人気のINPEXを、まだ買っていない理由。自分のチェック項目に全部かけてみた
INPEXという会社がある。日本の資源開発の最大手で、原油と天然ガスを掘っている。
高配当株の話をしていると、ほぼ毎日どこかで名前を見る。それくらい人気がある銘柄だ。
わたしは日本の高配当株を117銘柄ほど持っているけれど、INPEXは持っていない。「なんとなく割高な気がして」という、ふわっとした理由のままだった。
そこに8月7日、上方修正・増配・自社株買いの3点セットが発表された。
いい機会なので、いつも使っているチェック項目に全部かけてみた。ふわっとした理由が、数字ではっきりした。
1. 何が発表されたのか
まず、8月7日に出た内容から。
株主にとっては、これ以上ないくらい良い内容だと思う。利益は増える、配当は増える、株数は減る。
ただ、ここでひとつ引っかかることがあった。
2. 原油は、2週間で2割下がっている
原油の会社なのに、原油の値段は下がっている。
8月上旬:75ドル台へ。2週間ほどで約2割の下落
理由は、アメリカとイランの和平交渉への期待が高まったこと
会社の説明を読むと、良かった理由ははっきりしている。
②豪州のLNG(イクシス)が堅調だった
③想定していた為替を、円安方向に見直した
どれも、この数か月に起きたことだ。
決算は過去3〜6か月の成績表であって、いまの原油価格の話ではない。7月下旬に原油が跳ねたぶんは今回の数字に乗るけれど、8月に2割下がったぶんは、まだ入っていない。
決算がいい=これから上がる、ではない。 ここは分けておきたい。
3. わたしのチェック項目にかけてみる
ここからが本題になる。
わたしは日本の個別株を見るとき、8つの項目をチェックしている。プロの分析ではなく、素人が地雷を踏まないための最低限という位置づけだ。
②EPS(1株あたり利益):概ね右肩上がり
③営業利益率:10%以上が良い(平均は7%)
④自己資本比率:40%以上、理想は60%以上
⑤営業CF:毎年黒字で増加傾向。赤字はNG
⑥現金等:増えているか
⑦1株配当:安定しているか、増えているか
⑧配当性向:30〜50%が健全。70〜80%は危険
これに加えて、ROA5%以上とFCF(フリーキャッシュフロー)がプラスで、利回り5%以上も見ている。本当に手元にお金が残っているかを確かめるためだ。
では、INPEXをかけてみる。
4. かけた結果
| 項目 | INPEXの数字 | 判定 |
|---|---|---|
| ①売上 | 1.2兆(2008)→0.77兆(2020)→2.32兆(2022)→2.01兆(2025) | ✕ 右肩上がりでなく、上下が激しい |
| ②EPS | 133円(2012)→11円(2016)→−77円(2020)→365円(2022)→331円(2025) | ✕ 右肩上がりでなく、赤字の年もある |
| ③営業利益率 | 56.5%(2025年12月期) | ◎ 文句なし |
| ④自己資本比率 | 61.4% | ◎ 理想の水準 |
| ⑤営業CF | 2,386億〜7,881億円。過去10年すべて黒字 | ◯ 合格 |
| ⑥現金等 | 3,168億(2017)→1,684億(2025) | △ 減っている |
| ⑦1株配当 | 2020年に30円→24円の減配。以後は24円→112円で4.7倍 | △ 減配の実績あり |
| ⑧配当性向 | 28.9%(配当112円 ÷ 予想EPS387.2円) | ◯ 余裕がある |
◎がついたのは、稼ぐ力と財務だ。営業利益率56.5%、自己資本比率61.4%。ここは本当に強い。
✕がついたのは、①売上と②EPS。どちらも基準は「概ね右肩上がり」なのに、INPEXは行ったり来たりしている。つまり業績の安定性が弱点だった。
5. 配当の履歴には、落とし穴があった
⑦の配当を調べているとき、危うく間違えるところだった。
配当の履歴を見ると、こう並んでいる。
2014年3月期:3,609円
2015年3月期:18円
→ 見た目はとんでもない減配
でも、これは減配ではない。
2013年10月に、1株を400株に分割しているからだ。分割すると1株あたりの金額は小さくなるけれど、持っている株数が400倍になるので、受け取る総額は変わらない。
分割に合わせて計算し直すと、こうなる。
2015年3月期:18円
→ 減配どころか、少し増えている
株式分割は、配当の履歴を見るときのいちばんの落とし穴だと思う。数字だけ並べると、まったく逆の結論になる。
ただ、誤解のないように書いておくと、わたしは分割そのものは良い傾向だと思っている。
そこで株を細かく割って、少ない金額でも買えるようにする
→ つまり株価が上がったからこそ、分割する
INPEXは分割と同時に売買の単位も変えて、買うのに必要な金額を4分の1に下げている
株価が下がったから分割する、という会社はない。 分割は「買いにくくなった」ことの裏返しで、会社が個人にも買ってほしいと思っているサインでもある。
しかもわたしのように少しずつ買い足していく持ち方だと、単位が小さいほうが調整しやすい。だから分割のニュースは、素直にうれしい。
気をつけたいのは分割そのものではなく、過去の数字をそのまま比べてしまうことのほうだった。
そのうえで本当の減配を探すと、1回あった。
2020年12月期。30円から24円へ、2割の減配。 コロナで原油が暴落した年だ。そのあとは6年で24円→112円まで、4.7倍に増えている。
下がるときは下がる。でも、戻るときの勢いも強い。 これがこの会社の性格だと思う。
6. お金は、本当に残っているのか
もうひとつ、FCF(フリーキャッシュフロー)も見ておきたい。
稼いだお金から、設備などに使ったお金を引いて、手元に残る現金のことだ。ここがマイナスだと、配当を借金や貯金から出していることになる。
| 年 | フリーCF |
|---|---|
| 2020年 | −1,243億円 |
| 2023年 | +4,680億円 |
| 2024年 | +3,643億円 |
| 2025年 | +252億円 |
わたしの基準は「FCF利回りが5%以上、2%以下は注意」だ。時価総額は約4.4兆円なので、計算するとこうなる。
過去6年の平均で計算:約2,123億円 ÷ 4.4兆円 = 約4.8%(ほぼ基準どおり)
どちらで見るかで、まったく違う結論になる。
原油の会社なので、1年だけを切り取っても意味がない。かといって、直近が細っているのも事実だ。ここは判断が難しいところだった。
7. 数字は割安。それでも買わない理由
ここまで見ると、弱点は「業績の上下が激しいこと」に集約される。
そして株価の指標を見ると、むしろ割安に見える。
| 株価 | 3,499円 |
| 予想PER | 9.04倍(15倍が適正といわれる) |
| PBR | 0.86倍(1倍を下回っている) |
| 配当利回り | 約3.2%(配当112円で計算) |
| ROE | 8.2〜10%程度 |
| 年初来高値から | 4,955円(3月30日)から約3割安い |
PER9倍、PBR0.86倍、利回り3.2%。しかも高値から3割安い。
数字だけ見れば、買わない理由のほうが見つからない。
この形は、キオクシアのときに書いた話とそっくりだった。
波のある会社:PERが低い=利益がピークに近いサイン
→ 利益が大きいときほど、割り算の答えは小さくなる
PERは「株価 ÷ 1株あたり利益」だ。 利益が大きい年は、分母が大きくなるので、PERは自動的に低く出る。
INPEXの利益は原油の値段で決まる。いまは中東情勢で価格が上がった局面の数字だ。その利益で計算したPER9倍を「割安」と読んでいいのか、わたしには判断がつかない。
そして原油は、すでに2週間で2割下がっている。
これが、わたしが手を出せない理由だった。 ふわっと「割高な気がする」と思っていたのは、たぶんここだ。
8. それでも「いつかは」と思っている
否定的なことばかり書いたけれど、この会社は買いたくない、という話ではない。
配当性向は28.9%で、増やす余地がまだある
筆頭株主は日本政府(経済産業大臣の名義で約22%)。重要な決定に拒否権を持つ「黄金株」も政府が保有している
→ 日本が資源を持たない国である以上、この会社は必要とされ続ける
問題は会社ではなく、買うタイミングのほうだ。
わたしが持っている117銘柄は、業種を散らして少しずつ買い足していく形にしてある。当てにいく持ち方はしない。
INPEXも、原油が落ち着いて、利益が高くない年のPERで見られるようになったら、そのときは考えたい。利益がへこんだ年に、静かに買い足せる会社だと思っている。
ただ、見ているだけだと、たぶん忘れる。
だから単元未満株で5株だけ、買ってみようかなと思っている。5株なら約1万7,500円。もらえる配当は年に560円しかない。
でも持っていると、決算のたびに自分ごとになる。富士フイルムを10株だけ持っているのも、同じ理由だ。買い集めるためではなく、見続けるために持つ。
本格的に買うのは、そのあとでいい。
9. 次に見るときの、3つの条件
いちばんの収穫は、「なんとなく」が条件に変わったことだった。
「割高な気がする」で止めていたら、次に見るときも同じところで止まる。でもいまは、何が起きたら買うのかを書き出せる。
そのときのEPSで計算したPERを見る。利益が小さい年のPERが高く出ても、それが本当の姿
②その年でも、配当が維持されているとき
2020年は30円→24円に減った。次にへこんだとき、どうするかを見たい
③FCFが戻っているとき
2025年の252億円が、ならしてどのくらいに戻るか
次に見るときは、この3つだけ見ればいい。
「買わない」と言うだけなら、調べなくてもできた。調べたことで、買うときの条件のほうが書けるようになった。
10. まとめ
- INPEXが8月7日に上方修正・増配・自社株買いの3点セットを発表。通期の純利益予想を600億円引き上げて5,100億円(+29%)、年間配当を4円増やして112円、上限1,400億円(発行済の4.3%)の自社株買い。1〜6月の純利益2,631億円は上期として過去最高
- ただし原油(WTI)は7月24日の91ドル台から8月上旬に75ドル台へ、2週間で約2割下落。決算が良かった理由は①中東情勢での価格上昇 ②豪州LNGの堅調 ③想定為替の円安方向への見直しで、どれも過去3〜6か月の話。決算がいい=これから上がる、ではない
- 自分の8項目にかけた結果、◎は営業利益率56.5%と自己資本比率61.4%。稼ぐ力と体力は本当に強い
- ✕がついたのは①売上と②EPS。売上は0.77兆〜2.32兆で上下が激しく、2020年はEPSが−77円の赤字。つまり業績の安定性が弱点
- △は⑥現金等(3,168億→1,684億に減少)と⑦配当(2020年に30円→24円の減配あり)。ただしそのあと6年で24円→112円と4.7倍
- 配当の履歴には落とし穴があった。2013年10月の1株→400株の分割で、そのまま読むと大減配に見える。調整すると17.5円→18円で、むしろ増配だった
- ただし分割そのものは良い傾向だと思っている。株価が上がって買いにくくなったから割るわけで、下がって分割する会社はない。少しずつ買い足す持ち方には、単位が小さいほうが都合がいい。気をつけるのは分割ではなく、過去の数字をそのまま比べることのほう
- FCFは年によってまるで違う。2023年4,680億円→2025年252億円。FCF利回りは直近だけなら0.57%、6年平均なら約4.8%。どちらで見るかで結論が変わる
- 株価の指標はPER9.04倍、PBR0.86倍、配当利回り約3.2%、年初来高値から約3割安。数字だけなら割安に見える
- でも波のある会社は、PERが低いときが利益のピークに近いサイン(キオクシアのときと同じ形)。いまの利益は原油高の局面のもので、その原油はもう2割下がっている
- それでも「いつかは」と思っている。稼ぐ力も体力もあり、配当性向28.9%で増やす余地もある。筆頭株主は日本政府(経済産業大臣の名義で約22%)で、日本のエネルギーを支える国策の会社でもある
- 問題は会社ではなく、買うタイミングのほう。利益がへこんだ年に、静かに買い足せる会社だと思っている
- とはいえ見ているだけだと忘れるので、単元未満株で5株だけ買ってみようかなと思っている。約1万7,500円、配当は年560円。買い集めるためではなく、見続けるために持つ(富士フイルムを10株だけ持っているのと同じ理由)
- いちばんの収穫は、「なんとなく割高」が条件に変わったこと。次に見るときは3つだけ見ればいい。①原油が下がって利益がへこんだ年のPER ②その年でも配当を維持できるか ③FCFがどこまで戻るか
- 「買わない」と言うだけなら、調べなくてもできた。調べたことで、買うときの条件のほうが書けるようになった
・業績・キャッシュフロー・配当の推移:IRBANK「INPEX(1605)」
・株価と投資指標:SBI証券の銘柄情報(2026年8月7日終値時点)/株探「INPEXの業績・財務推移」
・株式分割:INPEX「株式分割および単元株式数の変更に関するお知らせ」(2013年5月10日)
・原油価格:OANDA「WTI原油見通し」(2026年8月4日)
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