Netflixのドラマ『ダウンタイム』を観た。整形と「直美」を、わたしらしくお金から考えてみた
9月17日から、Netflixでドラマ「ダウンタイム」が配信されている。舞台は美容整形の世界で、松岡茉優さんと仲里依紗さんが、考え方が正反対の2人の医師を演じる。全8話を、わたしも最後まで観た。終始飽きさせない展開で、よくできた面白いドラマだ。主演の2人も、とてもよかった。
いちばん印象に残ったのは、研ナオコさんの怪演。このドラマのピークといっても過言ではない。ラストの展開は、個人的にはいまひとつだったけれど、悪くない終わり方だったと思う。
中身はネタバレになるので、詳しくは書かない。ただ、生死にかかわる場面で、ドラマの医師は究極の選択を迫られる。「美しくなるか、死ぬか」。医師としてどうするのか、ひとりの人としてどうするのか。安楽死の議論に近いものを感じた。考えさせられる内容だ。
ドラマの感想はさておき、美容医療の世界を、少し調べてみた。美容外科を主な仕事にしている医師は、2014年には497人。それが2024年には1,720人と、10年で約3.5倍に増えている。その中には、医学部を出て2年の研修を終えたあと、すぐ美容の世界に進む医師もいて、「直美(ちょくび)」と呼ばれる。知るほど、気になることが出てくる。
🤔「直美は、なぜ話題になっているの?」
😤「医師になるまでに、いくらかかるの?」
🏠「医師の給料は、かけたお金と時間に見合っているの?」
結論から言うと、わたしは、整形については肯定派だ。本人が望むなら、するのは自由。それで幸せになれたり、がんばれたりするなら、良いことだと思う。
では、直美についてはどうなのか。わたしらしく、お金の面から考えてみる。医学部で6年、研修で2年。合わせて、最短でも8年かかる。学費は、国立なら6年で約350万円。私立では、約1,830万円から4,550万円まで開きがある。それだけのお金と時間をかけてきたのだから、医師が高い給料がほしくなるのは自然なことだ。直美も、その選択のひとつに見える。順番に見ていく。
1. 整形は、髪を切るのと根本は同じ
1つ目の声、「整形って、まだちょっと抵抗あるけど、どうなの?」。
わたしは、整形も、髪を切ったり、化粧をしたり、好きな服を着たり、ダイエットやジムに通ったりするのと、根本は同じだと思っている。違うのは、メスが入るかどうかだけだ。もちろん、メスが入るぶん術後のリスクもあるはずで、それがどのくらいなのかは、わたしにはわからない。
そう言うわたし自身は、美容にそれほどお金をかけていない。通っているのは美容院くらいで、化粧品も高価なものは使っていないし、ジムにも行っていない。飲んでいるのも、プロテインとサプリ(マルチビタミン)くらいだ。
それでも、まわりには、ちょっとした整形や注射でしわを消して、キラキラしている友達もいる。わたしは、それを否定しない。プリクラやAIで写真を加工するのと、同じことだと思うからだ。人は、憧れるものになりたい。もともときれいなモデルのような人でさえそうなのだから、一般の人ならなおさらだろう。
ドラマにも、小学生や、SNSで人気のインフルエンサーが整形をする場面が出てくる。整形が、ごく身近なものとして描かれているのだ。調べてみると、少なくとも10代や20代については、この描き方は大げさではなさそうだった。
2. 直美は、なぜ話題になっているのか
2つ目の声、「直美は、なぜ話題になっているの?」。
医師は、医学部を卒業して国家試験に受かったあと、2年間の研修(初期研修)を受ける。多くの人は、そのあと内科や外科など、自分の専門を決めて、さらに3年以上の研修(専門研修)に進む。直美は、この専門研修に進まずに、美容の世界に入る医師のことだ。
美容外科を主な仕事にする医師の平均年齢は41.2歳。研修中の医師を別にすれば、どの科の医師よりも若い。
国の検討会では、経験の少ない医師が施術をすることで、トラブルが起きていないかが話し合われた。2026年4月から、保険で診療する診療所の院長になるには、初期研修を終えたあと、病院などで3年以上の経験が必要になっている。ただし、保険を使わない美容の診療所は、この決まりの対象ではない。
3. 医師になるまでに、いくらかかるのか
3つ目の声、「医師になるまでに、いくらかかるの?」。まずは、年数から。
18歳で入学して、専門研修まで終えると最短11年。そこで、ようやく専門の医師としてひとり立ちする。
次に、学費。
「医師になるには数千万円かかる」とよく言われるが、それは私立に進む約4割の人の話だ。
4. 医師の給料は、かけたお金と時間に見合っているのか
4つ目の声、「医師の給料は、かけたお金と時間に見合っているの?」。
平均の年収は、たしかに高い。ただ、それは45歳あたりの話だ。20代のうちは、研修や当直で長い時間働きながら、給料は医師の平均よりずっと低い。
では、お金だけで比べてみる。以前、ジャックとジルの話で、大学の学費を18歳で投資に回したらどうなるかを計算した。その医師版を考えてみる。
ジャックがジルに追いつくには、年5%なら、26歳から毎年約250万円、月に20万円ほどを積み立てればいい。年3%なら年に約160万円、年7%なら約360万円だ。
それだけの余裕はあるのか。高校を出て60歳まで正社員で働いた人の生涯賃金は、男性で約2億1,560万円、女性で約1億5,790万円。18歳から60歳までの42年で割ると、1年あたり約380万〜510万円だ。医師の平均の年収(約1,512万円)との差は、年に1,000万円くらいある。そのうち約160万〜360万円を積み立てに回せば、3%でも7%でも、ジャックはお金の面でジルに追いつける。
ここからは、わたしの考えだ。医師には、社会的な地位や名誉など、お金にはできない価値がある。救えなかった命を、次は救いたいから、自分の病気を治してもらったから、など、目指す理由もいろいろあるだろう。でも、「なぜ医師になりたいの」と聞かれたら、お金がいちばんの理由になるのではないか。子どものころから、遊びなどを我慢して勉強に費やしてきた時間。高額な塾や、私立の学校に払ってきたお金。それを支えてきた、親のサポート。そう考えれば、なおさらだ。
医学部に入るまでの時間と労力、入ってからの学費と年数を考えれば、高い給料がほしくなるのは自然なことだ。
一方で、医学部に入る人の半分あまりは、国立の大学に進んでいる。学費は6年で約350万円。取り戻さなければならない数千万円は、ない。国立大学の学費が安いのは、税金で支えられているからだ。国も、美容整形の医師を増やしたくて、そのお金を出しているわけではないと思う。もちろん、どの道に進むかを選ぶ自由はある。ただ、国立を出てすぐ美容の世界に進むことには、別の意見もありそうだ。
5. 受ける側は、いくら使っているのか
整形を受ける側のお金も見ておく。美容医療を受けた人は、実際にいくら使っているのか。
平均は、女性で年に約18万7,000円。ただ、これは大きく使う一部の人に引っぱられた数字だ。女性の半分近くは、5万円以下。一方で、3人に1人以上は10万円より多く使っている。別の調査では、1年以内に美容医療を受けた女性502人の、1年間の支出の真ん中は4万円だった。100万円を超えた人も13人いる。
トラブルの相談に出てくる金額は、ぐっと大きくなる。
相談になった契約は、平均で50万円前後。1年間の支出の真ん中(4万円)の10倍を超える。1回の値段ではなく、何回払いで何年続くのか。車の残クレ(最後にまとめて払う分を残して、月々を安くするローン)と同じで、大事なのは全部でいくら払うかだ。
もうひとつ、美容医療は保険が使えず、医療費控除(1年の医療費が多いと、税金が戻る仕組み)も受けられない。
意外だったのは、歯の治療との違いだ。歯の治療なら、保険のきかない金やセラミックでも、医療費控除の対象になる。でも、見た目をよくするための歯列矯正は対象外。線を引いているのは、治療のためか、見た目のためか、という点だ。
6. わたしの見方
ヒポクラテスは、2,400年ほど前の古代ギリシャの医師だ。病気を、神のたたりではなく、自然の原因から起きるものと考えた。「医学の父」と呼ばれている。
ヒポクラテスの名前は、「ヒポクラテスの誓い」としても知られている。患者の利益のために治療する、頼まれても死に至る薬は与えない、見聞きした秘密は守る、といった医師の心得を、神々に誓う形で書いたものだ。ただ、誓いの文章そのものに、ヒポクラテスの名前は出てこない。いまの医師が、この誓いをそのまま唱える決まりもない。現代の言葉で書き直したものとして、世界医師会の「ジュネーブ宣言」(1948年)がある。
「人生は短く、医術の道は長い」は、医術を身につけるには長い時間がかかるのに、人の一生は短い、という意味だ。2,400年前から、医師の道は長かった。いまも、専門の医師としてひとり立ちするまでに、最短でも11年かかる。
その長い道のりに、医師の給料は見合っているのか。面白いテーマだと思う。
7. まとめ
- Netflixのドラマ「ダウンタイム」は、美容整形の世界が舞台。研ナオコさんの怪演が、いちばんの見どころだった
- わたしは、整形については肯定派。髪を切る、化粧をするのと、根本は同じだと思っている
- 美容外科を主な仕事にする医師は、10年で約3.5倍。2年の研修を終えてすぐ美容に進む医師は「直美」と呼ばれる
- 2年の研修を終えるまで最短8年。学費は国立で約350万円、私立で約1,830万〜4,550万円。医学部に入る人の約6割は国公立
- 学費3,000万円を投資に回した人にも、医師は年約250万円(年5%の場合)を積み立てれば追いつける。学費と年数を思えば、高い給料がほしくなるのは自然なこと
- 美容医療は保険も医療費控除も使えない。全部、自分のお金
・若い世代と美容医療:厚生労働省「美容医療の適切な実施に関する検討会」第1回資料1(13ページ・29ページ)、時事通信「美容医療、進む低年齢化」(2026年8月12日)、ISAPS Global Survey 2024、(株)リクルート ホットペッパービューティーアカデミー「美容センサス2025年下期《美容医療編》」
・医師になるまでの年数:厚生労働省「医師臨床研修制度」(2004年度から必修)、日本専門医機構(新しい専門医の制度は2018年度から)
・医師の人数:厚生労働省「令和6年 医師・歯科医師・薬剤師統計」(2025年12月23日公表)
・美容外科をかかげる診療所の数:厚生労働省「医療施設調査」
・研修を終えたばかりの医師を雇ったクリニックの割合:厚生労働省「美容医療の適切な実施に関する検討会」第3回資料(2024年10月18日)
・保険で診療する診療所の院長の要件:医療法等の一部を改正する法律(2025年12月12日公布。健康保険法第70条の2は2026年4月1日施行)
・入学定員:文部科学省「医学部を置く大学一覧(令和7年度)」
・学費:国立大学等の授業料その他の費用に関する省令、国際医療福祉大学 医学部の学費、川崎医科大学 学費
・給料:厚生労働省「令和7年 賃金構造基本統計調査」職種(小分類)第1表、研修医は厚生労働省の研修医の処遇についての資料(2010年11月の調査)
・働く時間:厚生労働省「令和8年度 医師の働き方改革の推進等に関する検討会」第1回(2026年7月13日)の資料。病院の常勤勤務医の調査(2016年、2025年)
・高校を出て働く人の生涯賃金:労働政策研究・研修機構「ユースフル労働統計2025」(退職金を含めない、60歳まで)
・1年間に使ったお金:(株)リクルート ホットペッパービューティーアカデミー調べ「美容センサス2025年下期《美容医療編》」(9ページ・20ページ)、日経MJ(2026年2月20日付)の調査
・相談の例:国民生活センター(2026年1月20日)、クーリング・オフ:政府広報オンライン
・相談件数:国民生活センター「美容医療サービス」、契約の金額:厚生労働省「美容医療の適切な実施に関する検討会」第1回資料1
・医療費控除:国税庁 所得税基本通達73-4、歯の治療は国税庁 タックスアンサー No.1128「医療費控除の対象となる歯の治療費の具体例」
・ヒポクラテスの誓い:日本医師会「医の倫理の基礎知識 A-6 ヒポクラテスと医の倫理」、日本医師会「世界医師会ジュネーブ宣言」
・ヒポクラテスの言葉:『箴言(アフォリズム)』第1章第1節の冒頭
・ジャックとジル:7月21日の記事




