大統領が「金利は1%以下に」。金利を国のトップが決めた過去の記録を調べてみた
今朝の記事で、アメリカが3年ぶりに利上げしたことを書いた。その数時間後(アメリカでは同じ日の午後、日本では17日の朝)、トランプ大統領がSNSにこう投稿した。「アメリカの金利は1%以下であるべきだ。世界で最高の信用力なのだから」「アメリカのために金利を下げろ。今すぐ」。利上げを決めたFRB(アメリカの中央銀行)のウォーシュ議長は、大統領自身が今年3月に指名し、5月にホワイトハウスで宣誓した人だ。こう思った人も、いるはずだ。
🤔「1%って、そんなにおかしいの?」
😤「金利が下がれば、株もローンも助かるでしょ」
🏠「わたしのオルカン、どうなるの?」
わたしは、アメリカの株と債券を、オルカン(全世界の株に分散する投資信託。中身の6割がアメリカ)とS&P500と、BND(アメリカの国債や会社の債券をまとめて持つ、アメリカの上場投資信託。債券を持つということは、お金を貸している側にいるということだ)229口で持っている。アメリカの金利が動くと、この持ち物の値打ちも動く。どう動くかは、4章で見る。だから、大統領の是非ではなく、金利を大統領が決めた国に何が起きたかを、記録で見ておきたい。
結論から言うと、金利を大統領が決めた国は、通貨が下がり、物価が上がった。トルコは2年かけて金利を19%から8.5%まで下げさせて、物価が85%上がり、通貨の値打ちは2年で半分になった(1リラが13円から6.7円に)。1972年のアメリカは、3%だった物価が2年で11%に。だからわたしは、「1%以下」になるかどうかを予想しない。代わりに、金利を国のトップが決めた国で何が起きたかを、順番に見ていく。
1. 誰が金利を決めるのか。大統領は投票に入らない
1つ目の声から。まず、仕組み。
アメリカの政策金利(中央銀行が決める、いちばん元になる金利。預金もローンも、ここから決まっていく)は、FRBの会合(FOMC)で、12人の投票で決まる。議長は大統領が指名して、議会が承認する。でも、大統領は投票に入らない。議長も1票だ。今回の利上げは12対0。大統領が指名した議長を含めて、全員が賛成した。
つまり「大統領が言えば下がる」仕組みには、なっていない。ただし、議長も、議長と一緒にワシントンで働く理事たちも、大統領が指名する。1つ目の声への答えは「すぐには下がらない。でも、下げろという声は、上の記録のとおり、たしかにかかっている」だ。
2. 「1%って、そんなにおかしいの?」
2つ目の声。金利の高い低いは、物価と比べて初めて意味を持つ。
物価が3.4%上がる国で、金利が1%なら、お金を貸した人は毎年2.4%ずつ負ける。銀行に預けるのも、銀行にお金を貸すことだ。100万円を1年預けて101万円になっても、去年100万円で買えたものが103万4,000円になっているからだ。逆に、借りた人は毎年2.4%ずつ得をする。「金利を1%以下に」は、お金を貸す側から借りる側へ、毎年2.4%を動かすということ。
3つ目の声、「金利が下がれば、株もローンも助かるでしょ」は、そのとおり。借りる側は助かる。でも、それで終わらないことを、次の章の2つの国が示している。
3. 金利を大統領が決めた国の記録。トルコと、1972年のアメリカ
トルコ。 先週、トルコリラ(トルコのお金)の記事で「金利37%」と書いた。あの37%は、大統領が金利を下げさせた2年間の、そのあとの数字だ。
2021年、エルドアン大統領は「金利を下げればインフレは収まる」という持論で、中央銀行の総裁を次々に替え、9月から12月の4か月で金利を19%から14%へ、2023年には8.5%まで下げさせた。金利を下げると、その国のお金で預けても増えないので、持つ人が減って通貨が売られる。通貨が下がると、外国から買うものの値段が上がる。トルコで起きたのは、この順番だ。物価は上がり続け、2022年10月に85.5%。リラは2年で、1リラ13円から6.7円へ、半分になった。2023年5月の選挙のあとに方針を変え、金利を50%まで上げて、いまが37%。それでもリラは3.2円で、下げ始める前の13円の4分の1だ。
1972年のアメリカ。 「それはトルコだから」と思う人のために。1972年、再選を目指すニクソン大統領は、FRBのバーンズ議長に利下げを迫った。大統領執務室の録音テープが残っていて、経済学者が2006年に論文にしている。バーンズ議長は当初、インフレを招くと抵抗したが、結局、1971年の終わりにかけて、選挙を前に金利は下がった。1972年に3%を切っていた物価は、1973年の石油ショック(原油の値段が一気に上がった)も重なって、1974年には11%を超えた。FRBは1974年7月に金利を13%近くまで上げて、それを止めることになる。
そのあと 物価が上がり、通貨が下がった(トルコはリラが2年で半分に、アメリカは物価の上がり方が年3%から11%に)
最後に 結局、下げる前より高い金利まで上げることになった(トルコ19%→50%、アメリカ1974年に13%近く)
損をしたのは その国のお金で貯金していた人と、貸していた人。預金も貸したお金も、値打ちの下がったお金で返ってきた。借りていた人は、その下がったお金で返せた
4. もし本当に「1%以下」になったら、わたしの持ち物はどうなるか
4つ目の声、「わたしのオルカン、どうなるの?」。本当に1%になるかどうかも、なったときに何が起きるかも、先のことは分からない。だから代わりに、実際に金利が1%以下だった2020年末に、持ち物がどうだったかを確認する。
金利が低いと、債券の値段は高い。新しく出る債券の金利が低いなら、前に出た高い金利の債券のほうが欲しがられるからだ。BNDは88ドルだった。いまより24%高い。金利が低いと、ドルは安い。ドルで預けても増えないなら、ドルを持つ理由が減るからで、トルコと同じ順番だ。1ドル103円だった。もし金利が1%の世界に戻れば、方向としては、BNDは上がり、ドルは下がる。
表にオルカンの行がないのは、オルカンの中身は株で、値段は金利より会社の業績で動くからだ。金利がオルカンに効くのは、主にドル円を通してになる。
わたしの持ち物で言えば、BND 229口はドルで増える側。でも、オルカンは円で買っていても、中身はアメリカを中心とした外国の株なので、値打ちはドルで決まって円に直される。そのオルカンとS&P500とBNDをまとめたドル建ての持ち物、約4,250万円分を、円高の記事で「ドルの箱」と呼んだ。箱の中身は約27万ドルなので、1ドルが1円動くと約27万円動く。156円が103円に戻れば、53円分で約1,400万円が円で見ると消える。BNDも箱の中にあるので、BNDが24%上がったぶんは箱を支えるが、229口では約60万円分。1,400万円には遠く及ばない。今朝の記事で「利上げでBNDはドルで減り、ドルの箱は円で増えた」と書いた。利下げなら、向きが逆になるだけだ。
そして3章で見たとおり、大統領の言うとおりに金利を下げた国では、通貨が下がったあとに物価が上がった。もしアメリカでそれが起きても、円で暮らすわたしの財布は楽にならない。ドルが下がるぶん、持ち物が円で減るだけだ。
5. わたしは、どう見ているか
わたしの見方は3つ。
わたしはドル建ての持ち物を約4,250万円分(4章のドルの箱)持っている。金利を大統領が決めた国では、通貨が下がった。だからアメリカの金利を中央銀行が決めるのか、大統領が決めるのかは、他人事ではない。今回は12対0で、中央銀行が決めた
楽になるのは借りた側だけで、払うのは貸した側。トルコでそれを見た。わたしのBNDは貸す側で、しかもドル。オルカンとS&P500はドルで持つ側。わたしは両方にいる
金利を大統領が決めた国は、そのあと、下げる前より高い金利まで上げることになった。トルコは19%から50%へ。アメリカは1974年に13%近くへ
ポール・ボルカー(元FRB議長、1995年の本『The Central Banks』に寄せた序文)
1979年から8年間、FRB議長として物価を抑えた人の言葉だ。ボルカー議長は政策金利を20%近くまで上げ、失業と不況を招いたと非難されながら、13%を超えていた物価を3年で3%台に戻した。
1%になるかどうかは、誰にも分からないし、コントロールもできない。だからわたしは、未来を予測しない。BNDは持ったまま。積立は同じ日に同じ額。ただ一つ、金利を大統領が決めた国の記録だけ、忘れずに持っておく。
大統領が何を言っても、積立は同じ日に同じ額。BND(米国債券ETF)も、オルカンの積立も、日本の高配当株119銘柄も、8年以上SBI証券の口座です。
SBI証券の公式サイトを見る →6. まとめ
- 利上げの数時間後、トランプ大統領が「金利は1%以下に」と投稿。利上げを決めた議長は、大統領が3月に指名した人。金利は12人の投票で決まり、大統領は投票に入らない
- 物価3.4%の国で金利1%なら、貸した人は毎年2.4%負ける。「1%以下に」は、貸す側から借りる側へ2.4%を動かすこと
- トルコは大統領が金利を19%→8.5%に下げさせ、物価85.5%、リラは2年で半分(1リラ13円→6.7円)。そのあと50%まで上げた。1972年のアメリカも3%→11%の物価になり、13%近くまで上げた
- 金利がほぼゼロだった2020年末は、BND 88ドル・ドル円103円。1%の世界ではBNDは上がり、ドルは下がる。ドルの箱は円で見ると減る
- わたしは1%になるかどうかを読まない(予想しない)。金利を誰が決めるかで、持ち物の値打ちが変わる。今回は12対0で、中央銀行が決めた
・2月5日の発言:NBCのインタビュー(2026年2月5日)。議長の指名と宣誓:FRB(2026年5月22日)、CNBC(同日)、CNBC(9月5日)
・トルコ:政策金利はBIS 中央銀行政策金利(月末)、物価85.5%はCNBC(2022年11月3日)、総裁の解任と2021年の利下げはCNBC(2021年12月16日)。為替はYahoo Finance(TRYJPY=X)の月末終値
・1972年:Burton A. Abrams「How Richard Nixon Pressured Arthur Burns: Evidence from the Nixon Tapes」(Journal of Economic Perspectives、2006年)、Federal Reserve History「The Great Inflation」、リッチモンド連銀(2016年。1972年に3%未満、1974年に10%超)、1974年7月の政策金利12.92%はFRED(セントルイス連銀)
・物価と金利:米労働省 消費者物価(2026年8月3.4%)、FRB声明(2026年9月16日)。2020年末と9月16日のBND・ドル円・10年国債はYahoo Financeの終値からクロちゃん(Claude)に計算してもらった。ドルの箱4,251万円・1円=27万円は9月9日の記事
・ボルカーの言葉:Marjorie Deane & Robert Pringle『The Central Banks』(Penguin、1995年)へのPaul A. Volckerの序文(Central Banking誌の引用による)。1979〜1987年の議長在任、1980年の物価13%超と20%近い政策金利はFederal Reserve History。BNDの24%と約60万円、ドルの箱の約27万ドルはクロちゃんに計算してもらった。訳はわたし




