HDVは、資本コストを超える会社を先に選ぶETFだった。中身を測ったら+8.3ポイント。でも5番目のファイザーは割れていた
- ▶ 1. HDVは、資本コストを超える会社を先に選ぶETFだった。中身を測ったら+8.3ポイント。でも5番目のファイザーは割れていた
- 2. SCHDの中身を測ったら+9.3ポイント、HDVより上だった。でも6割は同じ会社で、差をつけたのは「持っていない業種」だった
- 3. HDVもSCHDも、VYMの中にいた。604社の中身を測ったら、3本の違いは「どれだけ絞るか」だけだった
JTを測った記事を書いたあと、ふと思った。ROIC−WACCという物差しは、ETFにも当てられるのだろうか。
ETFそのものには当てられない。ETFは会社の詰め合わせで、営業利益も投下資本も持っていないからだ。でも中に入っている会社1社1社には、ROICもWACCもある。組み入れ比率で加重平均すれば、「このカゴの中身は、全体として資本コストを超えているのか」は出せる。
1本目はHDV。好きなのに買えていない米国の高配当ETFだ。利回りが下がって、円安も重なって、いまも買えていない。持っていないからこそ、中身を一度ちゃんと見ておきたかった。
測ってみたら、HDVの中身は日本の平均とは別世界だった。そして、HDVという商品の選び方そのものに、この物差しが組み込まれていた。
1. この記事の測り方
ETFの中身を測るシリーズは4本の予定で、測り方は毎回同じにする。先に書いておく。
2. HDVの選び方は、最初から「資本コストを超える会社」だった
測る前に、HDVがどうやって75社を選んでいるのかを調べた。
HDVが連動するのはモーニングスターの配当フォーカス指数で、ルール文書によると銘柄はこの順番でふるいにかけられる。
そして①の「堀」がある会社とは何か。モーニングスターは株式リサーチの方法論で、超過利益をこう定義している。
超過利益とは、投下資本利益率(ROIC)が、その会社の資本コスト(WACC)を上回ること(We define excess profits as returns on invested capital, or ROICs, above our estimate of a firm's cost of capital, or WACC)
この超過利益が少なくとも10年続くと見込めば「狭い堀(narrow)」、20年なら「広い堀(wide)」。堀とは、ROIC−WACCがプラスを続けられる見込みのことだった。
つまりHDVは、前の記事で覚えたROIC−WACCという物差しで、最初にふるいにかけているETFだった。高配当を選ぶ前に、資本コストを超える見込みの会社だけを残している。
高配当ETFというと「利回りの高い順に並べただけ」のものも多い。HDVはそこが違う。利回りは③、つまり最後の条件だ。
3. 測ったら、+8.3ポイントだった
では実際の中身はどうか。75社を1社ずつ測って、組み入れ比率で加重した。
HDVの中身は、加重平均でROIC 15.1%。WACCが6.7%なので、差は+8.3ポイント。
日本の主要企業の平均がマイナス0.04ポイントだったことを思うと、同じ物差しで測っているのが不思議なくらい離れている。米国の主要企業の平均(+5.3ポイント)と比べても高い。HDVが「堀」で先に絞っているぶんだと思う。
中央値は11.2%で、平均より4ポイント低い。これはROICが極端に高い会社(あとで出てくる)が平均を持ち上げているからで、真ん中の会社で見ても+4.4ポイント。日本平均の上にいる。
組み入れの上位10社も並べておく。
4. でも、中身の15%は割れていた
ここまでだときれいすぎるので、割れている側も見る。
75社のうち、3年平均のROICがWACCの6.7%に届いていないのは21社、組み入れ比率で14.7%あった。中身はこうだ。
電力やガスは規制で料金が決まっていて、もうけが資本コスト並みに抑えられるのが制度の設計だ。ROICがWACCの少し下に張りつくのは、壊れているのではなく、そういう業種だということ。
引っかかったのはファイザーだ。組み入れ5位、4.6%。「資本コストを超える見込みの会社だけ残す」はずのHDVで、5番目の会社が直近3年ではWACCに届いていない。
理由は、物差しの向きが違うことだった。モーニングスターの「堀」はこれから10年・20年の見込みで判断する。わたしが測ったのは直近3年の実績だ。ファイザーはコロナのワクチンと治療薬で膨らんだ利益が2023年以降しぼんで、投下資本は買収で増えたまま。過去3年で切り取ると沈んで見えるが、モーニングスターは「堀はまだある」と見ている、ということになる。
どちらが正しいかは、わからない。JTでは測る年で答えが変わった。ここでは、どっちを向いて測るかでも変わる。物差しの癖として覚えておきたい。
それでも、割れているのが約15%。日本の主要企業は投下資本の65%が価値を減らす事業に置かれていた。比べる土俵は違うけれど、この差は大きい。
5. HDVの中身で稼いでいたのは、たばこと家の修理だった
セクターごとに見ると、HDVの顔がもう少し見えてくる。
いちばんROICが高いのは一般消費財の31.2%で、中身はホーム・デポ(28.1%)・マクドナルド(26.6%)・スターバックス(45.6%)。次が生活必需品の21.5%で、ここはアルトリア(40.1%)とフィリップ・モリス(28.8%)、つまりたばこだ。
JTを測ったときにROIC 10.1%で「すごい」と書いたけれど、米国のたばこ会社は、その3倍も4倍もあった。たばこは設備も在庫も軽くて、値上げが効く。資本をあまり使わずに稼ぐ商売の典型なのだと、並べてみてわかった。
逆に、HDVで2番目に大きいエネルギー(21.3%)は、ROIC 9.2%と平均を下げている側にいる。エクソン10.0%・シェブロン7.2%で、石油は掘る設備にお金がかかる。HDVの顔はエクソンとシェブロンだけれど、中身で稼いでいるのは、たばこと家の修理だった。
6. で、買えていないHDVはどう見えたか
測って変わったことと、変わらなかったことを分けておく。
「好きなのに買えていない」理由は、利回りが下がったことと円安だった。その理由は、今回の物差しでは何も変わらない。中身が良いことと、いまの値段で買うことは別の話だ。
変わったのは、好きな理由に数字がついたこと。「財務が健全で配当が続く優良企業を集めたETF」という説明は前から知っていた。でもいまは、資本コストを超える見込みの会社を先に残して、そのなかから配当の多い順に選んでいる。実測でも15.1%稼いでいる、と言える。
2本目はSCHD。選び方がHDVとは違う高配当ETFだ。
チャーリー・マンガーが1994年、USCビジネススクールの講演でこう話している。
その会社が資本で稼ぐ利回りと、そう変わらない
チャーリー・マンガー(1994年・USCビジネススクールでの講演「Elementary, Worldly Wisdom」)
同じ講演でマンガーは、こう続けている。資本に対して6%しか稼げない会社の株を、どんなに安く買ったとしても、40年持てばリターンは6%前後に落ち着く。安く買えた得は1回きりで、長く持つほど薄まり、残るのは会社の稼ぐ力だけになるからだ。
HDVの中身は、加重平均で15.1%。長く持つほど効いてくる数字ではある。好きな理由は、数字で裏が取れた。
この記事の構成銘柄と比率は、運用会社が毎日公表しているものです。特別な情報は使っていません。HDVはSBI証券なら特定口座で買えます(毎月分配になったため、新NISAの対象外です)。わたしが8年使っているメイン口座です。
SBI証券の公式サイトを見る →まとめ
- ETFそのものにROIC−WACCは当てられないが、中身の会社を加重平均すれば測れる。HDVの75社を3年平均で測った
- HDVの選び方は、モーニングスターの「堀」(=ROICがWACCを上回る見込み)で先に絞り、そのあと配当利回り順。物差しが最初から組み込まれていた
- 実測は加重平均ROIC 15.1%・WACC 6.7%で+8.3ポイント、中央値でも+4.4ポイント。日本平均の−0.04ポイントとは別世界
- ただし約15%は直近3年で資本コスト割れ。公益は制度どおり、5位のファイザーは「未来の見込み」と「過去の実績」のずれ
- 中身で稼いでいるのは、たばこ(アルトリア40.1%)と家の修理(ホーム・デポ28.1%)。2番目に大きいエネルギーは9.2%で平均を下げている側
- この物差しは値段を見ていない。好きな理由ははっきりしたが、買えていない理由は変わらない
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