管理会社がマンションを「切り捨てる」時代に。賃貸派のわたしが、持ち家の見えないコストを調べてみた
Xを眺めていたら、日経新聞の「マンション 不都合な真実」という記事が流れてきた。管理会社がマンションの管理組合に 「人件費高騰のため、管理委託費を月6万円引き上げます」 と要求したり、「うまみない」と突然解約を告げたり しているという話だ。
へぇ、そうなんだ。管理会社って、値上げしたり、辞めたりするんだ。掃除や点検や修繕の手配をしてくれる「マンションの味方」だと思っていたので、少し意外だった。
しかも、一部のマンションだけの話ではないらしい。採算の合わない小規模マンションを選別して、切り捨てる動き が広がっていて、業界では 「マンション管理難民」 という言葉まで生まれつつあるという。
わたしは賃貸派だ。その理由は後半でちゃんと書くけれど、「買うか、借りるか」の話にも関係しそうな気がして、気になって調べてみた。すると、購入時のシミュレーションには載っていない世界 が、いろいろ見えてきた。
1. 何が起きているのか
値上げの主犯は、サイゼリヤの記事でも書いた 人件費の高騰 だ。清掃員、管理人、点検の技術者。マンション管理は人手のかたまりのような産業なので、人件費が上がれば費用は確実に上がる。物価上昇の波が、外食の次は「住まいの維持費」に到達した、ということになる。
でも、この話の本当の怖さは値上げそのものではない。「お金を払う側だったはずの管理組合が、管理会社から選別される側になった」 という力関係の逆転だ。それを理解するには、そもそもの仕組みから見る必要がある。
2. マンションを買うことは、「小さな会社の共同経営者」になること
賃貸暮らしだと意外と知らないのだけど(わたしも今回ちゃんと調べた)、分譲マンションを買うと、自動的に「管理組合」のメンバーになる。これは任意ではなく、区分所有法という法律で決まっていて、脱退はできない。
管理組合は、いわば 住民全員が株主のような立場になる、小さな会社 だ。
- 収入は、住民から集める管理費と修繕積立金
- 支出は、清掃・点検・保険・そして十数年ごとの大規模修繕
- 経営判断は、理事会と総会の多数決
- 実務は管理会社に外注するのが一般的(この外注費が、いま値上がりしている)
つまりマンションを買うということは、部屋を買うと同時に、この会社の「共同経営者」の席がもれなくついてくる ということだ。しかも隣の経営仲間は選べないし、経営がうまくいかなくても、席を降りるには部屋ごと売るしかない。
3. なぜ管理会社は「切り捨てる」のか
管理会社の立場から見ると、切り捨ての理屈はシンプルだ。人手不足で仕事を選べる時代になったから、儲からない客とは付き合わない。
そして「儲からない客」の代表が、小規模マンションだ。30戸のマンションも100戸のマンションも、掃除や点検や理事会対応の手間はそれほど変わらない。でも受け取れる管理委託費は戸数に比例して少ない。実際、国の調査でも 小さいマンションほど1㎡あたりの管理コストが割高 になるという「規模の不経済」がはっきり出ている(50戸未満は100〜149戸の物件より3割近く割高)。
かつては「管理組合がお客様、管理会社は選ばれる側」だった。それが人手不足で逆転し、管理会社が客を選ぶ時代 になった。月6万円の値上げ要求は、「この条件で嫌なら、どうぞ他へ」という強気の表れでもある。ただし、断ったところで 代わりに引き受けてくれる会社が見つからない。これが管理難民の正体だ。
4. 追い打ちをかける「2つの老い」
この問題が「一時的な値上げ騒動」で終わらない理由が、国の統計にはっきり出ている。マンション業界で 「2つの老い」 と呼ばれる現象だ。
| 老いの種類 | 現在 (2026年時点の目安) | 将来の予測・実態 |
|---|---|---|
| ① 建物の老い (築40年超の物件数) |
全体の約2割 (約137万戸) |
10年後には2倍、20年後には3.4倍へ急増 |
| ② 住民の老い (高齢化の実態) |
築40年超では世帯主70歳以上の住戸が5割超 | 年金暮らしが増え、値上げへの合意や理事のなり手不足が深刻化 |
建物が老いるほど修繕費は増える。住民が老いるほど、払える人と動ける人は減る。必要なお金と人が増えていくのに、出せるお金と人は減っていく。これが「2つの老い」のはさみ撃ちで、時間が解決するどころか、時間とともに確実に重くなる。
国もこの問題は認識していて、マンションの管理や建て替えをしやすくするための法改正が動き始めている。ただ、137万戸というスケールの問題に効き目が出るのは、まだこれからだ。
5. わたしが賃貸を選んでいる理由
ここで、わたし自身の話をしておきたい。わたしは賃貸派だ。ただ、よく言われる「賃貸と持ち家、どっちが得か」の損得計算で選んだわけではない。
理由をひとことで言えば、小回りの良さ だ。
- 仕事:わたしはフリーランスで、収入も働き方も変わり続けている。住む場所を固定しないことは、仕事の選択肢を狭めないことでもある
- ご近所:人間関係は、住んでみないと分からない。賃貸なら、合わなければ引っ越せる
- 人生設計:この先の人生で何が起きるか、正直わからない。だから 「いつでも動ける」こと自体に価値がある と思っている
不確実なことが多い人生で、身軽さは武器になる。それがわたしの結論だった。そして今回調べてみて、この考えにもうひとつ視点が加わった。買うと、「住まいの経営」からも降りられなくなる ということだ。管理組合の運営、値上げへの対応、修繕の合意形成。それは何十年も続く、もうひとつの仕事に近い。
ただし、公平に書いておく。賃貸にもリスクはちゃんとある。家賃は物価とともに上がるし(実際、都市部の家賃は上がっている)、更新のたびに条件は変わりうるし、高齢になると部屋を借りにくくなる問題も現実にある。持ち家には、ローン完済後の住居費の軽さや、自分の城という安心感という、賃貸にはない強みがある。
だからこれは「賃貸の勝ち」という話ではない。わたしの職業と性格には賃貸が合っている、という話 だ。安定した仕事があって、土地に根を張って暮らしたい人にとっては、持ち家が最適解になり得ると思う。
6. それでも買うなら、「物件」ではなく「組合」を見る
調べてみて強く思ったのは、これから買う人に必要なのは「買うな」ではなく、見るべき場所のアップデート だということ。
- 修繕積立金の残高と長期修繕計画:いまの積立ペースで、将来の修繕に足りるのか。安すぎる積立金は「お得」ではなく「先送りされた請求書」だ。特に新築マンションは、売りやすくするために 最初の積立金を低めに設定し、数年ごとに引き上げていく「段階増額方式」が一般的。パンフレットに書かれた「今の安さ」は、続かない前提で見る
- 管理組合の議事録:総会や理事会の議事録は、購入前に確認できる。もめごとの有無、理事のなり手、値上げの議論。この小さな会社の「株主総会の記録」 だと思って読む
- 戸数の規模:小規模マンションは、今回見たとおり管理難民リスクが相対的に高い。価格や立地だけでなく「管理会社から見て、お客として魅力があるか」という視点
- 管理費・修繕積立金は「今の額」ではなく「上がるもの」として資金計画に入れる:月2.8万円が、10年後も2.8万円である保証はどこにもない
部屋の内見と同じくらい、組合の中身を見る。それがこの時代の「買う技術」なのだと思う。
7. まとめ
- 管理会社による 値上げ要求や契約解約 が全国で発生。採算の合わない小規模マンションが見捨てられる 「マンション管理難民」 が社会問題になりつつある
- 背景は 人件費の高騰(管理費7.5%・修繕積立金16.5%上昇)と、人手不足による 力関係の逆転。管理会社が客を選ぶ時代になった
- マンションを買うことは、「小さな会社の共同経営者」になること。脱退はできず、隣の経営仲間は選べない
- 「2つの老い」(築40年超が20年で3.4倍・世帯主70歳以上が5割超)で、この問題は時間とともに重くなる構造
- わたしが賃貸を選ぶ理由は損得ではなく 小回りの良さ(仕事・ご近所・人生設計)。ただし賃貸にも家賃上昇や老後の借りにくさというリスクはあり、絶対の正解はない
- それでも買うなら、物件だけでなく 管理組合を見る。積立金の残高、議事録、戸数規模。「部屋+経営参加」を買うのだから
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