FIREが増えると、インフレになるらしい。FIRE寄りの一人として調べてみた
元日銀のエコノミストが、FIREが増えるとインフレになると言っている。
みずほ総合研究所の主席エコノミスト、河田皓史(かわた・ひろし)さん。著書『働く人が減っていく国でこれから起きること』でその話を書いていて、8月10日にはテレビ東京の番組でも解説していた。
わたしはサイドFIREなので、仕事は続けている。でも、その「増えたほう」に入っているのも確かだ。
自分がどっち側なのか、よく分からない。順を追って見ていく。
1. 人口が減ったら、安くなるのでは
まず引っかかったのはここだった。
人口が減れば、買う人も減る。買う人が減れば、ものは売れなくなる。売れないなら値下げする。だから人口減少はデフレ、というのがずっと言われてきた話だ。
→ 買う人が減る
→ ものが売れないので、値下がりする
河田さんの見立ては、ここが違う。
働く人が減るのと、買う人が減るのは、同じではない。
ここで、2つの「減る」が混ざりやすい。
日本では、この2つが同時に起きている。河田さんが見ているのは、下のほうだ。
では、どちらが勝つのか。この2つは、そもそも対等ではないらしい。
人口が減るほうは、供給と需要を両方削るので、打ち消し合う。しかも河田さんは、需要は人口ほど減らないとも言っている。理由は単身世帯化だ。3人の世帯が1人の世帯3つに分かれても、冷蔵庫も炊飯器も光熱費も3つぶんかかる。人は減っても、消費の単位はそこまで減らない。
いっぽうFIREが削るのは、働く人だけだ。買う人はそのまま残る。
片方だけが、余計に削られていく。
2. 働かなくなった人でも、消費はする
言われてみれば当たり前だった。
FIREした人は、働くのをやめる。でも買い物はやめない。家賃も食費も光熱費も、そのまま続く。宅配も頼むし、コンビニにも行くし、いずれ介護も必要になる。
買う人 減らない
→ 需要のほうが、供給より多い状態が続く
そうなると、人手が足りない。企業は人を集めるために賃金を上げる。上がった人件費は、商品やサービスの値段に乗る。
コンビニの深夜営業、宅配、介護、建設、飲食。人の手がないと回らないものほど、値段が上がりやすい。
河田さんはこれを「FIRE起因型インフレ」と呼んでいる。
3. なぜ、辞めたい人が増えたのか
ここがいちばん面白かった。理由は「投資ブーム」ではなかった。
まず土台にあるのが、結婚しない人が増えて、一人暮らしが増えていること。
→ 一生に必要なお金の総額が、大きく下がる
→ そこまで働かなくても足りる、ということになる
そのうえで、会社で働くこと自体がしんどくなっているという話が続く。
ひとつは、前向きな仕事が減ったこと。経済が成長していたころは「新しい市場を開こう」という仕事が多かった。いまは乾いた雑巾を必死に絞るような仕事が増えている、と河田さんは言っていた。
もうひとつが、管理職の負担だ。
でも仕事の量は、そこまで減らなかった
→ 残りを管理職が引き取った
→ そこにハラスメントの防止・対応という新しい負担も乗った
→ なのに賃上げは若手が優先で、賃金は増えない
そうすると、下から見ている若手はこう思う。あんなふうになりたくない。なる前に辞めよう。
ちなみに河田さん本人も、10年ほど前、20代後半のころから「60歳まで働きたくない」と思い始めたそうだ。FIREしたい側の人が、FIREに警告している。
4. そのインフレが、FIREした人の資産を削る
FIREが増える → インフレになる → そのインフレが、FIREした人の資産を削る。
働いている人は、物価が上がれば賃金も上がる。上がったぶんが、そのまま入ってくる。
でもFIREして資産を取り崩している人には、その道がない。入ってくる額は変わらないのに、出ていく額だけが増える。
5. いくらあれば足りるのか
ここから先は2人以上の世帯、つまり夫婦の平均像で計算した話になる。単身のわたしには当てはまらないけれど、まず元の試算を見ておきたい。
河田さんは、金額を変えながら試算している。前提はこうだ。
年金をもらっても、家計はずっと赤字のままだ。だから資産は毎年減っていく。何歳で尽きるかが、金額によって変わる。
ちなみに何歳まで生きる前提を置くかについて、河田さんは100歳ぐらいまで置いたほうが安全、とも言っていた。上の表は90歳や平均寿命を基準にしているので、それでも甘いほうの見立てになる。
そのうえで河田さんは、「FIREには1億」という、よく言われる数字についてこう言っていた。
そんなに的外れじゃない。「現実的に行けそうなレベル」と「ある程度安心なレベル」の、ちょうどいい塩梅がそのあたり
これは試算した結果ではなく、世間で言われている数字への評価だ。ただ、7,000万でも心もとないという流れのあとに出てくると、腹に落ちる。
しかもこの試算には、まだインフレが入っていない。
6. 2%が35年続くと、物価は倍になる
インフレを入れると、話が変わる。
支出が毎年2%ずつ増えていくという前提にすると、50歳のときに350万円ほどで暮らせていた生活が、70歳では520万円、80歳では630万円かかるようになる。暮らしぶりは同じなのに、必要な額だけが増えていく。
インフレ年2% → 70歳になる前に尽きる
→ およそ10年、早まる
河田さんの言い方がいちばん分かりやすかった。
2%が続けば、35年ほどで物価の水準は倍になる。いま30万円で暮らせているとしても、30何年後には60万円払わないと暮らせない
インフレなしでも、5,000万円は80歳手前で尽きている。インフレは尽きる年を早める役をしているだけだ。
そして年2%は、日銀が目標にしている水準だ。特別に悪いシナリオではない。
7. 処方箋は、2つだった
では、どうすればいいのか。河田さんが挙げていたのは2つだ。
ひとつめは、生活水準を安易に上げないこと。
月50万円だったのが30万円になった人
→ 同じ金額なのに、後者のほうがずっとつらい(習慣形成)
だから「辞めたあとに生活を切り詰める」という計画は、紙の上ではできても現実では続きにくい。いま大きく下げないとFIREできないなら、その計画は考え直したほうがいい、という話だった。
ふたつめが、働ける力を残しておくこと。
誰もが持ちうるインフレに強い資産は、働いて賃金を得る能力
理由は単純で、賃金は物価に連れて上がるからだ。株でも不動産でもなく、これがいちばん強いと河田さんは言っていた。金融資産ではないけれど、誰でも持っている。
そして完全に引退すると、その資産だけを手放すことになる。
だから、辞めたあとも「働こうと思えば働ける」状態を保つ。しかも組織に頼らない、持ち運べる尖った技能のほうが戻りやすい。ジェネラリストとして働いてきた人より、何かに尖っている人のほうが再開しやすいという指摘もあった。
8. で、わたしはどうなのか
ここで自分に返る。
5,000万円という数字だけ見ると、わたしは34歳で5,831万円だ。でも試算は2人以上の世帯が前提で、年金も年200万円。わたしは単身で、年金の見込みは月9万円しかない。そのまま当てはめると間違える。
それより気になったのは、処方箋のほうだった。
サイドFIREなので、資産だけで暮らしているわけではない。フリーランスの映像プロデューサーという、組織に属さない技能で食べている。
インフレそのものは、頭に入れていた。ライフプランを考えるときに、年2%は乗せて計算している。
でも、FIREが増えるとインフレになるという理屈は知らなかった。生活費が月15万円なのは削るのではなく、使い方を決めた結果だし、仕事を続けているのは好きだからだ。どちらも、この話に備えて選んだわけではない。
なお、人口そのものが減れば買う人も減るので、やはりデフレになる、という反対の見方も当然ある。
それでも調べてよかったと思ったのは、いまの自分のどこが効いているのかが分かったからだ。わたしは4%ルールをまだ1円も試していない。取り崩しを始めていないので、インフレに弱い側にまだ立っていないだけとも言える。
仕事を続けるかどうかは、資産の話とは別に決めてきた。でもそれが、期せずしていちばん効く備えだったらしい。
9. まとめ
- 元日銀のエコノミスト河田皓史さんが「FIREが増えるとインフレになる」と言っている。人口が減ればデフレ、という常識とは逆の話
- 理由は「働かなくなった人でも、消費はする」。働く人だけが減り、買う人は減らないので需要が供給を上回る(FIRE起因型インフレ)
- 人口が減るほうは供給と需要を両方削るのに対し、FIREが削るのは働く人だけ。しかも一人暮らしが増えると消費の単位は人口ほど減らない。片方だけが余計に削られていく
- 辞めたい人が増えた理由はお金だけではない。土台に結婚しない人・一人暮らしの増加があり、そこに働き方改革で減った一般社員の残業を管理職が引き取り、ハラスメント対応も増えたのに賃上げは若手優先という事情が重なった。「あんなふうになる前に辞めよう」ということになる
- そしてそのインフレが、FIREした人の資産をいちばん早く削る。働いていれば物価上昇ぶんが賃金に乗るが、取り崩す側は入ってくる額が変わらないまま、出ていく額だけ増える
- 50歳リタイアの試算(2人以上世帯・年支出約350万円・65歳から年金200万円・税引後3.2%運用)では、5,000万円で80歳手前、6,000万円でも平均寿命より前、7,000万円でギリギリ。河田さんは「FIREには1億」という数字を、そんなに的外れではないと言っている。ここにインフレ年2%を入れると、5,000万円は70歳になる前に尽きる(およそ10年早まる)。ただしインフレなしでも80歳手前で尽きているので、インフレがなければ安心という話ではない
- 2%が35年続けば物価は倍。いま30万円で暮らせていても、30何年後は60万円ないと暮らせない
- 処方箋は2つ。①生活水準を安易に上げない(同じ月30万円でも50万円から落ちた人のほうがつらい=習慣形成。いま大きく下げないとFIREできない計画は考え直したほうがいい)
- ②働ける力を残す。賃金は物価に連れて上がるので、働いて賃金を得る能力がいちばん強い。組織に頼らない、持ち運べる尖った技能ほど戻りやすい
- わたしは34歳で5,831万円だが、試算は2人以上世帯が前提で年金も年200万円。単身で年金は月9万円のわたしには当てはめられない。それより、処方箋を2つとも満たしていた(生活費は月15万円、サイドFIREで映像の仕事を続けている)。ただしインフレ年2%はライフプランに乗せていたものの、この話に備えて決めた形ではない
・インタビュー:東洋経済オンライン「実はインフレに弱いFIRE、労働は『インフレ高耐性資産』」(2026年6月7日)/JBpress「30代『FIREしたい』エコノミストの大胆予測が話題!」(2024年9月19日)
・試算の前提(年支出約350万円・65歳から年金200万円・税引後3.2%):AERA DIGITAL「貯蓄5000万円でも『70歳手前』で資産寿命が尽きる」
・番組での解説:テレビ東京「日経モーニングプラスFT」(2026年8月10日放送)
・著書:河田皓史『働く人が減っていく国でこれから起きること』(朝日新聞出版、2026年4月)。この記事は書籍本文ではなく、上記のご本人の解説と報道にもとづいて書いています
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わたしは相場を当てにいかないぶん、積み立てる場所だけ決めています。メイン口座はSBI証券で、8年以上使っています。月100円から積み立てられます。
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