも暴落の月。わたしはやらないし、すすめもしない。時間を味方にできるものを持つ
・取引金額:金融先物取引業協会「店頭FX月次速報」通貨ペア別取引金額のTRYJPY(2026年7月 861,154百万円、6月 349,369百万円、2018年8月 4,746,042百万円、2021年12月 2,253,342百万円、2019年1月 1,889,116百万円、2024年1月 46,724百万円)。跳ねた月の抜き出しはクロちゃん(Claude)
・為替:Yahoo Finance TRYJPY=X の日次終値。10年前後の値、毎年9月初めの値、1日の下げ幅(2018年8月12日−19.3%、2021年11月24日−10.7%、2019年1月3日−6.1%)、7月末(7月28日3.45円→8月2日3.31円)はクロちゃんが拾った。10年で0.090倍、年率−21.4%
・トルコの政策金利37%(9月10日据え置き、5会合連続):Trading Economics「Turkey Interest Rate」(出典はトルコ中央銀行)、トルコ中央銀行 金融政策委員会の決定(7月23日分まで掲載)、外為どっとコム「トルコリラ/円見通し」(9月8日)。8月の消費者物価+31.51%も同記事から(トルコ統計局発表)
・10年シミュレーション:為替はYahoo Finance TRYJPY=X の月末値、政策金利はBIS(国際決済銀行)の中央銀行政策金利データ(トルコ、月次、1週間物レポ金利)。銀行の金利は大和ネクスト銀行「外貨預金 金利一覧」(2026年9月11日、トルコリラ定期1年13%・普通1%)、為替手数料は三菱UFJ銀行「トルコリラ外貨普通預金の為替手数料変更のお知らせ」(窓口2円50銭→60銭、ネット80銭→50銭)。計算はクロちゃん(Claude)
・スワップポイント:ダイヤモンドZAiオンライン「トルコリラ/円スワップランキング」(2026年9月)。1万通貨の買いで1日23〜26円(多くの会社が23〜24円)。年27%、25倍で年680%、4%で元手ゼロは、この数字と3.11円からクロちゃんが計算した概算。スプレッドはFXキーストン「トルコリラ円のスプレッド徹底比較」(2026年9月11日、会社により0.7〜9銭)
・レバレッジの上限25倍:金融商品取引業等に関する内閣府令(個人の店頭FXは証拠金率4%以上)。税率20.315%:国税庁「先物取引に係る雑所得等の課税の特例」
・日本の物価+1.9%:8月の記事。高金利の仕組みは7月の記事、介入は8月の記事
・デボーの言葉:Warren Buffett, Berkshire Hathaway 2010 Annual Letter「We agree with investment writer Ray DeVoe's observation, "More money has been lost reaching for yield than at the point of a gun."」訳はわたし




