JTは価値を生んでいるか。測ったらROIC10.1%。でも1年前に測っていたら、逆の記事を書くところだった
- ▶ 1. JTは価値を生んでいるか。測ったらROIC10.1%。でも1年前に測っていたら、逆の記事を書くところだった
前の記事で、ROIC−WACCという物差しを覚えた。会社が集めたお金の仕入れ値(WACC)と、そのお金で稼いだ売値(ROIC)。差がプラスなら価値を生んでいて、マイナスなら、黒字でも集めたお金の期待に届いていない。
日本の主要企業の平均はマイナス0.04ポイント。10年かけて改善しても、まだ資本コストを超えられていなかった。
覚えた物差しは、自分の持ち物に当ててこそ意味がある。ということで、保有している日本株を1社ずつ測るシリーズを始める。
1社目はJT(日本たばこ産業・2914)。自分で選んで買った銘柄のひとつで、「タバコってどうなのかな」と迷いながら買った会社だ。喫煙者は年々減っていて、縮小していく産業かもしれないという不安は、当時の記事にそのまま書いてある。
その迷いに、今回は数字で向き合ってみる。
1. JTは何で稼ぐ会社か。1分で
測る前に、中身をひとことで。
のれんというのは、会社を買収したときに払った「実際の資産より高く払ったぶん」のこと。あとで効いてくるので、2.9兆円という数字だけ覚えておいてほしい。
2. まずROIC。売値のほうを測る
ROICは、集めたお金で税引き後にどれだけ稼いだか。分子は営業利益から税金を引いたもの、分母は有利子負債+資本で、会社に入っているお金の合計だ。
決算短信から数字を拾って、順番に計算する。
ROICは10.1%。日本の主要企業の平均が6.37%なので、それを大きく上回る。
ここで1章の「のれん2.9兆円」が効いてくる。投下資本5兆7,941億円のうち、のれんが50.4%を占める。つまりこの10.1%は、買収に高値を払ったぶんも全部背負ったうえでの数字だ。のれんを外して本業の資産だけで測れば、もっと高く出る。ここは正直、すごいと思った。
3. 次にWACC。仕入れ値のほうを測る
WACCは、株主と銀行が期待している利回りの加重平均。前の記事では日本平均の6.41%を使ったけれど、今回はJT自身の数字で組んでみる。
JTのWACCは約5.4%。日本平均の6.41%より低い。βが0.55、つまり市場が揺れてもJTはその半分くらいしか揺れないので、株主の期待がそのぶん低くなる。たばこは景気で売れ行きが変わりにくい、という性質がここに出ている。
4. 差は+4.7ポイント。日本平均のはるか上だった
数字がそろったので、並べてみる。
+4.7ポイント。日本平均(−0.04ポイント)のはるか上で、米国平均(+5.3ポイント)に迫る。
金額にすると、投下資本5兆7,941億円 × 4.7% = 約2,700億円。株主と銀行の期待をまるごと差し引いたうえで、1年でこれだけの価値を上乗せしたことになる。
縮小していく産業かもしれない、と迷いながら買った会社が、価値を生む力では日本平均どころか、米国平均に迫る水準だった。
5. ところが、1年前に測ると答えが逆になる
ここで終わればきれいな記事だけれど、この計算にはつづきがある。
同じ計算を、1年前の決算(2024年12月期)でやってみる。
マイナス1.0ポイント。資本コスト割れだ。
もしわたしが1年前にこのシリーズを始めていたら、「JTは集めたお金の期待に届いていない会社」という記事を書くところだった。同じ会社なのに、測る年で答えが逆になる。
原因は、カナダの訴訟だった
2024年の営業利益が沈んだ主な理由は、カナダ子会社の喫煙訴訟に関する引当金だ。2025年3月に包括和解が裁判所に承認され、決算短信にもその経緯が明記されている。引当金(流動)の残高は1,959億円から328億円へと大きく減った。和解が進み、支払いの段階に入った形だ。
つまり2024年のROIC 4.4%は、数十年分の訴訟の決着が1年に凝縮された数字で、たばこ事業の稼ぐ力そのものではない。逆に2025年の10.1%には、その反動も少し乗っている。
だから、2年で均してみる。
税引き後の稼ぎ(5,870億+2,435億)÷ 投下資本(5兆7,941億+5兆5,755億)= ROIC 7.3%。WACC 5.4%との差は+1.9ポイント。訴訟の重い年を丸ごと入れても、プラスは守られていました
経産省が日米欧の比較を5年平均でやっていた理由が、ここでわかった。単年のROICは、訴訟・減損・税金の一時要因で簡単にひっくり返る。1年の数字で会社を判断してはいけない。自分で測ってみて、いちばん覚えておきたい教訓はこれだった。
6. 配当は、どこから出ていたのか
高配当株として持っている以上、ここがいちばん知りたいところだ。
見てほしいのは2024年の配当性向192.2%。その年の純利益は1,792億円しかないのに、3,445億円を配った。稼ぎの2倍近い配当だ。
ふつうなら、これは危険信号として教科書に載る数字だと思う。でも5章を通ったあとだと、読み方が変わる。沈んだのは訴訟の一時要因で、たばこ事業のお金を生む力は崩れていなかった。実際、その沈んだ年でも営業キャッシュ・フローは5,141億円入ってきている。会社は一時要因として扱って配当を守り、翌年には234円へ、+20.6%の増配までした。
ROIC−WACCがプラスの会社の配当は、価値を生んだ中から出ている。逆にこれが恒常的にマイナスの会社の高配当は、稼ぎが株主の期待に届かないまま配りつづけている。---
7. で、わたしはどうするか
測ってわかったことを、自分の持ち方に引きつけて整理する。
わたしは売らない主義なので、この結果で何かを売り買いすることはない。動かすのは、次に買い足す先を考えるときの順番だけだ。そこにROIC−WACCという列がひとつ増えた。
そして最後の1行が、たぶんいちばん大事だ。この物差しは過去を測るもので、「縮小していく産業かもしれない」という買ったときの迷いには、直接は答えていない。値上げでどこまで持つのか、加熱式やその先で何を育てられるのか。それは決算の別の場所と、これからの決算で確かめていくしかない。
物差しは万能ではない。でも、迷いながら持っているのと、測って持っているのとでは、ぜんぜん違う。
ウォーレン・バフェットが1993年、学生に「投資のリスクをどう測るのか」と聞かれて、こう答えている。
分かっていないことから生まれる
ウォーレン・バフェット(1993年・コロンビア大学ビジネススクールでの発言)
買った理由なら、ずっと言えた。配当の実績と安定性。でも「この会社は集めたお金の期待を超えているのか」と聞かれたら、少し前までのわたしは答えられなかった。いまは、2年分の数字つきで答えられる。
このシリーズは、それを1社ずつ増やしていく。
この記事の数字は、JTが公表している決算短信から拾っただけです。特別な情報は1つもありません。保有銘柄の決算を確認して、配当金を受け取る。その口座としてわたしが8年使っているのがSBI証券です。
SBI証券の公式サイトを見る →まとめ
- 保有株をROIC−WACCで1社ずつ測るシリーズの1本目。JT(2914)を決算短信から測った
- ROICは10.1%、WACCは約5.4%で、差は+4.7ポイント。日本平均(−0.04pt)のはるか上、米国平均(+5.3pt)に迫る。のれん2.9兆円を背負ってこの数字
- ところが2024年で測るとROIC 4.4%で資本コスト割れ。カナダ訴訟の決着が1年に凝縮された数字で、2年平均では+1.9ポイント。単年で会社を判断してはいけない
- 訴訟の年の配当性向192.2%は、一時要因とわかれば読み方が変わる。翌年は234円へ+20.6%の増配。配当は価値を生んだ中から出ていた
- この物差しは過去の成績。たばこの縮小という将来の問いには答えない。そこは決算の別の場所で確かめていく
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