インスタで中古マンションを買う人が増えているらしい。発信する側のわたしが考えたこと
「インスタで見つけた部屋を買いました」。そんな買い方が、もう珍しくなくなってきているらしい。
流れてきた投稿を見て、気になって、そのまま中古マンションを買う。しかも平均価格は7,300万円。人生でいちばん大きな買い物が、スマホの画面から始まっている。
わたしもこのブログやSNSで、お金のことを発信している。つまり、小さいながらも「何かを紹介する側」にいる。だからこのニュースは、他人事として読めなかった。すごいと思う気持ちと、少し引っかかる気持ちの両方がある。
批判をしたいわけではない。SNSが得意なことと、SNSでは絶対に伝えられないことを、改めて整理しておきたいと思う。
1. 何が起きているのか
背景には、都心のマンション価格の高騰がある。首都圏の中古マンションの掲載価格は、2026年6月にファミリータイプで6,650万円と過去最高を更新した(前年同月比+38.2%)。東京23区の築浅物件では平均1億円を超える水準になっている。都心の新築は、もう普通の共働き世帯には届かない。それが実感に近いのだと思う。新築に手が届かなくなり、中古を探す人が増えている。その入口が、いま不動産サイトからSNSに移りつつある、ということだ。
2. SNSで家を探すことの、素直にいい面
まず、いい面から。この流れ自体は、よく分かる。
① 「探し始める前」に出会える
これまでの不動産探しは、「家を買おう」と決めてから、条件を入れて検索する形だった。でもSNSは、探していないときに、たまたま流れてくる。「こんな暮らし方があるんだ」と知るきっかけになる。
② 条件表では伝わらないものが伝わる
間取り図と駅徒歩◯分では、暮らしの手ざわりは分からない。SNSの写真や動画は、朝の光の入り方、天井の高さ、街の空気を伝えるのが本当に上手だ。インスタを眺めていると、飲食店もホテルも不動産も、「行ってみたい」「住んでみたい」と思わせる写真であふれている。あの力は、本当にすごいと思う。
③ 「誰が言っているか」で安心できる
知らない不動産会社に問い合わせるより、ふだんから投稿を見ていて、暮らし方や価値観を知っている人の方が安心できる。何度も見ているうちに、勝手に信頼が積み上がっているからだ。信頼のショートカットとして、SNSは本当によく機能している。
だから「SNSで家を探すなんて」と否定する気は、まったくない。入口としては、むしろ良い進化だと思う。
3. でも、発信する側だから分かる「伝えられないこと」
わたしが引っかかったのは、ここだ。SNSが得意なのは「素敵」を伝えること。逆に言えば、素敵に撮れないものは、伝わらない。
これは、撮る側にいると本当によく分かる。わたしは映像の仕事をしているので、写真や動画を撮ることがある。そのとき無意識にやっているのは、「いちばん綺麗に見える角度」を探すことだ。散らかっているものはフレームの外に出すし、光がよくない日は撮り直す。悪気はまったくない。でもその結果、写真は「見せたいもの」しか写らない。そういうものだ。
| 視点 | SNSで伝わること(入口) | SNSの外で確かめること(決め手) |
|---|---|---|
| 見るもの | 写真・動画・暮らしのイメージ | 書類・現地・行政の情報 |
| 得意な領域 | 日当たり、内装、街の雰囲気 | 長期修繕計画、積立金の改定予定、災害リスク |
| 判断の軸 | 「素敵だな」という気持ち | 「10年後も大丈夫か」という確認 |
マンションの管理難民の記事で書いたとおり、マンションを買うことは、部屋を買うと同時に「管理組合という小さな会社」の共同経営者になることでもある。そして経営の健全さは、間取り図にも、朝の光の写真にも、絶対に写らない。
では、「SNSの外」では何を確かめればいいのか。調べてみたら、書類・現地・行政の3方向に分かれていた。
長期修繕計画、修繕積立金の残高と今後の値上げ予定、管理組合の議事録(もめごと・理事のなり手・滞納の有無)、管理費の水準
平日と休日、昼と夜、それぞれ歩いてみるのが基本。夜の街灯や人通り、駅からの道の安全性、近くに幹線道路・線路・繁華街がないか。上下左右の生活音、共用部やゴミ置き場の使われ方(住民の空気が出る)、駐輪場の乱れ具合
ハザードマップ(水害・土砂災害・地震・津波、そして避難経路)は自治体や国土交通省のサイトで無料で見られる。加えて学区、保育園の空き状況、病院、スーパーなど。地図上の店が今も営業しているかは、歩けば分かる
こうして並べると、暮らしの快適さを決めるものほど、写真に写らないことが分かる。たとえば、こういうこと。
- 朝のエレベーター待ちが、毎日5分かかる
- ゴミ置き場のにおいが、夏になると廊下まで来る
- ベランダを開けると、幹線道路の音がずっと聞こえる
- 夜になると、駅からの道に酔った人が多い
- 管理人さんがいるはずなのに、実質あまり機能していない
どれも、住んでみないと分からない。そしてどれも、素敵には撮れない。夜道の暗さも、上の階の足音も、ハザードマップの色も同じだ。でも、10年後の暮らしを決めるのは、たぶんこっち側だ。
入口がSNSでもいい。でも、判断は写真の外側でしないといけない。ここが、わたしがいちばん言いたいところだ。
4. お金の流れを、正直に見ておく
もうひとつ、書いておきたいことがある。キュレーターの報酬は、成約時の仲介手数料から支払われる成果報酬型だと報じられている。つまり、紹介した人が買ってはじめて、報酬が発生する。
これは悪いことではない。わたしのブログにもアフィリエイトのリンクがあるし、記事の冒頭には「広告が含まれます」と表示している。紹介で対価を得ること自体は、まっとうな仕事だ。
発信する側にいるからこそ言うけれど、この仕組み自体は悪いことだと思わない。ただ、iDeCoで「おすすめ」が解禁される記事でも書いたとおり、すすめる人が、売る側の収益とつながっている。それを知ったうえで投稿を見るのと、知らずに見るのとでは、受け止め方が変わってくる。それだけの話だ。
なので、まずはPR表示があるかどうかを見る。そして、あったからといって内容を疑うのではなく、「この人は、この紹介で対価を得ている」という前提で読む。それだけで、投稿の見え方はずいぶん健全になると思う。
5. これだけは書いておきたい:SNSまわりの詐欺は、実際に増えている
ここからは、今回紹介したサービスとは別の話になる。ただ、SNSとお金の話をするうえでは避けて通れないので、書いておきたい。
念のため先に書くと、ここまで紹介してきたような正規の不動産仲介と、これから書く詐欺の話は、まったく別のものだ。そこははっきりさせておきたい。
そのうえで、注意喚起としてどうしても添えておきたい数字がある。SNSをきっかけにしたお金の詐欺は、いま実際に激増している。
きっかけになったツールは LINEとInstagramで約半数。手口は「絶対にもうかる」「あなただけに教える」といったダイレクトメッセージが6割以上、次いで著名人や投資家になりすました偽広告が2割以上を占める。
恋愛感情や親近感を持たせてから投資に誘導する「ロマンス詐欺」型も多い。
つまり、わたしたちがSNSで「素敵な暮らし」を見ている同じ画面に、詐欺の入口も並んでいるということだ。不動産に限らず、投資、副業、なんでも同じ。
見分け方は、実はそんなに難しくない。
- 「絶対」「必ず」「あなただけ」:まっとうな事業者は、これを言えない。言った時点で、それが答えになる
- DMから始まる話:向こうから個別に近づいてくる「うまい話」は、まず疑う
- 公的な登録を確認する:不動産なら 宅地建物取引業の免許番号、投資商品なら 金融商品取引業者の登録。国や自治体のサイトで照合できる
- 急かされたら、いったん止まる:iDeCoの記事でも書いたけれど、その場で決めさせようとすること自体が警戒サインだ
SNSが入口になること自体は、もう止められない流れだと思う。だからこそ、入口の多さと、確かめる手間は、セットで持っておきたい。
6. 賃貸派のわたしが、それでも思うこと
わたしは賃貸派で、家を買う予定はいまのところない。だから「買うな」とも「買え」とも言えない。
そのうえで思うのは、7,300万円という金額の重さだ。これはわたしの総資産を超える。30年以上かけて返していく金額を、「素敵だな」という気持ちから始めて決めるのは、入口としては自然でも、決め手にしてはいけないと思う。
投資でも同じことを書いてきた。高金利通貨の「年利40%」も、AIブームの熱狂も、魅力的な入口ほど、立ち止まる力が要る。家はその最大版だ。
だからわたしなりの結論はシンプルで、SNSで見つけて、SNSの外で確かめる。写真で心を動かされるのは、いいことだ。そのあとに、書類を読み、現地を歩き、自分の目で冷静に判断できるかどうか。そこだけの話だと思う。
7. まとめ
- インスタなどのSNS経由で中古マンションを買う人が増えている。2年8カ月で成約500件超・300億円超、購入者の55.7%が30代、平均約7,300万円
- 背景に都心の価格高騰(首都圏の中古ファミリータイプは2026年6月に6,650万円と最高値・前年比+38.2%)
- SNSのいい面は本物。探す前に出会える/条件表では伝わらない暮らしが伝わる/誰が言っているかで安心できる
- でもSNSが得意なのは「素敵」を伝えること。確かめるべきことは3方向にある。①書類(長期修繕計画・積立金の値上げ予定・議事録) ②現地(平日と休日、昼と夜に歩く/生活音/共用部の使われ方) ③行政の情報(ハザードマップと避難経路・学区・保育園・病院)。どれも写真映えしない
- お金の流れも知っておく。キュレーターの報酬は成約時の成果報酬型。悪いことではないが、2023年10月からのステマ規制も踏まえ、PR表示の有無を見て、構造を知ったうえで受け取る
- 別の注意として、SNS型投資詐欺は激増中(認知9,538件・被害1,274.7億円、いずれも前年比+約5割。きっかけはLINEとInstagramで約半数)。「絶対」「あなただけ」、DM発、急かす。このどれかがあれば止まる。宅建業の免許番号や金融商品取引業の登録を確認する
- わたしの結論:SNSで見つけて、SNSの外で確かめる。写真で心が動くのはいいこと。そのあと議事録を見に行けるかどうか
・成約実績・仕組み:ファンズ不動産の公表情報、日本経済新聞ほか各社報道
・中古マンション価格:マーキュリー社の市場データ(2026年)
・ステマ規制:消費者庁の景品表示法に関する運用基準(2023年10月施行)
・SNS型投資詐欺の統計:警察庁「SNS型投資詐欺」ほか公表資料
関連記事
- 管理会社がマンションを「切り捨てる」時代に。賃貸派のわたしが、持ち家の見えないコストを調べてみた
- iDeCoで金融機関の「おすすめ」が解禁へ。ありがたい話? わたしは少し身構えている
- なぜ、トルコの金利は40%もあるの? 高金利通貨のワナを調べてみた
- 東京・月15万円の生活費内訳。削るのではなく、使い方を決める
オルカン・S&P500の積立も、日本の高配当株も、SBI証券ひとつで管理可能。NISAと特定口座の使い分けもシンプル。わたしのメイン口座として8年以上愛用中。
SBI証券の公式サイトを見る →



