アメリカの中間選挙って何? ブルーウェーブ? 上院・下院? いろいろ調べてみた
ニュースを見ていて、知らないことばに立ち止まることはないだろうか。
10月31日の日経新聞に「アメリカ中間選挙『ブルーウェーブ』でドル安・金利低下 民主勝利が有力視」という見出しがあった。わたしは、読んでもよく理解できなかった。ブルーウェーブって、何の波? 上院・下院は? 衆議院・参議院のようなものだっけ? 中間選挙って? 予備選のこと? 全部が曖昧だった。
でも、この選挙は11月3日(日本時間では3日の夜から4日にかけて)に行われる。アメリカの株も、ドルも、金利(お金を借りるときの値段)も、結果で動くと言われている。オルカン(世界の株にまとめて投資する商品)やS&P500(アメリカの代表的な500社の株)を持っている人には、関係のある話だ。ことばの意味から、調べてみる。
1. 中間選挙は、予備選とはちがうの?
まず、「中間選挙」と「予備選」は別のものだ。
予備選は、それぞれの党の中で「だれを、うちの党の候補にするか」を決める選挙だ。今年の予備選は、春から行われてきた。ほとんどの州で、9月中旬までに終わっている。
中間選挙は、大統領の任期4年のちょうど真ん中にある、議会の選挙だ。大統領選挙から2年後にあるので、「中間」と呼ばれる。
大統領は選ばない。選ぶのは、議会の議員だ。今回は、2025年に2期目が始まった、共和党のトランプ大統領の折り返しにあたる。2年間の仕事ぶりに、国民が点数をつける選挙とも言われる。
2. 上院・下院は、衆議院・参議院みたいなもの?
だいたい、そのイメージで合っていた。アメリカの議会は、下院と上院の2つでできている。
下院は、衆議院に近い。人数が多く、任期は2年と短い。2年ごとに全員を選び直すので、そのときの国民の気分が出やすい。
上院は、参議院に近い。2年ごとに、約3分の1ずつを選び直す。
ちがうところもある。アメリカの議会には、解散がない。それから、法律は下院と上院の両方で賛成されないと通らない。
例えると、大統領は会社の社長で、議会は会社のお金の使い道を決める2つの会議に近い。
社長がどれだけ「減税したい」「このお金を使いたい」と言っても、2つの会議の両方でOKが出なければ動かない。会議のメンバーは、民主党と共和党に分かれている。だから、どちらの党が多数を取るかが大事になる。
3. ブルーウェーブって?
アメリカでは、民主党は青、共和党は赤がイメージの色だ。昔はテレビ局ごとに色がばらばらだったが、2000年の大統領選挙のころから、この色分けが定着した。
「ウェーブ(波)」は、あちこちで勝って、議席を大きく増やすことを言う。つまりブルーウェーブは、民主党が大勝することだ。共和党が大勝すれば、レッドウェーブと呼ばれる。
トランプ大統領の1期目(2017〜2021年。そのあとの4年はバイデン大統領)にあった中間選挙(2018年)も、ブルーウェーブと呼ばれた。このときは下院だけだったが、民主党は41議席を増やして、下院の過半数を取っている。今回の日経新聞の見出しでは、上院と下院の両方で民主党が過半数を取ることを指している。
いまの議会は、上院も下院も共和党が多い。
民主党は、上院で4議席を増やせば過半数になる。下院は、数議席の差だ。
わたしは、なんとなく、トランプさんは劣勢だけど、あの手この手で頑張っている、というイメージを持っていた。トランプ大統領は今回の選挙に出ていないけれど、1章で書いたとおり、中間選挙は大統領とその党(共和党)への点数のように見られている。
このイメージが合っているのか、「劣勢」と「あの手この手」の2つに分けて、確かめてみる。
まず、「劣勢」は本当なのか。NPR(アメリカの公共ラジオ)によると、トランプ大統領の支持率は、世論調査の平均で37%だ。中間選挙の前としては、この50年でいちばん低い水準に並ぶ。それに、戦後の中間選挙20回のうち18回で、大統領の党は下院の議席を減らしてきた。減った数は、平均で26議席だ。
選挙の結果にお金をかけて当てる市場(予測市場)もある。
予測市場では、両院とも民主党が取る、という見込みが約7割ある。日経新聞の「民主勝利が有力視」とも重なる数字だ。数字で見ても、劣勢というのは、イメージだけではなさそうだ。
予測市場は、最近よく目にする。わたしは、世論調査より、なんだかリアルに感じていた。少し寄り道をして、調べてみた。
そのあと、アメリカの国が認めたのは、大学の研究用など、かける金額に上限のある小さな市場だけだった。2023年には、取引所を監督する国の役所が、選挙の取引を「賭け事にあたる」として認めなかった。それを2024年の裁判がくつがえし、国が認めた取引所で、選挙の結果を取引できるようになった。
今回の中間選挙は「はじめての予測市場の選挙」とも呼ばれている。中間選挙にからむ取引は、10月下旬までに14億ドル(約2,200億円)を超えた。CNNも、予測市場の会社と組んでいる。
でも、賭けなので当然外れることもある。2016年には、イギリスやアイルランドの賭け屋で、アメリカ大統領選の前日に、民主党のクリントン氏の勝ちが83%と見られていた。イギリスのEU離脱を決める投票の日にも、賭けの倍率で残留が88%と見られていて、どちらも外れた。それに、予測市場で取引する人の多くは、お金を減らしている。
話を戻して、「あの手この手」は、どんな手なのか。トランプ大統領は「わたしが投票用紙に載っているつもりで投票してほしい」と呼びかけている。
それから、選挙区の線の引き直しがある。下院の議員は、州をいくつかに分けた選挙区から1人ずつ選ばれる。2025年から、トランプ大統領の呼びかけで、共和党の強い州が、この選挙区の線を引き直した。
例えると、同じクラスでも、班の分け方しだいで、多数決の結果が変わるのに近い。
ただ、あの手この手は、共和党の側だけではない。民主党の側も、線を引き直している。カリフォルニア州では、民主党に有利な線を引き直す案が、2025年11月の住民投票で64.4%の賛成で通った。選挙区の線は、ふつうは10年に1度、国勢調査のあとに引き直すものだ。それを、お互いに途中でし合っている形だ。
ここまでのことばを、まとめておく。
4. なぜ、選挙でドルや金利が動くの?
お金を動かしているのは、選挙の結果そのものより、「これからどうなりそうか」という予想だ。だから、結果が出る前から動く。
2章の会社の例えで言うと、会議の多数が社長と別の党になると、減税や、国のお金の使い道を増やす法律が通りにくくなる。
国が使うお金を増やすには、国債(国の借金の証書)を出して借りることになる。減税をしても、国に入る税金が減るので、そのぶん借金が増える。国がたくさん借りようとすると、貸してくれる人を集めるために、金利(お金を借りるときの値段)を上げないといけなくなる。借金が増えすぎると、「ちゃんと返せるの?」という心配のぶんの上乗せ(リスクプレミアム)もつく。逆に、借りる量が増えにくくなれば、金利は下がりやすい。
ブルーウェーブで「ドル安・金利低下」と言われるのは、この流れだ。
民主党が勝った場合の株については、AIの話が出てくる。日経新聞は、民主党の中にAIへの投資を抑えたい人たちがいて、規制が強まるのを市場が警戒している、と伝えている。AIは、たくさんのコンピューターを動かすので、電気を大量に使う。NPRによると、アメリカでは、AIが電気代などの光熱費を押し上げていて、AIに反発する人も増えている。AIの会社が多いアメリカの株には、逆風になるという見方だ。
金利については、反対の見方もある。J.P.モルガンのプライベートバンク(お金持ち向けの資産運用の部門)は、どちらが勝っても、アメリカの借金が増えていく大きな流れは変わらない、と見ている。借金でまかなう支出が増えれば、10年国債のような長い期間の金利は、むしろ上がりうるという。
実際に、この1か月で何が動いたのかも見ておく。
金利は、この1か月で下がった。でも、ドルはほとんど動いていない。見出しのとおりに、全部が動いているわけではない。
5. 過去の中間選挙のあと、株はどうだった?
結局、中間選挙は株にとってどうなのか。過去のデータで数えてみた。
中間選挙の年の10月末から、1年後の10月末までに、アメリカの株(S&P500)がどれだけ上がったかを並べる。
戦後の20回は、全部プラスだった。平均は16.0%で、中間選挙ではない年の同じ1年間(平均7.0%)を大きく上回る。
青は、民主党が下院を取った1954年、2006年、2018年だ。1954年と2006年は、共和党の大統領のときに、民主党が上院と下院の両方を取っている。今回の見込みと、同じ形だ。そのあとの1年も、株は33.6%と12.4%上がった。赤は、共和党が下院を取った1946年、1994年、2010年、2022年だ。こちらも、4回ともプラスだった。
なぜ、選挙のあとに株が上がりやすいのか。理由ははっきりしないが、よく言われるのは「わからない」が消えることだ。選挙の前は、どちらが勝つかわからないので、株は上がりにくい。実際に、中間選挙の年の1月から10月までの株は、平均するとほぼ横ばいだった。
それでも、これは約束ではない。大恐慌の1930年まで戻ると、選挙のあとに4割近く下がった年もある。
6. わたしの持ち物では?
最後に、わたしの持ち物で考えてみる。先に、ことばを説明しておく。NISAは、もうけに税金がかからない口座。iDeCoは、自分で作る年金。積み立ては、毎月決まった額を買い続けること。BNDは、アメリカの債券(国や会社の借金の証書)をまとめて持つETF(株のように売り買いできる投資信託)だ。口は、ETFを数える単位だ。
ドル安になると、同じ1ドルが、円に直すと少なくなる。BNDのような債券の値段は、金利とシーソーのように逆に動く。新しく出る債券の金利が低くなると、前から出ている金利の高い債券が人気になって、そのぶん値上がりする。
プラスとマイナスが少しずつ出る。わたしは、選挙で何も変えない。オルカンの積み立ても、iDeCoのS&P500も続ける。BNDも、そのまま持ち続ける。
選挙の結果は、11月4日の日本時間の朝から出はじめる。結果が出たら、この記事に追記する。
イギリスの首相、ウィンストン・チャーチルのことばだ。チャーチルは、第二次世界大戦でイギリスを率いた。でも、ドイツが降伏して2か月後、1945年7月の選挙で、チャーチルの党は大敗した。
その2年後の1947年、チャーチルはイギリスの議会で、このことばを紹介した。実は、チャーチルが考えたことばではない。「こういう言い方がある」と前置きしてから話している。
このとき議会で話し合っていたのは、1945年の選挙でチャーチルの党を破った、労働党の政府が出した法案だ。議会のもう一つの院(貴族院)が、法律に「待った」をかけられる期間を短くする内容だ。チャーチルは、貴族院の「待った」には、政府が法律を急いで通す前に、国民の考えが固まるのを待つ時間をつくる役目がある、と考えていた。だから、それを短くすることに反対した。
チャーチルは、この格言のすぐあとに、こう続けている。
国民が治めるべきだ。それも、ずっと治め続けるべきだ。
格言だけを読むと、「ほかよりはまし」という、皮肉まじりの冗談にも見える。でも、チャーチルが言いたかったのは、欠点だらけでも、国民がくり返し選び直せるしくみを手放してはいけない、ということだ。同じ演説で、チャーチルはアメリカの憲法を、権力どうしがおさえ合い、国民にたびたび問い直すしくみとして、ほめている。2年ごとの中間選挙は、まさにそのしくみだ。
選挙は、ときに予想を裏切る。戦争に勝ったチャーチルも、選挙で負けた。それでも、2年ごとに選び直せるしくみがある。だから、11月3日がどちらに転んでも、わたしは、いつもどおり積み立てを続ける。
7. まとめ
- 中間選挙は、大統領の任期4年の真ん中にある議会の選挙。予備選は党の候補者を決める選挙で、もう終わっている
- 下院は衆議院、上院は参議院に近い。ただ、アメリカに解散はなく、法律は両方の賛成がないと通らない
- ブルーウェーブは、民主党(青)の大勝のこと。今回は両院の過半数を取ることを指し、予測市場では、その見込みが約7割
- 議会を民主党が取ると、大統領の減税や支出が通りにくくなり、金利は下がりやすいと言われる。ただ、見方は割れている
- 戦後の中間選挙のあと、アメリカの株は1年で20回とも上がっていた。民主党が下院を取った年もプラスだった
- わたしは、選挙で何も変えない。結果が出たら、この記事に追記する
・議会のしくみ:アメリカ国立公文書館「The Constitution of the United States」、総務省「なるほど!選挙 国会議員の選挙」
・いまの議席・予備選:アメリカ下院 Office of the Clerk、270toWin「Consensus 2026 Senate Forecast」(10月23日)、VOTE411「2026 Primary Elections」、NPR「2026 midterms Senate map」(10月30日)
・過去の中間選挙・支持率:NPR(10月6日)、NPR/PBS News/Marist の世論調査(10月27日)、アメリカ下院 History, Art & Archives「Party Divisions」
・青と赤の由来:Mental Floss「Where Did the Idea of Red States and Blue States Come From?」
・選挙区の引き直し:カリフォルニア州務長官「Statement of Vote」(2025年11月4日の特別選挙)
・予測市場:Polymarket「Balance of Power: 2026 Midterms」、CNN(9月24日)、CNN(10月23日)
・選挙の取引を認めなかった国の判断:アメリカ商品先物取引委員会(CFTC)「CFTC Disapproves KalshiEX LLC's Congressional Control Contracts」(2023年9月22日)
・選挙の賭けの歴史:The Economist「Prediction 2016」(2016年1月2日号)、Rhode & Strumpf「Historical Presidential Betting Markets」(Journal of Economic Perspectives、2004年)、CNBC(2016年6月23日)、CNBC(2016年11月7日)、刑法 第185条(e-Gov法令検索)
・市場の見方:FXStreet(10月21日)、J.P. Morgan Private Bank(10月19日)、Saxo(10月9日)
・株・金利・ドルの値段:Yahoo Finance
・格言:イギリス下院の議事録 Hansard「Parliament Bill」(1947年11月11日、チャーチルの演説)、1945年の総選挙はイギリス下院図書館「UK Election Statistics: 1918-2023」
関連記事
新しい記事は X(@harukamuy) でお知らせしています。





