20代の8割がNISAを使っていないらしい。でも、20代だけの話ではなかった
「20代の8割、いまだNISA使わず」という記事を読んだ。
新NISAが始まって2年半。世界的な株高もあって、資産運用はすっかり身近な話題になった。それでも、20代の8割は制度を使っていないという。「投資キャンセル界隈」という言葉まで生まれているらしい。
記事に出てくる都内の20代男性は、入社3年目で年収600万円ほど。それでも口座を開いていない。投資に回せるお金は十分にあるのに、だ。
わたしは26歳のときに投資を始めたから、この記事の「8割」の側ではない。
読んで最初に浮かんだのは、「なんでだろう」だった。
年収600万円あって、お金も足りている。それでも開いていない。そこが素直に不思議だった。
それで、数字を調べてみた。本当に、20代だけの話なのだろうか。
調べたら、思っていたのとかなり違った。
1. まず、「8割」は本当だった
第一生命経済研究所が、証券会社のNISA口座数を各年代の人口で割った推計を出している。
| 年代 | 持っている | 持っていない |
|---|---|---|
| 20代 | 19.2% | 80.8% |
| 30代 | 27.9% (最も高い) |
72.1% |
| 40代 | 22.8% | 77.2% |
| 50代 | 17.8% | 82.2% |
20代の80.8%が持っていない。 記事のとおりだった。
ただ、この表を見て手が止まった。
2. でも、20代だけの話ではなかった
いちばん高い30代でも27.9%。つまり7割以上が持っていない。
40代は77.2%、50代は82.2%が持っていない。
どの年代でも、使っていない人のほうが多い。
「20代の8割」という見出しは事実だけれど、それだけを切り出すと「若者が投資しない」という話に見えてしまう。実際は、日本全体がまだそういう段階にいる、というほうが近い。
そして、もうひとつ。従来は年齢が高いほど投資をする傾向にあった。それが新NISAで変わりつつある、というのがこのデータの本題だった。
「若者が遅れている」という枠組みは、もう当てはまらない。
3. 「お金がない人」と「お金はあるのにやらない人」は、別の話
ここが、いちばん整理が必要だと思ったところ。
冒頭の記事の男性は年収600万円で、投資に回せるお金は十分にある。でも、20代がみんなそうかというと、まったく違った。
でも、貯まっていない:20代の単身世帯の金融資産は平均255万円。ただし33.2%はゼロ
→ つまり3人に1人は、金融資産がまったくない
平均255万円という数字は、一部の人が押し上げている。実際には「そこそこ持っている層」と「ゼロの層」に、はっきり割れている。
そして、貯まらない理由のひとつに、奨学金がある。
大学生の約2人に1人が利用していて、借入総額の平均は324万3,000円。毎月の返済は平均16,880円で、期間は平均14.7年(労働者福祉中央協議会の調査)。
20代の後半がまるごと、毎月1.7万円の返済に持っていかれているということだ。しかも金利上昇で、返済負担は増している。
この層に「NISAを始めよう」と言っても、順番が違う。
では、お金はあるのにやらない層は、なぜやらないのか。
日本証券業協会が全国7,000人に聞いた2024年度の調査に、答えがあった。買っていない人に理由を聞いた結果だ(複数回答)。
| 理由 | 株式 | 投資信託 |
|---|---|---|
| 興味がない | 55.6% | 65.2% |
| 十分な知識がない | 26.5% | 21.3% |
| 資金がなかった | 25.6% | 17.7% |
| ギャンブルのようなもの | 22.0% | 15.9% |
1位は、お金でも知識でもなかった。「興味がない」だ。 投資信託にいたっては、3人に2人がそう答えている。
しかも、知らないから興味がないのではない。同じ調査で、NISAの認知度は77.9%まで来ている(2021年度は57.6%)。知ったうえで、関心が向いていない。
「投資まで頑張れない」という記事の見出しは、たぶんそのままの意味だった。お金がないわけでも、知らないわけでもない。そこに関心が向いていない。
そして、それはべつに悪いことではないと思う。世の中には、お金より大事なことがいくらでもある。
4. 口座を作ったのに、動いていない人もいる
もうひとつ、意外だった数字がある。
「使っていない8割」の中身は、口座すら作っていない人だけではない。作ったのに、1円も買っていない人がいる。
成長投資枠:28.9%
つまり、「まず口座を作りましょう」というアドバイスは、もう効いていない。作った人の2〜3割が、そのまま止まっているからだ。
止まっている場所は、口座の手前ではなくその先にある。
5. ただし、「どうでもいい」わけでもない
ここで、ややこしいことを書く。
「興味がない」が1位だと聞くと、投資なんてどうでもいいと思っているように読める。でも、そうではなかった。
30代以下の74.7%が「自分の高齢期には公的年金に期待していない」
つまり、こういうズレが起きている。
「必要だとは思う」。でも「自分がやることとしては、関心が向かない」。
これが「投資まで頑張れない」の中身なのだと思う。関心がないのではなく、関心を向ける先が、いまはそこではない。
そして、やっている20代は、しっかりやっている。
2024年の1年間で、20代以下がつみたて投資枠で買った金額は平均39.6万円。月に直すと3.3万円だ。買っているものも堅実で、39%が全世界株式のインデックスファンド。日本を含まないタイプも合わせると61%にのぼる。
つまり、やる人はきちんとやっていて、やらない人は一歩も動いていない。20代の中で、きれいに分かれている。
6. 「早く始めたほうがいい」の、副作用
わたしがいちばん気になったのは、ここだった。
投資は、早く始めたほうが有利になる。時間が長いほど複利が効くから、これは本当だ。
ただ、この話には副作用がある。
「早いほうがいい」と何度も聞かされると、まだ始めていない人ほど「自分はもう出遅れた」と感じる。そして、ますます動けなくなる。
20代の23.4%が「分からない」と答えているのも、たぶんそういうことだと思う。分からないまま始めるのが怖い。間違えたら取り返しがつかないと思っている。
でも、実際にはそんなことはない。
7. わたしの場合。たぶん、参考にならない
正直に書いておく。
わたしが投資を始めたのは2018年、26歳のとき。きっかけは立派なものではなくて、友人の何気ない一言だった。「投資とかやってると資産形成できるよね」と、さらっと言われただけ。
最初に買ったのは、LINEから始められるテーマ型の投資サービスで、5万円。「鉄道」とか「キャッシュレス」とか、イメージしやすいテーマを選んだ。
難しいことは、何も分かっていなかった。
いま振り返れば、最初からS&P500一本でよかったと思う。回り道をした。それでも、小さく始めたこと自体は正解だったと思っている。
理由がある。5万円でも、自分のお金が入った瞬間から、急に気になりはじめたからだ。
値動きが気になって、なぜ動いたのかを調べる。調べていると「手数料」という言葉が出てくるので、それも調べる。そうやって少しずつ分かってきて、「テーマを選ぶより、もっと広く持ったほうがいいのでは」と思うようになった。ロボ投資を経て、eMAXIS Slim S&P500にたどり着いた。
→ 自分のお金だから、気になる
→ 気になるから、調べる
→ 分かってくるから、もっと知りたくなる
→ 選び方が変わっていく(テーマ型 → ロボ投資 → S&P500)
つまり、興味があったから始めたのではない。始めたから、興味が出た。
ここが、3章の話とつながると思う。買わない理由の1位は「興味がない」だった。でも興味は、始める前に持っていないといけないものではないのかもしれない。金額が小さくても、自分のお金が動くと、勝手に気になりはじめる。
・間違えても、取り返しはつく。回り道をしたけれど、いまここにいる
・金額は小さくていい。5万円が、8年後のいまにつながっている
・興味は、あとから出てくる。始める前に持っていなくていい
8. まとめ
- 20代の80.8%がNISA口座を持っていない。記事のとおりだった
- ただし20代だけの話ではない。いちばん高い30代でも27.9%で、どの年代でも使っていない人のほうが多い。「若者が遅れている」という枠組みは当てはまらない
- 20代の中も割れている。単身世帯の33.2%は金融資産ゼロ。奨学金は平均で月16,880円・14.7年の返済が続く。この層に「まずNISA」は順番が違う
- 一方で、お金はあるのにやらない層もいる。その理由の1位はお金でも知識でもなく、「興味がない」(株式55.6%・投資信託65.2%)。しかもNISAの認知度は77.9%。知らないのではなく、関心が向いていない
- 口座を作っても動いていない人もいる(2024年中の買付ゼロは、つみたて枠21.1%・成長枠28.9%)。「まず口座を」というアドバイスは、もう効いていない
- ただし、「どうでもいい」わけでもない。証券投資を「必要だと思う」人は30.9%から42.6%へ増え、30代以下の74.7%が公的年金に期待していない。「必要だとは思う。でも自分がやることとしては関心が向かない」というズレが起きている
- 「早く始めたほうがいい」には副作用がある。聞かされるほど、まだの人は「もう出遅れた」と感じて動けなくなる
- わたしは26歳のとき、友人の一言で、5万円から、何も分からないまま始めた。節約好きなのも性格なので、参考にならないかもしれない
わたしが好きな言葉に、リベ大の両学長がいつも動画の最後に言うものがある。
始めるなら、少額でいい。急がなくていい。やらないなら、それでもいい。
いま楽しく生きることのほうが大事な時期だってある。それを我慢してまでやるものではないと、わたしは思っている。
ただ、ひとつだけ言えることがある。
「もう遅い」ということだけは、ない。
・年代別の口座保有率・購入額・購入銘柄:第一生命経済研究所「新NISA、若者はどう使ったのか?」(PDF)
・買わない理由・証券投資の必要性・NISA認知度:日本証券業協会「2024年度 証券投資に関する全国調査」(PDF・全国7,000人)
・若年層の投資を阻む要因:MUFG資産形成研究所「若年層の投資を阻む要因とは」(PDF)
・奨学金の返済負担:日本経済新聞「大学生の奨学金、増す返済負担 金利上昇の影響大きく」
・「今日が人生で一番若い日」:両@リベ大学長
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