AIに脅かされる労働者の86%が女性。でも原典を読むと、分かれ目は職種ではなかった
「AIに脅かされる米国の労働者、86%が女性」というニュースを読んだ。
86%ということは、10人のうち9人近くが女性だ。さすがに偏りすぎで、えっと思った。どこから出た数字なのかが気になって調べてみたら、もとの報告書は、少し違うことを言っていた。
1. 同じ記事に、2つの話が入っていた
読んだ記事には、別々の話が2つ並んでいた。
② 産休・育休を取った人が解雇された疑い メタの社員26人が提訴
①は統計の話、②は裁判の話で、直接つながってはいない。
ただ、両方を追いかけていくと、同じことを別の角度から言っているように見えてきた。先に①のほうを見ていく。
2. 「86%」はどこから出た数字か
出どころは、米ブルッキングス研究所が2026年1月21日に出した報告書だった。タイトルは「Measuring US workers' capacity to adapt to AI-driven job displacement」で、直訳すると「AIによる職の喪失に、米国の労働者がどれだけ適応できるかを測る」になる。
この報告書は、AIの影響が大きい仕事を洗い出したうえで、そこで働く人が別の仕事に移れるかどうかまで見ている。
つまり、AIの影響が大きい仕事に就いている人のうち、およそ7割は移れる、というのが報告書の見立てだった。
86%という数字は、全体にかかっているのではない。移りにくいと判定された610万人の中身だ。
見出しだけ読むと、女性の仕事が根こそぎ消えるように読める。でも報告書が言っているのは、もっと狭い話だった。それでも610万人いる。その86%が女性というのは、やっぱり大きい。
3. 分けていたのは、4つの余力だった
では、2,650万人と610万人を分けたものは何だったのか。
報告書は、移れるかどうかを4つで測っている。
② スキルが横に効くか いまの技能が、伸びている職種でも通じるか
③ 近くに仕事があるか 住んでいる地域に、移れる先がどれだけあるか
④ 年齢 学び直しと再就職にかけられる時間
ここを読んで、AIの話じゃないなと思った。
4つとも、AIが出てくる前から人生を左右してきたものだ。貯金があるか、技能がつぶしがきくか、近くに働き口があるか、年齢がいくつか。AIがこの差を作ったわけじゃない。前からあった差が、AIを通していま表に出てきただけだ。
その出方が、人によって正反対になる。同じ変化でも、余力のある人には移る機会になり、ない人には詰みになる。
4. なぜ、女性に寄ったのか
報告書が、いちばん移りにくいと挙げた職種はこうだった。
全部、事務の仕事だった。書類を作る、予定を組む、問い合わせに答える、記録を残す。生成AIがいちばん先に手をつけたところと、きれいに重なっている。
そして米国では、この職種で働く人の多くが女性だ。AIが女性を狙ったのではなく、AIが得意な仕事に、もともと女性が多かったという順番になる。
日本も他人事ではないと思った。働く女性のなかでいちばん多い職業は事務で、861万人いる。女性の就業者のうち、28%近くがここにいる(2024年平均・総務省労働力調査)。
5. メタの訴訟が言っているのも、同じこと
もうひとつの話に移る。
メタは2026年5月、社員の約1割にあたる約8,000人の人員削減を決めた。その選び方をめぐって、7月、現役社員と元社員の26人がカリフォルニア北部地区の連邦地裁に訴えを起こした。
削減対象を選ぶ材料に、打鍵数・画面の監視・マウス操作・閲覧履歴・メールやメッセージから作った生産性スコアが含まれていたという主張
休んでいるあいだは、そのスコアが積み上がらない仕組みになっていた、というのが訴えの骨
メタは「人事の判断は人間が行っており、主張には根拠がない」と反論している。実際にそう測っていたのかは、これからの裁判で決まる。
ただ、どちらが勝っても消えない問いが1つある。人の働きぶりを、何で測るのか。
打鍵数や閲覧履歴は、働いていた時間の記録でしかない。休んでいれば当然ゼロに近づく。それを成果として読むなら、制度で認められた休みを取った人ほど点が低く出る。悪意がなくても、そうなる。
3章で見た4つと、この訴えが問題にしている測り方。かけっこにたとえてみると、見えやすかった。
報告書の4つは、スタート位置の話だ。貯金がいくらあるか、近くに働き口があるか、年齢がいくつか。どこから走り出すことになるかが、これで決まる。
訴えのほうに出てくる打鍵数や閲覧履歴は、タイムの話だ。どれだけ速く走ったかを見るための数字になる。
ここで引っかかった。どれだけタイムが速くても、スタートラインに立てなければ、そもそも競技にならない。
休んでいた人は、その日トラックに立っていない。だからタイムがつかない。速く走れないからではなく、走る場面がなかったからだ。それを「成果が少なかった」と数えていいのか。それが訴えの言い分だった。
610万人のほうは、もっと手前の話になる。スタートラインそのものが、うんと後ろにある。
だから86%は、女性の足が遅いという数字ではない。貯金が少なくて、年を重ねていて、近くに移れる仕事がない。そこに立っていた人の、86%が女性だったという話だ。
6. わたしはAIで仕事が減らなかった。でも
わたしはフリーランスで映像の仕事をしている。「AIで映像の仕事はなくなる」と何度も言われてきた。
でも実際に起きたのは、単価が下がることではなかった。企画に2日かけていたのが30分になって、空いたのは時間のほうだった。その余白がいまの暮らしを支えている。
だから最初、この86%のニュースは遠い話に思えた。ほんとうにそうなのか、3章で見た4つを、いまの自分に当てはめてみる。
② スキルの横幅 企画も台本も撮影も、1人で回せるようにしてある
③ 場所 東京。仕事は多いけれど、いつか十勝に帰るつもり
④ 年齢 34歳
4つのうち、年齢は動かせない。場所も、動かすには暮らしごと変わる。自分で動かしやすいのは、①のお金と②のスキルの横幅の2つだけだ。
わたしはどちらかと言えば倹約家で、新しいスキルを覚えたり、やったことのないことを試したりするのが好きだ。たまたま、4つのうちその2つが埋まっていただけだと思う。決して備えていたわけではない。
火を大きくする
ナシーム・ニコラス・タレブ(2012年『反脆弱性』序文より)
タレブがこの本で言っているのは、こういうことだ。ろうそくにとって風は終わりで、焚き火にとっては燃料になる。吹いた風は1つなのに、結果が逆になる。
AIも同じ風なのだと思う。火が消える人と、大きくなる人がいる。違いは、焚き火のようにその風をうまく使って、火を大きくできるかなのかもしれない。
わたしは相場を当てにいかないぶん、積み立てる場所だけ決めています。メイン口座はSBI証券で、8年以上使っています。月100円から積み立てられます。
SBI証券の公式サイトを見る →7. まとめ
- 「AIに脅かされる労働者の86%が女性」の出どころは、米ブルッキングス研究所が2026年1月21日に出した報告書だった
- 報告書によると、AIの影響が大きい仕事で働くのは3,710万人。そのうち約7割の2,650万人は別の仕事に移れると見ている
- 86%は全体の話ではなく、移りにくいと判定された610万人の内訳。この610万人は調査対象の労働者の4.2%にあたる
- 移れるかどうかを分けていたのは4つ。手元のお金・スキルが横に効くか・近くに仕事があるか・年齢で、どれもAI以前からあったもの
- いちばん移りにくかったのは一般事務・秘書・受付・医療事務とすべて事務系。AIが女性を狙ったのではなく、AIが得意な仕事に女性が多かった
- 日本でも働く女性でいちばん多い職業は事務で861万人・約28%(2024年平均)
- メタは5月に約8,000人を削減。7月に社員ら26人が、選定に打鍵数などの生産性スコアが使われ休職中は積み上がらなかったとして提訴した。メタは人間が判断したと反論している
- どちらの話も、測っているのがその人の力ではなく、余力や状況のほうだという点で重なっている
- わたしはAIで単価は下がらず拘束時間が減った側だった。4つのうち自分で動かしやすいのはお金とスキルの横幅の2つだけで、たまたまその2つが埋まっていただけ。備えていたわけではない
・86%と610万人などの数字:Brookings「Measuring US workers' capacity to adapt to AI-driven job displacement」(2026年1月21日)
・メタの訴訟:Fortune「26 Meta employees accuse Mark Zuckerberg of using AI to target 8,000 layoffs」/CBS News「26 Meta workers sue over alleged AI-aided layoffs」
・日本の事務職の人数:総務省統計局「労働力調査」(2024年平均)
・タレブの言葉:ナシーム・ニコラス・タレブ『Antifragile: Things That Gain from Disorder』(2012年)序文




