アメリカでは、出戻りした子どもが親の老後資金を減らしているらしい。それ、40歳で実家に帰るわたしのことだった
ブルームバーグの記事を読んだ。見出しは「老後資金を守るための『親子同居』ルールとは」。
アメリカで、大人になった子どもが実家に戻ってくるケースが増えていて、それが親の老後資金を圧迫しかねない。だから親は、子どもが戻ってくる前にルールを決めておきましょう、という記事だ。
親向けのチェックリストを、ふんふんと読み進めた。家賃を取りましょう。期限を決めましょう。そこまで読んで、気がついた。
わたしは十勝の実家に帰って、両親と暮らす計画を公開している。時期は40歳を節目と決めた。この記事のなかでわたしは、歓迎される側ではない。警戒される側だ。
1. アメリカで何が起きているか
まず記事の中身から。
月24万円。年にすると約288万円だ。これを親が負担すれば、老後の積立が減るのは当たり前だと思う。
記事のなかで、別の専門家はこう言っている。老後資金を十分に準備してきた人でも、成人した子どもへの長年の支援で、知らないうちに退職後の生活設計が崩れているケースは珍しくない。通常、家を失うような事態にはならないが、どこかを大幅に切り詰めることになり、引っ越しや、70歳まで働き続けることを余儀なくされる場合もある、と。
2. 専門家の「親子同居ルール」
記事が紹介している、親向けのルールを並べる。
まっとうだと思う。そして読み終えて、これは裏返せば、帰る側のチェックリストだと思った。
親がこれを言い出すのは、気まずい。記事自身が「気まずくなりがちな親子の話し合い」と書いている。だったら、帰る側から先に言えばいい。
3. 子ども側から、自分に当ててみる
というわけで、40歳で実家に帰る計画のわたしが、このルールに1つずつ答えてみる。
① 家賃 → 月5万円と決めてある。でも、その金額でいいのか
十勝計画③で、実家には月5万円入れると決めた。生活費全体では、社会保険なども入れて月12.5万円で計算している。タダで住むのではない、と最初から決めてある。ここは大丈夫、と思って書き始めた。
でも、アメリカの試算の月24万円を横に並べると、正直、ちょっと恥ずかしい。あちらは家賃の話ではなく、子どもがいることで増える支出をぜんぶ数えた金額だから、単純には比べられない。それでも、わたしの5万円は、実家で何がいくら増えるかを数えて出した数字ではない。「これくらいなら」と、わたしがひとりで置いた数字だ。金額は帰る前に親ときちんと話し合うつもりでいた。でも、話し合いに持っていくその数字が、実際に増える支出とかけ離れていたかもしれない。決めてあることと、その金額で足りていることは、別の話だった。
② 期限 → 決めていない。そして決めるつもりもない
ここでもつまずいた。わたしの同居に、期限はない。
ただ、この記事が想定している出戻りと、わたしの帰郷は目的が違う。記事の出戻りは、住宅費や失業からの一時避難だ。避難なら、期限を決めるのが正しい。わたしが帰るのは、年老いていく両親のそばにいたいからで、避難ではない。
だから答えは「期限は決めない」でいいと思う。ただし、期限のない同居を選んでいるという自覚はいる。専門家が期限を切れと言うのは、ずるずる続くのがいちばん親の計画を狂わせるからだ。期限がないなら、そのぶん検証と見直しが重くなる。
③ お金以外の貢献 → これは十勝ではむしろ本体
雪かき、車の運転、買い物、家の手入れ。東京では「家事の分担」くらいの話だけれど、十勝の冬の雪かきと、車がないと生活できない土地での運転は、金額に直せないほうの貢献が本体になる。両親が歳を重ねるほど、ここの比重は上がっていく。
④ 親の老後資金への影響の検証 → していなかった
いちばん大きな穴はここだった。
わたしは自分の95歳までのお金の計算をした。実家で暮らすことが、わたしの老後にどれだけ効くかも計算した。でも、わたしが住むことで親の家計がどう変わるかを、親の側から検証したことは一度もない。
4. 「頼らない」と「負担をかけない」は、違った
ライフプランの記事で、わたしはこう書いた。生活費は家に月5万円入れるし、お金の面で頼る気はない、と。
でもこの記事を読んだあとだと、その言葉が少し軽く見える。
大人がひとり増えれば、水道も光熱費も食費も増える。わたしが月5万円入れても、増えたぶんがそれを超えていたら、差額は親が黙って吸収することになる。それは、頼っていないのではなくて、静かに頼っている。
親は本能的に、子どもを助けられるなら助けたいと考える。記事のなかで、スライベントの金融コンサルタントがそう言っていた。だからこそ、親のほうからは言い出さない。負担が出ても、たぶん黙っている。
十勝計画②で、「親のため」を一番の理由にしたくない、と書いた。今回は、向きが逆だった。「自分のため」が、親の負担になっていないか。
両親のお金の中身をここに書くつもりはない。書かなくても、やることは書ける。帰る前に、親とこれを話す。
でも記事を読むかぎり、いちばん高くつくのは、この話をしないまま何年も過ぎることだ。親の側から切り出しにくい話ほど、子どもの側から切り出す。この記事を読んで、わたしの計画に足したのはそれだった。
ロバート・フロストの詩「壁の修繕」に、こんな一節がある。石垣を直しながら、隣人が父親の口ぐせとして繰り返す言葉だ。
ロバート・フロスト(「Mending Wall」1914年・詩集『ボストンの北』)
詩のなかの語り手は、この壁に懐疑的だ。壁なんて要らないのでは、と思いながら、それでも毎年春になると隣人と一緒に石を積み直す。近づきたい相手とのあいだにこそ、手入れされた境界がいる。100年以上前の詩が言っているのは、たぶんそういうことだと思う。
家族は、いちばん近い隣人だ。だから帰る前に、垣根の話をする。
まとめ
- アメリカで成人した子どもの実家への出戻りが増加。支援する親の半数が家計への影響を感じ、5人に1人は老後の積立を減らすと回答。同居費用の試算は月約24万円
- 専門家の親向けルールは、①最初に決める ②家賃を取る ③お金以外の貢献 ④3〜5年続く前提で老後計画を検証 ⑤定期的に見直す
- 40歳で実家に帰るわたしは、この記事では警戒される側。裏返して自分に当てたら、家賃の月5万円はひとりで置いた根拠の甘い数字で、親の側からの検証もしていなかった
- 「お金の面で頼らない」と「負担をかけない」は違う。増えた生活費を親が黙って吸収したら、それは静かに頼っている
- 親から切り出しにくい話ほど、子どもから切り出す。帰る前に話すことリストを作った。年1回の見直しつき
親子の同居でお金がどう動くかは、ライフプラン・シミュレーターで試せる。親の立場でも、わたしの立場でも。
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