ボブの話とは?「世界最悪のタイミング」で投資した男が、それでも1.6億円を築けた理由
前回、複利のたとえ話の古典「ジャックとジル」の記事を書いたら、思いのほか読んでもらえた。なので今日は、投資の原理原則を伝える有名な話の第2弾。「ボブ:世界最悪のタイミングで投資した男(Bob, the World's Worst Market Timer)」を紹介したい。
米国の資産運用会社の運用者ベン・カールソンさんが2014年にブログで紹介した思考実験で、海外では暴落のたびに引っぱり出される定番の話だ。ボブは架空の人物だけれど、使われている市場の数字は実際の米国株のもの。そして結論だけ先に言うと、買うタイミングが全部「歴史的な暴落の直前」だった男が、それでも約1.65億円(円換算の概算)の資産で引退する。
なぜそんなことが起きるのか。順番に見ていく。
1. ボブの話とは
ボブの設定はこうだ。
「みんなが盛り上がっているときに買う」。つまりボブが買うのは、毎回、相場のてっぺんだ。そしてボブの43年間には、教科書に載るレベルの暴落が4回もやってくる。
2. ボブの買い物履歴。全部、暴落の直前
ボブが実際に買ったのは、この4回だけ。見事なまでに、全部てっぺんだ。
投資した合計は18万4,000ドル(約2,760万円)。しかも4回とも、買った直後に資産が3割から5割も溶けている。ちなみにリーマンショックのあとはさすがに怖くなったのか、ボブが新しく買うことは二度となかった(引退までの貯金は現金のまま)。
ひとつ補足すると、この元本、当時の米国の物価を考えると、いまの感覚ではもっと重い。ざっくり2〜3倍、日本円でいえば5,000万円分以上を入金したイメージになる。年2,000ドルの貯金から始めたボブ、タイミング以外は本当に優等生なのだ。
タイミングだけ見れば、これ以上ないほど下手くそだ。「世界最悪」の名にふさわしい。
3. 結果。65歳のボブ、約1.65億円で引退する
2013年末、65歳になったボブは引退する。そのとき口座に残っていたのは。
(約2,760万円)
(約1.65億円)
全部てっぺんで買ったのに、元本は約6倍。日本円の感覚で言えば、約2,760万円が約1.65億円だ。
理由は、ボブの唯一の強み。一度も売らなかったこと。
- 最初の6,000ドルは、直後に半分になっても売らなかったので、41年間複利で転がり続けた
- 4回の暴落は、どれも数年から十数年かけて回復し、その後さらに高値を更新した
- ボブは下手なタイミングで「買った」けれど、最悪のタイミングで「売る」ことだけはしなかった
つまりこの話の主役は、ボブのくじ運の悪さではなく、「市場に居続けた時間」の強さだ。タイミングの下手さは、時間が全部帳消しにしてくれた。
4. この話の、もうひとつの顔
ここで話を終えると「持ち続ければ必ず勝てる」という美談になってしまうけれど、ジャックとジルのときと同じで、この話にももうひとつの顔がある。わたしはこっちのほうが本命の教訓だと思っている。
原典にはこんな計算も載っている。もしボブがタイミングを狙わず、同じ貯金ペースのまま、貯めたお金を毎年そのつど積み立てていたら、最終資産は約230万ドル(約3.45億円)。実際のボブの2倍以上だ。並べてみると、差は一目瞭然だ。
念のため、この積立が「年始に買うのか、年末に買うのか」も気になって原典を読み直したのだけど、そこまでは書かれていなかった。ただ、どちらで計算しても「ボブの2倍以上」という結論はひっくり返らない。1年分のズレは、43年の複利の前では誤差みたいなものだ。
だからわたしは、この話の教訓を「てっぺんで買っても大丈夫」とは読まない。読むべきは逆で、
タイミングを当てる才能は、資産づくりにほとんど要らない。それより「市場に居続けること」と「買い場を待たずに淡々と買うこと」のほうがずっと強い。
ということだと思う。世界最悪のタイミングですら勝てたのだから、タイミングを気にする理由がそもそもない。むしろタイミングを気にして待つことこそが、ボブがいちばん損をしたポイントだった。
5. わたしの中にも、ボブがいた
じつはこの話、わたしには他人事ではない。
わたしも投資を始めてから、3回の下落を経験している。会社員時代のコロナショックでは資産が約3割減った。2022年には1年以上の停滞が続いたし、サイドFIRE達成のわずか1ヶ月後、2026年5月には中東ショックが来た。そのときの気持ちの揺れ方は「暴落が来たら詰む」は本当かの記事に書いたとおりだ。
3回とも共通しているのは、売らなかったこと。かっこいい信念があったからではなくて、コロナショックのときに「航路を守れ」という言葉に出会って、「ここで売った人がいちばん損をする」と頭に叩き込まれていたからだ。ボブの話は、あのとき学んだことのデータ版だと思う。最悪のタイミングで買った人ですら、売らなければ報われた。ましてや淡々と積み立てている人が、暴落のたびに降りる必要なんてない。
そしてもうひとつ。わたしがオルカンを毎月同じ日に、機械的に積み立てているのは、自分の中のボブを信用していないからだ。「いまは高い気がする」「暴落を待ってから買おう」。そういう自分の相場観は、ボブと同じくらい当てにならないと思っている。だったら最初から、タイミングの判断を手放してしまったほうがいい。
まとめ
- 「ボブ」とは、米国のベン・カールソン氏が2014年に紹介した思考実験。43年間で買ったのは4回だけ、しかも全部が歴史的な暴落(オイルショック−48%・ブラックマンデー−34%・ITバブル崩壊−49%・リーマンショック−52%)の直前だった
- それでも一度も売らなかった結果、元本18万4,000ドル(約2,760万円)は65歳で約110万ドル(約1.65億円)、約6倍になった
- 勝てた理由はタイミングではなく「市場に居続けた時間」。最初の6,000ドルは41年間複利で転がり続けた
- ただしもうひとつの顔がある。毎年淡々と積み立てていれば資産は約230万ドルと、2倍以上になっていた。ボブの本当の失敗は買い場を「待ちすぎた」こと
- 米国株が右肩上がりだった43年間という前提つきの話でもある。だからわたしは1つの国ではなく、オルカンで世界に分散している
- わたし自身もコロナ・2022年・中東ショックの3回の下落で売らなかった側。「タイミングの判断を手放して、淡々と積み立てる」が、ボブの話から受け取るべき教訓だと思う
世界最悪のタイミングで買ったボブですら報われました。タイミングを狙わずに毎月自動で積み立てるなら、オルカンもS&P500もSBI証券ひとつで始められます。月100円からの自動積立で、「待ちすぎるボブ」にならずにすみます。わたしが8年使っているメイン口座です。
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