アメリカの若者は賭けに出て、日本の若者は何もしない。理由は同じかもしれない
「デートや飲酒を控える一方、金融リスクには好戦的」という記事を読んだ。アメリカのZ世代の話だ。
車も運転しない。お酒も飲まない。デートもしない。なのに、投資では一発逆転を狙う。
ちぐはぐに見えたので、背景を調べてみた。そうしたら、わたしが日本の20代について書いた記事と、思わぬところでつながった。
症状は正反対なのに、根っこが同じかもしれない、という話だ。
1. アメリカの若者に、何が起きているのか
まず、記事に書かれていたことから。
ところで、YOLOという言葉が気になったので調べてみた。
2011年、ラッパーのドレイクの曲で広まったスラング
もとの意味は「いまを楽しもう。先のことを心配しすぎるな」という前向きなもの
もともとは、投資の言葉ではなかった。
それが変わったのは、ネットの投資掲示板でだった。
たとえば「資金の95%を1つの暗号資産に入れた」といった投稿につけられる
→ 大きく勝つことを信じて、大きく負けることも受け入れるという姿勢
「人生は一度きり」が、「だから全額賭ける」の意味になった。
言葉としては同じでも、中身がずいぶん変わっていると思う。
背景として挙げられていたのは、こんな経験だった。
- 世界金融危機のとき、親が家と資産を失うのを見た
- コロナ禍のさなかに、社会へ出た
- 家賃は上がり続け、賃金は止まったまま
そして記事は、この背景を「経済的虚無主義」と呼んでいた。
2. 「経済的虚無主義」の中身は、思っていたのと違った
わたしが最初に引っかかったのは、この一文だった。
まっとうな長期の資産形成が、もう機能しないと気づいたときの閉塞感
長期投資はもうダメだ、という話だろうか。 そう読めてしまうけれど、中身を追うと違った。
この道筋が、家賃の上昇と賃金の停滞で通れなくなった
→ つまり投資に回すお金そのものが、作れない
「長期投資は儲からない」ではなく、「長期投資に回すお金がない」。 そこが虚無主義の中身だった。
そして、ここからが皮肉になる。
彼らが大人になってからの10年、S&P500は年平均15%近くで伸びていた。 30年でならすと10%ほどなので、とびきり良い10年にあたる。つまり彼らは、強気相場しか見ていない世代でもある。
でも、そこに乗せるお金がなかった(家賃と物価に持っていかれる)
→ 少しずつ積み立てても、家には届かない
→ だったら少ないお金を、一発で増やすしかない
彼らが手放した「まっとうな長期投資」こそが、彼らの人生でいちばん報われた方法だったかもしれない。
ここで、当然の疑問が出てくる。少しずつでも積み立てていれば、よかったのではないか。
彼らが諦めたのは、住宅を持つという将来設計だった。
しかもその間も、家賃と物価は上がり続ける
→ 間に合わないと感じたとき、人は「時間をかけない方法」を探す
積み立てが効かないのではなく、間に合わないと思われている。 そこが違いだった。
問題は方法ではなく、入口だった。
3. では、誰が儲かっているのか
ここが、いちばん気になったところだ。
若者がミーム株やオプションに向かうと、誰かが儲かる。記事にも「SNSとアプリが投資をゲーム化し、過剰な取引を誘っている」という指摘があった。
その仕組みを調べて、図にしてみた。
ひとつ、誤解しやすいところがある。板に出ている値段より高く買わされる、という話ではない。 むしろ、少し安く買えることのほうが多い。ただ、売値と買値の差そのものは残っていて、その大半は業者の取り分になる。
取引が多いほど、証券会社の取り分は増える。
規模も出ている。2021年、アメリカの大手12社が受け取ったPFOFは38億ドルだった。払っている側では、シタデル・セキュリティーズが2020〜21年で26億ドル、サスケハナが15億ドル、バーチュが6億5,400万ドルを出している。
そして、ここが肝心なところだ。
→ だから株式の注文より、高いお金が支払われる
→ つまり若者がオプションに向かうほど、証券会社の取り分は増える
手数料が1回1,000円だったころは、そう何度も押せなかった。 いまは、押す痛みがゼロになっている。ブレーキだけが、外れている。
「若者が勝手にギャンブルをしている」という話ではない。 そうしたほうが儲かる人たちが、そうなるように作っているという面がある。
4. EUは禁止した。アメリカは、していない
この仕組みへの向き合い方が、地域でまったく違う。
| PFOFの扱い | |
|---|---|
| EU | 禁止。2024年3月28日に発効し、猶予も2026年6月末で終了 |
| アメリカ | 禁止していない。開示を強くする方向で、2026年に報告の範囲が広がる |
| 日本 | 支払いの例は確認できない。でも禁止もされていない |
日本のところが、思っていたのと違った。
業者が証券会社にお金を払う形は、確認できない。でも禁止されているわけでもない。2021年に金融庁で議論されたときは「極めて慎重な意見が多い」としつつ、結論は保留のままだった。いまも議論は続いている。
ただし、注文を取引所に出さず、業者が相手方になる形そのものは、日本にもすでにある。ネット証券が持つ「ダークプール」がそれだ。こちらには「取引所より不利な値段にはしない」というルールがある。
広がっていない理由は、環境のほうが大きい。アメリカは取引の場が50か所以上に分かれているのに対し、日本は東証のシェアが圧倒的で、この仕組みが成り立ちにくい。
制度が守ってくれているというより、条件が違うだけ。 つまりいつか来てもおかしくない、ということでもある。
5. 日本の20代は、正反対だった
ここで、7月に書いた記事を思い出した。
日本の20代の話だ。
| アメリカのZ世代 | 日本の20代 | |
|---|---|---|
| 行動 | 他の世代よりリスクを取る | 8割がNISAを使っていない |
| 理由 | 一発逆転しか道がない | 買わない理由の1位が「興味がない」 |
| 症状 | 賭けに出る | 何もしない |
まるで逆に見える。 でも、日本のほうの数字も並べると、少し違って見えてくる。
- 20代の単身世帯の金融資産は平均255万円。ただし33.2%はゼロ
- 奨学金の返済は毎月平均16,880円、期間は平均14.7年
回すお金がない、という点は同じだった。
6. 症状は逆でも、前提は同じかもしれない
並べてみて、思ったことがある。
アメリカ:だったら一発に賭けるしかない
日本:だったら関心が向かない
やってもダメだと思えば、賭けに出るか、やめるかのどちらかになる。
日本の「興味がない」は、興味の話ではないのかもしれない。知ったうえで、関心が向いていないという数字も出ていた(NISAの認知度は77.9%まで来ている)。
期待していないから、目が向かない。 そう考えると、アメリカと地続きに見えてくる。
7. 1%しか勝てない世界の、残りの99%
では、一発逆転はどのくらい当たるのか。データがある。
| 調査 | 結果 |
|---|---|
| ブラジル 300日以上続けた人を追跡 |
97%が損失。利益を出せたのは3% 最低賃金を超えて稼げたのは1.1% 銀行員の初任給を超えたのは0.5% |
| 台湾 1992〜2006年、取引所の全記録 |
手数料を引いたあとに続けて利益を出せたのは1%未満 年に約45万人のうち、およそ4,000人 |
1万人が挑んで、勝つのは100人。
そして、ここを見落としたくない。
つまり勝った人の利益は、負けた人が払ったものでできている
→ 勝者は、9,900人の上に立っている
成功談は表に出るけれど、9,900人ぶんの記録は出てこない。 だから「意外といけそう」に見えてしまう。
8. 誰かを負かさなくていい道がある
ここが、この記事でいちばん書きたかったところだ。
インデックスや、分散した高配当株は、誰かを負かす必要がない。
持ち続ける:会社が稼いだぶんを、持っている人みんなで分ける
→ 誰かを負かして取る形ではない
もちろん、リスクがないわけではない。そこは正直に書いておきたい。
自分の日本株を計算した記事では、117銘柄の年率リスクは15.0%だった。1年で1割5分くらいは、上にも下にも動く。1銘柄ずつだと平均27.1%あったので、分散で12.1ポイント落としてこの数字になる。
それでも、1%しか勝てない世界とは、別の話だ。
9. わたしは、5万円から始めた
わたしが投資を始めたのは2018年、26歳のとき。きっかけは友人の何気ない一言で、手元にあった5万円から始めた。
まとまったお金があったわけでも、詳しかったわけでもない。何も分からないまま、5万円だけ入れた。
そこから8年で、資産は5,831万円になった。一発も当てていない。 当てられないから、117銘柄に散らして、オルカンとS&P500を持っているだけだ。
積み上げるのは、時間はかかるけれど、みんなで通れる道
→ わたしにもできた。だから、多くの人にできると思っている
時間はかかる。8年かかった。
でも、1万人のうち9,900人が負ける道を選ばなくても、資産は作れる。わたしが書いているのは、ずっとその話だ。
「まじめに積み上げても報われない」と思っている人に、そんなことはないと、数字で言いたい。
10. まとめ
- アメリカのZ世代は、運転もデートも飲酒も控えめなのに、金融リスクには好戦的。合言葉は「YOLO(人生は一度きり)」で、ミーム株・オプション・暗号資産に他のどの世代より積極的
- 背景は「経済的虚無主義」。世界金融危機で親が家と資産を失うのを見て、コロナ禍に社会へ出た世代で、家賃は上がり続け、賃金は止まったまま
- ただし「まっとうな長期の資産形成が機能しない」の中身は、長期投資がダメという話ではなかった。働く→貯める→家を買うという道筋が通れなくなった、つまり投資に回すお金が作れないという話だった
- 皮肉なことに、彼らが大人になってからの10年、S&P500は年平均15%近くで伸びていた(30年でならすと10%ほどなので、とびきり良い10年にあたる)。相場は良かったのに、そこに乗せるお金がなかった
- 「少しずつでも積み立てればよかったのでは」という疑問は当然出る。でも彼らが諦めたのは住宅を持つという将来設計のほうだった。月に数千円では家が買えるのは何十年も先で、その間も家賃と物価は上がり続ける。積み立てが効かないのではなく、間に合わないと思われている。問題は方法ではなく、入口だった
- 誰が儲かっているのかも調べた。PFOF(注文フローに対する支払い)で、証券会社は個人の注文情報を大手業者に流して対価を受け取る。だから手数料をゼロにできる。2021年、米大手12社が受け取ったのは38億ドル
- しかもオプションのほうが、株式より高いお金が支払われる(売値と買値の差が大きく、注文の経済的価値が高いため)。若者が危ないほうに向かうほど、証券会社の取り分は増える
- 手数料が1回1,000円だったころは、そう何度も押せなかった。いまは押す痛みがゼロで、ブレーキだけが外れている
- 扱いは地域でまったく違う。EUは禁止(2024年3月発効、猶予も2026年6月末で終了)、アメリカは禁止せず開示を強化、日本は業者への支払いの例が確認できないが、禁止もされていない
- ただし注文を取引所に出さず、業者が相手方になる形そのものは日本にもある(ネット証券のダークプール)。こちらには「取引所より不利な値段にはしない」というルールがある
- 2021年の金融庁の議論では「極めて慎重な意見が多い」「ただちに禁止すべきではない」「最良執行が定着していないなかで許容すべきではない」と割れ、保留のまま。2025年9月から新しい会議で議論が続いている
- 日本で広がっていないのは、アメリカは取引の場が50か所以上に分かれているのに対し日本は東証のシェアが圧倒的という事情も大きい。制度が守っているというより、条件が違うだけ
- 7月に書いた記事の日本の20代とは、症状が正反対。アメリカは賭けに出て、日本は8割がNISAを使っていない(買わない理由の1位は「興味がない」)
- でも回すお金がない点は同じだった。20代単身世帯の金融資産は平均255万円で、33.2%はゼロ。奨学金の返済は毎月平均16,880円、期間は平均14.7年
- つまり同じ前提から、逆の答えが出ている。「まじめに積み上げても報われる気がしない」→ アメリカは賭ける、日本は関心が向かない
- 一発逆転の勝率もデータがある。ブラジルでは300日以上続けた人の97%が損失、利益は3%、最低賃金を超えたのは1.1%。台湾では手数料後に継続して利益を出せたのは1%未満(年45万人中およそ4,000人)
- そして勝った人の利益は、負けた人が払ったもの。1万人が挑んで勝つ100人は、9,900人の上に立っている。SNSに出てくるのは、その100人だけ
- 一方でインデックスや分散した高配当株は、誰かを負かす必要がない。会社が稼いだぶんをみんなで分ける形で、誰かを負かして取る構造ではない
- リスクがないわけではない。117銘柄の年率リスクは15.0%で、1年に1割5分は上下する。それでも1%しか勝てない世界とは別の話
- わたしは2018年、26歳のときに5万円から始めた。まとまったお金も知識もなかった。それでも8年で5,831万円になった。一発も当てていない
- 一発逆転は1%しか通れない道。積み上げるのは時間はかかるけれど、みんなで通れる道。わたしにもできたので、多くの人にできると思っている
・PFOFの仕組みと規模:野村総合研究所「米オンライン証券のビジネスモデルPFOFが改めて注目を集める」/米議会調査局「Payment for Order Flow (PFOF) and Broker-Dealer Regulation」
・EUの禁止とアメリカの対応:The Industry Spread「EU's PFOF ban hits its June 30 cliff as the US keeps it legal」
・日本での議論:金融庁「最良執行のあり方等に関するタスクフォース 報告書」(2021年5月)/金融庁「市場制度ワーキング・グループ」
・デイトレードの勝率:Chague, De-Losso, Giovannetti「Day Trading for a Living?」/Barber, Lee, Liu, Odean「The Cross-Section of Speculator Skill: Evidence from Day Trading」
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