「国保逃れ」で1万1,610人が資格を失った。わたしも検討した保険料の抜け道は、なぜ閉じられたのか
「『国保逃れ』38社で1万1,610人」。今日、厚生労働省がこんな発表をした。フリーランスや個人事業主が、会費を払って一般社団法人の「理事」になり、会社員と同じ社会保険に入る。給料を低くしておけば、保険料は安い。この仕組みを使っていた人たちが、3月から8月末までの調査で、社会保険の資格を失った(会社員と同じ保険に入っていられなくなった)という。こう思った人も、いるはずだ。
🤔「そもそも、国保逃れって何?」
😤「違法じゃないって聞いたけど?」
🏠「わたしもフリーランス。結局、どうすればいいの?」
わたしは、2023年にフリーランスになって、国民健康保険と国民年金を自分で払っている。国保(国民健康保険)は年35万円ほど。国民年金は年21万5,000円ほどで、2年分まとめて前払いしている。そして、実は、この仕組みを検討したことがある。フリーランス1年目、課税所得が400万円くらいになりそうだったときだ。
結論から言うと、わたしはやらなかった。理由は、自分の数字で計算したら、得が微妙だったから。そして今日、その仕組みそのものが閉じた。この記事のいちばん大事なところは、保険料の抜け道は、得になる人が決まっていて、しかも「実態」(本当に働いているかどうか)で判断された瞬間に消えるということ。順番に見ていく。
1. そもそも「国保逃れ」とは。理事になって、会費を払う
2つ目の声から。「国保逃れって何?」。その前に、フリーランスと会社員で、保険料の何が違うかから。
ここに、抜け道があった。会社員の保険料は「給料の額」で決まる。給料には段階(ランク)があって、低い段階ほど保険料は安い。事業でいくら稼いでいても、関係ない。だったら、どこかの法人に「給料5万円台の理事」として入れてもらえば、いちばん安いランクの社会保険に入れる。事業の所得には保険料がかからない。家族は扶養で0円。これが「国保逃れ」と呼ばれた仕組みだ。
わたしが検討した「社保の窓口」(社会保険=社保に入れるサービスの名前)は、こういう商品だった。
もらう 理事の報酬として、月5万6,000円
払う 会費(利用料)として、月9万6,000円
差し引き 月4万円。これに、報酬から引かれる本人負担の保険料(約1万1,000円)が乗るので、実際の負担は月約5万1,000円、年約61万円
入れる保険 協会けんぽ(会社員の健康保険)と厚生年金(会社員の年金)。報酬5万6,000円は、いちばん安いランク
終了 2026年3月19日(厚生労働省の通知の翌日)
「理事」といっても、経営に参加するわけではない。やることはアンケートに答えたり、勉強会に出たりする程度。報酬より会費のほうが多い。つまり、社会保険に入る「入場料」を月5万円ほどで買う仕組みだった。
2. 誰が得をしたのか。わたしの数字で計算する
1つ目の声、「安くなるなら、いいじゃん」。安くなるかどうかは、人による。
社保の窓口を使うと、払うのは月約5万1,000円、年約61万円で、所得がいくらでも、家族が何人でも変わらない。いっぽう国保と国民年金は、所得と家族の人数で決まる。並べてみる。表の「所得」は、売上から経費を引いた事業の所得で、税金の計算に使う課税所得より少し大きい。
わたしは、この400万円の行が目安になる。得は年5万円。手間と、月9万6,000円を払って5万6,000円を受け取り続ける約束と、「理事」という肩書きを引き受けて、得は年5万円。しかも、表の66万円のうち国保は44万円で、わたしの実際の国保は年35万円と、それより少ない。青色申告の65万円控除(帳簿をきちんとつけると所得から引ける額)などで、国保の計算のもとになる所得が下がっているからだ。それを入れると、得はもっと薄くなる。だから保留にした。正直に書くと、もう少し儲かっていたら、入っていたかもしれない。
表を見ると、得だったのは所得が多い人と、家族が多い人。所得1,000万円なら年56万円、夫婦と子ども2人なら年46万円。家族の国保と、配偶者の国民年金が、まるごと消えるからだ。
3. 何が起きたのか。3月に「役員型」、今日「従業員型」が閉じた
3つ目の声、「違法じゃないって聞いたけど?」。
たしかに、法律に「一般社団法人の理事になってはいけない」とは書いていない。だから「グレー」と言われていた。厚生労働省がやったのは、法律を変えることではなく、「実態」で判断する基準を通知で示すことだった。通知は、国が日本年金機構などに「こう判断しなさい」と示す文書だ。
報酬より多い会費を払っている/仕事がアンケート回答や勉強会参加だけ/活動報告や情報共有だけ/会社の紹介に協力するだけ。こういう「理事」は、法人に使われている実態がないので、社会保険の資格を持たない。法人に届出を出させて、資格を失わせる
役員ではなく「正社員」の形をとる型が新たに見つかったので、同じ基準を当てはめる。「報酬より多い会費を払っている」と「仕事が形だけ(勤務時間が極端に短い/アンケートや勉強会だけ/自分の事業をそのまま会社の業務にしている/会員どうしで仕事を紹介し合っているだけ)」の両方に当てはまれば、原則、資格なし。片方なら、実態を見て個別に判断
3月の通知の翌日、社保の窓口は終了。同じ型のサービスも、春までに次々と店じまいした。「役員型がだめなら」と、正社員の形をとる「従業員型」に乗り換えた人もいる。今日の通知で、その従業員型も使えなくなった。
そして今日の発表。厚生労働省の指示で日本年金機構が「社会保険料削減ビジネス」(国保逃れの、国の側の呼び名)を疑って調査した45社のうち、38社が指導に従って対象者全員の資格を失う届出を出し、1万1,610人が社会保険の資格を失った。残りの7社は調査中。共同通信によると、資格を失った人は、過去にさかのぼって国保と国民年金の保険料を求められる可能性がある。
でも、社会保険に入れるのは「法人に使われている実態がある人」だけ → 実態がなければ、最初から資格がなかったことになる
資格がなかったことになると → その期間は国保と国民年金に入るべきだった人になる。払っていない保険料が残る
「違法じゃない」は、「入っていていい」を意味しなかった。ここが、グレーの中身だ。
4. 「結局、どうすればいいの?」。できることは、前と変わらない
4つ目の声。フリーランスの国保が高いのは、事実だ。わたしも、国保・国民年金・住民税で月8万円の現実を書いた。でも、抜け道が閉じたいま、できることは閉じる前と変わっていない。
わたしがこの3つで済んでいるのは、計算したら微妙だったからだ。もう少し儲かっていたら、入っていたかもしれない。入っていたら、いま1万1,610人の側にいた。
5. わたしは、どう見ているか
わたしがこの件から持ち帰ったことは、2つ。
同じ商品でも、所得と家族で答えが逆になる。わたしは5万円、家族4人なら46万円。「かなりお得」は、わたしには当てはまらなかった
3月に役員型が止まり、9月に従業員型が止まった。しかも、さかのぼって保険料を求められる可能性がある
ベンジャミン・フランクリン(1789年11月13日、ジャン=バティスト・ル・ロワへの手紙)
アメリカ建国の父のひとり、ベンジャミン・フランクリンが、フランスの友人に宛てた手紙の一節だ。「アメリカに新しい憲法ができて、長持ちしそうだ。でも、この世で確かなものは死と税金だけ」。国の形は変わるかもしれないけれど、稼いだ人から税金が取られることだけは変わらない、という意味で書いている。保険料は税金ではない。でも、稼いだ人が払い、逃げようとしても追いつかれる、という点では同じ側にある。
わたしがやることは変わらない。国保はPayPayで、国民年金はカードで2年前納。課税所得は青色申告と経費で適正に下げる。あとは、気にせず稼ぐ。それだけだ。
6. まとめ
- 「国保逃れ」は、会費を払って一般社団法人の理事になり、給料5万円台の社会保険に入る仕組み。事業の所得には保険料がかからず、家族は扶養で0円
- 厚労省の指示で年金機構が調べ、38社・1万1,610人が資格を失った。さかのぼって国保・国民年金の保険料を求められる可能性がある
- 3月18日の通知で「役員型」、今日9月14日の通知で「従業員型」も、実態がなければ資格なしと明確化。会費が報酬より多い、仕事がアンケートだけ、が目印
- 得になるのは、所得が多い人と家族が多い人。ひとり・所得400万円のわたしは年5万円。夫婦+子2人なら46万円、所得1,000万円なら56万円
- わたしは1年目に検討して、微妙だったので保留にした。もう少し儲かっていたら入っていたかもしれない
- 「違法ではない」と「資格がある」は別の話。実態のないものは、いつか実態で判断される
・厚労省の資料:社会保障審議会年金事業管理部会 資料4「いわゆる社会保険料削減ビジネスを行っていると疑われる事業所に対する事業所調査の状況について」(2026年9月14日)。調査45社・38社・1万1,610人(8月31日時点)はここから
・通知の原文:「法人の役員である個人事業主等に係る被保険者資格の取扱いについて」(2026年3月18日、保保発0318第1号)、「勤務時間が短い正規型の労働者として事業所に使用されている個人事業主等に係る被保険者資格の取扱いについて」(2026年9月14日、保保発0914第2号)
・社保の窓口の仕組み:ソロ節約ラボ「社保の窓口は2026年3月19日に終了」(月9万6,000円の利用料、5万6,000円の理事報酬、終了日)
・保険料の計算:東京都「令和8年度 特別区国民健康保険料一覧表」(医療分 均等割4万7,600円・所得割7.51%、支援金分1万7,600円・2.80%、子ども・子育て支援納付金分1,800円・0.27%、限度額67万・26万・3万円)、国民年金は2026年度 月1万7,920円、協会けんぽ東京 9.85%+子ども・子育て支援金0.23%、厚生年金18.3%。表の額はクロちゃん(Claude)に計算してもらった概算
・わたしの国保35万円:国民健康保険を安くする方法(課税所得400万円ベース)
・フランクリンの言葉:1789年11月13日付 Jean-Baptiste Le Roy 宛書簡。訳はわたし




