アメリカの雇用が予想の3分の1。株は上がったのに、金利は下がらなかった。
悪い知らせが出たのに、株が上がる。ニュースでそう聞くと、ちょっと首をかしげたくなる。
10月2日の夜(日本時間)、アメリカの9月の雇用統計が発表された。働き口は2.9万人しか増えず、予想の3分の1ほど。それなのに、S&P500(アメリカの代表的な500社の株価指数)は0.73%上がっている。
ここまでは、8月に7月分の雇用統計で見たのと同じ形だ。アメリカの中央銀行(FRB)は、物価を抑えるために、9月に3年ぶりの利上げをした。でも、景気が弱いと、次の利上げはしにくくなる。株はそれを喜んだ。
でも、この日はもうひとつ、不思議なことが起きている。アメリカの国債の金利が、下がらなかったのだ。発表の直後はいったん下がったのに、取引の終わりには、前の日より上がっていた。
わたしが思ったのは、こうだ。利上げがしにくくなるなら、市場はそれを先に織り込んで(先回りして値段に反映して)、国債の金利も下がるのでは? だから、ここはやっぱり「なんで」となる。
🤔「利上げしにくくなるのに、なぜ国債の金利は下がらなかったの?」
💵「BNDを持つわたしには、どう効くの?」
結論から言うと、株式市場が見ていたのは「10月の利上げは、たぶんない」という、近い先の話だ。国債を売り買いする債券市場は、そのもっと先を見ていた。10月の利上げがなくなっても、12月やその先の利上げの見方は残っている。そこに、国債が多すぎるという心配も重なった、という見方もある。わたしのBND(アメリカの債券をまとめて持つETF)は少し下がったけれど、もともと値上がりを期待して持っているものではない。順番に見ていく。
1. 9月の雇用統計で、何が出たの?
1つ目の疑問の前に、何が発表されたのかを見ておく。
「働き口の増え方」は、農業以外で雇われている人が、前の月からどれだけ増えたかを表す数字だ。アメリカの景気を見るうえで、いちばん注目される。
予想を大きく下回っただけではない。7月と8月の数字も、あとから6万人ぶん少なく直されている。7月は、先月の発表の時点ではプラス2.1万人だったが、1万人のマイナスに直された。
8月に書いた7月の雇用統計の記事では、雇用が減ったのに、失業率は下がっていた。仕事を探すのをやめた人は、失業者として数えられなくなるからだ。今回はその逆で、失業率は4.2%に上がっている。仕事を探しはじめた人が増えたことも、理由の1つとされる。
時給の伸びは、1年前と比べて3.0%。9月30日に出た8月の物価(PCE、個人が使うお金で見た物価)は、1年前より3.4%上がっていた。時給の伸びが、物価に届いていない。10月1日の記事では、日本で「年収が物価に追いつかない」と感じる人が7割という調査を取り上げた。アメリカでも、似たことが起きているみたいだ。
2. 悪い知らせで、なぜ株は上がるの?
8月の記事でも書いた、「悪いニュースは、良いニュース」という言い方がある。
雇用が弱いと、景気が冷えてきたと受け取られる。景気が冷えれば、FRBは金利を上げにくい。金利が上がると、会社はお金を借りにくくなり、株の重しになる。その心配が減るので、株が買われる。
FRBは9月16日、政策金利を0.25%上げて、3.75〜4.00%にした(利上げの記事)。FRBの次の会合は10月27〜28日だ。
市場が見込む「10月に利上げ」の確率は、1週間前には36%ほどあった。それが、発表の直後には17%ほどと、半分以下になっている。市場の取引の値段から計算した数字だ。
わたしも、8月のときと同じように、利上げの見込みが減った影響だと感じた。ここまでは、わかる。
3. 利上げしにくくなるのに、なぜ国債の金利は下がらなかったの?
2つ目の疑問。
ここでいう金利は、アメリカの国債(国がお金を借りるときに出す借用書)の利回りだ。国債は市場で毎日売り買いされていて、買いたい人が多ければ金利は下がり、売りたい人が多ければ上がる。2年もの(2年で返してもらう国債)は、FRBがこの先1〜2年で政策金利をどうするかの予想を映しやすい。10年ものは、もっと遠くまで見ている。
発表の直後は、どちらも下がった。株と同じ反応だ。でも、アメリカの昼前には上がりはじめ、取引の終わりには、前の日より高くなっていた。10年ものの5.28%は、前の日に取引の途中でつけた5.34%(2002年以来の高さ)に近い水準だ。
しかもこの日は、アメリカの原油(WTI)の値段が2%ほど下がっていた。原油が下がれば物価が上がる心配が減り、ふつうは金利が下がる材料になる。それでも金利は上がっている。
なぜなのか。調べてみると、「はっきりしたきっかけはなかった」と書いている報道が複数ある。そのうえで、挙がっている見方は3つだ。
ゴールドマン・サックスの運用会社のリンジー・ロスナー氏は、10月の利上げは考えにくいが、12月の追加の利上げが基本の見方だと話している。市場が見込む12月の利上げの確率も、75%をこえている。
日経は、国債を売りたい人が買いたい人より多くなる「需給の悪化」への心配が根強かった、と伝えている。翌週には、あわせて1,190億ドルの国債の入札(新しく売り出すこと)が控えている。
前の日(10月1日)に大きく買われた国債が、売り戻された可能性もある。
株式市場は「10月」を見て株を買い、債券市場は「その先」を見て国債を売った、ということだと思う。1〜2年先を映す2年ものの金利まで上がったのは、その表れに見える。
4. BNDを持つわたしには、どう効くの?
3つ目の疑問。
金利と債券の値段は、シーソーの関係にある。金利が上がると、すでに持っている債券の値段は下がる。新しく出る債券のほうが高い利息をくれるので、古い債券は値引きしないと売れないからだ。
わたしはBNDを230口持っている(9月20日ごろに受け取った分配金で、1口増えた)。
230口で、ドルにして約35ドルの値下がり。少し気にはなる。でも、BNDは値上がりを期待して持っている商品ではないので、問題はない。金利が上がれば、BNDがこれから買う債券の利息は、増える方向になる。
わたしは、いまのBNDを割安に感じていて、円安でなければ、買い足したいくらいの気持ちだ。でも、まずはNISAが最優先。NISAの枠を使い切ったら、BNDの買い足しを検討しようかなぐらいの温度感だ。
5. わたしの見方
でもいまは、債券市場に生まれ変わりたい。だれでも脅せるから。
ジェームズ・カーヴィル(1993年、ウォール・ストリート・ジャーナル)
1993年、クリントン大統領の選挙参謀だったジェームズ・カーヴィルの言葉だ。
クリントンは選挙で、中流層の減税や公共投資を約束していた。ところが大統領選に勝つと、まわりの経済の専門家たちから、先に国の借金(財政赤字)を減らすべきだと言われる。借金を減らせば、債券市場が安心して、長い期間の国債の金利が下がる。金利が下がれば、景気もよくなる、という理屈だ。
結局クリントンは、債券市場がどう受け取るかを気にして、政策を借金を減らす方向に組み直した。選挙で約束した中流層の減税は、見送られている。クリントンがこれにいら立った、という話も伝えられている。その様子を近くで見ていたカーヴィルが口にしたのが、この言葉だとされる。
実際に、借金を減らす政策を受けて、10年ものの国債の金利は、就任した1993年1月の6.6%から、10月には一時5.2%まで下がっている。専門家たちの理屈どおりになったわけだ。
今回も、主役は債券市場だと思う。FRBが10月に利上げしないと見られても、国債の金利を決めるのは、国債を売り買いする人たち全員だ。
同じ雇用の数字でも、株式市場と債券市場では、見ている先がちがう。債券市場は、だれでも脅せるのかもしれない。でも、わたしはその脅しにはのらない。いつもどおり積み立てを続けるだけだ。
6. まとめ
- アメリカの9月の働き口は2.9万人増で、予想(8.4万人)の3分の1ほど。7月・8月も6万人ぶん下方修正、失業率は4.2%に上がった
- 時給の伸びは3.0%で、8月の物価(3.4%)に届いていない
- 株が上がったのは、「10月の利上げはない」という見方が強まったから。8月と同じ「悪いニュースは、良いニュース」の形
- 国債の金利は、発表の直後に下がったあと、前の日より上がって終わった(10年もので5.28%)。この日は原油が下がっていたのに、上がっている
- 報道に出ている見方は、12月の利上げの予想、国債が多すぎる心配、前の日の反動の3つ。はっきりしたきっかけはなかった、という報道もある
- BNDは0.21%の値下がり。少し気になるけれど、値上がり目的ではないので問題なし。いまは割安に感じていて、円安でなければ買い足したいくらい。でも、まずはNISAが最優先
・物価(PCE):アメリカ商務省経済分析局(BEA)「Personal Income and Outlays, August 2026」
・政策金利:FRB(2026年9月16日)、FOMCの日程
・利上げの確率:CNBC(2026年10月2日)(CME FedWatch)
・国債の金利と理由:アメリカ財務省「Daily Treasury Par Yield Curve Rates」、CNBC(2026年10月2日)、日本経済新聞(2026年10月3日)、みんかぶFX、同、Newsquawk、TheStreet Pro
・株価・BND:Yahoo Finance(2026年10月2日の終値)
・格言:James Carville, The Wall Street Journal(1993年2月25日)
・1993年の金利:セントルイス連銀 FRED「10年国債利回り(DGS10)」




