AIは「超優秀な相棒」。映像プロデューサーのわたしがふだんお願いしている仕事
映像×AI×FIREシリーズの第1回で、「AIは、いつでも相談できる超優秀な部下みたいなもの」と書いた。今日はその続き。毎日いっしょに仕事をしてきて、いまはもう「部下」というより「相棒」に近い感覚でいる。その相棒に、わたしがふだんどんな仕事をお願いしているかを、具体的に紹介してみたい。
第1回では、メイン業務の企画と台本作成がAIで激変した、という話を書いた(企画が実質2日から約30分、台本が約2日から約1時間に)。だから今日は、その2つはサラッと流して、それ以外の、地味だけどよく効いている使い方を中心に書く。派手さはないけれど、こっちのほうがリアルだと思う。
ちなみにわたしが使っているのは、ClaudeやChatGPTのような生成AI。月数千円のサブスク代で、これだけ働いてくれる相棒はちょっといない。
その相棒に、ふだんお願いしている仕事
順番に紹介する。
このうち、いくつか補足したい。
① 文字起こしは、地味だけど一番ありがたい。1時間ぶんの取材音声が、数分でテキストになって上がってくる。前は専門の業者に頼むか、自分で半日がかりで聞き直していた作業だ。しかも「ここの要点だけ3行で」と頼めば、議事録の形にもしてくれる。
そして、ここからが映像制作でとくに効くところ。文字起こしした内容を企画やテーマと照らし合わせて、大事な部分・要らない部分・重複している部分を判断して、使えそうな箇所をピックアップしてくれる。前は、文字原稿を何度も読み返して、「こことここを使って、ここは被ってるから外して」と、地道に時間をかけていた工程だ。それが、あっという間にある程度の形になる。
ただ、AIに任せたぶん、自分がその素材に入り込みきれていないな、と感じることもある。だからそこは、最後の詰め(どの一言を残すか、どう並べるか)に自分のリソースを集中させてカバーする。力を抜くところと、注ぐところを分けられる。AIのおかげで「どこに力を使うか」を選べるようになったのも、大きい変化だと思う。
② メールやお願いの文面も、毎日のように相談している。納期の調整、ちょっと言いにくい修正のお願い、丁寧にお断りする返信。自分で書くと角が立たないか不安になる文面を、「もう少しやわらかく」「でも要件は崩さずに」と整えてもらう。最後は必ず自分の言葉に直すけれど、ゼロから書くのと、たたき台があるのとでは、心の負担がぜんぜん違う。
③ リサーチも、企画の初期段階でよく使う。先日は、ある旅行企画でYouTuberさんに出演を依頼するケースを想定して、旅行系のYouTuberに頼むとどのくらいの費用感になるのかを、ざっと調べてもらった。そのときは、「フォロワー1人あたり何円」という単価で見積もる、といった一般的なギャラの決め方まで教えてくれた。
ここがAIの大きいところで、自分の経験にないことを、気軽に相談できる。わたしはYouTuber起用の見積もりに詳しいわけじゃないけれど、考え方の土台をその場で渡してもらえる。もちろん、実際に動くときは事務所に正式な金額を確認してから企画を出す。それでも、最初に「だいたいこのくらいの規模か」と当たりをつけておけると、企画の解像度がぐっと上がる。
⑥ 撮影前の段取りは、意外と効く使い方。「こういう現場で、当日気をつけることは?」と聞くと、わたしが見落としていた確認事項を出してくれることがある。
先日も、わたしが取りまとめていたライブ配信の案件で、10時集合・13時本番というスケジュールを組んでいたら、AIに「お昼休憩の時間が入っていませんよ」と指摘された。言われて、たしかに、と。すっかり抜けていた。おかげで、当日は時間に余裕がないことを事前にアナウンスして「昼食は各自で準備してきてほしい」と伝えられたし、本番前に30〜40分ずつ、順番に休憩を回すこともできた。
経験を積んだ人なら当たり前に気づくことでも、ひとりで動いていると抜けるときがある。そこを埋めてくれる相談相手がいる、という安心感は大きい。
使い方のコツ
ただ、AIは「投げれば完璧な答えが返ってくる魔法の箱」ではない。優秀な相棒と同じで、使い方しだいで働きが大きく変わる。わたしが意識しているのは、この4つ。
①と②は、慣れればすぐ身につく。問題は③だ。
映像の仕事は、世に出る前の企画やキャスティング、まだ公開されていない商品の情報を扱うことが多い。当然、そういう機密をAIに貼り付けてはいけない。便利だからこそ、ここの線引きは絶対に緩めない。
そもそも、機密保持契約(NDA)を結んでから動く仕事も多い。だからAIには大枠の整理だけをお願いして、細かい情報は省いた形で相談するようにしている。社名や商品名は出さず、「ある食品メーカーの新商品」くらいに一般化する。それでも、たいていの壁打ちは成立する。
とはいえ、ここはまだまだ慎重に進めているのが現状だ。クライアントの信頼を預かっているのがプロデューサーの仕事だから、便利さと引き換えにできない部分だと思っている。
そして④の「自分で『できない』と決めない」。これが、最近いちばん大事だと思うようになったことだ。
つい「これはAIには無理だろう」と、自分で勝手に線を引いてしまう。でも、その判断こそがもったいない。まずは自分のタスクを棚卸しして、できそう・できなそうを自分で決めずに、とりあえず相談してみる。
クロちゃん(わたしはClaudeをこう呼んでいる)は、ちょっとやそっとのことでは「できません」「無理です」と言わない。なんとかしようと、いろいろ考えてくれる。だから、こちらが勝手に諦めていただけのことが、案外あっさり片づく。「え、こんなこともできるんだ」と驚くことも多い。
たとえば、最近インスタグラムを始めた。試しに「ブログの記事をインスタの投稿にして」とお願いしてみたら、スライドの作成から投稿文まで全部考えて、アップロードまで完了してくれた。少し前なら手が届かなかったことが、日進月歩でできるようになっている。ほんとうにすごいし、ちょっとスリリングな時代を生きているな、と実感している。
それでも、AIに任せないこと
ここまで「相棒が優秀だ」という話をしてきたけれど、任せないと決めていることもある。
ひとつ、最近こんなことがあった。ある案件が終わったあと、次に向けた改善案をAIに相談してみた。できるだけ背景を伝えて、精度を上げようとしたつもりだった。でも、返ってくる答えが、どうにもしっくりこない。「うーん、そういうことじゃないんだよなぁ」と、何度も思った。
考えてみれば当然で、AIは、わたしとお客様がこれまで積み重ねてきた会話も、その場の温度も、関係性も知らない。案件の本当の前提は、たいてい言葉にしきれていないところにある。それをどうやってAIに渡すかは、まだうまく答えの出ていない課題だ。でも裏を返せば、言葉にしきれない前提を預かっていることそのものが、わたしの仕事の中身なのかもしれない。
そして、ここがたぶん、第1回で書いた「AIが来ても単価が下がっていない理由」につながっている。
AIにできるのは、作業を速くすること。文字起こしも、下書きも、段取りの確認も。でも、お客様がわたしにお金を払ってくれているのは、その手前の「何を作るか決めること」と、最後に「これでいく」と責任を持って言いきることに対してだと思う。そこはまだ、人の仕事として残っている。
だからわたしは、AIを相棒と呼びながらも、最後に責任を持つのは自分だということは手放さないようにしている。便利な道具に飲まれるのではなく、道具を持って前に進む。今のところ、それがわたしの答えだ。
使うリスクより、使わないリスク
最後に、業界の話を少しだけ。
正直なところ、わたしの周りを見ても、制作会社のレベルでAIの導入を積極的にやっているところは、まだ多くない。発注側の大手クライアントは導入を強く進めていて熱量も高いけれど、それでも現場で聞いてみると「使う人は使うけど、まちまち」というのが実感だ。
でも、わたしはここにこそチャンスがあると思っている。制作会社やフリーランスは、小回りがきく。大きな組織が体制を整えるのを待たなくても、自分の判断で今日から試して、トライ&エラーを回せる。動画生成の技術もすごい勢いで伸びているいま、柔軟に取り入れられるかどうかは、これからかなり効いてくるはずだ。
だからわたしが思うのは、考えるべきは「使うリスク」より「使わないリスク」のほうだ、ということ。自分ひとりの判断でなんでも試せるのは、フリーランス最大の強みだと思っている。
ここまで毎日いっしょに働いてきた実感として、はっきり言える。こんなに便利なもの、絶対に使ったほうがいい。
- 第1回で「超優秀な部下みたい」と書いたAIを、いまは相棒と呼んでいる。ふだんお願いしている仕事は、文字起こし・メールの下書き・リサーチ・構成の壁打ち・見積もり整理・撮影前の段取り・誤字脱字の最終チェックなど
- 特に文字起こしが効く。1時間の取材音声が数分でテキストに。前は半日がかりだった
- 使い方のコツは3つ。①たたき台として使い最後は自分の言葉に直す ②先に文脈を渡す ③クライアントの機密は入れない(固有名詞はぼかす)
- 機密の線引きは絶対に緩めない。便利さと引き換えにできない、プロデューサーとしての最低限のルール
- 自分で「できない」と決めず、まず相談する。クロちゃん(Claude)は簡単に諦めないので、意外とできることが多い。ブログ記事のインスタ投稿化も、スライドから投稿まで全部やってくれた
- 判断・人の機微・最後のひと味・責任はAIに任せない。ここが「単価が下がらない理由」につながっている
- AIを相棒と呼びながら、最後に責任を持つのは自分という線は手放さない。道具に飲まれず、道具を持って前に進む




