ハローワークの求人は民間より1〜2割安い。調べていくと「安い」の正体が見えてきた
日経が、ハローワークの求人賃金は民間より1〜2割安いという分析を出していた。
求人ビッグデータの会社フロッグが集めた、正社員の求人約7,000万件を分析したものだ。
この2日、働ける力そのものが資産だという話を書いてきた。その資産に、探す場所によって1〜2割の差がつくという。理由が知りたくなった。
1. どれくらい違うのか
まず差の大きさから。
差が大きいのは営業・事務・企画(約2割)
→ 差が小さめなのは医療・医薬・福祉(約1割)
月給25万円なら、1〜2割は2万5,000円〜5万円。年にすると30万〜60万円の差になる。
同じような仕事でも、載っている場所によって提示額の相場が違う。
2. なぜ差がつくのか。わたしは「費用」だと思った
ここがいちばん知りたかったところだ。まず、求人を出す側が払う額を並べてみた。
求人サイトと人材紹介は、名前が似ているけれどしくみが違う。求人サイトは広告を載せて応募を待つので、決まらなくても掲載料がかかる。人材紹介は担当者が人を探して引き合わせるので、決まったときだけ払う。いちばん高いのは人材紹介で、年収500万円の人をひとり採用するのに150万〜175万円かかる。
金額はちがうけれど、民間に出すにはどちらもお金が要る。無料なのはハローワークだけだ。
だとすると、従業員の少ない会社ほどハローワークに出しているんだろう。そう思って調べたら、そうではなかった。
厚生労働省が、従業員100人以上の会社と100人未満の会社に分けて、求人を出した方法を聞いている。
ハローワークは、従業員100人以上の会社のほうがむしろよく使っていた。差は5ポイントほどしかない。求人サイトも6ポイントほどで、そこまで変わらない。
はっきり開いたのは人材紹介だった。50.6%と34.3%で、16ポイントの差がある。いちばんお金のかかる経路だけが、大きく分かれていた。
つまり、ハローワークには大きい会社も小さい会社も出している。お金のある会社は、そこに加えて人材紹介も使う、という形だった。
そして、そのお金を出せる会社は、払う給料のほうにも余裕がある。
大企業と小企業の差は約18%。ハローワークと民間の差(1〜2割)と、近い数字ではあった。
ここまで並べて、こういうことかと思った。
ハローワークに並ぶのは大きい会社も小さい会社も混ざった全体で、民間に並ぶのはそのうちお金を出せる会社だけ。だから、載っている求人の給料を平均すると、民間のほうが高くなる。
ハローワークが安いというより、民間のほうが載る会社が絞られている。
日経も、リードでこう書いていた。
採用コストをかけられない中小企業や医療・介護事業者などが一段と人手を集めにくくなっている
採用にかけられる費用の差は、求人票に載る給料だけでなく、人が集まるかどうかにも出ている。
もっとも、費用だけが理由ではない。ハローワークにはパートや地元の小規模な求人も多く、載っている仕事の種類そのものが違う。それでも、費用の差と賃金の差がここまで近い数字で重なるのは、偶然ではない気がした。
3. 求人を出しても、9割は決まらない
その結果どうなっているか。
2024年 11.6%で過去最低
→ 求人を出しても、約9割は空振り
就職の件数そのものも減っている。リクルートワークス研究所が厚生労働省の統計を分析したところ、月あたりの就職件数は2013年の17.6万件から、2025年は9.1万件。12年で4割以上減った。
新卒以外の人が、どこで仕事を見つけているのか。12年前といちばん新しい年を並べてみた。
まず、いまでも縁故のほうが、ハローワークより多い。知り合いのつてで決まる人のほうが多い、というのは意外だった。
そして、ハローワークは25.6%から17.5%へ、8ポイントも落ちている。
そのぶん増えたのが、人材紹介だった。2.9%から8.1%へ。人数で見ると16万6千人から50万6千人と、12年で3倍になっている。
広告と縁故は、ほとんど動いていない。動いたのは、無料のハローワークと、いちばんお金のかかる人材紹介だけだった。
4. いちばん苦しいのは医療と介護。数字に、介護の事情が出ていた
賃金の差はどの職種にもあるが、いちばん困っているのは医療・介護だという。理由がはっきりしている。
売上を自分で上げられないので、賃金も上げにくい
→ 人が集まらず、民間の人材紹介に頼るしかない
実際に人がどこから入ってきているかを見たら、そのとおりだった。
はっきり離れているのは、介護・福祉だった。縁故が40.7%で、この表のなかでいちばん大きい。ハローワークと合わせると7割になる。求人メディアは13.9%、人材紹介にいたっては3.6%しかない。
医療業は違った。人材紹介が9.6%で、全産業の1.8倍ある。こちらはお金を払って人を集めている。
その紹介料が、経営を圧迫している。日経によると、医療機関と介護施設が払った紹介料は2024年度で1,139億円。10年で2.4倍になった。
賃金を上げられないから、人が集まらない。集まらないから、お金を払って人材紹介に頼る。その紹介料でますます余裕がなくなって、やっぱり賃金を上げられない。
同じところをぐるぐる回っている。
でも介護は、その輪にすら入れていない。人材紹介はたった3.6%。お金を払って人を探すことができないから、知り合いのつてに頼るしかない。
賃金を上げられない、有料の場所にも出せない、紹介も使えない。残ったのが、無料のハローワークと縁故だった。
5. わたしは全部、書類で落ちた
ここまでは、求人を出す会社の話だった。ここからは、探す側の話になる。
わたしも会社を辞めたあと、ハローワークに通っていた。2023年3月に映像制作会社を辞めて、約半年・総額70万円の失業給付を受け取った。
給付を受け取るには、条件がある。
その期間中に求職活動の実績が2回以上必要
→ 職業相談を受けるだけでもカウントされる(求人を見るだけでは不可)
実績はちゃんと作った。気になる求人には応募もしている。映像系の大手にも出した。
そして、全部、書類で落ちた。
フリーランスになるつもりで辞めているので、落ちても困らなかった。
そして同じころ、映像の仕事はマッチングサイトと前の会社から来ていた。半年ハローワークに通って、決まったのはハローワークの外だった。
捨てる神あれば拾う神あり、なんだと思う。同じ経歴でも、評価されることもあれば、評価されないこともある。
6. どこで探すかは、誰に値段をつけてもらうかを選ぶこと
ここまで調べて、思ったことがある。
求人を探す場所を選ぶのは、自分に値段をつける相手を選ぶことだった。
高く値段がつきやすいのは、払える会社が相手のときだ。人材紹介を通すと、会社は年収の30〜35%を払うことになる。その金額を出してでも欲しいと思われて、はじめて話が進む。通りにくい代わりに、通ったときの評価は高い。
逆のほうも、この記事で見た。介護・福祉の入職は7割がハローワークと縁故だった。そもそも、払える相手がそこにいない。
わたしの場合、相手は前の会社とマッチングサイトだった。フリーランスでやっていくつもりだったので、人材紹介は使っていない。
そして転職活動は、ノーリスクだ。お金はかからないし、受かっても気が変わったら断ればいい。そのうえで、よそでいまより高く評価されればいまの会社は自分を安く見ていた、低ければいまの会社はちゃんと評価してくれていたとわかる。どちらに転んでも、自分の現在地が分かる。
いまの職場に少しでも引っかかることがあるなら、動いてみるだけで意味がある。
そしてこれは、資産形成の話でもある。
1章で見た差は、月給25万円で年30万〜60万円だった。同じ働きなのに、載っている場所が違うだけで、それだけ変わる。
年60万円の差 → 20年で 1,200万円
→ 積み立てに回せば、さらに増える
わたしは貯金500万円から8年でサイドFIREにたどり着いたけれど、効いたのは運用の腕ではなかった。毎年いくら入れられたかのほうだった。
収入を増やす方法はほかにもある。副業で100万円と昇給で100万円を比べた記事では、手取りの効率は副業のほうがよかった(昇給は社会保険料と税で約28万円が消える)。
ただ、あの計算には前提がある。青色申告の65万円控除が使えること、つまり事業として育っていることだ。隙間バイトのように給与でもらう副業には、この控除は使えない。しかも時給×時間なので、増やせる額は、自分の時間で頭打ちになる。
では事業のほうを育てればいいかというと、そこまでが遠い。
わたし自身、このブログの前に一度ブログを失敗している。星占いのブログを始めて、続かなかった。いま書いているこのブログも、まだ成果は出ていない。
ブログもYouTubeもせどりも、始めるのは今日からできる。でも、お金になるまでが長い。
隙間バイト すぐ入る。ただし時間の切り売りになりがちで、控除も効かない
転職活動 するだけならタダ。成功すれば継続的に年収が上がる
隙間バイトは、来年も同じだけ働かないと同じ額にならない。ブログやYouTubeは違って、育てば置いたものが働いてくれる側に回ることもある。ただ、そこまで行くのが遠い。
一方、年収は、一度上がればそのまま翌年の土台になる。しかもこちらは、転職活動をするだけで実現する可能性がある。
だから、入口としてはここがいちばん近いと思っている。
そして、転職活動してみて希望する年収に届かなかったとしても、収穫はある。届かない理由のほうに、次にやることが書いてある。技術を足すのか、業種を変えるのか。
昨日書いたのは、働けるだけでは資産にならない。その働きに需要があること、だった。需要のあるほうへ動く。その入口が、転職活動だった。
働ける力には、値札がついていない。値札をつけるのは、いつも相手のほうだ。
バークシャー・ハサウェイの副会長だったチャーリー・マンガーが、卒業式のスピーチでこう話している。
それに値する人間になろうとすることだ
チャーリー・マンガー(2007年 南カリフォルニア大学ロースクール卒業式)
同じスピーチで、自分が買い手だったら買うものを、世に出しなさいとも言っていた。値段をつけるのは相手なのだから、相手の側から自分を見ろ、ということだと思う。
だから、高く値をつけてくれる相手を探すことと、その値がつく自分になること。
ここまでの数字は、ぜんぶそこに戻ってくる。
7. まとめ
- 日経の分析で、ハローワークの求人賃金は民間より1〜2割安いことが分かった(フロッグが集めた正社員求人約7,000万件を分析)。月給25万円なら年30万〜60万円の差になる
- 求人を出す側の費用を並べてみて、ここが効いていると思った。ハローワークは無料、求人サイトは掲載料、人材紹介は年収の30〜35%。その費用を出せる会社だけが、民間の求人に載る
- 小さい会社ほどハローワークに出すのかと思ったら逆だった。大きい会社も小さい会社もハローワークには出していて、お金のある会社がそこに加えて人材紹介も使っていた(厚生労働省)。ハローワークが安いというより、民間のほうが載る会社が絞られている。企業規模別の賃金差(大企業36万4,500円と小企業29万9,300円で約18%)も、これと近い数字だった
- ハローワークの充足率は2024年に11.6%で過去最低。求人の約9割が空振りしている(1960年代半ばは50%近く決まっていた)
- 入職の経路(新卒以外)は求人メディア34.2%、縁故21.8%、ハローワーク17.5%で、知り合いのつてのほうが多い。12年でハローワークは25.6%→17.5%、人材紹介は2.9%→8.1%(厚生労働省・雇用動向調査)
- いちばん苦しいのは医療と介護。診療報酬・介護報酬は国が決める公定価格なので賃金を上げにくく、民間の紹介に頼る。その紹介料は2024年度で1,139億円、10年で2.4倍。とくに介護・福祉は入職の7割がハローワークと縁故(2019年)で、お金のかかる経路をほとんど使えていない
- わたしも会社を辞めたあとハローワークに通い、映像系の大手にも応募して全部書類で落ちた(給付は約半年・70万円)。仕事はマッチングサイトと前の会社から来た。同じ経歴でも、評価されることもあれば、評価されないこともある
- どこで探すかは、誰に自分の値段をつけてもらうかを選ぶことだった。転職活動はノーリスクで、高く評価されればいまの会社は自分を安く見ていた、低ければちゃんと評価してくれていたとわかる
- これは資産形成の話でもある。年30万〜60万円の差は20年で600万〜1,200万円。副業のほうが手取り効率はいいが、隙間バイトは時間の切り売り、ブログやYouTubeはお金になるまでが長い(わたしも一度失敗していて、いまのブログもまだ成果は出ていない)
- 働ける力には、値札がついていない。値札をつけるのは、いつも相手のほう。だから高く値をつけてくれる相手を探すことと、その値がつく自分になること。ここまでの数字は、ぜんぶそこに戻ってくる
・充足率11.6%:日本経済新聞「ハローワーク、求人出しても9割空振り 求職者とミスマッチ拡大」
・医療・介護の人材紹介料:日本経済新聞「人材紹介料に消える医療費 10年で2.4倍1000億円超」
・チャーリー・マンガーの発言(2007年5月13日、南カリフォルニア大学ロースクール卒業式):スピーチ全文(英語)(原文は "The safest way to try and get what you want is to try and deserve what you want." および "You want to deliver to the world what you would buy if you were on the other end.")
・診療報酬・介護報酬が公定価格であること:厚生労働省「診療報酬改定について」(診療報酬・介護報酬は国が定め、原則2年・3年ごとに改定されます)
・企業規模別の賃金:厚生労働省「令和6年 賃金構造基本統計調査 結果の概況」(一般労働者・男女計の所定内給与額)
・企業規模別に求人を出した方法:厚生労働省「採用における人材サービスの利用に関するアンケート調査(求人企業に対する調査)」(調査期間2021年6月/求人企業12,800社に配布・有効回答1,142社/過去1年に求人を出した企業を分母とする複数回答。正社員100人以上の回答は83社と少なめです)
・求人サイトの掲載料と人材紹介の成功報酬:人材業界各社が公表している相場です。特定の統計にもとづく数字ではありません(職業安定法上、届出制手数料の上限は年収の50%)
・職種別の賃金差(営業・事務・企画 約2割/医療・医薬・福祉 約1割):note「【ヨミトキ】ハローワーク求人はなぜ選ばれなくなったのか?」(日経のグラフを読み取った二次情報です。日経本文が会員限定のため、数字は原典で確認できていません)
・産業別の入職経路(2019年):厚生労働省「雇用動向調査」第12表「産業(中分類)、企業規模、職歴、入職経路別入職者数」より、同じく新規学卒者を除いて算出。「医療業」「社会保険・社会福祉・介護事業」の区分をそれぞれ使っています
・入職経路の推移(2012年→2024年):厚生労働省「雇用動向調査」第18-2表「都道府県、職歴、入職経路別入職者数」の全国計より算出(2012年/2024年、いずれも年計)。入職者の合計から新規学卒者を差し引いて、こちらで計算しました。「ハローワーク」は職業安定所とハローワークインターネットサービスの合計、「その他」はその他・出向・出向先からの復帰の合計です。統計上の「民営職業紹介所」は、記事では「人材紹介」と書いています
・就職件数の推移(月平均):リクルートワークス研究所「ハローワークの紹介はなぜ事務職に偏るのか」(古屋星斗、2026年6月19日/厚生労働省「一般職業紹介状況」の分析)
・求職活動実績として認められるもの:東京労働局「失業の認定における求職活動実績となるもの」
・「2回以上」の要件:愛知労働局「失業認定申告書の書き方」
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