インデックスは、値段を見ずに買う。それで損はしていないのか、スペースXで確かめた
先に、言葉を2つだけ。指数(インデックス)は、「どの会社を、どの割合で持つか」を決めた表のことだ。指数に連動するファンドは、その表のとおりに株を持つと約束した投資信託。オルカンも、そのひとつだ。表の割合が変われば、ファンドは約束どおり、株を買い足したり売ったりする。
あした9月21日から、ナスダック100(アメリカのナスダック市場の大きな会社100社の指数)の中で、6月に上場したばかりのロケットの会社、スペースXの割合が1.28%から2.82%へ、2倍以上になる。この指数に連動するファンドは、割合を合わせるために、9月18日の取引の終わりに、まとめてスペースX株を買う必要があった。証券会社の試算では、その額は2兆円を超える。そしてその日、株価は下がった。ニュースを見て、こう思った人もいるはずだ。
🤔「そもそも、なんで割合が急に2倍になるの?」
😤「値段を見ないで買うなら、インデックスって損じゃない?」
🏠「オルカンには関係ある話?」
わたしは、ナスダック100に連動するファンドを持っていない。でも、積み立てているオルカン(全世界の株に分散する投資信託)は、まったく同じ仕組みで動いている。指数をつくっている会社が「この会社を、この割合で」と決めたら、ファンドは値段が高くても安くても、その日に買う。インデックスのファンドは、値段を選べない。
結論から言うと、値段を選べないせいで、ファンドの成績は少しだけ削られている。高くなったあとで買い、安くなったあとで売ることになるからだ。1990〜2005年のアメリカの研究では、S&P500(アメリカの大きな会社500社の指数)のファンドで、年0.2%台と見積もられていた。ただ、もとになる値上がりは、2010年代にはずっと小さくなっている。だからわたしは、値段を選べないことを知ったうえで、オルカンでは選ばないほうを続ける。順番に見ていく。
1. 9月18日に何が起きたか
そして、9月18日の結果がこれだ。
売り買いされた株の数(出来高) 3億3,500万株。直前1か月の平均(約7,800万株)の4.3倍
売り買いの量は、ふだんの4倍以上。指数のファンドの買いは、たしかに入っている。それでも値段は下がった。買った人と同じだけ、売った人がいた、ということだ。
では、ファンドが買う前に、株は先に上がっていたのか。「ファンドが大量に買う」と分かれば、先に買っておく人が出てくるはずだ。市場全体が上がっただけのぶんと区別するために、同じ期間のナスダック100全体(QQQ)と見比べる。
早い時点から数えると、スペースXは市場全体より約3%余分に上がっていた。遅い時点から数えると、差はほとんどない。つまり、ファンドが「先に上がったあとの値段で買わされた」ぶんは、多く見ても3%ほどだ。
1つ目の声、「なんで下がるの?」への答えは、わたしには分からない。分かるのは、2兆円の買いが来ると全員が知っていた日に、株は上がらなかった、という事実だけだ。
2. なぜ、割合が急に2倍になるのか
2つ目の声。指数の中の割合は、会社の大きさ(株の値段 × 株の数。時価総額という)で決まる。ただし、市場で実際に売り買いできる株が少ない会社は、そのぶん小さく数える。創業者や社員が持っていて、売ることを禁じられている株が多いうちは、割合も小さいままだ。
スペースXが6月に上場した(株を、市場で誰でも買えるようにした)とき、市場に出ていた株は全体の5%ほど。残りには、上場から一定の期間は売れない約束(ロックアップ)がかかっていた。その約束が8月に2回解けて、12億株以上が売り買いできるようになっている。1回目の解除のことは、8月15日の記事で書いた。ナスダック100は3か月に1度、割合を計算し直す。8月に増えたぶんが、9月の見直しで入った。
売り買いできる株が増えたので、指数の中の割合も増える。会社が大きくなったわけでも、業績が良くなったわけでもない。数え方のルールどおりに、割合が増えただけだ。
10月の終わりから11月にかけて、さらに多くの株の約束が解ける予定になっている。解ければ、同じルールで、割合がまた計算し直される。
3. 指数のファンドが買った日、3回の記録
わたしが見てきた2つの指数(オルカンが連動するMSCI社の指数と、ナスダック100)で、スペースXが入ったり、割合が増えたりしたのは、今回で3回目だ。3回とも、ファンドが買うのは「切り替わる前の日の、取引の終わり」。その日と次の日に、スペースX株が前の日よりどれだけ動いたかを見る。
買った日は、+0.2%、−1.0%、−1.4%。大きな買いが入った日に、目立って上がった日は1回もない。次の日は+7.2%と−6.8%で、向きがばらばらだ。
「指数のファンドが買う日だから上がる」は、この3回では起きていない。8月15日の記事では、逆に「大量の売りが出る」と警戒された日に、株は上がっていた。
4. 「高いところで買わされるなら、損じゃない?」
3つ目の声。これは、学者が昔から調べてきた問いだ。
指数に入ることが発表されると、「ファンドが必ず買う」と分かっているので、先に買っておく人が出てくる。それで、ファンドが買う日までに株が上がってしまう。3章で見たのは買った日の1日だけだが、研究が測ったのは、発表から切り替わる日までの全部だ。ファンドは上がったあとの値段で買う。指数から外れる会社は、逆に下がったあとの値段で売る。この「高く買って安く売る」ぶんは、信託報酬(ファンドに毎年払う手数料)には出てこない。ファンドの成績が、そのぶん少し下がるだけだ。だから見えないコストと呼ばれる。
1990〜2005年のアメリカ。S&P500に入ると発表された会社は、切り替わる日までに平均8.8%上がり、外れる会社は15.1%下がっていた。入れ替わる会社は500社のうちの一部なので、指数全体にならすと、ファンドが払っている見えないコストは、少なく見積もって年0.21〜0.28%
同じことを1980〜2020年で調べ直した。S&P500に入る会社の値上がりは、1990年代の平均7.4%から、2010年代には1%未満に。外れる会社の値下がりも、ほぼゼロになった。論文の題は「消えていく指数効果」
つまり、コストはあった。でも、2010年代には、もとになる値上がりがずっと小さくなっていた。②の論文は、理由をおもに2つ挙げている。
ひとつ目。ファンドの買いを、待ちかまえて売る人が増えた。 指数のファンドが「この日の終わりに、これだけ買う」ことは、前もって公表される。それなら、その日に合わせて売る株を用意しておけば、確実に買い手がいる。証券会社や大きな投資家がこれをやるようになった。買いと同じだけ売りが出てくるので、値段が跳ね上がらなくなった。9月18日のスペースXも、売り買いの量はふだんの4倍あったのに、値段は上がっていない。
ふたつ目。別の指数からの「引っ越し」が増えた。 S&P500に新しく入る会社の多くは、その前に、中くらいの会社の指数(S&P中型株400)に入っている。こちらの指数にも、連動するファンドがある。会社がS&P500へ引っ越すと、中型株のファンドはその株を売り、S&P500のファンドは買う。売りと買いが同じ日に出るので、値段への影響が打ち消し合う。1990年代は、どの指数にも入っていなかった会社がいきなりS&P500に入ることが多く、買いだけが出ていた。
スペースXの今回は、1章で見たとおり、先に上がっていたぶんは多く見て3%ほど。1990年代の8.8%と比べると、小さい。
気をつけたいのは、年0.2%台という①の数字が、1990〜2005年のアメリカのS&P500の話だということ。いまのオルカンの数字ではない。いまのオルカンでいくらかを測った研究は、わたしは見つけられなかった。ただ、当時の年0.2%台は、いまのS&P500の投資信託の信託報酬(年0.09%ほど)より大きい。見えないコストのほうが、見えるコストより大きかった時代があったことになる。
それでも「損」かどうかは、何と比べるかで決まる。値段を選ぼうとすれば、選ぶための手間と、選び間違いがついてくる。世界中の会社の値段が高いか安いかを、毎回見きわめることは、わたしにはできない。
5. オルカンでも、同じことが起きる
4つ目の声。オルカンが連動する指数(MSCIという会社がつくる、全世界の株の指数)には、スペースXは6月29日に入っている。8月5日の記事で「わたしもちょっとだけ株主です」と書いたとおりだ。割合は0.1〜0.2%程度とみられている。オルカンそのものの細かい内訳は月に1度しか公表されないので、同じ指数に連動するアメリカの上場投資信託(ETF)で確かめると、上位25社にも入っていなかった(25番目が0.44%)。オルカン1,000万円あたり、1万〜2万円ぶんにあたる。
MSCIの指数は、2月、5月、8月、11月に定期的に見直される。8月に解けたぶんが、8月の見直しでもう入ったのか、11月になるのかは、わたしは確認できていない。どちらにしても、決めるのはMSCIで、オルカンはそれに合わせる。
わたしは、その日がいつかを調べて先回りすることはしない。アメリカの個別株は1株も持っていないし、オルカンの中の0.1〜0.2%の話だ。
値段がいくらでも買う、は弱点に見える。でも「高いから買わない」を始めたら、それはもう、誰かが値段を判断するファンドだ。わたしがオルカンに払っている0.05775%には、その判断の代金は入っていない
信託報酬だけがコストではない。年0.2%台と測られた時代もあった。もとになる値上がりは小さくなっているけれど、「信託報酬がすべて」と思い込まないでおく
ウィリアム・シャープ「アクティブ運用の算数」(1991年)
ノーベル経済学賞を受けたシャープが、35年前に書いた3ページの論文の一文だ。理屈は足し算だけでできている。数字を置いてみる。
市場に100人いて、この1年、市場ぜんぶの成績が+10%だったとする。100人のうち60人は、市場をそのまま持つ人。この人たちの成績は、当然+10%だ。残りの40人は、会社を選んで運用するファンド(プロが選ぶ投資信託)にお金を預けている人。全体が+10%で、60人も+10%なのだから、残り40人を合わせた成績も+10%でないと、計算が合わない。40人の中には+30%の人も、−10%の人もいる。でも平均すると、必ず+10%になる。誰かが市場に勝ったぶん、別の誰かが同じだけ負けているからだ。
ここまでは、手数料を引く前の話。プロに選んでもらうには、お金がかかる。そのまま持つファンドの手数料が年0.1%、プロが選ぶファンドの手数料が年1%なら、手取りは9.9%と9.0%になる。平均どうしで比べると、差がつくのは手数料のぶんだけだ。
ここから言えることは2つある。
ひとつ。平均で比べれば、そのまま持つファンドのほうが有利だ。プロが下手だからではない。手数料が安いからだ。
もうひとつ。今日見てきた「値段を選べないせいで削られるぶん」は、この例でいえば、そのまま持つファンドの0.1%に上乗せされる。昔のアメリカで年0.2%台、いまはもっと小さい。上乗せしても、0.1%が1%に届くような大きさではない。だから、ひとつ目の結論はひっくり返らない。
3つ目の声、「値段を見ないで買うなら、インデックスって損じゃない?」への、わたしの答えはこうなる。少し削られているのは本当。でも、それを理由にインデックスをやめるほどの大きさではない。
今日調べても、オルカンを続けるという答えは変わらない。
値段を選べないファンドを、わたしは自分で選んで持っている。積立の日に、その日の値段で買う。
値段は選べない。それを知ったうえで、続ける。オルカンの積立も、BND(米国債券ETF)も、日本の高配当株119銘柄も、8年以上SBI証券の口座です。
SBI証券の公式サイトを見る →6. まとめ
- ナスダック100の中のスペースXの割合が1.28%→2.82%に。連動するファンドは9月18日の終わりに約2.4兆〜3.5兆円を買う必要があった
- その日の株価は−1.4%。先に上がっていたぶんは、多く見て3%ほど。ファンドが買った日は3回あり、目立って上がった日は1回もない
- 割合が増えたのは業績ではなく、売り買いできる株が増えたから
- インデックスのファンドは値段を選べない。この見えないコストは、昔のS&P500で年0.21〜0.28%。もとになる値上がりは、1990年代の7.4%から2010年代には1%未満に
- オルカンも同じ仕組み。スペースXは0.1〜0.2%程度で、指数が割合を増やせば、その日の値段で買い足す
- 見えないコストはゼロではない。でも、小さくなっている。わたしは値段を選べない仕組みを、選んで持つ
・買う額の見積もりと7月の43億ドル:Bloomberg「SpaceX Could Draw $15.5B in Buying」(Yahoo Finance、9月8日)、TeslaNorth(9月18日)
・株価と出来高:Yahoo Finance(SPCX、QQQ)の終値。9月4日→18日はSPCX 147.95→152.71ドル、QQQ 718.96→721.45ドル。9月11日→18日はSPCX 151.21ドル、QQQ 714.88ドルから。QQQと全世界株ETF(ACWI)の組入比率はstockanalysis.com(9月17日)
・研究①:Antti Petajisto "The index premium and its hidden cost for index funds"(Journal of Empirical Finance、2011年)
・研究②:Robin Greenwood, Marco Sammon "The Disappearing Index Effect"(Journal of Finance、2025年)
・シャープの言葉:William F. Sharpe "The Arithmetic of Active Management"(Financial Analysts Journal、1991年)。訳はわたし
・オルカンの信託報酬0.05775%と、S&P500の投資信託の0.09372%(eMAXIS Slim)は三菱UFJアセットマネジメントの公表値。1,000万円あたりの金額と出来高の倍率はクロちゃん(Claude)に計算してもらった




