米の雇用が減ったのに、失業率は下がった。しかも株は最高値をつけた
アメリカの7月の雇用統計が出た。中身を見て、しばらく手が止まった。
働いている人は減った。なのに、失業率は下がった。
そして株は上がって、S&P500は最高値をつけている。
どこを切っても、ふつうの感覚と逆に見える。この記事は、そのからくりを順番にほどいていく話だ。最後に、いちばん驚いた数字も出てくる。
1. 何が発表されたのか
まず、出てきた数字から。
予想は「8万人増える」。結果は「2万3,000人減る」。 10万人ぶんずれたことになる。
減った中身も出ている。地方政府の教育部門で5万人近く減ったのが、いちばん響いた。
そして、それでも失業率は下がっている。
2. なぜ、失業率が下がったのか
からくりは、割り算の分母にあった。
ここで大事なのは、「働く気がある人」しか分母に入らないということ
→ 仕事を探すのをやめた人は、分母から消える
仕事を探すのをやめると、その人は「失業者」ではなくなる。 統計の上では、いなかったことになる。
その「働く気がある人」の割合を労働参加率という。7月は61.5%から61.4%へ下がった。
日経も、この低下について「失業者が就職したというより、求職をやめた影響が含まれる」と書いている。
ただ、この労働参加率という数字が気になったので、もう少し調べてみた。0.1ポイントの話では済まなかった。
2023年の初めから2025年の終わりまでは、62.4〜62.7%で安定していた
ところが2025年12月からの半年で、約0.9ポイント急落
→ いまはコロナ期をのぞくと、約50年ぶりの低さ
この半年で、急に落ちている。
そして下がる理由は、ひとつではなかった。
②入ってくる移民が減っている:外から来る働き手が減れば、そのぶん減る
③仕事を探すのをやめた人:探すのをやめると、この数字から抜ける
つまり「みんなが諦めた」という話だけではない。 専門家も、高齢化の影響が大きいと見ている。①と②は、景気が良くなっても戻らない種類のものだ。
そのうえで、この数字の読み方はこうなる。
下がったとき:働き手そのものが減っている。国の稼ぐ力は落ちる。でも失業率は下がって見える
失業率と労働参加率は、セットで見ないと逆の結論になる。 今回はまさに、それが起きていた。
つまり、こういうことになる。
そうでもない下がり方:探すのをやめた人が、分母から消えた
→ 今回は、後者が混じっている
同じ「失業率が下がった」でも、中身がまるで違う。 数字だけ見ていると、そこが見えない。
3. なぜ、株は上がったのか
もうひとつの謎はこちらだ。雇用は悪かったのに、株は上がった。
| 終値 | 前日比 | |
|---|---|---|
| ダウ | 54,036.93 | +151.83(+0.28%) |
| S&P500 | 7,757.64 最高値を更新 |
+47.68(+0.62%) |
| ナスダック | 26,690.62 | +342.27(+1.30%) |
理由ははっきりしている。9月の利上げが、遠のいたからだ。
発表後:40%ほど
→ 1本の統計で、15ポイント下がった
金利が上がると、会社はお金を借りにくくなる。その心配が減ったので、株が買われた。
「悪いニュースは、良いニュース」という言い方がある。景気が悪いと、中央銀行が金利を上げにくくなるので、株にとってはむしろ追い風になる、という理屈だ。
今回は、まさにそれだった。
そして、ここで思い出したことがある。
わたしは7月30日に、逆のことを書いていた。金利は据え置きだったのに、ダウが1,153ドル安になった日の話だ。あのときは会合で3人が「利上げすべきだ」と主張していて、それが不安につながっていた。
あれから1週間ちょっとで、話がひっくり返っている。 1本の統計で、利上げの空気がしぼんだ。
4. そして、5月と6月の数字が書き換わっていた
ここが、調べていていちばん驚いたところだ。
同じ日に、過去の数字が修正されている。
| 最初の発表 | 修正後 | |
|---|---|---|
| 5月 | 12万9,000人増 | 6万3,000人増 |
| 6月 | 5万7,000人増 | 2万人増 |
| 2か月あわせて | — | 10万3,000人ぶん少なかった |
7月が悪かった、という話ではなかった。 5月も6月も、実は思っていたより弱かった。
雇用統計は、企業へのアンケートをもとに作られる。締め切りまでに間に合わなかった回答が、あとから届く。 だから翌月、翌々月に数字が直される。
つまり、こういうことになる。
市場は、その確定していない数字を見て動く
→ あとで直っても、そのとき動いた株価は戻らない
5月や6月に「思ったより良かった」と言って買った人がいたはずだ。 その前提は、いま消えている。
判断のもとにした数字のほうが、あとから書き換わる。 その日の数字で売り買いする人にとって、これはけっこう怖い話だと思う。
5. 円高になった。わたしの資産はどうなったか
もうひとつ、自分に効く話がある。円高だ。
雇用統計を受けて、アメリカの9月の利上げが遠のいた。ところが日本のほうは、9月に利上げするのではないかと見られている。
同じ9月で、向きが逆だ。だから金利の差が縮まると読まれて、円が買われた。
前日より60銭の円高
→ 7月30日の介入から、円高が続いている
わたしの資産は約7割が外貨建てなので、円高はそのまま目減りになる。8月2日の記事と同じやり方で計算してみる。
| どこから見るか | 円高の幅 | 目減り |
|---|---|---|
| 今回だけ 158.55円 → 157.85円 |
0.44% | 約18万円 |
| 介入前の高値から 163.99円 → 157.85円 |
3.74% | 約154万円 |
7月末からの円高で、約154万円。 数字にすると、それなりに大きい。
ただ、これは8月2日の記事で書いたとおりだ。
円安の日は、資産の7割を占める外貨建てが守ってくれる。円高の日は、資産こそ目減りするけれど、円で暮らしているわたしの生活費は痛まない
円高の日は、こうなる。そういう設計にしてある。
しかも今回は、株のほうが上がっている。S&P500は最高値だ。円で見た目減りと、ドルで見た値上がりが、同じ日に起きている。どちらか片方だけを見ると、話を間違える。
6. それで、何をしたか
何もしていない。ただ、それは今回に限った話ではない。
雇用統計でも、円高でも同じだ。わたしは、その日のニュースの数字では動かない。動かないと決めているからだ。
上がるか下がるかは分からない。だから航路を守って、市場にい続ける。感情が入りこまないように、積立は自動にしてある。
そのうえで、今回わかったことを並べると、こうなる。
| 見た目 | 中身 |
|---|---|
| 失業率が下がった | 分母が減ったぶんが混じっている |
| 株が上がった | 景気が悪いことを喜んでいる |
| 5月・6月は堅調だった | あとから10万人ぶん減った |
| 円高で154万円の目減り | 同じ日にS&P500は最高値 |
どの数字も、そのままでは意味が取れない。 中身を開けないと、方向すら分からなかった。
そして、その日の数字は、動く材料にするには足場が柔らかい。あとから書き換わることもある、と分かったばかりだ。
急落のときに何もしなかった話でも書いたけれど、何もしないでいられる形にしておくのがいちばん効く。今回もそれだけだった。
7. まとめ
- アメリカの7月の雇用統計(8月7日発表)は、働いている人が前月より2万3,000人減。市場の予想は8万人ほどの増加で、5か月ぶりのマイナスだった
- 減った中身は、地方政府の教育部門で5万人近く
- それなのに失業率は4.1%へ0.1ポイント低下。理由は分母が減ったから。失業率は「失業者÷働く気がある人」で、仕事を探すのをやめた人は分母から消える
- 労働参加率は61.5%から61.4%へ低下。日経も「失業者が就職したというより、求職をやめた影響が含まれる」と書いている
- ただし0.1ポイントの話では済まない。2023年初から2025年末は62.4〜62.7%で安定していたのに、2025年12月からの半年で約0.9ポイント急落し、いまはコロナ期をのぞくと約50年ぶりの低さ
- 下がる理由は①高齢化(16歳以上のうち65歳以上の割合が2005年16.2%→2023年22.7%)②入ってくる移民の減少 ③仕事を探すのをやめた人の3つ。「みんなが諦めた」という話だけではなく、専門家も高齢化の影響が大きいと見ている
- 労働参加率が上がると失業率は一時的に上がりやすく、下がると失業率は下がって見える。失業率とセットで見ないと、逆の結論になる
- 株は上がった。ダウ54,036.93(+0.28%)、S&P500は7,757.64で最高値を更新(+0.62%)、ナスダック26,690.62(+1.30%)
- 理由は9月の利上げが遠のいたから。市場が見る利上げの確率は発表前55%ほどから、発表後40%ほどへ。1本の統計で15ポイント動いた
- 7月30日の記事では据え置きなのにダウが1,153ドル安になった話を書いた。1週間ちょっとで、話がひっくり返っている
- そして同じ日に、5月と6月の数字が下方修正されていた。5月は12万9,000人増→6万3,000人増、6月は5万7,000人増→2万人増。2か月あわせて10万3,000人ぶん少なかった
- 発表された瞬間の数字は、まだ確定していない。それでも市場は、その数字を見て動く。あとで直っても、そのとき動いた株価は戻らない
- 円高も進んだ。8月7日の終値は1ドル157円80〜90銭で、前日比60銭の円高。アメリカの利上げが遠のく一方、日本は9月に利上げするとの見方があり、金利差の縮小が意識された
- 外貨建て約4,100万円で計算すると、今回だけで約18万円、介入前の高値163.99円から見ると約154万円の目減り
- ただし同じ日にS&P500は最高値。円で見た目減りと、ドルで見た値上がりが同時に起きている
- どの数字も、そのままでは意味が取れない。だからその日の数字では動かない。何もしないでいられる形にしておくのがいちばん効く
・労働参加率:セントルイス連銀「What's Behind the Sharp Drop in Labor Force Participation?」(2026年8月)/CNBC「Labor force participation rate falls to lowest in 50 years, outside of Covid era」
・株式市場と利上げ観測:日本経済新聞「NYダウは反発、雇用統計悪化で利上げ観測後退 S&P500は最高値」
・為替:日本経済新聞「NY円相場、反発 1ドル=157円80〜90銭 予想下回る米雇用統計で」/共同通信「円急上昇、一時157円台 米統計受け利上げ観測後退」
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