年収が物価に追いつかない人が7割。「38万円足りない」は大げさなのか、計算してみた
スーパーで、たまごやチーズの値札を見て、あれ、と思うことはないだろうか。
9月29日に、住友生命がアンケートの結果を発表した。会社員と公務員のうち、71.8%が「自分の年収の見込みが、物価の上昇に追いついていない」と答えている。物価に追いつくには、年収があと38万円必要だという答えも出た(答えた人全員の平均)。
翌日の9月30日には、帝国データバンクが10月の値上げを発表した。10月に値上げされる食品は3,153品目(商品の数)。9月と10月に集中した値上げは、10月をピークに、いったん落ち着く見込みだ。
2つのニュースを並べると、こんな疑問が出てくる。
🤔「値上げは、もう終わるの?」
🥚「たまごやチーズは、どのくらい上がったの?」
🏠「わたしの場合は、いくら足りないの?」
結論から言うと、38万円は大げさではなかった。物価の統計で計算すると、平均的な家庭で約40万円。感覚とほぼ同じだ。値上げも、「ピーク越え」と言われながら、10月は去年とほぼ同じ数だ。でも、全員が同じだけ足りないわけではない。家賃が上がっていないわたしの場合は、約14万円だった。順番に見ていく。
1. 38万円は、大げさなのか
1つ目の声、「38万円って、大げさじゃないの?」。
まず、アンケートの中身を確かめておく。住友生命の「わが家の台所事情アンケート」は、2026年8月26日から28日に、全国の20〜60代の会社員・公務員(正社員)5,783人に聞いたものだ。38万円は、「現在の物価上昇に見合うためには、年収はあとどのくらい増える必要があると感じますか」という質問の平均で、正確には37万8,011円だった。
いちばん大きいのは50代の40.5万円で、20代とは8万円の差がある。
では、この38万円を計算で確かめてみる。使うのは、総務省の2つの統計だ。
物価が上がり始める前の2020年、2人以上の世帯が使ったお金(消費支出)は、月に27万7,926円だった。1年にすると約333万円。そして、物価全体(消費者物価指数の総合。家計が買うものをまとめた値段の動き)は、2020年から去年(2025年)までの5年間で、11.9%上がっている。
暮らしに40万円よけいにかかるなら、年収も同じくらい増えないと追いつかない。感じている38万円と、計算した40万円。ほぼ同じだ。アンケートは会社員・公務員に聞いたもので、家族の人数もまちまちなので、ぴったり比べられるわけではない。それでも、38万円は大げさな数字ではなかった。
同じアンケートでは、ふだんの生活費が前の年より月に9,596円増えたという答えも出ている。1年にすると約11万5,000円。たった1年で、これだけ増えている。
2. 値上げは、もう終わるのか
2つ目の声、「値上げは、もう終わるの?」。
帝国データバンクによると、10月に値上げされる食品は3,153品目。値上げ幅は平均で10%だ。9月の4,965品目に続いて、2か月続けて3,000品目を超えたのは、3年3か月ぶりになる。
帝国データバンクの見立てでは、10月をピークに、値上げはいったん落ち着く。ただ、去年と並べると、見え方は少し変わる。
10月の数は、去年とほとんど変わらない。9月と10月の2か月だけで8,000品目を超えた。「ピーク越え」は、11月から数が減っていく、という意味だ。11月も1,469品目が決まっていて、去年の11月の約10倍にあたる。1年の合計も、2年続けて2万品目を超えた。ピークを越えても、値上げが止まるわけではない。
値上げの理由も見てみる。
値上げと聞くと、円安のせいだと思いがちだ。でも、円安を理由に挙げた品目は1割に届かない。いちばん多いのは原材料で、9割を超える。そして、2品目に1つは人件費を理由にしている。
10月にいちばん多いのは「酒類・飲料」の1,399品目で、ビール類の税金をそろえる酒税の見直しで、発泡酒や第三のビール(ビールに似た安いお酒)などが上がる。次が、マヨネーズやしょうゆなどの調味料で、820品目。
3. たまごやチーズは、どのくらい上がったのか
3つ目の声、「たまごやチーズは、どのくらい上がったの?」。
物価が上がっていることは、わたしも感じている。実感があるのは食料品だ。たまご、チーズ、プロテインなど、ふだん買っているものは、やっぱり値上がりがわかる。
その実感が当たっているのか、物価の統計で確かめてみた。
物価全体は、2020年から14%上がった。食料はその倍の30%。そして、たまごと国産のチーズは、どちらも50%近く上がっている。物価全体の3倍のペースだ。2020年に200円だったものが、いまは300円近いことになる。
プロテインも上がっている。たとえば明治は、6月出荷分から、ザバスの粉のプロテインなどを約6〜28%値上げした。日本経済新聞によると、9月からはさらに37品目で、値上げや、値段はそのままで中身を減らす見直しをしている。ザバスのホエイ100は、980グラムから800グラムになった。量が2割近く減ったのだから、実質的な値上げだ。
物価の統計が新しい基準に切り替わった2026年7月分から、プロテインパウダーが新しい品目として加わった。統計に加わるのは、家計の支出の中で重みが大きくなったものだ。
4. わたしの場合は、いくら足りないのか
4つ目の声、「わたしの場合は、いくら足りないの?」。
わたしはフリーランスで、給料はもらっていないので、このアンケートに答える側ではない。それでも、ギャラアップのような話はないので、物価の上がり方は、そのまま体感としてある。
では、わたしの場合は、いくら足りないのか。わたしの生活費は月15万円で、内訳は家賃7万円、食費3万円、ごまもちに2万円、光熱費1万円、残りがそのほかだ。2020年と同じものを、いまの値段で買っているとして計算してみた。
わたしの場合は、約14万円。平均の40万円の3分の1ほどだ。
差がつく理由は2つある。ひとり暮らしのわたしは、使う額が平均の家庭の半分ほど。そして、生活費のうち、いちばん大きい家賃が上がっていない。家賃とマンションの記事で調べたとおり、これから借りる部屋の家賃は大きく上がっていても、住み続けている人も含めた家賃は、東京23区で1年に2.0%しか上がっていない。住み続けているかぎり、いちばん大きな出費は動きにくい。
たまごやチーズの値上がりはわかる。でも、1か月の食費の合計は、それほど変わっていない印象だ。計算では1年で7万円増えているはずだが、まだ工夫するところまでいっていない。余裕があるので!
政府は、2027年4月から食料品の消費税を8%から1%に下げる方針を示している(食料品の消費税の記事)。わたしの食費3万円が全部対象だとしても、1か月に約1,900円、1年で約2万3,000円浮く計算になる(外食とお酒は対象外なので、実際はもう少し少ない)。約14万円のうちの6分の1ほどだ。アンケートで、この減税で浮くお金の使い道を聞くと、「生活費」が58.7%で、「貯蓄」の35.8%を大きく上回った。
5. わたしの見方
出ずるを為(な)す
『礼記』王制篇
2,000年ほど前にまとめられた中国の古典『礼記(らいき)』の言葉だ。入ってくるお金を見積もってから、出ていくお金を決める。ようは、収入に応じて支出を決める、ということだ。
もとは、国の財政の心がまえとして書かれている。国のお金をあずかる役人は、1年の終わりに、その年の穀物がすべて納められてから、使うお金を決める。しかも、豊作の年も不作の年もあるので、30年分をならした見通しで決める、とも書かれている。
入ってくるほうのお金は、自分だけでは決められない。給料もギャラも、相手があって決まる。一方で、出ていくほうのお金は、自分で選択できる部分が大きい。
わたしも、いちばん大きな出費の家賃を、7万円に抑えている。
まず、収入が増えないのであれば、支出を減らせばいい。そのあと、収入を増やす方法を考えるとしよう。
6. まとめ
- 会社員・公務員の71.8%が「年収が物価に追いついていない」。追いつくには、あと平均38万円必要と感じている
- 2020年と同じ暮らしを2025年の値段でしたら、平均的な家庭で約40万円多くかかる。38万円は大げさではなかった
- 値上げは「ピーク越え」と言われても、10月は去年とほぼ同じ3,153品目。理由は原材料が9割、人件費が5割で、円安は1割に届かない
- たまごと国産チーズは2020年から50%近く上がった。物価全体の3倍のペース
- ひとり暮らしで、家賃が上がっていないわたしの場合は、約14万円。いちばん大きな出費の家賃が動いていないのが効いていた
- 2027年4月からの食料品の消費税1%で、わたしの食費で浮くのは年に約2万3,000円まで。14万円の6分の1ほど
・値上げ:帝国データバンク「価格改定動向調査」(2026年9月30日)
・物価:総務省「消費者物価指数」(2020年=100の数字)
・家計の支出:総務省「家計調査」2020年
・プロテインの値上げ:明治(2026年4月16日)、日本経済新聞(2026年7月28日)
・言葉:『礼記』王制篇「冢宰制國用、必於歲之杪、五穀皆入然後制國用。用地小大、視年之豐耗。以三十年之通制國用、量入以為出」の書き下しと大意




