「リフレ論者じゃない」って、どういうこと? 総理の言葉と、止まらない円安を調べてみた
ニュースを見ていて、意味がわからない言葉に出会うことはないだろうか。
10月2日、片山財務大臣がTBSの単独インタビューに答えた。大臣が明かしたのは、高市総理がこの春先から話していたという、2つの言葉だ。
「日銀の日頃の金融調整は日銀に任せることでしょ」
金融調整とは、日銀が金利などを動かして、世の中に出るお金の量を調整することだ。
また、大臣は円安について、「『断固として躊躇しないで行動する』ということは『介入する』ということ」とも話した。介入とは、政府がお金を使って円を買い、円安を止めようとすることだ。
TBSによると、市場ではこれまで、総理が日銀の利上げに消極的だという見方が、円安の理由の1つになってきた。インタビューは、それを打ち消した形だ。
でも、わたしはそもそも「リフレ論者」がよくわからない。わからないまま読むと、このニュースは疑問だらけだ。
🤔「総理が『日銀に任せる』と言うと、なぜ円に効くの?」
💴「これだけ手を打っても、なぜ円安は止まらないの?」
結論から言うと、リフレ論者とは、お金をたくさん出して、ゆるやかに物価を上げようと考える人のことだ。日本では、アベノミクスの金融緩和がこれにあたる。総理がその考えではないと言えば、市場は、日銀が利上げを続けやすくなると受け取る。日本の金利が上がれば、円は買われやすくなる。ただ、10月2日の昼間に円が少し高くなったとき、そのきっかけとして報じられたのは、大臣の言葉ではなく物価の数字だった。円安の根っこにある日米の金利の差は、まだ大きい。順番に見ていく。
1. リフレ論者って、そもそも何?
1つ目の疑問から。
「リフレ」は、英語のリフレーション(reflation)を縮めた言葉だ。物価が上がっていくインフレーション(inflation)の元の意味は「ふくらむこと」。その頭の in を、「もう一度」を表す re に入れかえてできた言葉で、しぼんだ物価や景気を「もう一度ふくらませる」という意味になる。物価が下がり続けるデフレから抜け出すために、お金の量を増やして、ゆるやかなインフレを起こそうとする政策をいう。TBSの記事は、リフレ論者を「大規模な金融緩和や積極財政でインフレを目指す」人と説明している。金融緩和は、日銀が世の中に出すお金を増やすこと。積極財政は、国がお金を多く使うことだ。
たとえるなら、冷めてしまったお風呂の追いだきだ。お湯(景気や物価)が冷えすぎているので、火を強くして温め直す。
日本では、2013年に始まったアベノミクスの「第一の矢」が、この考え方だった。
あれから13年。いまの日本は、物価が上がり続けている。お湯はもう十分に温まった。いまは、熱くなりすぎないように火を調整している。日銀が政策金利(預金やローンの金利のもとになる金利)を少しずつ上げているのは、そのためだ。
いまの政府のまわりでは、「リフレ」から距離を置く発言が続いている。
10月2日のインタビューは、その念押しにあたる。
2. 総理が「日銀に任せる」と言うと、なぜ円に効くの?
2つ目の疑問。
日銀法には、こう書いてある。
金利を決めるのは日銀で、その自主性は尊重される。でも、政府とよく話し合うことも求められている。だから市場は、総理が利上げをどう思っているかも気にする。
お金は、金利の高いほうへ流れやすい。いまはアメリカの金利のほうが高いので、金利の低い円は売られやすい。総理が利上げに反対しそうだと見られると、日本の金利は上がりにくいと考えられ、アメリカとの金利の差が縮まらない。だから円が売られる。
実際にあった例がある。2026年2月、総理が日銀の植田総裁との会談で追加の利上げに難色を示したと報じられた。そのあと、ドル円は155円前後から一時156円をこえた。ドル円は1ドルが何円かを表す数字で、大きくなるほど円安だ。市場が見込む「3月に利上げする確率」も、12%前後から6%前後に下がっている。
逆に、総理が「日銀に任せる」と言えば、利上げは続きやすいと受け取られ、円は買われやすくなる。TBSが今回のインタビューを「火消しを行った形」と書いたのは、このしくみがあるからだ。
では、今回の大臣の言葉で、円は動いたのか。10月2日の動きを見てみた。この日の昼間、ドル円は午前の158円台から157円台半ばへ、70銭(0.7円)ほど円が買い戻されている。円安の水準は変わらないが、少しだけ円高の向きに動いた。ただ、そのきっかけとして報じられたのは、東京の物価の数字だった。物価の伸びが2.7%まで高まり、日銀の追加の利上げの見方が強まったためだ。この動きは、TBSのインタビューが出る前のことで、大臣の言葉で円が動いたという報道は、いまのところ見つからない。
3. これだけ手を打っても、なぜ円安は止まらないの?
3つ目の疑問。
政府は、言葉だけでなく、お金も使っている。冒頭で大臣がふれた、為替介入だ。
今年だけで約27兆円。介入のあと、ドル円はいったん下がった。でも、そこからまた上がっている。
円安の根っこにあるのは、8月の介入の記事でも見た、日本とアメリカの金利の差だ。
9月は、日本が0.25%上げる前の日に、アメリカも0.25%上げた。差は縮まらなかった。金利の低い円は、売られやすいままだ。
円安の材料は、金利の差だけではない。ほかに思い当たるものを並べると、こうなる。
・海外のネットサービスへの支払いが多い。クラウドや動画・音楽の配信、ネット広告などで、2025年は6兆7,285億円の赤字。「デジタル赤字」と呼ばれる。払うたびに、円を売ってドルなどを買うことになる
・わたしのように、オルカンやS&P500を積み立てる人は、毎月円を売って、ドルなど外貨の資産を買っている
4. わたしの見方
先のことはだれにもわからない。確かなのは目の前の数字だけ、という意味だ。「そろそろ円高になるはず」といくら予想しても、答えは相場が動いてみるまでわからない。
いまの目の前の数字は、介入に約27兆円を使ったあとでも、1ドル157円前後だ。いろいろ手を打っても、また円安に戻ってしまうので、本当に円安の材料しかないのだろうなとは感じている。
でも、その円安は、わたしの資産に効いている。わたしの資産の7割は、オルカンやS&P500、BNDといった「ドルの箱」に入っている。中身の大半が、ドルで値段がつく資産だ。ドルの箱と円の箱の記事で計算したとおり、1ドルが1円動くと、わたしの資産は約27万円動いて見える。だから、円安で資産の数字が増えていくのを見ると、正直、ちょっと嬉しい。気持ちとしては、そのくらいだ。それでも、円安を当てにして何かを変えるつもりはない。
「リフレ論者」がわからないところから始めて、わかったことは2つある。リフレ論者は、お金を多く出して物価を上げようと考える人のこと。そして、総理の言葉が円に効くと見られているのは、日銀が利上げを続けられるかどうかを、市場がその言葉から読み取っているからだ。
この先、円がどちらへ動くかは、わからない。相場のことは、相場に聞くしかない。
5. まとめ
- リフレ論者は、お金をたくさん出して、ゆるやかに物価を上げようと考える人。アベノミクスの金融緩和(2013年〜)がこれにあたる
- いまは物価が上がり続けていて、日銀は利上げの途中。閣僚は「リフレ」から距離を置く発言を続けている
- 総理が利上げに反対しそうだと見られると、円は売られやすい。2月の報道では155円前後から一時156円台へ動いた
- 2026年の円買い介入は約27兆円。それでも10月2日の夕方までは157〜158円台で、この日の昼間に少し円高に動いたのも、物価の数字がきっかけの1つだった
- 円安の材料は、日米の金利の差(2.5〜2.75ポイント)のほか、円に戻らない海外の稼ぎや、6.7兆円のデジタル赤字など。円高の材料は、まだ見えにくい
- 円安でドル資産が増えて見えるのは、ちょっと嬉しいくらい(1円で約27万円)。でも、円安を当てにして動くつもりはない
・アベノミクス:内閣府「アベノミクス『三本の矢』」、日本銀行 共同声明(2013年1月22日)、日本銀行「量的・質的金融緩和」の導入(2013年4月4日)
・日銀法:日本銀行法(e-Gov法令検索)
・リフレをめぐる発言:朝日新聞(2026年9月25日)、Bloomberg(2026年9月25日)、TBS(2026年9月29日)
・2月の報道と円:野村総合研究所 木内登英コラム(2026年2月25日)
・為替介入:財務省「外国為替平衡操作の実施状況」
・10月2日のドル円:みんかぶFX(2026年10月2日 15時33分)、同(17時19分)
・政策金利:FRB(2026年9月16日、日本時間17日)、日本銀行(2026年9月18日)
・デジタル赤字:財務省「国際収支から見た日本経済の課題と処方箋」懇談会 報告書(2024年7月)、日本銀行「国際収支統計」(通信・コンピュータ・情報サービス、著作権等使用料、専門・経営コンサルティングサービスの合計)




