ドコモの値上げで、NTTはもうかる? ROIC−WACCで測ってみた
- 1. JTは価値を生んでいるか。測ったらROIC10.1%。でも1年前に測っていたら、逆の記事を書くところだった
- ▶ 2. ドコモの値上げで、NTTはもうかる? ROIC−WACCで測ってみた
携帯代がまた上がるらしい。
NTTドコモが、12月1日から、50を超える料金プランを最大550円値上げする。auもソフトバンクも、すでに値上げをすませていて、大手3社がそろった形だ。そのドコモを持つNTTの株価は、値上げの発表の少し前、9月17日に終値で180円をつけた。約2年半ぶりの高さだ。日経は10月10日、値上げが好感されて、NTT株が高値圏にあると伝えている。
わたしは、携帯ではドコモのahamoから日本通信SIMに乗り換えた側だ。一方で、NTTの株は持っている。高配当株のひとつだ。払う側は降りたけれど、もらう側には残っている。
ここで、いくつか疑問がわいてくる。
📏「NTTは、集めた25兆円で、1年にいくら稼いでいるの?」
🏢「データセンターの大きな投資は、回収できるの?」
結論から言うと、値上げは、ドコモの個人向けの稼ぎを3割以上押し上げる大きさがありそうだ。ただ、NTT全体で見ると、借りたお金と株主のお金を合わせて約25兆円を集め、1年で稼いだのは税引き後で約1.2兆円。割合にすると4.6%(ROIC)だ。これが合格かどうかは、比べる基準の置き方で変わる。分かれ目は、値上げしてもお客さんが離れないか。そして、データセンターの投資を回収できるか。JTに続く「持ち株を測る」シリーズの2本目として、順番に見ていく。
1. ドコモの値上げ、何が変わる?
まず、値上げの中身から。
値上げの中心は、新しく申し込めなくなった古いプランだ。ドコモは理由を「物価や人件費の上昇など」と説明している。わたしが使っていたahamoの月2,970円も、12月からは3,135円になる。
携帯代は、2021年に国の後押しで大きく下がった。物価の統計(携帯電話の通信料)で見ると、いちばん安かった2021年秋と比べて、約3割上がった。それでも、値下げ前と比べると、まだ6割の水準だ。
では、なぜ今なのか。ドコモの決算を見ると、理由が数字で出ている。
個人向けの通信の稼ぎは、2年で半分になった。今年度は、さらに減る見込みだ。値上げは、この落ち込みを止めるための一手だと読める。
2. 値上げで、どれだけ稼げる?
会社は、値上げでいくら増えるかを発表していない。なので、ここは仮の計算になる。
ドコモの携帯の契約は約5,300万。値上げしないプランもあるので、仮に3,000万契約で、1契約あたり平均300円(税込みなら330円)上がるとする。
3,000万契約 × 300円 × 12か月 = 年1,080億円
ドコモの個人向けの稼ぎで見れば、3割以上の上乗せになる。NTT全体で見れば6%ほどだ。日経が、値上げを株高の理由に挙げているのも、うなずける大きさだと思う。
ただし、この計算には大事な前提がある。値上げしても、お客さんが離れないことだ。わたしのように、安いところへ移る人が増えれば、1,080億円はそのまま残らない。
3. NTTは、集めた25兆円でいくら稼いだか
ここからが、このシリーズの本題だ。
ROIC(投下資本利益率)は、会社が集めたお金で、税引き後にどれだけ稼いだかを表す数字。経産省の指針の記事で覚えた、ROIC−WACCという物差しの前半だ。JTのときと同じやり方で、決算短信(会社が出す決算の速報)から数字を拾って計算する。
ROICは4.6%。25兆円を集めて、1.2兆円を稼いだ計算だ。JTの10.1%の半分以下で、日本の主要企業のROICの平均(6.37%)にも届かない。しかも、ここ3年で下がってきている。
税引き後の稼ぎは、2023年度の1兆3,060億円から、1兆1,000億円台に減った。それ以上に効いたのは、投下資本(借りたお金と株主のお金の合計)が2年で6兆円ふくらんだことだ。借りたお金が、9.6兆円から15.7兆円に増えている。NTTデータを完全な子会社にするための借り入れなどが入っている。
銀行を抱えても、ROICはあまり動かない
2025年10月には、NTTは住信SBIネット銀行を子会社にした。今年8月からは「ドコモSMTBネット銀行」という名前になっている。実は、わたしのメインバンクも、ここだ。
銀行を加えたことで、NTTの総資産は30兆円から46.7兆円にふくらんだ。でも、ふくらんだ分の大半は、銀行がお客さんから預かっている預金(約11兆円)だ。預金は、NTTが事業のために借りたお金ではないので、ROICの計算には入れていない。そのため、銀行を入れても外しても、ROICはあまり変わらない。銀行込みで4.6%、銀行を除いても4.9%だ。
それとは別に、2025年度の利益には、上乗せの要素が入っている。データセンターを売って得た利益1,295億円だ(5章でくわしく書く)。これを除くと、ROICは4.2%まで下がる。
4. 物差しを変えると、答えが変わる
次は、物差しの後半のWACC(資本コスト)。株主と、お金を貸す銀行などが期待している利回りの平均で、集めたお金の「仕入れ値」にあたる。ROICがこれを上回っていれば、会社は価値を生んでいることになる。
JTのときは、JT自身の株価の揺れやすさ(β)を使って、WACCを計算した。NTTでも同じように測ったら、困ったことが起きた。
βが1なら、市場全体と同じように揺れる。NTTは5年で測って0.31。最近1年では0.01で、市場とほとんど関係なく動いていたことになる。株主の期待は、国債の利回りに、揺れやすさに応じた上乗せを足して計算する。最近1年の0.01をそのまま使うと、株主の期待は国債とほぼ同じ、という不自然な答えになる。
そこで、仕入れ値を3通り置いて、並べてみる。
NTT自身の揺れやすさで測れば、期待を超えている。市場並みと置けば、ほぼトントン。日本平均で測れば、届いていない。同じ4.6%なのに、物差しによって答えが3つに分かれた。
JTの記事では、「1年の数字で会社を判断してはいけない」と学んだ。NTTで学んだのは、もう1つの注意だ。物差しが揺れる会社は、1つの数字で言い切れない。
そのうえで、2章の値上げを当ててみる。年1,080億円の増益は、税引き後で約740億円。投下資本25.4兆円で割ると、ROICを約0.3ポイント押し上げる。4.6%が、4.9%になる計算だ。市場並みの物差し(4.7%)なら、わずかに上回る。ただ、データセンターの売却益を除いた4.2%に足すと4.5%で、まだ届かない。日本平均の物差しには、遠い。
5. データセンターは、建てて、持って、一部を売る
日経は、NTT株のこれからの焦点を、データセンターに置いている。NTTは、データセンターの規模で世界3位(中国の会社を除く)だ。
売ったのは約90MW。いまも約2,000MWを持ったまま、借り手から使用料を受け取っている。
データセンターは、建てるのに大きなお金がかかり、回収には長い時間がかかる。NTTは、建てて、借り手がついて育ったものをREITに売り、そのお金でまた建てる、という回し方をはじめた。会社はこれを「投資の回収サイクルを早める」と説明している。
ROICで見ると、この回し方には意味がある。建てている途中のデータセンターは、投下資本をふくらませるのに、まだ稼がない。育ったものを売れば、分母が軽くなり、売却益で分子も増える。3章で見たとおり、2025年度のROICを押し上げたのも、この売却益だった。
ただ、売却益は毎年同じように出るものではない。売るものがなくなれば止まる。本当に見たいのは、全体の9割以上を占める、売らずに持って運用しているデータセンターが、使用料でどれだけ稼げるようになるかだ。
6. で、わたしはどうするか
わたしは、携帯代を払うお客さんとしてではなく、配当を受け取る株主として、NTTとつきあっていく。
NTTの配当は、2026年度の予想で1株5.40円。予想どおりなら、16年続けて配当を増やすことになる。10月9日の終値172.9円で割ると、利回りは3.12%だ。
わたしは基本、売らない主義なので、この結果でNTT株を売ることはない。値上げのあと、ドコモのお客さんがどれだけ残るか。データセンターが、どれだけ稼げるか。この2つが、これからの決算で数字に出てくるのを待つ。
7. 値上げする力
アメリカの投資家ウォーレン・バフェットは、2010年、金融危機を調べる国の委員会の聞き取りで、こう話している。
いちばん大事なのは、値上げする力だ
ウォーレン・バフェット(2010年5月26日、金融危機調査委員会の聞き取り)
バフェットは続けて、競争相手にお客さんを取られずに値上げできるなら、とてもよい事業だと話している。
ドコモの値上げは、その力を試すものだと思う。auもソフトバンクも同じように値上げしているので、大手どうしで客を取り合う形にはなりにくい。試されるのは、安いところへ移る人が、どれだけ出るかだ。
携帯代を払う人にとって、値上げはうれしくない。でも、株主としては、NTTにこの力があるかどうかを確かめていきたい。
8. まとめ
- ドコモは12月から、50を超えるプランを最大550円値上げ。auとソフトバンクに続き、大手3社の値上げがそろった
- ドコモの個人向け通信の営業利益は、2年で半分に。仮の計算では、値上げはその3割以上を上乗せする大きさ
- NTTのROICは4.6%で、3年で下がってきた。借りてふくらんだ分母が原因で、銀行の影響は小さい
- βが揺れるので、期待を超えているかは物差しで答えが変わる。1つの数字で言い切れない会社
- データセンターは、建てて、持って、一部を売る。売却益ではなく、持っている分の稼ぎを見ていく
- わたしは、携帯代を払うお客さんではなく、配当を受け取る株主としてNTTとつきあう。値上げしてもお客さんが残るかを、これからの決算で確かめる
・他社の値上げ:KDDI(2025年5月7日)、ソフトバンク(2026年4月10日)
・携帯電話の通信料の物価:総務省統計局 消費者物価指数(2025年基準、品目別・月次)
・NTTの決算:2025年度決算短信、2024年度決算短信、2023年度決算短信、2026年度第1四半期決算短信、決算説明資料(2026年5月8日)、統合報告書2026
・ドコモの個人向け通信の営業利益:ドコモ 2025年度決算説明、同 2024年度、同 2026年度第1四半期
・データセンター:NTT 会社説明会資料(2026年2月)、NTT 決算説明資料(2025年8月6日)
・WACC:財務省 国債金利情報、経済産業省「成長投資ガイダンス データ集」、株価はYahoo Financeの日次の終値
・株価の動き:日本経済新聞(2026年10月10日)
・格言:FCIC Interview of Warren Buffett(2010年5月26日)(訳はわたし)




