全国17の信用金庫が赤字になった。この夏わたしが書いた「金利2%」の、反対側の話だった
「全国17信金が赤字に」という日経の記事を読んだ。2026年3月期、金利上昇で保有債券の価値が下がり、売却損や含み損が膨らんでいるという。
実は、わたしはネット銀行派だ。メインバンクはネット銀行で、銀行の窓口に行った記憶が、ここ何年もない。信用金庫にいたっては、口座を持ったことすらない。
だから最初は、遠い世界の話として読み始めた。でも調べていくうちに、これはこの夏に書いた「金利2%」の、ちょうど反対側の話で、しかもわたしの持ち物も同じシーソーに乗っていることが分かってきた。順番に書いていく。
1. 何が起きているか
まず、数字から。
・約半数が減益。純利益の合計は2,424億円で、16%の減益
・原因は金利上昇。保有する債券の価値が下がり、売却損や含み損が膨らんだ
・いっぽう上場する地方銀行は、大手がけん引して2期連続の最高益
個別のニュースを拾うと、もっと生々しい。
・アイオー信用金庫(群馬)は、含み損の処理で32億円の最終赤字
・九州・沖縄の27信金では、国債などの売却損が前の期から8割増えて227億円に。四国でも10信金のうち7信金が減益・赤字方向に悪化
北海道の名前が出てきたところで、少しだけ足が止まった。その話は最後に書く。
2. そもそも、信用金庫って何だろう
これを機に調べた。
・融資できる相手は、原則としてその地域の中小企業や個人に限られている
・つまり「地元で集めた預金を、地元の会社やお店に貸す」ための仕組み
ここに、今回の赤字の伏線がある。地方では人口が減り、会社も減り、お金を借りたい相手が減っていく。でも預金は減らない。人が減っても、残った人の口座には年金や給料が入り続けて、使わなかったぶんが毎年積み上がるからだ。借りたい人は減るのに、預かるお金は増える。地域にしか貸せないのだから、貸せなかったぶんの預金は、国債などの債券を買って運用することになる。
貸す先が細るほど、債券の山が高くなる。そういう構図で、信金は債券をたくさん抱えることになった。
3. なぜ、金利が上がると赤字になるのか
ここで、このブログで何度も書いてきた原則が出てくる。金利と債券の値段は、シーソーだ。金利が上がると、昔の低い金利で買った債券の値段は下がる。
日本の金利は、この2年でこれだけ動いた。
2025年8月 1.6%
2026年8月 2.9% 2年で2ポイントの上昇
0.9%の時代に買った10年国債は、2.9%の新しい国債と比べたら見劣りする。だから売ろうとすれば安くしか売れない。売れば売却損、持ち続ければ帳簿の上の含み損。シーソーの片側が上がったぶん、反対側に座っていた信金が沈んだ。それが今回の赤字だ。
じゃあ、なぜ地方銀行は最高益なのか。銀行の商売には貸す側の顔と債券を持つ側の顔があって、金利上昇は貸す側には追い風になる(貸出の金利も上がるから)。貸出で稼げる銀行は追い風が勝ち、貸出先が細って債券に寄っていた信金は逆風が勝った。同じ金利上昇が、体の向きによって追い風にも逆風にもなる。
4. あの「2%」は、この赤字の反対側にいた
さて、ここで自分の最近の記事を思い出して、少し複雑な気持ちになった。
わたしはこの夏、個人向け国債の固定5年が2%を超えたと書いた。買ってはいない。生活防衛資金の300万円は動かさないと決めたからだ。それでも、あのときのわたしは、金利の上昇を預ける側から眺めていた。実際、メインバンクの普通預金にも、0.4%が付くようになっている。
でも、シーソーの反対側には、低い金利の時代に債券を買って、いま含み損を抱えている人たちが座っている。預ける側の2%は、金利が上がったから付く。金利が上がったから、昔の債券を持っている信金は沈む。
金利上昇はタダ飯ではなかった。誰かの2%は、どこかの誰かの含み損と、同じシーソーで釣り合っている。
5. わたしのBNDも、同じ側に座っていた
そして、これを他人事にできない理由がもうひとつある。わたしも債券を持っている。米国の債券ETF、BNDを228口だ。
わたしの口座では、BNDの評価はプラスに見えている。でも、前の記事で書いた円安のゲタを思い出して、ドル建てで見直してみた。
その間の円安 1ドル147.5円 → 159.0円 7.8%の円安
円建ての評価額 6%ほどのプラスに見える
さらにさかのぼると、米国の金利上昇が始まる前の2021年からはドル建てで16.3%の下落
つまり、こういうことだ。信金の含み損は、決算書に出て記事になる。わたしのBNDの値下がりは、円安の後ろに隠れて見えない。座っているシーソーは、同じものなのに。
だからといって、やることは変わらない。値段ではなく毎月の分配金を受け取るのが役割だ。売らない。ただ、「わたしの評価額のプラスは、円安がそう見せている部分がある」と、自分の帳簿のからくりを知っておく。ゲタの話を書いた矢先に、自分の持ち物で実物を見つけるとは思わなかった。
潮が引いたときに初めて分かる
バフェットがこの言葉を書いたのは保険の話で、大きな損害が出て初めて、どの会社が無理をしていたかが分かる、という文脈だった。今回の潮は、金利だ。低金利という潮が満ちている間は、債券の山を抱えていても何も起きなかった。潮が引いて、抱えていたものの重さが見えた。
そしてわたしの円建ての評価額にも、円安という潮が満ちている。ゲタの記事とこの記事は、たぶん潮が引いたときに慌てないための練習だ。
6. 十勝のことを、少しだけ
最後に、足が止まった話を書く。
わたしは十勝の出身で、いずれ帰りたいと思っている。今回、資本支援を受けることになった信金は、同じ北海道だった。
ネット銀行派のわたしは、正直、信用金庫を「自分には関係のない、昔の仕組み」だと思っていた。でも調べてみたら、信金は地元の会社やお店にお金を回すことだけを目的にした仕組みで、それが細るということは、帰る先の町の商店や農家がお金を借りにくくなるということだった。
わたしの毎日の買い物はネットで完結する。でも、いつか帰る町の暮らしは、地域の中でお金が回って、はじめて成り立つ。遠い世界だと思っていたものと、ちゃんとつながっていた。預金者としても、債券の持ち主としても、いつか帰る人間としても。
わたしのBNDも、オルカンの積立も、高配当株も、ぜんぶSBI証券の口座です。8年以上使っているメイン口座で、債券ETFも1口から買えます。
SBI証券の公式サイトを見る →7. まとめ
- 2026年3月期、全国254信金のうち17信金が最終赤字(前の期は5)。北海道では200億円の資本支援を受ける信金も
- 原因は金利上昇。日本の10年金利は2年で0.9%から2.9%へ。低金利時代に買った債券が値下がりした(金利と債券のシーソー)
- 信金は地域にしか貸せない仕組み。貸出先が細るほど預金が債券に向かい、シーソーの沈む側に座っていた。地銀は最高益と、明暗が分かれた
- この夏の国債2%や預金0.4%は、この含み損と同じ現象の反対側。金利上昇はタダ飯ではない
- わたしのBNDもドル建てでは1年で1.4%下落。円建てでプラスに見えるのは7.8%の円安のゲタのせいだった。売らないが、帳簿のからくりは知っておく
- 信金の預金は預金保険で1人1,000万円まで保護される。赤字=預金が危ない、ではない
・稚内信用金庫への200億円の資本支援:日本経済新聞(2026年7月29日)。9月末予定として正式発表
・アイオー信用金庫の32億円の最終赤字:上毛新聞・日本経済新聞(2026年6月26〜27日)
・九州・沖縄27信金の売却損227億円(8割増)、四国10信金中7信金の悪化:日本経済新聞(2026年7月24日・8月19日)
・2章の「貸出先が細り、預金が債券に向かう」という構図と、3章の地銀と信金の明暗の説明は、これらの決算報道をもとにしたわたしの整理です
・日本国債の金利:財務省「国債金利情報」からわたしが取得(各年8月25日前後の複利利回り)
・BNDとドル円:Yahoo Financeの終値からわたしが計算。分配金は含まない
・預金保険制度:預金保険機構の公表内容(1金融機関ごとに預金者1人あたり元本1,000万円までとその利息を保護)
・バフェットの言葉:Warren Buffett, Berkshire Hathaway "Letter to Shareholders" (2001)。訳はわたし




