仕事を奪うかもしれないAIを、映像プロデューサーのわたしは毎日使っている
わたしは企業向けの映像プロデューサーで、フリーランス3年目。少し前に書いた 映像プロデューサーの仕事の記事 で、「AIに仕事を取られそうな気配が、確実にある」と書いた。あれは、いまも本心だ。
ただ、あの記事では書ききれなかったことがある。その同じAIを、わたし自身がほぼ毎日使っているということ。仕事を奪うかもしれない道具を、たぶん業界のなかでもわりと早いほうで頼りにして、自分の仕事の効率化に使っている。
今日は、その矛盾も含めて、いまのわたしとAIの距離を正直に書いてみる。これから映像やフリーランスの仕事を考えている人、AIを仕事にどう取り入れるか迷っている人に、何かが届けばうれしい。
わたしが使っているAIと、用途
まず、道具の話から。わたしが使っているAIは、ざっくり4つ。用途で完全に使い分けている。
ただし、この顔ぶれは、あくまで「いまの」話だ。以前はChatGPT、わたしの呼び方だと「チャッピー」をメインにしていたし、Geminiの「ナノバナナ」という画像生成がお気に入りだった時期もある。AIは今、群雄割拠の真っ只中だと思う。半年後には、この顔ぶれも並び順も、すっかり変わっているかもしれない。だからこの記事も、2026年5月時点のわたしの使い方、くらいの気持ちで読んでもらえたらうれしい。
Claude(クロちゃん)
メインで使っているのが、このクロちゃんだ。理由をうまく言葉にするのは難しいけれど、文章の相談相手として、いちばんしっくりきている、という感覚が近い。クロちゃんに頼んでいるのは、こういうことだ。
- 台本の下書きとアイデア出し。お客様からいただいたコンセプトをもとに、相談しながら台本や構成案を一緒に組み立てる
- お客様へのメール。言い方に少し迷ったときに相談する。強すぎないか、そっけない印象になっていないか、といったことだ
- 契約書のチェック。送られてきた契約書を、まず自分で読んで、そのあとクロちゃんにも読んでもらって「気になるところはある?」と聞く。わたしは法律の専門家ではないから、見落としを一つでも減らしたい
ここはひとつ、はっきり書いておきたい。契約書をクロちゃんに見てもらうのは、あくまで自分の理解を助けるためで、金額の大きい契約や、内容が込み入ったものは、弁護士などの専門家にきちんと見てもらうようにしている。AIの指摘は心強いけれど、それを専門家の判断の代わりにはしていないし、しないほうがいいと思っている。
正直に書いておくと、このブログの記事も、下書きをクロちゃんに手伝ってもらうことがある。ただ、出てきた文章をそのまま載せたことは一度もない。AIの文章は、どこか「わたしの言葉じゃない」感じがする。その感覚がどうにも気持ち悪くて、結局、結構な割合を自分の言葉に書き直すことになる。
ChatGPT(チャッピー)
チャッピーは、画像生成に使うことが多い。構成案に挿す参考イメージや、企画書のラフを作るのに便利だ。それと、クロちゃんに聞いたことをチャッピーにも聞いて、答えを見比べることもある。人に相談するときも、一人より二人の意見が聞きたいときがある。AIも、一つだけだと心もとないときがある。
NotebookLM
NotebookLMは、ちょっと特徴のある道具だ。読み込ませた資料の中だけを根拠に答えてくれる。たとえば工場のマニュアル動画を作るとき。マニュアルは何十ページ、ときには何百ページもある。その全部をNotebookLMに読み込ませて、「映像化するなら、どこを抜き出すべき?」と相談する。
使い方はそれだけじゃない。ふだん使っているソフトのマニュアルを読み込ませておくと、操作に詰まったときに、そのまま質問できる。自分で目次をたどって該当ページを探す、というあの地味に面倒な手間が、まるごとなくなる。膨大な資料の整理と要約という一点では、これ以上のツールはないんじゃないか、と思っている。
Gemini
Geminiは、画像も文章も、平均点以上にこなしてくれる優秀なAIだと思う。ただ、今のわたしには「これはGeminiが一番」という決め手の特徴が見つからなくて、つい開く回数が減ってしまっている。とはいえ、つい先日も大きなアップデートがあったらしい。数日後には、また印象が変わっているかもしれない。
ひとりで働く人にとっての、相談役で、部下で、相棒
AIをここまで手放せなくなった理由を、もう少し正直に書いておきたい。
フリーランスは、基本的にひとりで働く。映像の現場ではチームを組むけれど、企画を練るのも、見積もりを作るのも、メールの言い回しに迷うのも、自分ひとりで向き合うことになる。会社員のころなら隣の席の人にちょっと聞けたことが、今は気軽に聞ける相手がいない。
AIは、その「聞ける相手」になってくれている。わたしにとっては、相談役でもあり、部下でもあり、頼れる相棒のような存在だ。アイデアの壁打ちにつきあってくれるし、気の重い下ごしらえを任せることもできる。もちろん、噛み合わないこともある。それでも、いてくれること自体がありがたい、と感じている。
そして現実的な話をすれば、これは無料の便利ツールではない。わたしはクロちゃんに、月100ドルほどの上位プランを使っている。決して安い金額ではない。それでも、人をひとり雇ったり、作業を外注したりするコストを考えれば、やっぱり格安だと思う。相談役と部下を、その月額でいっしょに手元に置いているようなものだ。ここまで来ると、「使わないこと自体が、むしろリスクなんじゃないか」と思うことすらある。
いちばん変わったのは、司会原稿づくりかも
AIを使うようになって、わたしの仕事でいちばん変わったのは、式典やセミナーの司会原稿だ。
これまで、3時間ある式典の司会原稿を書くとなると、プログラムとにらめっこしながら1日、長いと2〜3日がかりの作業だった。それが今は、プログラムと式典の概要をきちんと渡せば、AIが数分で大まかな原稿を組んでくれる。
もちろん、そのまま使えるわけではない。登壇者の呼び方を「先生」で統一するのか「氏」で統一するのか、細かい言い回し。そういう微調整は必要だ。でも、そこは決めれば済む話で、ゼロから書く重さとは比べものにならない。
だからわたしの場合、いったんAIで骨組みを作る → 自分で確認して整える → お客様に「ひとまず骨組みを作りました」と早めにお見せする、という流れに変わった。2〜3日かかっていた作業が、1時間くらいで一段落してしまう。
SunoAIで曲を作ったら、採用された
印象に残っている案件がひとつある。
あるPRの動画で、登場するキャラクターのオリジナルソングを作りたい、という相談を受けた。作曲を外注すると、それなりの予算も時間もかかる。そこで、SunoAIという音楽生成のサービスで曲を作って提案してみた。
正直に言うと、わたしとしては「いつもどおり」の作業だった。でも、納品したらお客様がとても気に入ってくれて、「このキャラのライブに行きたい」「ファンになっちゃいました」とまで言ってもらえて、そのまま採用になった。
そのとき気づいたのは、AIの音楽がここまで来ていることを、まだ知らない人がたくさんいるということだ。使っている側からすると当たり前でも、ふだん触れていない人にとっては、ちゃんと驚きになる。今はまだ、知っているだけで一歩先回りできる場面がある。いわゆる先行者のメリットだ。
ただ、この差がそう長く続くとは思っていない。先回りできるのは、たぶん長くて1年くらい。少し経てば、誰でも同じことができるようになる。
うまくいかないこと、そして矛盾していること
ここまで便利な話ばかり書いたので、うまくいっていない部分も正直に書いておく。
まず、ビジュアル系はまだ難しい。デザイン案を相談するとき、参考サンプルを付けて画像を生成してもらっても、こちらのイメージにちっとも近づかないことがある。それどころか、やり取りを重ねるほど離れていく感覚すらある。「ああ、意思疎通ができていないな」と感じる瞬間が、画像まわりではまだ多い。それなりのものを一瞬で出してはくれる。でも、実務で通用するレベルまで詰めるのは、文章ほど簡単ではない。文章の相談ではこのズレがずいぶん減ってきたから、なおさら差を感じている。
音声もそうだ。合成音声の進化はすさまじいけれど、いざ納品レベルにしようとすると、間やイントネーション、全体の抑揚と、細かい修正が次々に必要になる。結局そこに時間を取られて、かえって手間になることもしばしばある。たぶん、これもそのうち解消されると思う。でも「今は」まだそういう状態だ。
でも大前提として、わたしは、AIが映像の仕事を少しずつ奪っていくと、本気で思っている。なのに、その同じAIを、わたしは誰より使って効率化している。説明系の動画では、ナレーションを「声優さんに頼む案」と「AI音声で作る案」の2パターンで見積もりを書くことが増えた。声優さんの仕事が減るだろうなぁ。スタジオも厳しくなるかもなぁ。そう思いながら、その選択肢をお客様に差し出しているのは、ほかでもないわたしだ。
便利だから使う。使えば仕事が速くなる。速くなれば、たぶん単価は下がっていく。その流れの先に何があるのか、未来のことはだれにもわからない。それでも、使うのをやめるという選択肢は、今のわたしの中にはない。これは「正しい」「正しくない」の話ではなくて、ただ、わたしがそういう場所に立っている、というだけの話なんだと思う。
誰にも言っていないけれど
ひとつ、あまり人に言っていない本音がある。
十勝計画の連載 に書いたとおり、わたしには、いつか北海道の十勝に帰るかもしれない、という考えがある。ただ、それがこのAIの話とまっすぐ結びついているのか、と聞かれると、自分でもよくわからない。
うまく言葉にできないのだけれど、AIが急に広がっていくこの数年で、わたしが惹かれるものは、少しずつ変わってきた。農家や酪農家のような、一次産業の生産者の人たち。自分の畑で何かを育てて、収穫して、それを食べること。人と人をつなぐ仕事や、自然と向き合う仕事。そういう、時代が変わっても揺るがない普遍的なものに、前より強く心が動くようになった。
十勝に帰って、地域の発展のために、一次産業の人たちをサポートできないか。両親のそばにいて、これからの暮らしを手伝えないか。小さくても畑を持って、丁寧に暮らせないか。まだ何ひとつ形になっていないし、動機も「これだ」と言い切れるほど、はっきりしているわけじゃない。
ただ、AIの普及の中でわたしが感じているのは、たぶんこういうことだ。自分の足で、地面をちゃんと踏みしめながら歩いていきたい。曖昧で、自分でもうまくまとめられない気持ちだけれど、それが、いまのいちばん正直な本音だと思っている。
これから、どうしていくか
これから先のことは、正直よくわからない。
肌感覚で言うと、CGやモーショングラフィックの領域は、半年から1年くらいのスパンで、かなりの部分が置き換えられていくと思っている。実写の編集も、いずれ問題なくこなせるようになる気がする。そうなれば、影響を受ける人は決して少なくない。
- 台本・ナレーション原稿の下書き
- CG・モーショングラフィックの制作
- 実写素材の編集
- ナレーションの収録(合成音声への置き換え)
エディターさん、収録のスタジオ、声優さん。数年後には仕事がなくなっているかもしれない。そして、進行役のプロデューサーという立場だけが無傷でいられる、とももちろん思っていない。
その中でわたしにできるのは、何が変わりつつあるのかを見ながら、自分の立ち位置を少しずつ更新し続けることくらいだと思っている。AIを遠ざけて「使わない」という選択をしても、たぶん景色は変わらない。それなら、誰より使って、誰より早く、変化の中身を知っておきたい。
便利な部分は遠慮なく使う。精度が足りない部分は、自分の手でやる。その線引きは、これからも毎月のように引き直すことになりそうだ。
まとめ
- いま使っているAIはClaude(クロちゃん/メイン)・ChatGPT(チャッピー)・NotebookLM・Geminiの4つ。ただし顔ぶれは流動的で、以前のメインはChatGPTだった。AIは群雄割拠の真っ只中だと思っている
- ひとりで働くフリーランスにとって、AIは相談役で、部下で、相棒。人を雇う・外注するコストを考えると、使わないこと自体がリスクだと感じるくらいの存在になっている
- いちばん変わったのは司会原稿づくり。2〜3日かかっていた作業が1時間くらいで一段落するようになった
- SunoAIで作った曲が採用された案件もあった。ただ、こうして先回りできる差は長くて1年くらい。先行者のメリットは長く続かないと思っている
- ビジュアル生成や合成音声の仕上げは、まだ実務レベルに詰めきれず、かえって手間になることもある
- AIに仕事を奪われそうだと本気で思いながら、その同じAIを誰より使っている。この矛盾を抱えたまま仕事をしている
- 便利な部分は遠慮なく使い、精度が足りない部分は自分の手でやる。その線引きを毎月のように引き直している
- AIが広がる中で、一次産業や自然と向き合う仕事、丁寧な暮らしといった「普遍的なもの」に、前より強く心が動くようになった。いつか十勝に帰りたい気持ちも、たぶんその延長にある




