富士フイルムが一時18%安。下がった理由が、わたしが買った理由そのものだった
おとといはヤマハ発が2割上がった話を書いた。今日は、その逆の話になる。
富士フイルムが、一時18%下がった。 わたしが持っている株だ。
含み益はほとんど消えて、買った値段のあたりまで戻ってきた。
ただ、調べていくうちに、思っていたのと違う話が出てきた。利益を押し下げたものが、わたしがこの会社を面白いと思った理由そのものだった。
1. 持っている株が、一時18%下がった
まず、わたしの持ち分から。
前日の終値は3,878円だった。つまり前日まで6,610円あった含み益が、310円になった。
1日で6,300円ぶん。ほぼ、買った値段まで戻ってきたことになる。
株価は場中に一時3,179円まで下げた(−699円、−18%)。2か月ぶりの安値になる。
正直に書くと、金額としては小さい。評価額32,480円は、わたしの総資産5,831万円の0.06%にすぎない。この日の目減り6,300円も、総資産では0.01%だ。
おとといのヤマハ発の記事で「1銘柄が2割上がっても総資産は0.05%しか動かない」と書いた。下がるときも同じだった。当たり前だけれど、実際に自分の数字で見ると納得が違う。
2. そもそも、なぜ持っているのか
先に白状しておくと、富士フイルムは高配当株ではない。
わたしの日本株は高配当株を業種で散らした100銘柄ほどが中心で、配当をもらい続けるために持っている。富士フイルムは、そこには当てはまらない。
これは「好き枠」だ。
時代に合わせて姿を変えてきた会社という印象がある
→ 配当というより、この会社が好きだから持っている
この「姿を変えてきた」というところを、書きながら少し調べ直してみた。思っていたより正確だった。
コダックと争って、世界一の写真フィルムメーカーになる
2000年代 デジタル化で、フィルム市場が年に20〜30%ずつ縮小
2006年 社名を「富士写真フイルム」から「富士フイルム」へ。持株会社を作り「第二の創業」
2008年 本業が消えていく最中に過去最高益を達成
その後 化粧品、医薬品、医療機器、半導体材料へ。製薬会社の富山化学工業も完全子会社に(2018年)
いま バイオCDMOに累計1兆円超を投じている
ひとつ、自分の思い込みを直しておきたい。わたしはなんとなく「カメラの会社」だと思っていたけれど、始まりはカメラではなくフィルムだった。
そして、なくなりかけたのもフィルムだ。デジカメが広まって、市場が年に2割から3割ずつ消えていった。同じ時期に世界一を争っていたコダックは、2012年に経営破綻している。
同じ商売をしていて、片方は消えて、片方は残った。
しかも富士フイルムは、社名から「写真」を外して、「フイルム」のほうを残した。フィルムで積み上げた技術を、化粧品や医薬品に移していったからだ。
「時代に合わせて姿を変えてきた」というより、姿を変えなければ消えていた、というほうが近い。
そして、調べていて手が止まった数字があった。
それが2000年を境に、年に20〜30%ずつ減っていった
→ 10年で10分の1に
売上の6割、利益の3分の2。 会社の中心が、まるごと消えたということだ。
このとき舵を取っていたのが、2000年に社長、2003年にCEOになった古森重隆氏だった。2004年に「VISION75」という中期経営計画を出して、そこから化粧品や医薬品への転換が本格的に始まっている。
そして、わたしがいちばん惹かれたのは、そのあとだ。
この会社は、生き残るだけで満足しなかった。
普通なら「潰れずに済んだ」で十分だと思う。売上の6割が消えて、それでも会社が残った。それだけでも相当なことだ。
でも富士フイルムは、そこからもう一度大きくなりにいった。既存の事業を見直し、新しい事業に投資して、2008年には過去最高益を達成している。
本業が消えていく、その最中にだ。
古森氏は2014年に「一流企業であり続けるために」という題で語っていて、2017年の対談ではこう言っている。
経営者にとって最も大事なのは、会社を生き延びさせることです。私は富士フイルムを一流企業として存続させなければならないと考えてきたんです。
生き延びる、だけではない。「一流企業として」というところに、ぐっときた。
本業が消えかけた会社の社長が言う言葉として、これはかなり強い。潰れないことを目標にしていない。
いま1兆円をバイオCDMOに賭けているのも、その延長線上にあると思っている。そこが、かっこいい。
ヤマハ発の記事で「わたしはこの会社が好きだ」と書いた。スズキもそうだ。
ただ、その2つは少し違う。配当も良くて、なおかつ好きな会社だった。高配当株の枠に入っていて、そのうえで好きでもある。
富士フイルムは、配当では届かない。好きという理由だけで持っている。
ただし、好きだからといって大きく買うことはしない。だから10株しか持っていない。3万円ぶんだ。
好きな会社に、生活が揺れる金額は置かない。 そう決めている。だから今日これだけ下がっても、平気でいられた。
3. なぜ、これだけ下がったのか
理由は決算だった。8月6日の取引終了後に発表されている。
| 実績 | 前年同期比 | |
|---|---|---|
| 売上収益 | 8,265億円 | +10.3% |
| 税引き前利益 | 521億円 | −27.6% |
| 最終利益 | 374億円 | −30.4% |
| 営業利益率 | 6.2% | 前年は10.0% |
増収なのに、大幅な減益。 そして市場が思っていたより悪かった。だから「失望売り」になった。
ここで大事なのは、会社全体が不調だったわけではないということだ。
- エレクトロニクス(半導体材料、データテープ)とイメージング(カメラ)は増収増益
- それをヘルスケアとビジネスイノベーションの落ち込みが打ち消した
つまり、足を引っぱった場所がはっきりしている決算だった。
4. 下がった理由が、わたしが買った理由だった
そして、その足を引っぱった場所に、見覚えがあった。
さらに、当局の査察に対応するため、中型の設備を計画外に停止した
ビジネスイノベーション事業でも、基幹システムを入れ替える初期費用がかかった
バイオCDMO。 わたしがこの会社を面白いと思った、まさにその事業だ。
バイオCDMOというのは、製薬会社に代わって、バイオ医薬品をつくる工場のことだ。富士フイルムはここに累計で1兆円を超える投資をしていて、「バイオ医薬のTSMCになる」とまで言っている。デンマークと北米に、2万リットルのタンクを何十基も並べる規模だ。
つまり、いままさに工場を建てている最中ということになる。
売上はあとから来る(動き出して、注文が入ってから)
→ その間は、利益が減って見える
先に払っているだけなら、いずれ戻ってくる。問題は、それが本当に「だけ」なのかというところだ。
今回はもうひとつ、気になる話も混じっていた。当局の査察に対応するため、設備を計画外に停止したというものだ。
これは「予定どおりの先行投資」とは違う。予定していなかったことが起きている。
| 減った理由 | 性質 | 見方 |
|---|---|---|
| 大型設備の立ち上げ費用が先行 | 想定内 | 予定どおり先にお金が出ただけ。時間の問題 |
| 査察対応で計画外に停止 | 想定外 | 予定していなかったことが起きた。ここは見ておきたい |
わたしが買ったのは「これから大きくする事業」だった。 大きくしている最中にお金が出ていくのは、当たり前のことだ。そこは、驚いていない。
引っかかっているのは、査察の対応のほうだ。工場が止まれば、そのぶん作れない。これが響いているのだとしたら、それは予想していなかった話になる。
そして考えてみると、そこが今回の失望の正体かもしれない。
先行費用は、前から分かっていたことだ。 1兆円を投じると会社が公言している以上、専門家の予想にはもう入っている。それだけなら、予想を大きく外さない。
つまり、こういうことになる。
外れたということは、予想に入っていなかった何かがあった
→ 報道で「計画外」と書かれているのは、査察対応の停止だけだった
もうひとつ、気になる数字がある。
会社は通期の売上高を上方修正している(3兆4,700億円→3兆5,600億円)。半導体材料が好調だからだ。売れていないわけではない。
一方で、通期の営業利益の計画3,750億円に対して、1Qの進捗率は13.9%だった。1年を4つに割れば25%前後が目安なので、かなり出遅れている。
残りの3四半期で、86%を稼ぐ計算になる。市場が心配したのは、停止でいくら失ったかという金額よりも、この遅れを本当に取り返せるのかというところだったのかもしれない。
ただし、ここから先は分からない。査察の停止でいくら失ったのか、先行費用がいくらで停止分がいくらなのか、金額の内訳は公表されていない。「たぶん停止が効いている」までは言えても、「どれくらい効いている」は言えない。
分からないことは、分からないままにしておく。 そのうえで、次の決算でここを見る。
5. 同じ日に出た、もうひとつの発表
決算と同じ日に、もうひとつ発表があった。ビジネスイノベーション事業(複合機)の、パーシャルスピンオフを含む検討を始めるというものだ。
こちらには「期待の声」が出ている。
パーシャル(部分的)スピンオフは、親会社が一部の株を持ったまま切り出すやり方
→ 富士フイルムの場合は複合機の事業が対象。実施は2〜3年後をめど
なぜ期待されるのか。理由はこういうことだと思う。
いまの富士フイルムは、性格の違う事業を1つの会社の中に抱えている。 成長にお金がかかる医療と、安定して稼ぐ複合機。片方の投資が、もう片方の利益を食べているように見えてしまう。まさに今回の決算がそうだった。
分けると、それぞれが自分の数字で評価されるようになる。今回のような「全部まとめて減益」という見え方が、しにくくなる。
ただし、まだ「検討を始める」という段階だ。上場する市場も、税金の条件も、これから決まる。2〜3年先の話でもある。
悪いニュースと期待のニュースが同じ日に出て、悪いほうが勝った。 今日はそういう日だった。
6. 買い増しを考えたときに、自分に聞いたこと
正直に書くと、買い増そうかなと思った。
いい会社だと思っているし、未来もあると思っている。しかも買った値段まで戻ってきた。心が動かないほうが不自然だった。
そこで、自分に3つ聞いてみた。
②今日の決算で、買った理由は変わったのか
③下がったまま何年も戻らなくても、平気な金額か
①は、いちばん危ないところだと思う。下がった直後は、値段が理由に見えてしまう。でもわたしが買ったのは、値段ではなくてバイオCDMOと、この会社の変わり続けてきた姿だった。そこは今日も変わっていない。
②は、半分変わった。先行費用は想定の内側だ。でも査察対応で設備を止めたというのは、想定していなかった。ここは次の決算を見たい。
③は、10株が20株になっても3万円ぶん増えるだけなので、問題ない。もともと生活が揺れない額しか置いていないからだ。
これは投資というより、応援に近い持ち方だと思っている。だから金額を小さくしてある。
キオクシアのときは買わなかった。あのときは「上がるか下がるか、そもそも見当がつかなかったから」だった。今回も見当はつかない。違うのは、見当がつかなくてもいい金額に収めてあるということだけだ。
当てないと報われない持ち方はしない。 その線は、今日も動かさない。
7. まとめ
- 持っている富士フイルムが一時18%安。場中は3,179円(−699円)まで下げて2か月ぶりの安値をつけ、終値は3,248円(−630円、−16.25%)だった
- わたしの持ち分は10株、取得単価3,217円。前日まで6,610円あった含み益が310円になり、ほぼ買った値段まで戻った
- ただし評価額32,480円は総資産5,831万円の0.06%で、この日の目減り6,300円は0.01%。おとといのヤマハ発と同じで、分散は上げも下げも薄める
- 下げた理由は決算。売上収益8,265億円(+10.3%)と伸びたのに、最終利益は374億円(−30.4%)。営業利益率は10.0%→6.2%。市場の予想も下回った
- ただし会社全体が不調なわけではない。エレクトロニクスとイメージングは増収増益で、ヘルスケアとビジネスイノベーションが打ち消した
- 利益を押し下げた直接の理由は、アメリカのバイオCDMOの新しい大型設備の立ち上げ費用が先行したこと。それはわたしがこの会社を面白いと思った、まさにその事業だった
- バイオCDMOは累計1兆円超の投資をしている事業で、「バイオ医薬のTSMCになる」という構想。工場を建てている最中は、お金が先に出て売上はあとから来る
- ただし査察対応で設備を計画外に停止した件は、先行投資とは別の話
- 先行費用は前から分かっていたことなので、それだけなら予想は外れない。外れたということは予想に入っていなかった何かがあったはずで、報道で「計画外」と書かれているのは査察対応の停止だけだった
- 会社は通期の売上高を上方修正している(3兆4,700億円→3兆5,600億円、半導体材料が好調)。売れていないわけではない
- ただし通期の営業利益計画3,750億円に対して1Qの進捗率は13.9%。目安の25%に遠く、残り3四半期で86%を稼ぐ計算になる。市場が見たのは金額よりもこの遅れかもしれない
- 金額の内訳は公表されていないので、「たぶん停止が効いている」までは言えても「どれくらい効いている」は言えない。ここは次の決算を見たい
- 同じ日に複合機事業のパーシャルスピンオフの検討開始も発表。性格の違う事業を分けると、それぞれが自分の数字で評価されるようになる。ただし実施は2〜3年後をめどで、まだ検討段階
- 買い増しを考えて、自分に3つ聞いた。①「安いから」か「この会社だから」か ②今日の決算で買った理由は変わったか ③戻らなくても平気な金額か
- そもそも富士フイルムは高配当株ではなく「好き枠」。だから10株・3万円ぶんしか持っていない。好きな会社に、生活が揺れる金額は置かない
・決算の数字と減益の理由:株探「富士フイルムホールディングス、4-6月期(1Q)税引き前は28%減益で着地」/みんかぶ「富士フイルムは3日ぶり急反落、バイオCDMOの費用先行し4〜6月最終益30%減」
・スピンオフ:日本経済新聞「富士フイルムHD、複合機事業の富士フイルムBIを分離・上場へ」
・通期の売上高上方修正:時事通信「富士フイルムHD、通期売上高を上方修正=半導体材料が好調」
・バイオCDMOへの投資:日本経済新聞「富士フイルム『バイオ医薬のTSMCに』 1兆円投資の大勝負」
・会社の歴史:富士フイルムホールディングス「90周年特設ページ(歴史)」/富士フイルム「富士フイルムの歴史」
・写真事業の縮小と事業転換:日本経済新聞「主力市場が消えたら 富士フイルム古森氏の実践と理論」/DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー「富士フイルムはいかに本業消失の危機を乗り越え、業態転換を遂げたか」
・古森氏の言葉:東洋経済オンライン「勝ちにこだわって生き延びた 富士フイルム古森会長が楠木建氏に激白!」(週刊東洋経済編集部、2017年2月1日)
・2008年の過去最高益:DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー「一流企業であり続けるために」(古森重隆、2014年6月号)
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