AIでいちばん儲かっている会社が、値上げを通知した。原因をたどったら、わたしの撮影用SDカードと同じ部品だった
「エヌビディアがAIサーバーを値上げへ。15%を超えるケースも」という報道を読んだ。大口顧客に通知が届いている、とBloombergが伝えている。
読んで、引っかかった。エヌビディアは、AIでいちばん儲かっている会社だ。作れば作るだけ売れて、利益率も高い。その会社が、なぜ値上げに追い込まれるのか。
原因をたどったら、わたしが撮影で使っているSDカードと、同じ部品に行き着いた。
1. 何が報じられたか
まず、報道の中身から。
・値上げ幅は多くの場合15%超
・対象は主力の「Vera Rubin」「Grace Blackwell」を搭載したシステム
・適用は2027年初めの出荷分から
・理由はメモリ(記憶用半導体)のコスト急騰
念のため書いておくと、これは報道ベースで、エヌビディアの公式発表ではない。ただ、値上げの理由とされている「メモリの高騰」のほうは、公式な数字がいくつも出ている。そちらを確かめてみた。
2. 原因は、メモリの取り合いだった
メモリというのは、データを覚えておくための半導体だ。作業机にあたるDRAMと、倉庫にあたるNAND(SSDやSDカードの中身)がある。
この契約価格が、今年とんでもないことになっている。
・DRAM 58〜63%の上昇
・NAND 70〜75%の上昇
米マイクロンの決算実績(2026年度3〜5月期、前の3か月比)
・DRAMの平均販売価格 60%前後の上昇
・NAND 80%台半ばの上昇
3か月で6割、7割。物価の記事で見てきた「年2%」とは、桁がふたつ違う世界だ。
なぜこうなるのか。AIのデータセンターが使うHBMという高性能メモリは、普通のメモリの3〜4倍のウェハー(半導体の材料)を食う。メーカーは儲かるHBMに生産ラインを寄せるので、普通のDRAMやNANDを作る量が減る。作る量が減ったところに需要は減らないから、奪い合いになる。
エヌビディアのサーバーには、このメモリが大量に載っている。AIでいちばん儲かっている会社が、AIが起こしたメモリ不足に押されて値上げする。原因が自分、という構図だった。
3. わたしの商売道具まで、来ている
ここからが、わたしの話だ。
わたしは映像の仕事をしている。撮影データは重い。SDカードとSSDは、消耗品として買い続ける商売道具だ。
そのSDカードの中身は、さっきのNANDだ。つまりAIサーバーとわたしの撮影用カードは、同じ工場の生産ラインを取り合っている。
小売の値段には、もう出ている。
パソコン用メモリやSSDも急騰していて、完成品のパソコンには1〜2割かそれ以上の値上げ予測が出ている
4.7倍、である。物価の記事で「食料+3.5%」に驚いていたのが、かわいく見える数字だ。
わたしにできることは、多くない。次にストレージを買い足すときは、高い。それだけの話だ。ただ、値上がりの理由を知ったので、あわてて買い替えるのか、待てば下がりそうなのかは、自分で考えられる。調査会社の見立てでは、この取り合いは2027年まで続く可能性があるという。
4. 8月24日、市場はこう受け取った
この報道が広まった週明けの8月24日、市場はこう動いた。
見出しは「日経平均488円安」だった。でもTOPIXは上がっていた。プライム市場では54%の銘柄が上がっている(日経)。日経平均の下げ488円のうち、たった2銘柄で563円ぶん。つまり、この日下がったのは「日本株」ではなく、AIの部品代を織り込んだ一部の銘柄だった。
ウォルマートの記事で見たのと同じで、見出しの指数と、中身は別ものだ。
AI株が売られた理屈は、こう解説されている。部品代が上がれば利益が削られる。値上げで転嫁すれば、今度は買う側が減るかもしれない。どちらに転んでも、これまでの「作れば売れる」ほどうまくはいかない。そういう読みだ。
5. キオクシアの、都合の悪い答え合わせ
ここで、書いておかないといけないことがある。
メモリが高騰しているということは、メモリを作っている会社は儲かっているということだ。日本ならキオクシア。そして8月1日に、わたしはキオクシアを「買わない」と書いた。
そのときの株価は4万6,500円。8月21日には5万4,320円まで上がり、報道で売られた8月24日でも5万930円。記事の時点から約9.5%高い。
買っていれば、儲かっていた。これが今のところの答え合わせだ。都合のいい答え合わせだけ書くのはずるいので、逆のほうも記録しておく。
それでも、判断は変えない。あのとき書いた理由はこうだった。シクリカル株(市況で動く株)は、利益が膨らみきった好決算のときほど、PERが低く見える。それは割安の証拠ではなく、「この利益は続かない」と市場が見ている証拠かもしれない。そして、どこで折り返すかは、誰にも分からない。メモリの契約価格が3か月で7割上がる今は、まさに利益が膨らんでいる局面だ。この答え合わせは、まだ途中。折り返しを過ぎたときに、もう一度書く。
7月のキオクシアの記事で書いたとおり、わたしは値動きを当てにいくゲームに参加していない。参加していない以上、儲け損ねは起きる。それは、参加しないと決めたときに引き受けたことだと思っている。
6. わたしは、どう見ているか
今回のニュースで、自分の立ち位置を確かめたら、少し面白いことになっていた。
わたしはオルカンを積み立てて、S&P500も持っている。この中には、値上げするエヌビディアも、値上げされる側の大手も、儲かっているメモリ3社も、全部入っている。
そして仕事では、SDカードの値上がりを払う側にいる。
インデックスで幅広く持つというのは、こういうことだと思う。値上げの痛みと恩恵の、両側に少しずつ立つ。SDカードで払ったぶんの一部は、メモリ会社の利益として、めぐりめぐって自分の投信に戻ってくる。全部ではないし、ぴったりでもない。でも、片側だけに立つよりは、落ち着いて見ていられる。
だから今回も、売り買いはしない。仕事の道具は、値段の理由を知ったうえで、必要なときに必要なだけ買う。
商品市場に古くから伝わる相場格言(作者不詳)
値段が上がりすぎること自体が、値段を下げる薬になる、という意味だ。高値を見たメーカーは増産し、買う側は買い控える。やがて供給が追いつき、値段は下がる。
メモリは、これを何度も繰り返してきた市況の商品だ。いまの7割上昇も、いつかはこの薬が効く。それがいつかは、誰にも分からない。分からないから、わたしは当てにいかない。
わたしはオルカンの積立も日本の高配当株もBNDも、同じ口座で持っています。メイン口座はSBI証券で、8年以上使っています。
SBI証券の公式サイトを見る →7. まとめ
- エヌビディアがAIサーバーの15%超の値上げを大口顧客に通知したと報道。理由はメモリのコスト急騰(公式発表ではない)
- メモリの契約価格は3か月でDRAM6割・NAND7割の上昇。AI向けHBMに生産が寄って、普通のメモリを作る量が減った
- その同じ部品が、わたしの商売道具。SDカード256GBは2年余りで約4.7倍。パソコンにも1〜2割かそれ以上の値上げ予測
- 8月24日、日経平均は488円安。でもTOPIXは+0.40%で、下げの563円ぶんはたった2銘柄。下がったのはAI銘柄で、日本株ではない
- 8月1日に「買わない」と書いたキオクシアは約9.5%上昇。都合の悪い答え合わせも記録する。判断は変えない。どこで折り返すかは誰にも分からない
- オルカンの中には値上げする側も儲かる側も入っている。払う側と受け取る側の両方に立つのがインデックスだと思う
・メモリの契約価格:調査会社TrendForceの2026年4〜6月期見通し(DRAM58〜63%・NAND70〜75%、前四半期比)と、マイクロンの決算。HBMがウェハーを多く使う構造の解説はXenoSpectrumなど
・SDカードの店頭価格:プライシー「SDカード価格推移」(256GB平均 2024年4月2,383円→2026年8月11,304円)
・8月24日の市場:財経新聞「アドバンテとソフトバンクGの2銘柄で約563円押し下げ」/日本経済新聞「ソフトバンクGの株価5000円割れ 英アーム株安が波及」
・株価と騰落率:Yahoo Financeの終値からわたしが計算しました(2026年8月24日終値まで。TOPIXは1348、キオクシアは285A)
・相場格言:英語圏の商品市場で古くから使われる言い回しで、特定の発言者は確認できませんでした




